今夜、オオカミの夢を見る

とぎクロム

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廻(めぐ)りⅡ

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流れる車窓の景色に、エル・カパトレーは、みどりの瞳を光照らしていた。
父親の運転する車に乗って、彼は今日、親元を離れるために長距離ドライブ中だった。
後部座席の隣同士に座る三つ違いの弟、カーンが、きゅっと自分の手を握ってくる。
エルは、そんな弟の手を優しく握り返した。
「休みの日には、帰ってくるよ」
もう何度も言い聞かせた言葉を、エルは改めて言う。
「…手紙」
「うん。書く。それに、三年後には、お前だって入るんだぞ」
コクンと、うなずく。
握った手の平を、カーンの指先がくすぐる。
傷のある所を触られると、くすぐったい。
ナイフか何かで出来たようなその傷は、生まれた時からエルの手に刻まれていたものだ。
スピリチュアルの強い伯母からは、
「あんたのそれは、因業の印。今に、分かるわ」
と、予言めいたことを言われ、それを聞いた母は、渋い顔をしていた。母は、伯母のそういうところと、折り合いが悪かった。
「もうすぐだよ」
運転席で父が首を向け、二人に告げた。
真新しい制服に身を包んだエルは、これから始まる新しい生活に、胸をどきどきさせていた。

石造りの伝統的な寄宿舎を訪ね、割り当てられた部屋に、荷物を運び入れる。
管理室で貰った自分のネームプレートを持ってドアの前に立つと、二枠分の表札の一つには、すでに札がかかっていた。

――ミカエラ・ブラウン――

部屋割りは慣例的に、上級生と下級生を組んで二人一部屋なのだと、ビン底眼鏡の管理人さんに教えてもらった。ということは、このミカエラ・ブラウンという人は、上級生なのだろう。
どんな人だろう?
エルは、部屋をのぞく。
共同スペースであるリビングやバスルームからは、個人の物がうかがえない。あまり物を持たない人なのだろうか?
さっきも、つい自分が一番乗りをしたような気で荷物を解いていたが、ここには先住の先輩がいたのだ。
だが、その上級生の姿はない。
寮には門限もあるから、そのうち会えるだろうと、エルは期待していた。
しかし、次の日になっても、その次の日になっても、ミカエラ・ブラウンが姿を現すことはなかった。



――夢を見ていた。
ああ、これは夢だな、と分かる夢で。
いつも、誰かを探している。
雪の中——吹雪の中で。


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