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12.飛び出した先2
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「それで、志貴がさっき慌ててたのは何で? それに雨の中で倒れてた理由も教えてくれる?」
奏翔の家に入った志貴は事情を説明する前に風呂に追いやられ、今は借りたスウェットを着てリビングのソファに座っている。
出されたコーヒーをカフェオレにしてもらい、一口飲めば体の中から温まってから口を開いた。
「雨の中で倒れてたのはサラリーマンにぶつかられだけー……」
「でもそれじゃあんなに濡れないでしょ」
「うぅ……友達と、喧嘩した。多分。大嫌いっていって逃げてきちゃったんだよねぇ……りょーちゃんって言うんだけど、りょーちゃんのお家がこのマンションにあるから、それで会ったら気まずいなぁって」
「え、そんな偶然あるの!?」
「あるある、あったの! なんなら俺の家もこのマンションにあるよー」
「じゃあなんで僕の家に来てるの。誘ったのは僕だけどさ、なんなら今からでも帰れば良いんじゃ……」
「俺の家、りょーちゃんちの隣ぃ」
「だから家に帰れないのか」
普段であれば、家に帰りたくなければセフレの誰かに連絡して泊めてもらう。つい先日まではそうやって生活していたのだ。
だが今の志貴にはそれができなかった。それを話すと奏翔はどこか納得したような顔をする。
「君ってヒモ?」
「はっきり言うー。そうだけどさぁ」
「僕もホストだから似たようなもんだよね」
「そう? でもかな君のはお仕事でしょー」
「そうだけどさ、でも女の子に優しくしてお金貰ってる部分は大して変わらないよ」
奏翔は自身のコーヒーを飲みながら、どこか疲れたように目を伏せソファに背を預ける。
「わかるよ、自分の感情が乱れてる時は他人に気遣えないよね。僕はそれこそ仕事だから、どんなに気分が乱れててもお客さんの相手をしなきゃいけないけどさ。志貴は違うでしょ?」
女の人のとこに行けないのも分かると言ってくれる奏翔に、志貴はどこか尊敬めいた気持ちを抱き始めた。
会ってから大した時間も経っていないというのに、ここまで理解してくれるのはやはり職業が関係しているのだろうか。
その安心感と話しやすさは、どこか遼佑と初めて言葉を交わした時に似ていた。
気が付けば志貴は、遼佑が唯一の友達でだからこそ今まで悪口を相手に言ったこともなかったし、喧嘩することもなかったと話していた。
ふらふらと人の合間を漂うような志貴は、生きてきた中で誰かと喧嘩をした経験がない。
遼佑とこのまま友達でなくなるっは嫌なので謝らなければいけないとは理解しているが、経験がない以上どう誤ればいいか分からないのだ。
何よりも謝って友達に戻ったとしても、持て余している感情が再び溢れ出してしまえばまた喧嘩になってしまうような気がしてならなかった。
「そもそもの話なんだけど、喧嘩した理由はなに?」
「えっと……」
会ったばかりの人に対し性的なことを話すのは憚られた。しかし奏翔ならば話せば良いアドバイスをくれるような予感もあり、志貴は側にあったクッションを抱き込みながらおずおずと話し出す。
「りょーちゃんのお家にいたら、婚約者って人が来て追い出されたの。お互い詮索しないって約束があったんだけどそれがショックで、ずっとふらふらしてたんだけどさ。久々に自分の家に帰ったらりょーちゃんが居て、嬉しくなってぇ……」
恥ずかしさと共にあの時の悲しさややるせなさを思い出して、志貴は顔を伏せてクッションをキツく抱きしめる。
「ご飯食べてたらそういう雰囲気になって、りょーちゃんとホテルに行ってしたんだけど――」
「ちょっと待って、待って! 君、そっちだったの!?」
驚いて手にしていたカップを落としそうになった奏翔が、驚愕の顔で志貴を見る。
「ち、違うよぉ!? りょーちゃんとは、その、しちゃうけど。それ以外の人は興味ないし……って言うか嫌だし」
「え? と言うことはそのりょーちゃんがそっちってこと?」
「りょーちゃんも違うー。セフレ沢山いるもん。それにりょーちゃんも他の男で試してみようとしたけど俺以外はキモイって言ってたしぃ」
「えぇ?」
今度は困惑の表情を浮かべた奏翔が、首を傾げながら悩み始めた。
「あの、ごめん。変な話した……」
「いや僕は偏見とかないんだけどさ。と言うことはそのりょーちゃんと志貴はセフレってこと?」
「違うよー。りょーちゃんは友達」
そう、志貴と遼佑は友達で決してセフレなどではない。例え彼についていっていることが他のセフレ達と変わらなくても、一番の友達なのだ。
更に頭を捻り始めた奏翔が、逸れ始めた話を戻し喧嘩した理由を聞いてくる。
志貴は正直に、遼佑に他の男と関係ができたんじゃないかと言い詰められ、婚約者がいる癖にこんな状態になっていて尚且つ自分を責めてくるような遼佑の物言いに腹が立ったのだと話した。
「……それってさ、君はそのりょーちゃんって人のこと好きってことじゃない?」
志貴は何を当たり前のことを聞くのかと目を丸くして奏翔を見る。
「好きだよ、友達だもん」
「あー……そうじゃなくてさ」
どうやら答えが違うらしく、天井を向いて考え始めた奏翔を志貴はそわそわした気持ちで彼を見ていた。
奏翔の家に入った志貴は事情を説明する前に風呂に追いやられ、今は借りたスウェットを着てリビングのソファに座っている。
出されたコーヒーをカフェオレにしてもらい、一口飲めば体の中から温まってから口を開いた。
「雨の中で倒れてたのはサラリーマンにぶつかられだけー……」
「でもそれじゃあんなに濡れないでしょ」
「うぅ……友達と、喧嘩した。多分。大嫌いっていって逃げてきちゃったんだよねぇ……りょーちゃんって言うんだけど、りょーちゃんのお家がこのマンションにあるから、それで会ったら気まずいなぁって」
「え、そんな偶然あるの!?」
「あるある、あったの! なんなら俺の家もこのマンションにあるよー」
「じゃあなんで僕の家に来てるの。誘ったのは僕だけどさ、なんなら今からでも帰れば良いんじゃ……」
「俺の家、りょーちゃんちの隣ぃ」
「だから家に帰れないのか」
普段であれば、家に帰りたくなければセフレの誰かに連絡して泊めてもらう。つい先日まではそうやって生活していたのだ。
だが今の志貴にはそれができなかった。それを話すと奏翔はどこか納得したような顔をする。
「君ってヒモ?」
「はっきり言うー。そうだけどさぁ」
「僕もホストだから似たようなもんだよね」
「そう? でもかな君のはお仕事でしょー」
「そうだけどさ、でも女の子に優しくしてお金貰ってる部分は大して変わらないよ」
奏翔は自身のコーヒーを飲みながら、どこか疲れたように目を伏せソファに背を預ける。
「わかるよ、自分の感情が乱れてる時は他人に気遣えないよね。僕はそれこそ仕事だから、どんなに気分が乱れててもお客さんの相手をしなきゃいけないけどさ。志貴は違うでしょ?」
女の人のとこに行けないのも分かると言ってくれる奏翔に、志貴はどこか尊敬めいた気持ちを抱き始めた。
会ってから大した時間も経っていないというのに、ここまで理解してくれるのはやはり職業が関係しているのだろうか。
その安心感と話しやすさは、どこか遼佑と初めて言葉を交わした時に似ていた。
気が付けば志貴は、遼佑が唯一の友達でだからこそ今まで悪口を相手に言ったこともなかったし、喧嘩することもなかったと話していた。
ふらふらと人の合間を漂うような志貴は、生きてきた中で誰かと喧嘩をした経験がない。
遼佑とこのまま友達でなくなるっは嫌なので謝らなければいけないとは理解しているが、経験がない以上どう誤ればいいか分からないのだ。
何よりも謝って友達に戻ったとしても、持て余している感情が再び溢れ出してしまえばまた喧嘩になってしまうような気がしてならなかった。
「そもそもの話なんだけど、喧嘩した理由はなに?」
「えっと……」
会ったばかりの人に対し性的なことを話すのは憚られた。しかし奏翔ならば話せば良いアドバイスをくれるような予感もあり、志貴は側にあったクッションを抱き込みながらおずおずと話し出す。
「りょーちゃんのお家にいたら、婚約者って人が来て追い出されたの。お互い詮索しないって約束があったんだけどそれがショックで、ずっとふらふらしてたんだけどさ。久々に自分の家に帰ったらりょーちゃんが居て、嬉しくなってぇ……」
恥ずかしさと共にあの時の悲しさややるせなさを思い出して、志貴は顔を伏せてクッションをキツく抱きしめる。
「ご飯食べてたらそういう雰囲気になって、りょーちゃんとホテルに行ってしたんだけど――」
「ちょっと待って、待って! 君、そっちだったの!?」
驚いて手にしていたカップを落としそうになった奏翔が、驚愕の顔で志貴を見る。
「ち、違うよぉ!? りょーちゃんとは、その、しちゃうけど。それ以外の人は興味ないし……って言うか嫌だし」
「え? と言うことはそのりょーちゃんがそっちってこと?」
「りょーちゃんも違うー。セフレ沢山いるもん。それにりょーちゃんも他の男で試してみようとしたけど俺以外はキモイって言ってたしぃ」
「えぇ?」
今度は困惑の表情を浮かべた奏翔が、首を傾げながら悩み始めた。
「あの、ごめん。変な話した……」
「いや僕は偏見とかないんだけどさ。と言うことはそのりょーちゃんと志貴はセフレってこと?」
「違うよー。りょーちゃんは友達」
そう、志貴と遼佑は友達で決してセフレなどではない。例え彼についていっていることが他のセフレ達と変わらなくても、一番の友達なのだ。
更に頭を捻り始めた奏翔が、逸れ始めた話を戻し喧嘩した理由を聞いてくる。
志貴は正直に、遼佑に他の男と関係ができたんじゃないかと言い詰められ、婚約者がいる癖にこんな状態になっていて尚且つ自分を責めてくるような遼佑の物言いに腹が立ったのだと話した。
「……それってさ、君はそのりょーちゃんって人のこと好きってことじゃない?」
志貴は何を当たり前のことを聞くのかと目を丸くして奏翔を見る。
「好きだよ、友達だもん」
「あー……そうじゃなくてさ」
どうやら答えが違うらしく、天井を向いて考え始めた奏翔を志貴はそわそわした気持ちで彼を見ていた。
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