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169.死んでも離せないほど愛しているよ(最終話)
穏やかに暮れていく夕日を眺め、東屋の中から声をかける。
「そろそろ戻っておいで。もう離宮に入らないと、母様の体が冷えてしまう」
僕の呼びかけに、振り返ったのは双子。やんちゃな皇子フランと愛らしい皇女エレンだ。母親譲りの銀髪は、夕日を受けてきらきらと輝く。花を握るエレンはすぐに戻ったのに、フランはまだ花壇に夢中だった。
「こら、僕の声は聞こえていただろう?」
「さきもろてくらたい、あとちょと」
詰まる音がまだ発音できなくて、ぎこちない。何に夢中なのかと手元を覗けば、くったりと茎が萎れた花を埋め戻していた。両手が泥だらけだし、袖も真っ黒だ。その手で何度も触った頬や額も汚れていた。
「仕方ないね。ニルス、お願いできるかい?」
「かしこまりました」
まだ幼い我が子をニルスに託し、トリシャの肩を抱いて離宮に戻るよう促す。ニルスが見守っているからか、あまり心配しないで従ってくれた。まあ、いつものことではあるけど。
皇帝である僕の長男となれば、普通は跡取りとして帝王学を叩きこむのだろう。だがあの子は向いていない。花や薬草を愛でて、庭師に混じる優しい子だった。個性を捻じ曲げて、継がせる程の家でもなし。僕がそう呟いたら、ニルスとトリシャは大笑いした。
皇族がそれなら、どの家も大したことないと。まあそうかもね。どの家も血筋を絶やさないのは重要かも知れないが、我が子に継がせる必要はないと思う。有能であれば、養子に継がせるのも家の存続方法のひとつだよ。
大人しくトリシャと手を繋ぐエレンは、最近絵を描くことに夢中だった。今日も両手を絵の具でベタベタにしながら、たくさんの絵を描いて……その手でドレスや髪を触った。ソフィが悲鳴を上げていたっけ。
どっちも皇帝には向いていないね。そう笑い合った僕達夫婦は、ニルスの息子ロルフを跡取りに据えるつもりだ。現時点で、ニルスとソフィは反対している。というのも、今のトリシャは妊娠中だった。生まれる子が皇帝の素質を持つはず、と断言するんだよ。生まれる前から重責を押し付ける気はないけど、そう考える理由が「僕とトリシャの子だから」だって。
買い被りもいいところだ。大賢者の知識継承は先代で途切れたし、僕だって悪虐皇帝なんだから。
「ああ、肩が冷えてしまったね」
3人目の子は男女どちらだろう。楽しみにしながら扉を開く。微笑んだ彼女は、そっと膨らんだ腹を撫でた。
「もうすぐ会えますね」
「その為にも温まってきて。ほら、ソフィの顔が怒ってるよ」
くすくす笑って、温めた紅茶やミルクを並べる大公夫人ソフィに妻を渡した。冷えた指先に慌てて、毛布やらクッションを大量に運んでくる。
「あたち、にるちゅのおよめたんになる」
おしゃまな発言をする愛娘に、僕はどうしたものかと考える。いきなり「もう結婚してるから無理」と現実を突きつけるのは、子供には酷だよね。でも期待を持たせるのも可哀想だ。叶わない恋なのは間違いない。何しろニルスは僕に次いで、愛妻家で有名だった。
「ニルスのお嫁さんはソフィなの、勝てるかしら?」
くすくす笑いながら上手にまとめたトリシャに、ぷくっと頬を膨らませたお姫様が考える。それから部屋の奥で大人しく読書をしていたロルフを指さした。
「ろるふは?」
「……彼がいいと言ったらね」
遠回しに、その前に僕の許可を取るべきだと匂わせた。察しのいいロルフは聞こえないフリを貫く。ニルスの息子は双子と同じ年齢だから、釣り合わなくないけど。僕の腕からお姫様を奪うには力不足だね。
「悪いお顔。エレンの恋を邪魔してはいけませんわ、エリク。私を敵にしますわよ?」
子ども達の味方を公言するトリシャに、僕は両手を上げて全面降伏だった。勝てるわけがないよ。全戦全勝の我が軍の戦歴なんて、何の価値もない。部屋の壁際で見守る双子の騎士が目を逸らした。彼らも味方してくれないし、ここは僕の完敗だ。
「トリシャの仰せのままに。僕が最愛の天使を怒らせるわけがないだろう」
頬にキスをして、もうすぐ生まれそうに膨らんだ腹を撫でた。3人目が生まれたら、またベビーラッシュが始まるだろうけど。それだけ国は平和な証拠だ。僕の隣に天使がいてくれる限り、悪虐皇帝は大人しく賢帝の仮面を被り続ける。
虹を纏う銀髪は双子に引き継がれた。僕の青い瞳を娘が、赤みがかった紫の瞳を息子が宿す。今度の子は黒髪だといいな。小さな願いを託して腹を撫でた。微笑むトリシャと触れるだけのキスを交わす。
彼女が魔女だって? 誰がそんな嘘を流したのか。こんなに素敵な天使は、どこを探してもいない。死んでも離れられないほど、愛しているよ――。
The END or?
※最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。外伝は現時点で予定しておりませんが、リクエスト次第で書くかもしれません。
*******宣伝*******
【やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?】
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」
これが婚約者にもらった最後の言葉でした。
ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。
国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。
やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。
この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。
※ハッピーエンド確定
「そろそろ戻っておいで。もう離宮に入らないと、母様の体が冷えてしまう」
僕の呼びかけに、振り返ったのは双子。やんちゃな皇子フランと愛らしい皇女エレンだ。母親譲りの銀髪は、夕日を受けてきらきらと輝く。花を握るエレンはすぐに戻ったのに、フランはまだ花壇に夢中だった。
「こら、僕の声は聞こえていただろう?」
「さきもろてくらたい、あとちょと」
詰まる音がまだ発音できなくて、ぎこちない。何に夢中なのかと手元を覗けば、くったりと茎が萎れた花を埋め戻していた。両手が泥だらけだし、袖も真っ黒だ。その手で何度も触った頬や額も汚れていた。
「仕方ないね。ニルス、お願いできるかい?」
「かしこまりました」
まだ幼い我が子をニルスに託し、トリシャの肩を抱いて離宮に戻るよう促す。ニルスが見守っているからか、あまり心配しないで従ってくれた。まあ、いつものことではあるけど。
皇帝である僕の長男となれば、普通は跡取りとして帝王学を叩きこむのだろう。だがあの子は向いていない。花や薬草を愛でて、庭師に混じる優しい子だった。個性を捻じ曲げて、継がせる程の家でもなし。僕がそう呟いたら、ニルスとトリシャは大笑いした。
皇族がそれなら、どの家も大したことないと。まあそうかもね。どの家も血筋を絶やさないのは重要かも知れないが、我が子に継がせる必要はないと思う。有能であれば、養子に継がせるのも家の存続方法のひとつだよ。
大人しくトリシャと手を繋ぐエレンは、最近絵を描くことに夢中だった。今日も両手を絵の具でベタベタにしながら、たくさんの絵を描いて……その手でドレスや髪を触った。ソフィが悲鳴を上げていたっけ。
どっちも皇帝には向いていないね。そう笑い合った僕達夫婦は、ニルスの息子ロルフを跡取りに据えるつもりだ。現時点で、ニルスとソフィは反対している。というのも、今のトリシャは妊娠中だった。生まれる子が皇帝の素質を持つはず、と断言するんだよ。生まれる前から重責を押し付ける気はないけど、そう考える理由が「僕とトリシャの子だから」だって。
買い被りもいいところだ。大賢者の知識継承は先代で途切れたし、僕だって悪虐皇帝なんだから。
「ああ、肩が冷えてしまったね」
3人目の子は男女どちらだろう。楽しみにしながら扉を開く。微笑んだ彼女は、そっと膨らんだ腹を撫でた。
「もうすぐ会えますね」
「その為にも温まってきて。ほら、ソフィの顔が怒ってるよ」
くすくす笑って、温めた紅茶やミルクを並べる大公夫人ソフィに妻を渡した。冷えた指先に慌てて、毛布やらクッションを大量に運んでくる。
「あたち、にるちゅのおよめたんになる」
おしゃまな発言をする愛娘に、僕はどうしたものかと考える。いきなり「もう結婚してるから無理」と現実を突きつけるのは、子供には酷だよね。でも期待を持たせるのも可哀想だ。叶わない恋なのは間違いない。何しろニルスは僕に次いで、愛妻家で有名だった。
「ニルスのお嫁さんはソフィなの、勝てるかしら?」
くすくす笑いながら上手にまとめたトリシャに、ぷくっと頬を膨らませたお姫様が考える。それから部屋の奥で大人しく読書をしていたロルフを指さした。
「ろるふは?」
「……彼がいいと言ったらね」
遠回しに、その前に僕の許可を取るべきだと匂わせた。察しのいいロルフは聞こえないフリを貫く。ニルスの息子は双子と同じ年齢だから、釣り合わなくないけど。僕の腕からお姫様を奪うには力不足だね。
「悪いお顔。エレンの恋を邪魔してはいけませんわ、エリク。私を敵にしますわよ?」
子ども達の味方を公言するトリシャに、僕は両手を上げて全面降伏だった。勝てるわけがないよ。全戦全勝の我が軍の戦歴なんて、何の価値もない。部屋の壁際で見守る双子の騎士が目を逸らした。彼らも味方してくれないし、ここは僕の完敗だ。
「トリシャの仰せのままに。僕が最愛の天使を怒らせるわけがないだろう」
頬にキスをして、もうすぐ生まれそうに膨らんだ腹を撫でた。3人目が生まれたら、またベビーラッシュが始まるだろうけど。それだけ国は平和な証拠だ。僕の隣に天使がいてくれる限り、悪虐皇帝は大人しく賢帝の仮面を被り続ける。
虹を纏う銀髪は双子に引き継がれた。僕の青い瞳を娘が、赤みがかった紫の瞳を息子が宿す。今度の子は黒髪だといいな。小さな願いを託して腹を撫でた。微笑むトリシャと触れるだけのキスを交わす。
彼女が魔女だって? 誰がそんな嘘を流したのか。こんなに素敵な天使は、どこを探してもいない。死んでも離れられないほど、愛しているよ――。
The END or?
※最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。外伝は現時点で予定しておりませんが、リクエスト次第で書くかもしれません。
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「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」
これが婚約者にもらった最後の言葉でした。
ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。
国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。
やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。
この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。
※ハッピーエンド確定
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