21 / 438
第2章 手始めに足元から
19.オレの邪魔をするとはいい度胸だ
しおりを挟む
リリアーナが襲撃する前に到着していた事実を指摘され、オリヴィエラは取り繕った顔を崩して肩を落とした。飛行可能な限界まで上を飛んだというのに、魔力感知の範囲内だった事実は衝撃だ。覆せない実力差を示され、改めて目の前に立つ異世界の魔王を見つめた。
象牙色の肌をもつ青年の外見は若い。面長な顎の形も、切れ長の赤い瞳も、魔族にとって美しいと表現する顔立ちだった。穏やかに微笑めば、魔族の女ならばほぼ落とせるだろう。腰の下まで届く黒髪は艶を帯びて、柔らかな象牙の肌を際立たせた。
すらりとした長い手足と、丁寧に整えられた指先。傷らしい傷は見当たらないが、指先の形はごつごつとして硬そうだった。観察を終えたオリヴィエラが甘い吐息を吐く。
過不足なく、ただ望ましい。
「オレの問いに答えろ」
頬を赤く染めたオリヴィエラが抵抗するように首を横に振った。
「私の主でもない方のご命令に従えませんわ」
「お前の事情など知らぬ。魔王の意図が知りたい」
言い切ったオレに、青い目を見開いた美女は困惑した顔で口元を手で覆った。悩むような仕草を見せる彼女の後ろから、矢が飛んでくる。地を蹴り空を踏んだオレの手が、矢を掴んで折った。ぱきんと乾いた音がして、ようやく感覚が追いついたオリヴィエラが振り返る。
この世界は人間も魔族も動きが遅い。処罰に対しての反応を見ても、温い戦場しか知らぬのだろう。全体に彼らは甘いのだ。グリフォン程の上位魔族相手に矢を射る行動、国王が痛みへの耐性を持たぬ状況、ドラゴンであるリリアーナが魅了眼を使いこなせなかった事実――すべてが異常に映った。
前世界なら、オリヴィエラはすでに殺されている。攻撃に対する反応が鈍く、動きが遅く、考えが温い。その上、魔力の使い方すらオレの世界に劣っていた。常に結界を張るのは当たり前、四方八方から狙われるのが必然の世界から来たオレにとって、すべてが中途半端に見える。
魔族は殺した相手の命を吸収して強くなることが可能だった。このルールは人間である勇者にも適用される。このルールがあるから、人間が魔族の頂点たる王に勝つことも可能となるのだ。本来ならば寿命がある種族が、不老長寿の魔王に勝てるはずがなかった。
人間の都から出て、次々と魔族を倒して力を蓄え、最後に側近級の部下を倒すことで勇者は魔王と戦う条件を整える。英雄譚に残された話は誇張された夢物語ではなく、魔王と対等に戦うため必要な力を、殺した魔族から奪う略奪戦だった。たいていの勇者はその域に到達できず、死ぬ。
握った矢の鏃が肌に触れると、ちりちりとした痛みが走った。毒か……感動も恐怖もなく変色する指先を確かめる。
「いま、私を助けた……のですか?」
「話を聞く前に口を塞がれるのは迷惑だ」
助けたつもりはないが、結果的に話をする口を守った事実は否定しない。眉をひそめて矢の飛んできた方角を睨んだ。背に翼を生やした人影が飛んでいく。頭部が鷲の形をした生き物に、見覚えがあった。
「ガルーダか。オレの邪魔をするとはいい度胸だ」
折った矢を手の中で修復する。毒がついた鏃を掴んだ指先で、矢を持ち直した。魔力をより集めて弓を作り出し、矢をつがえる。距離は少し遠いが、届かない距離でもなかった。
「無理ですわ、こんな距離」
「お前と一緒にするな」
ひとつ呼吸を整えて矢を放つ。魔力が作った筒の中を、矢はまっすぐに貫いた。醜い悲鳴を上げてガルーダの身体が落ちていく。命令に従った兵をいたずらに苦しめる趣味はないので、頭部を貫いた。生き残る可能性はゼロに近い。
矢の飛ぶ方向へ追い風を吹かせて、周囲の空気抵抗を消す真空状態を作り出す。風の魔力の応用だが、この世界のレベルでは初見の可能性があるな。先ほどのオリヴィエラの忠告を思い返したオレの袖に、そっとリリアーナの指が触れた。
象牙色の肌をもつ青年の外見は若い。面長な顎の形も、切れ長の赤い瞳も、魔族にとって美しいと表現する顔立ちだった。穏やかに微笑めば、魔族の女ならばほぼ落とせるだろう。腰の下まで届く黒髪は艶を帯びて、柔らかな象牙の肌を際立たせた。
すらりとした長い手足と、丁寧に整えられた指先。傷らしい傷は見当たらないが、指先の形はごつごつとして硬そうだった。観察を終えたオリヴィエラが甘い吐息を吐く。
過不足なく、ただ望ましい。
「オレの問いに答えろ」
頬を赤く染めたオリヴィエラが抵抗するように首を横に振った。
「私の主でもない方のご命令に従えませんわ」
「お前の事情など知らぬ。魔王の意図が知りたい」
言い切ったオレに、青い目を見開いた美女は困惑した顔で口元を手で覆った。悩むような仕草を見せる彼女の後ろから、矢が飛んでくる。地を蹴り空を踏んだオレの手が、矢を掴んで折った。ぱきんと乾いた音がして、ようやく感覚が追いついたオリヴィエラが振り返る。
この世界は人間も魔族も動きが遅い。処罰に対しての反応を見ても、温い戦場しか知らぬのだろう。全体に彼らは甘いのだ。グリフォン程の上位魔族相手に矢を射る行動、国王が痛みへの耐性を持たぬ状況、ドラゴンであるリリアーナが魅了眼を使いこなせなかった事実――すべてが異常に映った。
前世界なら、オリヴィエラはすでに殺されている。攻撃に対する反応が鈍く、動きが遅く、考えが温い。その上、魔力の使い方すらオレの世界に劣っていた。常に結界を張るのは当たり前、四方八方から狙われるのが必然の世界から来たオレにとって、すべてが中途半端に見える。
魔族は殺した相手の命を吸収して強くなることが可能だった。このルールは人間である勇者にも適用される。このルールがあるから、人間が魔族の頂点たる王に勝つことも可能となるのだ。本来ならば寿命がある種族が、不老長寿の魔王に勝てるはずがなかった。
人間の都から出て、次々と魔族を倒して力を蓄え、最後に側近級の部下を倒すことで勇者は魔王と戦う条件を整える。英雄譚に残された話は誇張された夢物語ではなく、魔王と対等に戦うため必要な力を、殺した魔族から奪う略奪戦だった。たいていの勇者はその域に到達できず、死ぬ。
握った矢の鏃が肌に触れると、ちりちりとした痛みが走った。毒か……感動も恐怖もなく変色する指先を確かめる。
「いま、私を助けた……のですか?」
「話を聞く前に口を塞がれるのは迷惑だ」
助けたつもりはないが、結果的に話をする口を守った事実は否定しない。眉をひそめて矢の飛んできた方角を睨んだ。背に翼を生やした人影が飛んでいく。頭部が鷲の形をした生き物に、見覚えがあった。
「ガルーダか。オレの邪魔をするとはいい度胸だ」
折った矢を手の中で修復する。毒がついた鏃を掴んだ指先で、矢を持ち直した。魔力をより集めて弓を作り出し、矢をつがえる。距離は少し遠いが、届かない距離でもなかった。
「無理ですわ、こんな距離」
「お前と一緒にするな」
ひとつ呼吸を整えて矢を放つ。魔力が作った筒の中を、矢はまっすぐに貫いた。醜い悲鳴を上げてガルーダの身体が落ちていく。命令に従った兵をいたずらに苦しめる趣味はないので、頭部を貫いた。生き残る可能性はゼロに近い。
矢の飛ぶ方向へ追い風を吹かせて、周囲の空気抵抗を消す真空状態を作り出す。風の魔力の応用だが、この世界のレベルでは初見の可能性があるな。先ほどのオリヴィエラの忠告を思い返したオレの袖に、そっとリリアーナの指が触れた。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい
冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。
何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。
「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。
その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。
追放コンビは不運な運命を逆転できるのか?
(完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる