85 / 123
85 教会での衝撃
しおりを挟む
教会で行われる行事があったのはそれから数日たった頃だった。正装に身を包み、春輝達は朝早くから教会へと向かっていた。
気分は最悪以外の何物でもないが、春輝は菓子を食べながら気分を落ち着ける。あれからサイモンは度々春輝の元へ妖精と言う名の虫と、情報を持ってきていた。
今や瓶の中身は悍ましいほどの数の妖精が入っている。カサカサと不快な羽音を消すために、衣裳部屋の奥深くに分厚い毛布で包み置いていた。
どうやらサーシャリアはあれから何度も虫を産み、更には妖精の粉まで使い出したようだった。そしてサイモンが齎したもっともな情報は、この国の王であるアデラアールもまたサーシャリアと同じように妖精の粉を吸っていると言うことだった。
この国の頂点はこれで人間だったと言うことがわかった。精霊族であれば粉を摂取する必要性はどこにもないからだ。
そして夜な夜な忍び込む教会騎士達が、一体どこから王宮へと侵入してくるのかを突き止めたのもサイモンだった。
隠し通路はトゥーラが調べ、既に王宮から地下を通り教会へと繋がっていることがわかっている。そんなトゥーラは他の通路を調べている最中で今この場には居ない。
石畳の上をガタガタと馬車に揺られながら教会に到着すれば、すぐに教会騎士が春輝達の乗る馬車へと近寄って来た。
「領地にも来ていた騎士達です」
「やっぱり今日なにかあると思うか?」
「そう考えていいだろうな。ハルキ気を付けろよ」
教会騎士達に先導され向かった先は大きな聖堂だ。見上げる程高く吹き抜けた天井に、大きなステンドグラスがあちらこちらでキラキラと輝き、多彩な色で冷たい石の床を照らしていた。
神とされる石造が最奥に置かれ、集まった人々はそれに祈りを捧げていた。壮大な音を奏でる楽団がこの場の雰囲気を更に神聖なものであるような雰囲気を醸し出させている。
石造を見たトビアスがなにやら口元を抑えているのが気になった春輝は、案内されたボックス席に腰を下ろすとトビアスに視線を向ける。
「なにか楽しいことでもあるのか?」
春輝とガベルトゥスの後ろに控えたトビアスは、周囲に聞かれないように声を潜める。
「あの石造のことなのですが、あれは神ではありません。かつての精霊王です」
「へぇ、あれが?」
「で、お前はなんで笑ってたんだ?」
「宗教として少しずつ人間をそれとは知らずに精霊王を信仰の対象させているのは凄いと思うのですが……ふふ、その年月を思うと図分と精霊族は気長だなと思いまして」
数を大量に増やせない精霊族が果てしない時間をかけて少しずつ人間達の中に潜り込み、こうして地道に崇拝対象を自分達のかつての王にするとは。どうやらトビアスはその地道な努力がおかしいらしかった。
「確かにそう考えると難儀な種族だな?」
「姿かたちは虫だしな」
「だがそうだな……それを聞くとこの国だけにこの神が崇められているというのはわかりやすいな」
「そうですね、他国は別の神かそもそも無宗教の所もありますから」
ガベルトゥスはふむと顎に手を当てながら、石造に視線を向ける。この国で根深く信仰対象として根付いているこの神とされる精霊王が、もし今この場に現れたとしたら。
人々はそれこそ神の降臨と崇めるのではないだろうか。宗教は時として手ごわい。ただでさえこの国の人々は勇者に対して並々ならぬ思いがある。そこに神たる者が現れたらどうなるだろうか。
ガベルトゥスは痛むこめかみを指圧した。最終的には全てを破壊するつもりでその準備も整ってはいるが、へたな暴動など起きるのは面倒ごとが増えるだけだ。
ガベルトゥスが深く溜息を吐いていれば、演奏されていた曲が鳴り止み教皇ジェンツが現れた。
粛々と進む行事は興味が全くないガベルトゥス達にとっては退屈で仕方がない。春輝は日ごろ寝ている時間であるために、うつらうつらとし始めている。
きっちりと着込まれている春輝の服だが、頭を傾ければ男にしてみれば細い首が姿を見せる。その隙間からガベルトゥスが付けた所有印が覗くのだ。
そこに触れようと手を伸ばそうとしたその時、春輝が息を呑んだのがわかった。視線を辿った先に見えたのは、祭壇の前に立つジェンツの横に並ぶように立った小さな少女。
「ハルキ、あれは……」
ガベルトゥスの問に、春輝は微動だにしない。まるで縫い付けられたように、視線は祭壇の前の少女に注がれている。
「いちか……」
春輝はそのままガベルトゥスが掴もうとした手をすり抜け、祭壇の前へと走り出した。
気分は最悪以外の何物でもないが、春輝は菓子を食べながら気分を落ち着ける。あれからサイモンは度々春輝の元へ妖精と言う名の虫と、情報を持ってきていた。
今や瓶の中身は悍ましいほどの数の妖精が入っている。カサカサと不快な羽音を消すために、衣裳部屋の奥深くに分厚い毛布で包み置いていた。
どうやらサーシャリアはあれから何度も虫を産み、更には妖精の粉まで使い出したようだった。そしてサイモンが齎したもっともな情報は、この国の王であるアデラアールもまたサーシャリアと同じように妖精の粉を吸っていると言うことだった。
この国の頂点はこれで人間だったと言うことがわかった。精霊族であれば粉を摂取する必要性はどこにもないからだ。
そして夜な夜な忍び込む教会騎士達が、一体どこから王宮へと侵入してくるのかを突き止めたのもサイモンだった。
隠し通路はトゥーラが調べ、既に王宮から地下を通り教会へと繋がっていることがわかっている。そんなトゥーラは他の通路を調べている最中で今この場には居ない。
石畳の上をガタガタと馬車に揺られながら教会に到着すれば、すぐに教会騎士が春輝達の乗る馬車へと近寄って来た。
「領地にも来ていた騎士達です」
「やっぱり今日なにかあると思うか?」
「そう考えていいだろうな。ハルキ気を付けろよ」
教会騎士達に先導され向かった先は大きな聖堂だ。見上げる程高く吹き抜けた天井に、大きなステンドグラスがあちらこちらでキラキラと輝き、多彩な色で冷たい石の床を照らしていた。
神とされる石造が最奥に置かれ、集まった人々はそれに祈りを捧げていた。壮大な音を奏でる楽団がこの場の雰囲気を更に神聖なものであるような雰囲気を醸し出させている。
石造を見たトビアスがなにやら口元を抑えているのが気になった春輝は、案内されたボックス席に腰を下ろすとトビアスに視線を向ける。
「なにか楽しいことでもあるのか?」
春輝とガベルトゥスの後ろに控えたトビアスは、周囲に聞かれないように声を潜める。
「あの石造のことなのですが、あれは神ではありません。かつての精霊王です」
「へぇ、あれが?」
「で、お前はなんで笑ってたんだ?」
「宗教として少しずつ人間をそれとは知らずに精霊王を信仰の対象させているのは凄いと思うのですが……ふふ、その年月を思うと図分と精霊族は気長だなと思いまして」
数を大量に増やせない精霊族が果てしない時間をかけて少しずつ人間達の中に潜り込み、こうして地道に崇拝対象を自分達のかつての王にするとは。どうやらトビアスはその地道な努力がおかしいらしかった。
「確かにそう考えると難儀な種族だな?」
「姿かたちは虫だしな」
「だがそうだな……それを聞くとこの国だけにこの神が崇められているというのはわかりやすいな」
「そうですね、他国は別の神かそもそも無宗教の所もありますから」
ガベルトゥスはふむと顎に手を当てながら、石造に視線を向ける。この国で根深く信仰対象として根付いているこの神とされる精霊王が、もし今この場に現れたとしたら。
人々はそれこそ神の降臨と崇めるのではないだろうか。宗教は時として手ごわい。ただでさえこの国の人々は勇者に対して並々ならぬ思いがある。そこに神たる者が現れたらどうなるだろうか。
ガベルトゥスは痛むこめかみを指圧した。最終的には全てを破壊するつもりでその準備も整ってはいるが、へたな暴動など起きるのは面倒ごとが増えるだけだ。
ガベルトゥスが深く溜息を吐いていれば、演奏されていた曲が鳴り止み教皇ジェンツが現れた。
粛々と進む行事は興味が全くないガベルトゥス達にとっては退屈で仕方がない。春輝は日ごろ寝ている時間であるために、うつらうつらとし始めている。
きっちりと着込まれている春輝の服だが、頭を傾ければ男にしてみれば細い首が姿を見せる。その隙間からガベルトゥスが付けた所有印が覗くのだ。
そこに触れようと手を伸ばそうとしたその時、春輝が息を呑んだのがわかった。視線を辿った先に見えたのは、祭壇の前に立つジェンツの横に並ぶように立った小さな少女。
「ハルキ、あれは……」
ガベルトゥスの問に、春輝は微動だにしない。まるで縫い付けられたように、視線は祭壇の前の少女に注がれている。
「いちか……」
春輝はそのままガベルトゥスが掴もうとした手をすり抜け、祭壇の前へと走り出した。
20
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~
槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。
公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。
そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。
アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。
その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。
そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。
義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。
そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。
完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる