【完結】かつて勇者だった者

関鷹親

文字の大きさ
70 / 123

70 粉の影響

しおりを挟む
 萎れている、と言う表現がピッタリと当て嵌まるような外見になってしまったオーバンは、トゥーラと入れ違いで部屋に入った。
 トビアスに促され春輝の対面に腰を下ろすが、チラリとガベルトゥスを見ると、少し躊躇うように視線を春輝に戻した。

「ハルキ様が夜あまり寝付けないとお聞きしまして。よく効く睡眠薬を持って来たのです」
「誰に聞いた?」
「猊下がアルバロから聞いていまして。私はその話を同じ部屋で聞いていましたので、気になってしまってこうしてお持ちしたのです」

 春輝がガベルトゥスとトビアスを見れば、疑いの目をオーバンに向けていた。

「よく効く睡眠薬ですか、気になるので私も拝見しても?」
「かまいませんよ、こちらです」

 オーバンが懐から取り出したのは、小さな缶ケース。それに見覚えがあった三人は、一様に眉を顰めた。
 春輝が手に取り蓋を開ければ、中身はやはり白い粉だ。横に座るガベルトゥスは自然に春輝から缶を受け取り、鼻に近づける。
 春輝がその様子を見ていれば小さく頷かれ、粉の正体が妖精の粉だとわかった。
 やはりオーバンも敵であったのかと、春輝が無意識にオーバンを睨めば、穏やかに微笑みながらもオーバンは口の端から血を流していた。

「……赤」

 口の中で呟かれた春輝の言葉は、隣に座るガベルトゥスにしっかりと聞こえたようで、缶をじっと眺めていたガベルトゥスがオーバンに視線を向けた。
 春輝に内蓋を見えるようにして缶を手渡したガベルトゥスは、そのままオーバンの元へ行くとハンカチを差し出している。
 敵に優しくする意味を考えながら缶を見れば、内蓋には彫ったような文字が薄く刻まれていることに気がついた。

“勇者様へ“

 そう書かれている文字に首を傾げる。態々こんな場所に書く必要があるだろうか。
 その文字が彫刻で彫った物ではないのは明らかで、ナイフや先が尖った物で無理矢理書かれた物。人に贈るにしてはあまりにも不自然だった。
 他にもなにかあるのかと缶を軽く振るえば、粉の下から小さな紙片が出てくる。
 はっと春輝がガベルトゥスを見れば、難しい顔をしてオーバンを見ていた。

「いつから具合が悪いんですか? 治癒は?」
「歳ですので、私よりも治すべき人がいると断っております」
「そうですか、いつ頃から?」
「さぁ……いつ……からだっ……たか……」

 骨と皮だけになっている手が大きく震え出し、眼球が忙しなく動く。
 明らかに異常をきたしているオーバンの手にガベルトゥスが触れれば、更に震えが大きくなっていった。
 トビアスと二人、事態をただただ見ていれば、ピタリと震えが止まり、オーバンは春輝を真っ直ぐに見てくる。
 その目に曇りは一切なく、明確な意志が宿っていた。

「ハルキ、様……妹君のこと、誠に、申し訳ありません……でした……全ては私の判断が招いた、こと」

 よろよろとソファから降り、額を床に着けたオーバンは、途切れさせながらも必死に言葉を紡いでいるようだった。
 絶えず口からはポタポタと赤い鮮血が流れ落ち、床をまだらにしていく。

「最後に、お会いできてよかった。伝えられないかと……ガイル様、貴方が、何者かはわかりません……が、どうか、どうかハルキ様を……」

 盛大に咽せ、血を吐き出したオーバンは再び震えが戻る。
 何かを探すように服をあちこ触り、再び缶を取り出したオーバンはそれを鼻から勢いよく吸い、深呼吸を何度も繰り返し顔を上げた。
 その顔には先程までのことがまるでなにもなかったかのように笑みが貼り付けられていた。

「それでは私はこれで」

 綺麗な礼をして部屋を出たオーバンに薄気味悪さを感じ、春輝はうさぎのぬいぐるみを無意識に強く抱きしめた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

長年の恋に終止符を

mahiro
BL
あの人が大の女好きであることは有名です。 そんな人に恋をしてしまった私は何と哀れなことでしょうか。 男性など眼中になく、女性がいればすぐにでも口説く。 それがあの人のモットーというやつでしょう。 どれだけあの人を思っても、無駄だと分かっていながらなかなか終止符を打てない私についにチャンスがやってきました。 これで終らせることが出来る、そう思っていました。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...