【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(りょうが)今年は7冊!

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第2章 手始めに足元から

18.いい加減無礼であろう、伏せよ★

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 影がかかったため視線を上げると、巨大なグリフォンがいた。前脚と頭は鷲、後ろ脚は獅子の魔獣だが、知性が高いことで知られる。森の賢者であるグリフォンに対し、いきなり攻撃を仕掛ける気はない。出方を見るオレの前に舞い降りたグリフォンの鋭い爪が、広場の石畳を砕いた。

 牛を前足の爪で掴んで飛べる大きさの魔獣が降り立てば、周囲の建物が崩れる。尻尾や翼が触れた先で、煉瓦積みの家が砂のように砕けた。身体を小さく屈めるのは、グリフォンの心遣いか。

 茶色い獣体は、羽の先が黒く染まった濃茶の翼に覆われていた。振り下ろした尻尾の先が、城門を掠めて壊す。逃げ遅れた民を守る結界を張ってやりながら、グリフォンの初手を待った。

「……異世界の魔王とは、あなたですか?」



「森の賢者であれば、先に名乗らぬ非礼の意味を知るはずだが」

 魔族同士の邂逅かいこうにおいて、相手の正体を知りながら名乗らぬ行為は敵対を意味する。問答無用でオレが攻撃したとしても、非はグリフォン側にあった。この状況でオレが先制攻撃しないのは、明らかにオレの方が強いからだ。

 先に攻撃を仕掛けるのは、弱者と決まっている。強者は相手の出方を待って反撃しても間に合うからだ。敵の攻撃を無効化し、己の攻撃を届かせる自信があるから動く必要がない。

 ドラゴンと並ぶ空の覇者は、くつりと喉を鳴らして笑った。しがみ付いたリリアーナが低く唸る。空の覇権を争ってきたライバルであるグリフォンに対し、まだ幼竜である彼女が対等に戦う術はない。それでも敵意を示す気の強さは魔族として好ましかった。

「下りろ、リリアーナ」

 素直に地に足を付けたリリアーナは、巻き付けた黒衣を強く握ってグリフォンを睨みつける。彼女より半歩前に立ち、オレはグリフォンを見上げた。巨大な身体は2階家ほどのサイズがあり、首が疲れる。それ以前に魔王の前で控えぬ魔族など処分の対象だ。

「いい加減無礼であろう、伏せよ」

「……この私に伏せろと命じますか」

 低い声が地を這うように響いた。怯えた人々が逃げ出すのを知りながら、グリフォンの青い瞳を見つめる。巨大なグリフォンはゆっくりと足を折って座り、瞬きの間に小型化した。人型を取ったグリフォンはすぐさま魔法で衣服を纏う。

 肌の露出が多いドレスは瞳の色と同じ青だった。胸元はぎりぎりまで晒し、足もほとんど見えている。人間の貴族令嬢であれば室内着であっても許されないほど、布が少なかった。こちらからは見えないが、おそらく背中も大きく開いたデザインであろう。

 己を美しく見せる方法を心得た美女は、右手の小指で紅を引きながら微笑んだ。濃い目のアイシャドウが、彼女のつり目を際立たせる。

「随分と豪胆な魔王のようですね」

 見事な曲線美を誇る女性は、ゆったりと会釈した。小麦色の肌にかかる髪は羽と同じ濃茶、透き通った水に似た明るい青の瞳が知性を感じさせる。

「グリフォンのオリヴィエラと申します。お目に掛かれて光栄ですわ、異世界の魔王陛下」

「サタンだ」

 最低限の挨拶を終えたところで、オリヴィエラがリリアーナに視線を向けた。唸るリリアーナの幼さに困ったように眉を下げる。

 なるほど、彼女が監視役か。空を飛んで移動するドラゴンの監視役に、同じように空を飛ぶ種族を指定するのは理に適っている。明らかに実力が上のグリフォンならば、緊急時もリリアーナを回収することが可能だった。使い捨てで放り込んだわけでもなさそうだ。

「この世界の魔王に仕える者か」

「なぜそう思うのですか?」

「お前がリリアーナの監視役だからだ」

 答えを先に突きつける。グリフォンという種族は頭がいい。故に己の考えを披露せず、言葉巧みに相手から情報を引き出そうとする話術が得意だった。この程度の相手に手のうちを晒すオレではないが、付き合っていては日が暮れる。言葉遊びや知恵比べが好きな種族なのだ。

 きょとんとした顔で首をかしげたオリヴィエラは、突きつけられた答えを飲み込んでから口を開いた。

「どうして……」

「ずっと上空にいたであろう。オレが謁見の間に入る前から、お前の魔力は感知していた」

 圧倒的な実力差を示され、グリフォンは絶句した。
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