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59 企む者達
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「陛下っ戻られたのですか」
ガベルトゥスの気配を察知したハンネスは、大急ぎで部屋へと来たが、当のガベルトゥスはハンネスに一瞥をくれただけで、その態度は素っ気ないものだった。
以前よりも濃厚な大勢の人間の臭いを纏わせるガベルトゥスに、言いたいことは沢山あるがハンネスは口を閉ざす。
「食事に戻っただけだ、すぐに出る」
「私も、私もどうかお連れください陛下!」
「まだ回復しきれていないだろうが。足手まといだ」
ふっと目の前から消えたガベルトゥスに続き、地下の食糧庫の重い扉が閉じる音が聞こえた。
まるでガベルトゥスに締め出されてしまったような感覚がハンネスを襲い、むなしくなると同時に春輝に対して怒りが込み上げてきた。
カツンカツンと冷たく足音が響く回廊を、ハンネスはガリガリと爪を齧りながら歩く。
夜の短い間だけの不在が一晩中に、それが連日となり今では昼間ですらも。ガベルトゥスは一日、また一日と城を開けることが多くなっていた。
その姿を見せれば、窘めようとするハンネスを煩わしそうに顔を顰め、人間の臭いを全身に身に纏う。
その度に沸き上がるのは煮えたぎる程の嫉妬だ。常に側に置かれていたハンネスは、魔王の忠実なる臣下であることに誇りを持っいていたし、心の底から心酔もしていた。だからこそ耐えられないのだ。ハンネスを見もしない、ガベルトゥスが。
勇者がただの勇者であったなら、いつも通りの者であったなら。ここまでの執着をみせはしなかっただろうに。あの勇者が居なければ、ガベルトゥスはまたハンネスを見てくれるに違いないのだ。
――あの勇者を殺さねば。でもどうやって。
勇者を殺そうと王都まで出向いたこともあったが、結局は結界に阻まれ魔族であるハンネスは中に入ることすらできなかった。
そもそも勇者討伐の時に受けた傷は完全に癒えてはいないし、ガベルトゥスが言うように力も戻ってはいないのだ。
魔王の側近がこんな状態であると他の魔族に知られたら、ハンネスの立場はひとたまりもなく地に落ち、他の魔族がガベルトゥスの側に侍るだけだ。勇者ですら気に食わないと言うのに、これ以上は耐えられない。
勇者を倒すには魔獣を強化すればいいと、ハンネスは一人ほくそ笑む。いつも作る物よりも、より強力な物を作らねば。
勇者を殺せば全てが元通りになると、ハンネスは信じて疑わなかった。
それから数か月後、収まっていたはずの魔獣たちが出没しだしたと各地から王の元へと連絡が入った。それは段々と数を増し、勇者の領地付近まで近付いていると。
「聖剣の具合も気になりますし、私がハルキ様の元へ参りましょう」
「まぁ! 教皇様が? では私もご一緒したいわ」
会議室の中、サーシャリアの声が響き渡った。誰もが目を丸くし、一人優雅に茶を啜るサーシャリアを見る。
「退屈なんですもの。実際に勇者が戦っているところを見に行ってもいいでしょう? それに私が教皇様と領地へ行けば、お話にも箔がつくわ」
クスクスと笑うサーシャリアを誰も止めはしない。
一週間ほどで準備を終えたジェンツは、サーシャリアやオーバンを伴い王都から春輝のいる領地へと向かった。
王族が居るため、馬車の隊列は豪華だ。それに加えて、教皇であるジェンツが移動をするために、教会直属の騎士達も同行している。
彼らは王宮に務める騎士達とはまた違った雰囲気を醸し出しており、サーシャリアの筆頭護衛騎士であるサイモンは居心地の悪さを感じていた。
王宮の騎士達も煌びやかではあるのだが、やはりどこかしら武骨さが残る。しかし教会の騎士達は、まるで法衣を纏うが如く白く輝く甲冑を着けているのだ。
決して自分達が見窄らし格好をしているわけではないのだが、それでもサイモン達王宮の騎士達には鼻持ちならなかった。
そんな中、ジェンツを含めた面々は何事かなく春輝が居る勇者の領地へと入っていったのだった。
ガベルトゥスの気配を察知したハンネスは、大急ぎで部屋へと来たが、当のガベルトゥスはハンネスに一瞥をくれただけで、その態度は素っ気ないものだった。
以前よりも濃厚な大勢の人間の臭いを纏わせるガベルトゥスに、言いたいことは沢山あるがハンネスは口を閉ざす。
「食事に戻っただけだ、すぐに出る」
「私も、私もどうかお連れください陛下!」
「まだ回復しきれていないだろうが。足手まといだ」
ふっと目の前から消えたガベルトゥスに続き、地下の食糧庫の重い扉が閉じる音が聞こえた。
まるでガベルトゥスに締め出されてしまったような感覚がハンネスを襲い、むなしくなると同時に春輝に対して怒りが込み上げてきた。
カツンカツンと冷たく足音が響く回廊を、ハンネスはガリガリと爪を齧りながら歩く。
夜の短い間だけの不在が一晩中に、それが連日となり今では昼間ですらも。ガベルトゥスは一日、また一日と城を開けることが多くなっていた。
その姿を見せれば、窘めようとするハンネスを煩わしそうに顔を顰め、人間の臭いを全身に身に纏う。
その度に沸き上がるのは煮えたぎる程の嫉妬だ。常に側に置かれていたハンネスは、魔王の忠実なる臣下であることに誇りを持っいていたし、心の底から心酔もしていた。だからこそ耐えられないのだ。ハンネスを見もしない、ガベルトゥスが。
勇者がただの勇者であったなら、いつも通りの者であったなら。ここまでの執着をみせはしなかっただろうに。あの勇者が居なければ、ガベルトゥスはまたハンネスを見てくれるに違いないのだ。
――あの勇者を殺さねば。でもどうやって。
勇者を殺そうと王都まで出向いたこともあったが、結局は結界に阻まれ魔族であるハンネスは中に入ることすらできなかった。
そもそも勇者討伐の時に受けた傷は完全に癒えてはいないし、ガベルトゥスが言うように力も戻ってはいないのだ。
魔王の側近がこんな状態であると他の魔族に知られたら、ハンネスの立場はひとたまりもなく地に落ち、他の魔族がガベルトゥスの側に侍るだけだ。勇者ですら気に食わないと言うのに、これ以上は耐えられない。
勇者を倒すには魔獣を強化すればいいと、ハンネスは一人ほくそ笑む。いつも作る物よりも、より強力な物を作らねば。
勇者を殺せば全てが元通りになると、ハンネスは信じて疑わなかった。
それから数か月後、収まっていたはずの魔獣たちが出没しだしたと各地から王の元へと連絡が入った。それは段々と数を増し、勇者の領地付近まで近付いていると。
「聖剣の具合も気になりますし、私がハルキ様の元へ参りましょう」
「まぁ! 教皇様が? では私もご一緒したいわ」
会議室の中、サーシャリアの声が響き渡った。誰もが目を丸くし、一人優雅に茶を啜るサーシャリアを見る。
「退屈なんですもの。実際に勇者が戦っているところを見に行ってもいいでしょう? それに私が教皇様と領地へ行けば、お話にも箔がつくわ」
クスクスと笑うサーシャリアを誰も止めはしない。
一週間ほどで準備を終えたジェンツは、サーシャリアやオーバンを伴い王都から春輝のいる領地へと向かった。
王族が居るため、馬車の隊列は豪華だ。それに加えて、教皇であるジェンツが移動をするために、教会直属の騎士達も同行している。
彼らは王宮に務める騎士達とはまた違った雰囲気を醸し出しており、サーシャリアの筆頭護衛騎士であるサイモンは居心地の悪さを感じていた。
王宮の騎士達も煌びやかではあるのだが、やはりどこかしら武骨さが残る。しかし教会の騎士達は、まるで法衣を纏うが如く白く輝く甲冑を着けているのだ。
決して自分達が見窄らし格好をしているわけではないのだが、それでもサイモン達王宮の騎士達には鼻持ちならなかった。
そんな中、ジェンツを含めた面々は何事かなく春輝が居る勇者の領地へと入っていったのだった。
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