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優しい嘘、残酷な嘘 《高校2年生・夏秋》
第11話 雨の温度
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〈SIDE: 蒼夜〉
雨粒が降り注いでくる。
頬に当たる冷たい感触。聞こえる音。
雨は嫌い。
イヤなことを思い出すから。
でも好き。
辛いことを忘れられるから。
(8月の雨か…)
担任と学年主任に言わなくちゃいけないことがあって、夏休み中なのに登校した学校。
去年から再三言われていたけど逃げ回って、そのうちなんとかなるんじゃないかなって思っていたけど、そう甘くはないみたいだ。
俺が逃げ回ってた現実は、俺の目の前に最悪の形で突き出された。
もう逃げる場所なんてどこにもない。
スイにも言わなくちゃいけない。
最悪だ。
面談が終わって、やっと解放されたときにはもう午後もいい時間だった。
ふとよぎるのは、さっきまでの先生たちの様子。
絶句。あるいは涙。それと哀れみ。
ある程度は予想していたけれど、いざ目の当たりにするとゾッとする。
別に哀れんでほしいわけじゃないのに。
生徒会室に足を向けたのはなんとなくだった。
急ぎの仕事があるわけでもないし、今日あたりは誰も来ていない。
ただ、静かなところに籠っていろいろと気持ちの整理をしたかっただけ。
そうして足を向けた生徒会室は、この雨で蒸し蒸ししていた。
換気のために開けた窓から、女の子と誰かの声が聞こえて来た。
そう言えば隣はスイの教室だったな、と今更ながらに思い出す。
隣に誰かいるなら、静かな場所に篭るというのは達成できなさそうだ。
結局開けたばかりの窓を閉めて、生徒会室を施錠して、廊下に出た。
「…っ…好きなんです…っ!!」
突然廊下に聞こえた声に思わず身を竦める。
と同時に、嫌な場面に出くわしてしまった悪運の強さを呪った。
誰だかわからないけど、なぜ今日、しかも今、この場所なんだろう。
ふと視線を隣の教室に向けると、そこには見慣れた横顔。
ずいぶんと久しぶりに見るスイがいた。
どうやら告白されていたのはスイらしい。
ということはおそらく、告白していたのは、あの子だろう。
学年でも有名になる程にスイが好きで、スイの追っかけまがいのことをしている女の子。
扉の影からちらりと見えた髪色からすると間違いない。
女の子らしくて可愛いと評判の子だ。
ここから見えるのはスイの横顔だけ。
けれど、今まで見たこともないくらい真面目そうな顔をしていた。
少なくともこの一年、俺はスイのあんな表情見たことがない。
(自分のことばっかりで忘れてたけど、スイって結構モテるんだよな)
2年になってからはほとんどLINEのやりとりばかりで。
せっかく夏休みだし、久しぶりにどこか出かける誘いをかけようかと思っていたけれど。
こんな場面を見たら言えない。
音を立てないようにその場から走り去る。
『俺は何も見ていない』
繰り返し、呪文のように呟いて。
「ヤバイよな…」
雨にかき消される小さな呟き。
自分で選んだんだ。スイの隣にいない日々を。
それなのにあの告白シーンを見てこんなにショックを受けるなんて。
ずいぶん身勝手で、馬鹿な話。
スイにはきちんと伝えなくちゃいけない、そう思ったけど、やめたほうがいいのかもしれない。
そうなると、限られた時間をどう過ごそうか。
ぼんやりと雨の中に佇むこと数時間。
雨の冷たさが心地よい。
全てを消し去ってくれるような気がして、俺はずっと空を見上げていた。
雨粒が降り注いでくる。
頬に当たる冷たい感触。聞こえる音。
雨は嫌い。
イヤなことを思い出すから。
でも好き。
辛いことを忘れられるから。
(8月の雨か…)
担任と学年主任に言わなくちゃいけないことがあって、夏休み中なのに登校した学校。
去年から再三言われていたけど逃げ回って、そのうちなんとかなるんじゃないかなって思っていたけど、そう甘くはないみたいだ。
俺が逃げ回ってた現実は、俺の目の前に最悪の形で突き出された。
もう逃げる場所なんてどこにもない。
スイにも言わなくちゃいけない。
最悪だ。
面談が終わって、やっと解放されたときにはもう午後もいい時間だった。
ふとよぎるのは、さっきまでの先生たちの様子。
絶句。あるいは涙。それと哀れみ。
ある程度は予想していたけれど、いざ目の当たりにするとゾッとする。
別に哀れんでほしいわけじゃないのに。
生徒会室に足を向けたのはなんとなくだった。
急ぎの仕事があるわけでもないし、今日あたりは誰も来ていない。
ただ、静かなところに籠っていろいろと気持ちの整理をしたかっただけ。
そうして足を向けた生徒会室は、この雨で蒸し蒸ししていた。
換気のために開けた窓から、女の子と誰かの声が聞こえて来た。
そう言えば隣はスイの教室だったな、と今更ながらに思い出す。
隣に誰かいるなら、静かな場所に篭るというのは達成できなさそうだ。
結局開けたばかりの窓を閉めて、生徒会室を施錠して、廊下に出た。
「…っ…好きなんです…っ!!」
突然廊下に聞こえた声に思わず身を竦める。
と同時に、嫌な場面に出くわしてしまった悪運の強さを呪った。
誰だかわからないけど、なぜ今日、しかも今、この場所なんだろう。
ふと視線を隣の教室に向けると、そこには見慣れた横顔。
ずいぶんと久しぶりに見るスイがいた。
どうやら告白されていたのはスイらしい。
ということはおそらく、告白していたのは、あの子だろう。
学年でも有名になる程にスイが好きで、スイの追っかけまがいのことをしている女の子。
扉の影からちらりと見えた髪色からすると間違いない。
女の子らしくて可愛いと評判の子だ。
ここから見えるのはスイの横顔だけ。
けれど、今まで見たこともないくらい真面目そうな顔をしていた。
少なくともこの一年、俺はスイのあんな表情見たことがない。
(自分のことばっかりで忘れてたけど、スイって結構モテるんだよな)
2年になってからはほとんどLINEのやりとりばかりで。
せっかく夏休みだし、久しぶりにどこか出かける誘いをかけようかと思っていたけれど。
こんな場面を見たら言えない。
音を立てないようにその場から走り去る。
『俺は何も見ていない』
繰り返し、呪文のように呟いて。
「ヤバイよな…」
雨にかき消される小さな呟き。
自分で選んだんだ。スイの隣にいない日々を。
それなのにあの告白シーンを見てこんなにショックを受けるなんて。
ずいぶん身勝手で、馬鹿な話。
スイにはきちんと伝えなくちゃいけない、そう思ったけど、やめたほうがいいのかもしれない。
そうなると、限られた時間をどう過ごそうか。
ぼんやりと雨の中に佇むこと数時間。
雨の冷たさが心地よい。
全てを消し去ってくれるような気がして、俺はずっと空を見上げていた。
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