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08 気になる3
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ジェスに言われた日から、ソルドは仕事をしている間ケインズの行動がいつも以上に気になってしかたがなかった。
ケインズの護衛として働き始め、小さな主に忠誠を誓ってからというもの、ここまでケインズのことをそういった意味で気にしたことはなかった。
そもそもソルドはどちらでもいける口だが、どちらかと言えば女の方が好みである。騎士としての訓練時代に男だらけの場所で、男同士がたしなみの一つとしてあるために受け入れたこともあるが、基本的には同性にたいしてそんな感情は持ったこともない。
付き合ってきたのも皆女性ばかりだ。しかし……とちらりとケインズに視線を向ける。
今日も今日とて、政務を忙しくこなすケインズには幼さは既にない。成人してから既に何年も経っているので当たり前ではあるのだが、見た目は麗しさはあれど、しっかりとした青年である。
そんな青年からふいに向けられる視線に、どうしてこうもそわそわとして落ち着かない気持ちになってしまうのか。
よくよく主を意識してみてみるのじゃ! とジェスに言われただけで、更にそれは加速を極め、こうも見え方が変わるものかと不思議でならない。いつだって守る対象で、忠誠を捧げる相手であった主を、時には不敬ではあるが弟のように思うこともあった。
年齢が離れているから、そういった対象の範囲外にいたと言ってもいい。そもそも主従でそういう関係になるなど、女子供が喜ぶ大衆小説や演劇のようではないか。
ソルドは扉の前で控えながら、頭の中で必死にその答えを探していた。
一方ケインズは、そんなソルドのわかり辛い態度を感じ取りつつ、耳と尻尾からソルドの戸惑いを感じ取っていた。
ある日から突然、ソルドから少しばかり距離が取られて歩かれるようになったかと思えば、ケインズの一挙手一投足に敏感に反応を示される。
時には警戒心を耳と尻尾に露わにし、普段揺るがない鋭い瞳が疑念に揺れているのも見て取れていた。
それが何故だか異様に物悲しく、寂しさをケインズの齎していた。
「ソルド、どうしたんだい? なにか悩み事でもあるのかな」
突然話しかけられたソルドはいつもより大げさに反応し、それを隠すように咳払いで誤魔化した。
今までそんな反応をされたことがなかったケインズは、眉を一段と下げ表情よりわかりやすい耳と尻尾を確認してしまう。
「いえ、特には」
「そうかい? 少し疲れたからお茶にしよう。さぁソルドも座って。キャスも準備が終わったら座りなさい」
やったー! と元気よく準備に向かうカステルを苦笑しながら、ケインズは先に背もたれの無い椅子に腰を下ろしたソルドに目が釘付けになる。
正確にはソルドの尻から生える、ゆらゆらと揺れる尻尾が気になったのだ。さり気なくソルドの後ろに回り込み、背後の本棚から本を探すふりをしながら、意識だけは揺れる尻尾に向けた。
幻覚であるのかもしれないが、ふわふわと揺れる尻尾を触れはしないかと考えてしまったのだ。
少し前に動物の毛のようなものがソルドの毛についていたこともあるので、もしかしたら触れてしまう可能性もあるのではないかと考えだしてしまえばもう止まらなかった。
疲れが見せる幻覚に感触まで求めてしまうことに、いよいよ危ない思考を持ち始めてしまったのかと不安にもなるのだが、どうしても気になって仕方がない。
触れなくとも、それはそれで幻覚なのだと再認識できて良いではないかと、自分自身に言い訳がましくなってしまう。
「おや、ソルド。背中にごみがついているね、そのまま動かないように」
「殿下にそのようなことっ」
「気にするな、ほらじっとしてくれ」
実際ごみなど着いてはいないが、騎士であるソルドに背後からはどう頑張っても気づかれずに近づくのは無理な話だ。
現に猫の耳はケインズの動向を探ろうと動く範囲で後ろを向いていたのだから、実際のソルドもそうなのだろう。
ソルドの背中に軽く触れ、あたかもごみを取ったように見せかけたケインズが尻尾に手を伸ばし、もう少しで触れられるというところでカステルが戻ってきてしまった。優秀な従者は仕事が早いのだ。
ケインズは尻尾を触るのは諦め、午後のお茶をソルドの耳と尻尾を見ながら楽しむことにしたのだった。
ケインズの護衛として働き始め、小さな主に忠誠を誓ってからというもの、ここまでケインズのことをそういった意味で気にしたことはなかった。
そもそもソルドはどちらでもいける口だが、どちらかと言えば女の方が好みである。騎士としての訓練時代に男だらけの場所で、男同士がたしなみの一つとしてあるために受け入れたこともあるが、基本的には同性にたいしてそんな感情は持ったこともない。
付き合ってきたのも皆女性ばかりだ。しかし……とちらりとケインズに視線を向ける。
今日も今日とて、政務を忙しくこなすケインズには幼さは既にない。成人してから既に何年も経っているので当たり前ではあるのだが、見た目は麗しさはあれど、しっかりとした青年である。
そんな青年からふいに向けられる視線に、どうしてこうもそわそわとして落ち着かない気持ちになってしまうのか。
よくよく主を意識してみてみるのじゃ! とジェスに言われただけで、更にそれは加速を極め、こうも見え方が変わるものかと不思議でならない。いつだって守る対象で、忠誠を捧げる相手であった主を、時には不敬ではあるが弟のように思うこともあった。
年齢が離れているから、そういった対象の範囲外にいたと言ってもいい。そもそも主従でそういう関係になるなど、女子供が喜ぶ大衆小説や演劇のようではないか。
ソルドは扉の前で控えながら、頭の中で必死にその答えを探していた。
一方ケインズは、そんなソルドのわかり辛い態度を感じ取りつつ、耳と尻尾からソルドの戸惑いを感じ取っていた。
ある日から突然、ソルドから少しばかり距離が取られて歩かれるようになったかと思えば、ケインズの一挙手一投足に敏感に反応を示される。
時には警戒心を耳と尻尾に露わにし、普段揺るがない鋭い瞳が疑念に揺れているのも見て取れていた。
それが何故だか異様に物悲しく、寂しさをケインズの齎していた。
「ソルド、どうしたんだい? なにか悩み事でもあるのかな」
突然話しかけられたソルドはいつもより大げさに反応し、それを隠すように咳払いで誤魔化した。
今までそんな反応をされたことがなかったケインズは、眉を一段と下げ表情よりわかりやすい耳と尻尾を確認してしまう。
「いえ、特には」
「そうかい? 少し疲れたからお茶にしよう。さぁソルドも座って。キャスも準備が終わったら座りなさい」
やったー! と元気よく準備に向かうカステルを苦笑しながら、ケインズは先に背もたれの無い椅子に腰を下ろしたソルドに目が釘付けになる。
正確にはソルドの尻から生える、ゆらゆらと揺れる尻尾が気になったのだ。さり気なくソルドの後ろに回り込み、背後の本棚から本を探すふりをしながら、意識だけは揺れる尻尾に向けた。
幻覚であるのかもしれないが、ふわふわと揺れる尻尾を触れはしないかと考えてしまったのだ。
少し前に動物の毛のようなものがソルドの毛についていたこともあるので、もしかしたら触れてしまう可能性もあるのではないかと考えだしてしまえばもう止まらなかった。
疲れが見せる幻覚に感触まで求めてしまうことに、いよいよ危ない思考を持ち始めてしまったのかと不安にもなるのだが、どうしても気になって仕方がない。
触れなくとも、それはそれで幻覚なのだと再認識できて良いではないかと、自分自身に言い訳がましくなってしまう。
「おや、ソルド。背中にごみがついているね、そのまま動かないように」
「殿下にそのようなことっ」
「気にするな、ほらじっとしてくれ」
実際ごみなど着いてはいないが、騎士であるソルドに背後からはどう頑張っても気づかれずに近づくのは無理な話だ。
現に猫の耳はケインズの動向を探ろうと動く範囲で後ろを向いていたのだから、実際のソルドもそうなのだろう。
ソルドの背中に軽く触れ、あたかもごみを取ったように見せかけたケインズが尻尾に手を伸ばし、もう少しで触れられるというところでカステルが戻ってきてしまった。優秀な従者は仕事が早いのだ。
ケインズは尻尾を触るのは諦め、午後のお茶をソルドの耳と尻尾を見ながら楽しむことにしたのだった。
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