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第2章 手始めに足元から
28.受け入れて大人しく従え
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思ったより動けない人間が多かった。王女の命令で兵士を動かした結果、数百人規模の病人やケガ人が回収される。城は再建築中のため、仕方なく庭へ並べた。
突然連れてこられて困惑顔の国民も多い。今までの兵士は税を徴収するだけで、何もしてくれなかった。なのに動けない者ばかり城に集められれば、処分されるのではないかと怯えが広がる。
「我が名はサタン、この国に召喚された魔王だ」
彼らに状況を説明するために名乗れば、最後の魔王に反応して騒ぎが大きくなる。逃げ出そうと這って移動する者も現れた。命を惜しむ姿勢は悪くない。生きる意欲がある証拠だった。
「よく聞け、この国はオレが奪った。ゆえにお前らはオレの国民となった。受け入れて大人しく従え」
数段高い場所に立ち宣言したオレに、青ざめた国民は諦めた様子で崩れ落ちた。背後にいるドラゴンとグリフォンを見れば、逆らう気力はなくなるだろう。まずは彼らが使えるよう修理しなくてはならない。
魔法陣は使わない。あれは治癒に関して効率が悪かった。骨折と打撲の違いですら別の魔法陣が必要になる。それぐらいならば、万能治癒を魔法で施した方が早く簡単だった。
ぶわっとマントが広がる。魔力に煽られた黒髪が舞い上がった。高めた魔力が全身から滲み出る。発動を待つ魔法で、まずは範囲指定が必要だった。見える範囲に魔力を展開しなくては効果が下がる。
赤い瞳に映した正面のケガ人を範囲指定したまま、高めた魔力を魔法へ注ぎ込む。人間には不可能な領域の魔法だった。当人が持つ治癒力を爆発的に高める方法は、ケガや病の種類に関係なく発動する。人間の自己治癒力が骨折した骨を接ぎ、体内の病巣を叩く。
左右の人間にも同様に魔法を適用し、軽い疲れに溜め息をついた。この世界は魔力が薄い。魔族は世界に溢れる魔力を食事や能力で吸収し、己の魔力と混ぜて使う種族だ。しかし世界に満ちた魔力の絶対値が低いこの世界では、大きな魔法を使う場合は己の体内の魔力に頼らざるを得ない。
以前使えた世界を崩壊させる威力の魔法は、もう放てないだろう。だが逆に言えば、この世界の魔族の魔力量が低い理由がわかった。
魔族が蓄える魔力が足りない世界で、オレを超える魔力量を持つとしたら、食物連鎖の頂点に立つ魔王くらいだ。異世界から勇者を召喚しなければ戦えない理由も、ここにあるのだろう。単純に人間の覚悟のなさも原因だったが。
「足が! 動くぞ」
「痛くないわ。すごい」
「体が軽い」
様々な喜びの声に、オレは淡々と呼び掛けた。
「病人もケガ人は治してやろう。この世界の魔王からも守ってやろう。お前らは働き、オレの治世に貢献せよ――信賞必罰、よい働きには報いる」
最低限必要なことは成した。この先はオレの役目でなく、部下に任せるべきだ。踵を返すオレの背に、いくつかの礼が聞こえた。オレを称える声が響く中、この国で慈善の王女と名高いロゼマリアが壇上に上がる。
「私達は最上の主君を得ました。弱者が切り捨てられることのない、働くものが報われる治世を……どうか一緒に支えてください」
人間の管理は彼女に任せればいい。歓声が広がる城の広場から、元気になった人々が駆け出した。街中に話が広まるのに時間はかからない。
歩く先で、病気が治ったというのに暗い顔をした子供を見つけた。蹲って泣きそうな顔をしている。
「お前、どうした」
びくりと肩を震わせて振り返った子は、甲高い声で泣き出した。舌打ちして、子供の泣き声を消す。魔力で遮断した器の中で泣き続けた子供は、そのまま眠ってしまった。見ればボロキレを身に纏い、見すぼらしい。体も汚く汚れ、骨と皮だけの手足は傷だらけだった。
「……」
眉をひそめて子供を見ていたが、仕方がないので回収して城の中へ運ばせる。この子供が新たな頭痛の種を持ち込むことなど、この時のオレは知らなかった。
突然連れてこられて困惑顔の国民も多い。今までの兵士は税を徴収するだけで、何もしてくれなかった。なのに動けない者ばかり城に集められれば、処分されるのではないかと怯えが広がる。
「我が名はサタン、この国に召喚された魔王だ」
彼らに状況を説明するために名乗れば、最後の魔王に反応して騒ぎが大きくなる。逃げ出そうと這って移動する者も現れた。命を惜しむ姿勢は悪くない。生きる意欲がある証拠だった。
「よく聞け、この国はオレが奪った。ゆえにお前らはオレの国民となった。受け入れて大人しく従え」
数段高い場所に立ち宣言したオレに、青ざめた国民は諦めた様子で崩れ落ちた。背後にいるドラゴンとグリフォンを見れば、逆らう気力はなくなるだろう。まずは彼らが使えるよう修理しなくてはならない。
魔法陣は使わない。あれは治癒に関して効率が悪かった。骨折と打撲の違いですら別の魔法陣が必要になる。それぐらいならば、万能治癒を魔法で施した方が早く簡単だった。
ぶわっとマントが広がる。魔力に煽られた黒髪が舞い上がった。高めた魔力が全身から滲み出る。発動を待つ魔法で、まずは範囲指定が必要だった。見える範囲に魔力を展開しなくては効果が下がる。
赤い瞳に映した正面のケガ人を範囲指定したまま、高めた魔力を魔法へ注ぎ込む。人間には不可能な領域の魔法だった。当人が持つ治癒力を爆発的に高める方法は、ケガや病の種類に関係なく発動する。人間の自己治癒力が骨折した骨を接ぎ、体内の病巣を叩く。
左右の人間にも同様に魔法を適用し、軽い疲れに溜め息をついた。この世界は魔力が薄い。魔族は世界に溢れる魔力を食事や能力で吸収し、己の魔力と混ぜて使う種族だ。しかし世界に満ちた魔力の絶対値が低いこの世界では、大きな魔法を使う場合は己の体内の魔力に頼らざるを得ない。
以前使えた世界を崩壊させる威力の魔法は、もう放てないだろう。だが逆に言えば、この世界の魔族の魔力量が低い理由がわかった。
魔族が蓄える魔力が足りない世界で、オレを超える魔力量を持つとしたら、食物連鎖の頂点に立つ魔王くらいだ。異世界から勇者を召喚しなければ戦えない理由も、ここにあるのだろう。単純に人間の覚悟のなさも原因だったが。
「足が! 動くぞ」
「痛くないわ。すごい」
「体が軽い」
様々な喜びの声に、オレは淡々と呼び掛けた。
「病人もケガ人は治してやろう。この世界の魔王からも守ってやろう。お前らは働き、オレの治世に貢献せよ――信賞必罰、よい働きには報いる」
最低限必要なことは成した。この先はオレの役目でなく、部下に任せるべきだ。踵を返すオレの背に、いくつかの礼が聞こえた。オレを称える声が響く中、この国で慈善の王女と名高いロゼマリアが壇上に上がる。
「私達は最上の主君を得ました。弱者が切り捨てられることのない、働くものが報われる治世を……どうか一緒に支えてください」
人間の管理は彼女に任せればいい。歓声が広がる城の広場から、元気になった人々が駆け出した。街中に話が広まるのに時間はかからない。
歩く先で、病気が治ったというのに暗い顔をした子供を見つけた。蹲って泣きそうな顔をしている。
「お前、どうした」
びくりと肩を震わせて振り返った子は、甲高い声で泣き出した。舌打ちして、子供の泣き声を消す。魔力で遮断した器の中で泣き続けた子供は、そのまま眠ってしまった。見ればボロキレを身に纏い、見すぼらしい。体も汚く汚れ、骨と皮だけの手足は傷だらけだった。
「……」
眉をひそめて子供を見ていたが、仕方がないので回収して城の中へ運ばせる。この子供が新たな頭痛の種を持ち込むことなど、この時のオレは知らなかった。
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