162 / 173
162.祝勝会は上司抜きで
凱旋式は先頭の将軍アレスから、最後の国旗を持つ兵まで見守るのが君主の役目だ。先代皇帝は将軍だけ見たら引き上げてたらしいけど、失礼にも程があるよ。だから人心を掌握できないんだろうね。
穏やかに微笑んで、国民である兵士が無事帰還したことを喜ぶ。別に偽らなくたって出来ることを、嫌がるなんてクズ過ぎるよ。全員の名前と顔を覚えるほど軍に傾倒することはないけど、自国の安全を脅かす敵と戦った兵士を労うのは、皇帝の当たり前の責務だった。
全員が会場内に入り、アレスの号令で観客席側に敬礼する。そこに並んで手を振るのは、彼らの家族なのは当たり前だった。功績者の妻子を押し除け、皇族に愛国心をアピールする貴族なんて要らない。だから片付けるよう命じた。敬礼した兵達の表情が綻んでいく。この場に貴族が並んでいたら見られなかった笑顔だよ。
「我が国のために戦った諸君らを誇りに思う。祝勝会を大広間にて行うゆえ、階級関係なく家族を伴って参加するように」
僕の声がよく通る。隣でトリシャが裾を捌いて立ち上がり、ゆっくり会釈した。彼女に手を貸し、アレスが答礼する姿を見守る。それからようやく退席だった。
きっちり宣言したから、関係者以外立ち入り禁止を徹底させよう。兵士が伴うなら恋人でも姉妹や友人でも入場できる。だが関係ない貴族が入り込もうとしたら、排除するよう手配した。出兵しなかった騎士や兵士も気合が入っている。僕の指示は絶対だから、きちんと役割を果たしてくれるだろう。
「私も顔を出しましょう」
「そうだね。ただ……上司がいると飲み会が白けて盛り上がりに欠けるだろう? だから挨拶だけしたら抜け出すけど、いいかい?」
戦った兵達が、家族と美味しいものを食べて生きて帰れたことを祝うのが、祝勝会だった。皇帝陛下が臨席し続けたら、邪魔しちゃうからね。くすくす笑いながら告げると、トリシャは頷いた。
「統治者として当然ですわ。その後で庭のお散歩でもいかが?」
夜の庭も綺麗ですもの。以前に青薔薇や白薔薇を見せた本宮の庭を歩きたいと希望する彼女に、僕は条件をひとつ。
「だったらドレスを2着用意して。今のような裾の長い物は公式行事用だけど、その裾じゃ庭を歩けないからね」
後ろでソフィがしっかり約束した。両方用意して、本宮の僕の部屋を控室にすればいい。ドレスを運び込む手筈を整えるソフィは、もう立派な皇妃専属侍女だった。
「ああ、そうそう。アレスの希望でニルスが最後まで出席するから……ソフィもドレスを用意しなくちゃいけないよ」
「かしこまりました」
女公爵として、未来の大公夫人の地位を固める必要があるからね。婚約者がいるのに、他の女性が言いよる隙を与えてはダメだ。公式の場でニルスを一人にしないことも、ソフィの大切な役目だから。釘を刺してから、トリシャをエスコートして歩く僕は、袖に長い裾の一部を絡めた。
「こうして歩くと、親しさのアピールとして最高だね。君が裾を気にしてしがみ付いてくれるのも嬉しいよ」
「まぁっ! そんなこと考えてらしたのね」
扇でぺちっと軽く抗議され、口先でごめんねと謝り、頬にキスを落とす。こんなやり取りが嬉しくて幸せだなんて、トリシャも同じに感じてくれたら最高だね。
穏やかに微笑んで、国民である兵士が無事帰還したことを喜ぶ。別に偽らなくたって出来ることを、嫌がるなんてクズ過ぎるよ。全員の名前と顔を覚えるほど軍に傾倒することはないけど、自国の安全を脅かす敵と戦った兵士を労うのは、皇帝の当たり前の責務だった。
全員が会場内に入り、アレスの号令で観客席側に敬礼する。そこに並んで手を振るのは、彼らの家族なのは当たり前だった。功績者の妻子を押し除け、皇族に愛国心をアピールする貴族なんて要らない。だから片付けるよう命じた。敬礼した兵達の表情が綻んでいく。この場に貴族が並んでいたら見られなかった笑顔だよ。
「我が国のために戦った諸君らを誇りに思う。祝勝会を大広間にて行うゆえ、階級関係なく家族を伴って参加するように」
僕の声がよく通る。隣でトリシャが裾を捌いて立ち上がり、ゆっくり会釈した。彼女に手を貸し、アレスが答礼する姿を見守る。それからようやく退席だった。
きっちり宣言したから、関係者以外立ち入り禁止を徹底させよう。兵士が伴うなら恋人でも姉妹や友人でも入場できる。だが関係ない貴族が入り込もうとしたら、排除するよう手配した。出兵しなかった騎士や兵士も気合が入っている。僕の指示は絶対だから、きちんと役割を果たしてくれるだろう。
「私も顔を出しましょう」
「そうだね。ただ……上司がいると飲み会が白けて盛り上がりに欠けるだろう? だから挨拶だけしたら抜け出すけど、いいかい?」
戦った兵達が、家族と美味しいものを食べて生きて帰れたことを祝うのが、祝勝会だった。皇帝陛下が臨席し続けたら、邪魔しちゃうからね。くすくす笑いながら告げると、トリシャは頷いた。
「統治者として当然ですわ。その後で庭のお散歩でもいかが?」
夜の庭も綺麗ですもの。以前に青薔薇や白薔薇を見せた本宮の庭を歩きたいと希望する彼女に、僕は条件をひとつ。
「だったらドレスを2着用意して。今のような裾の長い物は公式行事用だけど、その裾じゃ庭を歩けないからね」
後ろでソフィがしっかり約束した。両方用意して、本宮の僕の部屋を控室にすればいい。ドレスを運び込む手筈を整えるソフィは、もう立派な皇妃専属侍女だった。
「ああ、そうそう。アレスの希望でニルスが最後まで出席するから……ソフィもドレスを用意しなくちゃいけないよ」
「かしこまりました」
女公爵として、未来の大公夫人の地位を固める必要があるからね。婚約者がいるのに、他の女性が言いよる隙を与えてはダメだ。公式の場でニルスを一人にしないことも、ソフィの大切な役目だから。釘を刺してから、トリシャをエスコートして歩く僕は、袖に長い裾の一部を絡めた。
「こうして歩くと、親しさのアピールとして最高だね。君が裾を気にしてしがみ付いてくれるのも嬉しいよ」
「まぁっ! そんなこと考えてらしたのね」
扇でぺちっと軽く抗議され、口先でごめんねと謝り、頬にキスを落とす。こんなやり取りが嬉しくて幸せだなんて、トリシャも同じに感じてくれたら最高だね。
あなたにおすすめの小説
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。