♂入れ替わりゆうしゃさま♀

シュテ

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第25話 勇者

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いい?


駄目だ。何とかしなければ、何とかしなければ。
このままでは、亜里朱は。
しかし、俺に何ができる?
何もできるはずがない。
手を伸ばしても届かない。

考えろ、考えろ、考えても――。
 
俺じゃ無理なのか。
俺では亜里朱は救えないのか。
繋がりは感じているのに。
危機に晒されているとわかっているのに。
 
――――くんは優しいけれど。
全てを救う事は出来ないんだよ。
世界の裏側で泣いてる誰かを助けに行くのは難しい。
その声は聞こえないし、その姿は見えない。
その手は届かないし、走っていくには遠すぎる。
だけど泣かなくてもいい。
自分の非力を悔やまなくてもいい。
勇者になれなくてもいい。
そんなの勇者にだって無理だもん。
ただ、その代わりに。
――くんの目の届く場所にいる人で。
――くんの手の届く場所にいる人で。
――くんに声が届く場所にいる人で。
――くんが走っていける場所にいる人で。
無理はしないで、出来る範囲で。
その場所で泣いている人を見つけた時には、私たちで絶対助けようね――。

 
何でだ。何でこんな時に、アイツの事を思い出すんだ。
これじゃあ、まるで亜里朱が――。
 
それは、今の今まで忘れていた記憶。
力もなく役にも立てず自己嫌悪していた俺にアイツがかけてくれて言葉。
 
アイツが俺に遺してくれた思い出の1つ――。
 
何で今更こんな事を思い出すんだ。
それどころじゃない。
どうすれば、どうすれば。
 
何とかしなきゃ。
 
俺が何とかしなければ。それでも何とかしなければ。
 
分かっている。本当は分かってる。
どうにか出来る手段はあるのにそれを使うのを躊躇っている。
何度も現実という理不尽を目のあたりにして。
ひたすらがむしゃらに無我夢中に必死で。
気が付けば勇者になっていて。
俺は力を手にしていた。

理不尽も何もかも跳ね除ける力を手に入れて。たくさんの人達を救えるようになった。
でもそれでも。
全てを救える訳では無い。

けど近くにいるんだ。
感じるんだ。
俺を呼んでいるんだ。
 
 ――瞬間。セイクリッドアームが輝く。辺りは無音に包まれ、時が止まったような感覚がした。


『いつまで目を背けるつもりなの?』

怖い、怖いんだ。
何もかも全てが。

『でも貴方は出会った』

もう失うものなんて何もないと思っていた。
あの時俺は全て失った。
人も物も何もかも。大切なものなんてなければもう傷付く事なんてないんだから。
何も寄せつけず無関心。
それが自分を守るただ一つの手段だった。

『もうあの頃とは違う。守る為の力を身に付けた』

それはもう死に物狂いだった。
幾度となく同じ事を繰り返し文字通り死にかけ非凡な才能でありながら俺は力を求め続けた。
でも、もう疲れたんだ。
同じ事を繰り返して。
世界を救って。



俺は後どれぐらい繰り返せばいい?
あと幾つ世界を救えばいい?
もう、疲れたんだ。


『じゃあなんで貴方はそんなにも必死なの?』

そ、れは.......

『大丈夫。私はずっと貴方の傍にいてずっと、ずっと見てきた。だから大丈夫』

俺は.......おれは.......

『酷い事を言ってるよね。けど――くんは1人じゃないから。亜里朱は――じゃないけれどきっとこの出会いには意味があるから』
『恐れないで。怖がらないで。貴方のなりたかった勇者になって』


俺の、なりたかった勇者。


そんなの1つしかない。
俺は.......俺は!
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