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28 体調不良
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大きな音がしてテオドールが振り返れば、周りから悲鳴が上がり、フェリチアーノが噴水の中に落ちているのが見えた。
ロイズや護衛騎士達の制止する声に逆らい、自身が濡れる事も厭わずにテオドールはすぐにフェリチアーノを抱き上げていた。
フェリチアーノに呼びかけるが、意識を失っていて目を開ける事は無かった。注目が集まり過ぎている為に、ロイズはすぐさまテオドール達を馬車まで急がせる。
馬車に乗り込んだテオドールは、自身の上着をフェリチアーノに掛け、心配そうにフェリチアーノを抱きしめる。
抱きしめられているフェリチアーノの顔はいつもより青白く、寒いのだろうか小さく震えていた。
そんなフェリチーノの様子をロイズは反対側の座席に座り思案顔で見ていた。ここに来て漸くフェリチアーノの体が毒に犯されていると言う事を、まざまざと思い知らされたのだ。
聞いていて頭で理解しているのと、実際に目の前で倒れられその死の近さを実感するのは訳が違う。
テオドールが気が付くまでは、フェリチアーノの死期を知られない様にと言われているが、この場合はさてどうしたものか。
生きた教材として差し出された青年を、どこまでテオドールの為に使えばいいのか。そう考えればロイズの心は痛むが、それでも自身の主の成長を促すほかは無い。それは何よりもサライアスからの命令なのだから。
ロイズはさり気無くデュシャン家へ向かうか、王宮へ向かうかテオドールに選択をさせていく。きっぱりと王宮へ向かえと指示を出したテオドールに、ロイズは安堵した。
出来る限りの速いスピードで王宮へと戻って来たテオドール達は、足早にテオドールの部屋へと向かった。客間へと連れて行こうとしたのを、テオドールが嫌がったためだ。
フェリチアーノを侍従達に任せ、身を清め着替えさせている間に、ロイズは残りの侍従達にテオドールの身支度を整える様に指示を出してから、足早に王宮医を呼びに行った。
身を清められ、新しい寝巻を着せられたフェリチアーノは、テオドールの指示で彼のベッドへと寝かされた。
風呂に入ったと言うのにその顔は青白いままで、震えも収まる気配は無かった。テオドールはベッドの横に椅子を持ってきて座ると、フェリチアーノのか細い手を握り込み、王宮医が来るのをただただ待つしかできなかった。
漸く出来た時間、漸く出来た夢にまで見た念願のデートだった。今日と言う日が楽しみで、浮かれていたというのに。
それはフェリチアーノも一緒だった筈だ。もしや体調が悪い中無理をさせてしまったのだろうか。だが王族であるテオドールの誘いを、当日に断る等出来る筈も無い。
その考えに思い至ったテオドールはハッとし、顔を青ざめさせた。
なんの連絡も取らないでいた日、ロイズに言われたではないか。“気にするべきだ”と。アレは何もそう言った事だけにではなく、全体の、フェリチアーノと言う人間の事を気にするべきだと言う事ではないのか?
自身の感情を全面に押し出していればいいわけでは無いのだと、そうロイズは言いたかったのではないか?
後悔ばかりが頭の中をぐるぐると巡り、そんな状態でフェリチアーノの顔を見ている事も出来ずに、テオドールは未だ体温が低いフェリチアーノの手を握り込んだまま、ベッドに額を付けた。
「暫くは安静が必要でしょう。見たところ体重も些か足りないようですし、疲労の色も濃い。栄養価の高い物を食べさせて、ゆっくり養生させていれば元気になりますよ、殿下。そう気落ちなさいますな」
豊かな真っ白い髭を蓄えた、老王宮医ディッシャーは死にそうな表情で側に居るテオドールに優し気に微笑んでそう言った。
「ありがとうディッシャー」
「もしかしたら熱が上がってしまうかもしれませんが、それも想定内ですからな。殿下も狼狽えてばかりではダメですぞ?」
「あぁ、そうだな……」
力なさげに微笑んだテオドールに頷くと、ディッシャーは静かに部屋を出た。
「それで、彼の状態は実際どうなのですか」
ディッシャーと共に部屋を出て来たロイズは、周りを素早く窺ってから小声で尋ねた。
「毒に犯されている事は間違いないでしょう、そのせいで体の中がボロボロである事から、彼が言った通り死期もその通りでしょうな。魔道具で真偽は確認なさったのでしょう?彼の治療はどうするのですか」
「陛下は全ての采配をテオドール殿下にお任せになると。殿下が動かない限り我々が勝手に動く事は出来ません」
ディッシャーは長い白髭を撫でていた手を止め、ロイズを見た。その顔にはなんとも遣る瀬無いと言わんばかりの表情が浮かんでいる。
その姿に心苦しく思うも、下手に動いてサライアスから咎められても困るのだ。
「では出来る限り栄養を取らせる事をお勧めしておきますよ。何事も体力が無ければ打ち勝てる者も打ち勝てませんからな」
それだけをアドバイスして去っていくディッシャーに、軽く頭を下げたロイズは室内に戻り、未だ目覚めないフェリチアーノをテオドールと共にひたすら待つのであった。
ロイズや護衛騎士達の制止する声に逆らい、自身が濡れる事も厭わずにテオドールはすぐにフェリチアーノを抱き上げていた。
フェリチアーノに呼びかけるが、意識を失っていて目を開ける事は無かった。注目が集まり過ぎている為に、ロイズはすぐさまテオドール達を馬車まで急がせる。
馬車に乗り込んだテオドールは、自身の上着をフェリチアーノに掛け、心配そうにフェリチアーノを抱きしめる。
抱きしめられているフェリチアーノの顔はいつもより青白く、寒いのだろうか小さく震えていた。
そんなフェリチーノの様子をロイズは反対側の座席に座り思案顔で見ていた。ここに来て漸くフェリチアーノの体が毒に犯されていると言う事を、まざまざと思い知らされたのだ。
聞いていて頭で理解しているのと、実際に目の前で倒れられその死の近さを実感するのは訳が違う。
テオドールが気が付くまでは、フェリチアーノの死期を知られない様にと言われているが、この場合はさてどうしたものか。
生きた教材として差し出された青年を、どこまでテオドールの為に使えばいいのか。そう考えればロイズの心は痛むが、それでも自身の主の成長を促すほかは無い。それは何よりもサライアスからの命令なのだから。
ロイズはさり気無くデュシャン家へ向かうか、王宮へ向かうかテオドールに選択をさせていく。きっぱりと王宮へ向かえと指示を出したテオドールに、ロイズは安堵した。
出来る限りの速いスピードで王宮へと戻って来たテオドール達は、足早にテオドールの部屋へと向かった。客間へと連れて行こうとしたのを、テオドールが嫌がったためだ。
フェリチアーノを侍従達に任せ、身を清め着替えさせている間に、ロイズは残りの侍従達にテオドールの身支度を整える様に指示を出してから、足早に王宮医を呼びに行った。
身を清められ、新しい寝巻を着せられたフェリチアーノは、テオドールの指示で彼のベッドへと寝かされた。
風呂に入ったと言うのにその顔は青白いままで、震えも収まる気配は無かった。テオドールはベッドの横に椅子を持ってきて座ると、フェリチアーノのか細い手を握り込み、王宮医が来るのをただただ待つしかできなかった。
漸く出来た時間、漸く出来た夢にまで見た念願のデートだった。今日と言う日が楽しみで、浮かれていたというのに。
それはフェリチアーノも一緒だった筈だ。もしや体調が悪い中無理をさせてしまったのだろうか。だが王族であるテオドールの誘いを、当日に断る等出来る筈も無い。
その考えに思い至ったテオドールはハッとし、顔を青ざめさせた。
なんの連絡も取らないでいた日、ロイズに言われたではないか。“気にするべきだ”と。アレは何もそう言った事だけにではなく、全体の、フェリチアーノと言う人間の事を気にするべきだと言う事ではないのか?
自身の感情を全面に押し出していればいいわけでは無いのだと、そうロイズは言いたかったのではないか?
後悔ばかりが頭の中をぐるぐると巡り、そんな状態でフェリチアーノの顔を見ている事も出来ずに、テオドールは未だ体温が低いフェリチアーノの手を握り込んだまま、ベッドに額を付けた。
「暫くは安静が必要でしょう。見たところ体重も些か足りないようですし、疲労の色も濃い。栄養価の高い物を食べさせて、ゆっくり養生させていれば元気になりますよ、殿下。そう気落ちなさいますな」
豊かな真っ白い髭を蓄えた、老王宮医ディッシャーは死にそうな表情で側に居るテオドールに優し気に微笑んでそう言った。
「ありがとうディッシャー」
「もしかしたら熱が上がってしまうかもしれませんが、それも想定内ですからな。殿下も狼狽えてばかりではダメですぞ?」
「あぁ、そうだな……」
力なさげに微笑んだテオドールに頷くと、ディッシャーは静かに部屋を出た。
「それで、彼の状態は実際どうなのですか」
ディッシャーと共に部屋を出て来たロイズは、周りを素早く窺ってから小声で尋ねた。
「毒に犯されている事は間違いないでしょう、そのせいで体の中がボロボロである事から、彼が言った通り死期もその通りでしょうな。魔道具で真偽は確認なさったのでしょう?彼の治療はどうするのですか」
「陛下は全ての采配をテオドール殿下にお任せになると。殿下が動かない限り我々が勝手に動く事は出来ません」
ディッシャーは長い白髭を撫でていた手を止め、ロイズを見た。その顔にはなんとも遣る瀬無いと言わんばかりの表情が浮かんでいる。
その姿に心苦しく思うも、下手に動いてサライアスから咎められても困るのだ。
「では出来る限り栄養を取らせる事をお勧めしておきますよ。何事も体力が無ければ打ち勝てる者も打ち勝てませんからな」
それだけをアドバイスして去っていくディッシャーに、軽く頭を下げたロイズは室内に戻り、未だ目覚めないフェリチアーノをテオドールと共にひたすら待つのであった。
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