1 / 105
01.誰でもいいの、僕を嫌わないで
しおりを挟む
派手に割れる音がして、僕は頭を抱えて蹲った。怖い、痛い、冷たい。いろいろな感情が渦巻くけど、うまく言葉に出来ない。
「あんたなんて産まなければよかった!」
「目障りだ。失せろ」
よろよろと立ち上がり、這うように逃げ出す。いつものことだよ。鼻を啜りながら、目から溢れた水を手の甲で擦った。平気、僕は傷ついてなんかない。僕の周りにはたくさんの友達がいる。他の人に見えないけど、温かくて優しい光が心配してくれるの。
お屋敷の庭から逃げた僕は、日が当たらない裏庭の隅にある小屋に飛び込んだ。ここは僕がいる場所なんだって。外へ出るなと言われていた。でもお腹が空き過ぎて、ご飯が欲しかったの。お水も飲みたいし、明るいお庭の花に誘われて外へ出てしまった。
きっと今夜もご飯もらえない。
小屋の片隅でくるりと丸くなった。あちこちで拾った枯れた草に潜り込む。時々虫がいるけど、僕は平気だった。虫はあのお屋敷の人と違って、僕を叩いたり酷いことを言わない。集まってきた光が、僕を温めるように肌に触れた。
割れた破片が刺さった肩や腕を撫でるように動く。徐々に痛みが消え始めた。
「あり、がと」
言葉は聞いて覚えた。だからあまり上手じゃない。でも嬉しそうに舞う光を見れば、伝わったのだと分かった。お屋敷の人と違う姿だけど、光は僕の優しいお友達だ。とても大切で、失くしたくない。
草に包まって両手を伸ばすと、手のひらに下りてきた。潰さないように抱き締めて、僕はその温もりに目を閉じる。濡れた服はいつの間にか乾いていた。不思議なことは、光が全部してくれるの。僕が出来ないことも手伝ってくれた。
「だいすき」
僕はきっと、あのお屋敷で生まれた。だから「産まなければよかった」と言われたんだと思う。割れたカップを投げた人が、お母さんかな。綺麗な服を着て、髪は柔らかそうなお日様の色だ。目は枯れてない草みたいな色で、肌は白かった。
隣で僕を追いやった人がお父さん? 勝手に僕がそう思ってるだけ。実際は分からないけど。あの男の人は、僕のお腹を蹴ったりするから近づかないようにしてる。夕方の空の色をした髪と、昼間の空の色の目だった。
僕は黒い髪なの。目の色はよく分からない。でも窓でキラキラ光るガラスには、光と同じ色の目があった。あれはきっと僕の色だと思う。同じ色じゃないから嫌われちゃったのかな。それとも生まれた後で、あの人達に嫌われることをしたのかも。変なの、もう濡れてないのに寒い。
にゃー、可愛い声でもう一人のお友達が現れた。小屋の隙間から忍び込んだのは、白と黒と茶色が混じった不思議な模様の毛皮の子。夜は目が光るんだよ。僕をじっと見た後、近づいてきて草と僕の間に潜り込んだ。
あったかい。それに柔らかくて、気持ちいい。強く抱き締められるのを嫌う子だから、そっと触れた。僕は温かさを感じながら、ようやく目を閉じた。
誰でもいいの、僕を嫌わないで。この子みたいに僕が触れることを許して。
「あんたなんて産まなければよかった!」
「目障りだ。失せろ」
よろよろと立ち上がり、這うように逃げ出す。いつものことだよ。鼻を啜りながら、目から溢れた水を手の甲で擦った。平気、僕は傷ついてなんかない。僕の周りにはたくさんの友達がいる。他の人に見えないけど、温かくて優しい光が心配してくれるの。
お屋敷の庭から逃げた僕は、日が当たらない裏庭の隅にある小屋に飛び込んだ。ここは僕がいる場所なんだって。外へ出るなと言われていた。でもお腹が空き過ぎて、ご飯が欲しかったの。お水も飲みたいし、明るいお庭の花に誘われて外へ出てしまった。
きっと今夜もご飯もらえない。
小屋の片隅でくるりと丸くなった。あちこちで拾った枯れた草に潜り込む。時々虫がいるけど、僕は平気だった。虫はあのお屋敷の人と違って、僕を叩いたり酷いことを言わない。集まってきた光が、僕を温めるように肌に触れた。
割れた破片が刺さった肩や腕を撫でるように動く。徐々に痛みが消え始めた。
「あり、がと」
言葉は聞いて覚えた。だからあまり上手じゃない。でも嬉しそうに舞う光を見れば、伝わったのだと分かった。お屋敷の人と違う姿だけど、光は僕の優しいお友達だ。とても大切で、失くしたくない。
草に包まって両手を伸ばすと、手のひらに下りてきた。潰さないように抱き締めて、僕はその温もりに目を閉じる。濡れた服はいつの間にか乾いていた。不思議なことは、光が全部してくれるの。僕が出来ないことも手伝ってくれた。
「だいすき」
僕はきっと、あのお屋敷で生まれた。だから「産まなければよかった」と言われたんだと思う。割れたカップを投げた人が、お母さんかな。綺麗な服を着て、髪は柔らかそうなお日様の色だ。目は枯れてない草みたいな色で、肌は白かった。
隣で僕を追いやった人がお父さん? 勝手に僕がそう思ってるだけ。実際は分からないけど。あの男の人は、僕のお腹を蹴ったりするから近づかないようにしてる。夕方の空の色をした髪と、昼間の空の色の目だった。
僕は黒い髪なの。目の色はよく分からない。でも窓でキラキラ光るガラスには、光と同じ色の目があった。あれはきっと僕の色だと思う。同じ色じゃないから嫌われちゃったのかな。それとも生まれた後で、あの人達に嫌われることをしたのかも。変なの、もう濡れてないのに寒い。
にゃー、可愛い声でもう一人のお友達が現れた。小屋の隙間から忍び込んだのは、白と黒と茶色が混じった不思議な模様の毛皮の子。夜は目が光るんだよ。僕をじっと見た後、近づいてきて草と僕の間に潜り込んだ。
あったかい。それに柔らかくて、気持ちいい。強く抱き締められるのを嫌う子だから、そっと触れた。僕は温かさを感じながら、ようやく目を閉じた。
誰でもいいの、僕を嫌わないで。この子みたいに僕が触れることを許して。
157
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる