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58 その血の色は
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慣れないドラゴンの魔力をトビアスから貰いながら、春輝はそれからの日々を過ごしていた。
領地は長閑で、屋敷の周りは静かだ。朝方に寝る生活を繰り返す春輝は、昼を過ぎたころに起き出すと、トビアスと屋敷の周りを散策するのが日課になっていた。
屋敷の中は居心地が悪い。監視の目が常に張り付いているのだ。メイドも、侍従も、誰もかれも春輝に優しく声を掛け微笑んでくるが、その目は笑っているようで笑ってはいない。
そんな中では例えトビアスしか入れない自室であっても、息が詰まる。トビアスを連れ、何もない林の中を日がな一日歩いて仮眠を取る方がましであった。
「ここは一段と静かだな」
「えぇ、それに見てください、水が一段と綺麗ですよハルキ殿」
いつもとは違う道を歩いていけば川に出る。トビアスに促され川べりまで寄り覗き込めば、かなり深い場所でも川底が見えた。風がそよそよと吹けば、水の冷たさもあり心地がいい。
靴を脱ぎすて、丁度いい岩の上から川へと足を浸せばリラックス効果は抜群だった。最近では食事の量も落ち、悪夢は酷い。なによりもガベルトゥスが夜に姿を現さなくなったことが堪えている。
心身ともに疲弊している春輝が休むのにはぴったりの場所と言えた。水音とさわさわと揺れる木々の音に、次第に眠気が襲ってくる。
「屋敷に戻りますか?」
「いやここでいい」
「ではせめて場所を移しましょう」
今すぐに寝たい欲求をなんとか振り払った春輝は、トビアスから渡されたタオルで足を拭く。
バッとトビアスが背後を振り返り警戒を強めたかと思うと、未だ裸足の春輝を抱き上げ大きな岩陰に隠れた。
「どうしたトビアス」
「すぐにわかります」
息を殺して潜んでいれば、二人のメイドが林の中から走って出て来た。どちらも顔色を悪くし、恐怖に怯えているようだった。
ガサガサと続いて出て来たのは、武骨で下卑た笑みを浮かべる男達だ。
「ほらほらどうした嬢ちゃん達、もう逃げないのか?」
「こ、来ないでくださいっ汚らわしい!」
「威勢がいいなぁ、流石勇者様の屋敷のメイドってな」
数人に取り囲まれたメイド二人は、あっという間に破落戸達に拘束され、服を破られた。これから起こることがなんであるかは容易く予想が付く。だが春輝には助ける気はなく、それは勿論トビアスも同じだった。
眠気はすっかりと飛んでしまったが、嫌な煩わしい声が響き不快で仕方がない。まさかこのままことが終わるまで身を潜め、成り行きを聞いていなければならないのかと春輝は肩を落とした。
「暴れるな、肌を切っちまうぞ? てあぁほら言わんこっちゃない」
「いぃいたい、痛い痛い!!」
「なん、だこれ……」
「血が……こんな色、化け物め!!」
ハッとしトビアスを見れば、トビアスも驚いているようだった。そっと岩陰から覗くも、離れているためにその色は確認できない。
「トビアス、見えるか?」
人差し指を自身の手に当てたトビアスは、声を出さないようにと春輝を制する。眼帯を外し、金の瞳を細め集中しているようだった。
「ここでなにをしている」
「なんだよ、今度は爺さんか。もういい、お前達ずらかるぞ!」
「させるわけがないでしょう」
突如現れたアルバロが魔法を放つと、破落戸達をいとも簡単にただの肉塊へと姿を変えてしまう。押し倒されていたメイドの一人は、全身を破落戸の血で染め上げていた。
「嫌だ、汚いわ、人間なんかにっ」
「落ち着いて、落ち着くのよ」
ぼろぼろと涙を流し、体を掻き毟るメイドに、アルバロは冷たい視線を投げ見下ろしていた。
「触れられたのですか?」
「あれらは、こともあろうに私達を犯そうと……! 私は大丈夫でしたが、この子は……」
「なんと汚らわしい……」
そういうとアルバロは躊躇いなく魔法を使い、震え泣くメイドの首を刎ねた。勢いよく吹き上がる血の色は……
「……緑」
無意識に漏れ出た春輝の言葉に、アルバロは何かに気が付いたように辺りを見回した。トビアスのマントに中にすぐさま匿われた春輝は、自身の失態にぐっと眉を寄せる。
「立ちなさい、早く片付けて戻りますよ」
まだ警戒したような様子を見せるアルバロは、川の水を操り死体と赤と緑に塗れた砂利を流した。
そのままトビアスが安全を確認するまで、春輝はマントの中で先ほどの光景を反芻していた。
魔獣も魔族も血の色は青だ。ガベルトゥスは元は赤だが、魔獣や魔人を食らったことで紫となった。この世界の人間が緑の血を持つ、と言うことでもない。人間は春輝と同じ赤だ。
春輝とトビアスは、日が暮れる少し前にやっと岩場を離れることができた。警戒したアルバロや、屋敷に務める男達が辺りに残党が居ないか探し出したからだ。
「トビアス、あれは何だと思う」
「ドラゴンの記憶が全て戻ればわかるかと思いますが……まだ霞が多く知識を引き出せないのです」
申し訳なさそうにするトビアスだが、春輝は気にするなとその背を叩く。ドラゴンはその力が膨大で、すぐに全てを引き継ぐことはできないという。魔力がすぐに使え使えるようになっただけでも御の字と言う物だ。
「そうだトビアス、お前は充分に気を付けろ」
「何にでしょうか」
「怪我にだよ。そう簡単に血が出るようなけがをするとは思わないけど……お前の血は青いからな」
「細心の注意を払います」
「はぁ……本当に面倒くさい。早く王都を落とせたら楽なのにな」
春輝は髪をバサバサと掻き毟ると、重たい足取りで屋敷へと戻るのだった。
領地は長閑で、屋敷の周りは静かだ。朝方に寝る生活を繰り返す春輝は、昼を過ぎたころに起き出すと、トビアスと屋敷の周りを散策するのが日課になっていた。
屋敷の中は居心地が悪い。監視の目が常に張り付いているのだ。メイドも、侍従も、誰もかれも春輝に優しく声を掛け微笑んでくるが、その目は笑っているようで笑ってはいない。
そんな中では例えトビアスしか入れない自室であっても、息が詰まる。トビアスを連れ、何もない林の中を日がな一日歩いて仮眠を取る方がましであった。
「ここは一段と静かだな」
「えぇ、それに見てください、水が一段と綺麗ですよハルキ殿」
いつもとは違う道を歩いていけば川に出る。トビアスに促され川べりまで寄り覗き込めば、かなり深い場所でも川底が見えた。風がそよそよと吹けば、水の冷たさもあり心地がいい。
靴を脱ぎすて、丁度いい岩の上から川へと足を浸せばリラックス効果は抜群だった。最近では食事の量も落ち、悪夢は酷い。なによりもガベルトゥスが夜に姿を現さなくなったことが堪えている。
心身ともに疲弊している春輝が休むのにはぴったりの場所と言えた。水音とさわさわと揺れる木々の音に、次第に眠気が襲ってくる。
「屋敷に戻りますか?」
「いやここでいい」
「ではせめて場所を移しましょう」
今すぐに寝たい欲求をなんとか振り払った春輝は、トビアスから渡されたタオルで足を拭く。
バッとトビアスが背後を振り返り警戒を強めたかと思うと、未だ裸足の春輝を抱き上げ大きな岩陰に隠れた。
「どうしたトビアス」
「すぐにわかります」
息を殺して潜んでいれば、二人のメイドが林の中から走って出て来た。どちらも顔色を悪くし、恐怖に怯えているようだった。
ガサガサと続いて出て来たのは、武骨で下卑た笑みを浮かべる男達だ。
「ほらほらどうした嬢ちゃん達、もう逃げないのか?」
「こ、来ないでくださいっ汚らわしい!」
「威勢がいいなぁ、流石勇者様の屋敷のメイドってな」
数人に取り囲まれたメイド二人は、あっという間に破落戸達に拘束され、服を破られた。これから起こることがなんであるかは容易く予想が付く。だが春輝には助ける気はなく、それは勿論トビアスも同じだった。
眠気はすっかりと飛んでしまったが、嫌な煩わしい声が響き不快で仕方がない。まさかこのままことが終わるまで身を潜め、成り行きを聞いていなければならないのかと春輝は肩を落とした。
「暴れるな、肌を切っちまうぞ? てあぁほら言わんこっちゃない」
「いぃいたい、痛い痛い!!」
「なん、だこれ……」
「血が……こんな色、化け物め!!」
ハッとしトビアスを見れば、トビアスも驚いているようだった。そっと岩陰から覗くも、離れているためにその色は確認できない。
「トビアス、見えるか?」
人差し指を自身の手に当てたトビアスは、声を出さないようにと春輝を制する。眼帯を外し、金の瞳を細め集中しているようだった。
「ここでなにをしている」
「なんだよ、今度は爺さんか。もういい、お前達ずらかるぞ!」
「させるわけがないでしょう」
突如現れたアルバロが魔法を放つと、破落戸達をいとも簡単にただの肉塊へと姿を変えてしまう。押し倒されていたメイドの一人は、全身を破落戸の血で染め上げていた。
「嫌だ、汚いわ、人間なんかにっ」
「落ち着いて、落ち着くのよ」
ぼろぼろと涙を流し、体を掻き毟るメイドに、アルバロは冷たい視線を投げ見下ろしていた。
「触れられたのですか?」
「あれらは、こともあろうに私達を犯そうと……! 私は大丈夫でしたが、この子は……」
「なんと汚らわしい……」
そういうとアルバロは躊躇いなく魔法を使い、震え泣くメイドの首を刎ねた。勢いよく吹き上がる血の色は……
「……緑」
無意識に漏れ出た春輝の言葉に、アルバロは何かに気が付いたように辺りを見回した。トビアスのマントに中にすぐさま匿われた春輝は、自身の失態にぐっと眉を寄せる。
「立ちなさい、早く片付けて戻りますよ」
まだ警戒したような様子を見せるアルバロは、川の水を操り死体と赤と緑に塗れた砂利を流した。
そのままトビアスが安全を確認するまで、春輝はマントの中で先ほどの光景を反芻していた。
魔獣も魔族も血の色は青だ。ガベルトゥスは元は赤だが、魔獣や魔人を食らったことで紫となった。この世界の人間が緑の血を持つ、と言うことでもない。人間は春輝と同じ赤だ。
春輝とトビアスは、日が暮れる少し前にやっと岩場を離れることができた。警戒したアルバロや、屋敷に務める男達が辺りに残党が居ないか探し出したからだ。
「トビアス、あれは何だと思う」
「ドラゴンの記憶が全て戻ればわかるかと思いますが……まだ霞が多く知識を引き出せないのです」
申し訳なさそうにするトビアスだが、春輝は気にするなとその背を叩く。ドラゴンはその力が膨大で、すぐに全てを引き継ぐことはできないという。魔力がすぐに使え使えるようになっただけでも御の字と言う物だ。
「そうだトビアス、お前は充分に気を付けろ」
「何にでしょうか」
「怪我にだよ。そう簡単に血が出るようなけがをするとは思わないけど……お前の血は青いからな」
「細心の注意を払います」
「はぁ……本当に面倒くさい。早く王都を落とせたら楽なのにな」
春輝は髪をバサバサと掻き毟ると、重たい足取りで屋敷へと戻るのだった。
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