幻獣を従える者

暇野無学

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090 猫の名前で侯爵に

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 「あんたが幻獣を譲ってくれるって聞いて、態々テムスからやって来たんだよ。タイガーキャットを譲れなんて言わないけど、フォレストウルフを貰えないかい」

 女の後ろに、痩せたキラードッグが俯き気味に座っている。
 鑑定をしてみる〔鑑定、わんころ、♀、14才、キラードッグ(ブレンダの使役獣)、氷結魔法、魔力77〕
 わんころ、ひでぇ名付けに思わずしかめっ面になってしまった。

 「そんな話を誰から聞いたのか知らないが、姐さんも幻獣を連れているじゃないか」

 「此奴は期待外れでね、あんたのテイムする奴は優秀だと聞いたよ。それを惜しげもなく人に譲るってね」

 「あんた馬鹿なの、自分がテイムした獣を他人に譲るなんて出来ないよ。テイマーなら常識だろう」

 おいおい、後ろで馬鹿にした様に笑っていた奴等の気配が変わったよ。
 負けじとフラッグが肩に乗り、戦闘態勢になる。

 「なに、それ。そんなちっこいのまでテイムしてんの」

 「タイガーキャットをテイムしていると聞いているが、まぐれでテイム出来たのか」
 「噂は大きく伝わるからな。お前もそれなりにテイマーとしての能力が有るのなら、強そうな所を一匹寄越せよ」
 「別にただとは言ってない、それなりの金は払うさ」

 やれやれ、一ヶ所に腰を据えると変な奴が湧いて出るのは仕方がないが、馬鹿ス。
 お散歩中のファングとウルファに声を掛けると、近くにいたので直ぐに戻ってきた。

 「そこ迄言うのなら、後ろに居る二頭の何方でも良いのでテイムしてみろよ。無事にテイム出来たら譲ってやるぞ」

 俺に言われて振り向き、フォレストウルフとグレイウルフの二頭を見て驚いている。
 その隙に上書きを試させて貰った。

 (テイム・テイム)《俺はランディスだ、聞こえるか?》

 《ランディシュ?》

 《そうだ、今からお前の主人は俺だ! 判るか?》

 《判る、ランディシュ》

 〔鑑定、わんころ、♀、17才、キラードッグ(ランディスの使役獣)、氷結魔法、魔力77〕

 よしよし、思った通り使役獣の主が入れ替わっているので、他人の使役獣を乗っ取る事が出来ると確認出来た。

 《お前は森に行き、自分で餌を獲って生きろ。人族には決して近寄らず攻撃もするな。判ったか?》

 《人族に、近寄らない・・・攻撃しない》

 《忘れるなよ。行け!》

 《はい》

 わんころが姐さん達の横をすり抜けて森の方に向かって駆け出した。

 「えっ・・・わんころ! 何処へ行くんだ、戻れ! 戻るんだ!」

 わんころちゃん、振り向きもせずに駆けていく。

 「あらららー、自分の使役獣の躾も出来ないのですかぁー」

 「煩い! お前、何かしたのか?」

 「馬鹿じゃないの、お前の使役獣の事なんか知るか!」

 「私のわんころが逃げたのはお前のせいだ! 代わりを寄越せ!」
 「そうだ! ウルフを見せた隙に何かしたのに違いない!」
 「わんころが逃げる筈がないのに逃げたのだから、代わりを寄越せ!」

 あー感嘆符ばかり並べやがって、煩い。

 《ブラック、鼻パッチンを出来るか?》

 《出来ます》

 《よーし、こいつら全員鼻を焦がしてやれ》

 〈バシーン〉  〈バシーン〉  〈バシーン〉

 未だ連射は拙いが、キツーい鼻バッチンでを喰らって後方に吹き飛び呻いている。

 「ひゃなら・・・」
 「きるとに、うっちゃえるはらな」

 「好きにすりゃ良いぞ。此処は街の外だ、俺は一人でお前達は八人いる。俺が反撃しただけだと言えば、お前達はギルドの地下牢行きだな」

 「くひょ、おほえちぇろ!」

 仲間に顎で引き上げの合図をして背を向けたが、尻にグレイの追撃を受けて這いずりながら逃げて行った。

 街の近くで野営をすれば、煩いのが湧いて出ると思い離れた場所で野営をしているのに、冒険者が幻獣のおねだりにやって来るとは予想外だ。
 旅は面倒なので、ハイムントの北門方向へ移動することにした。

 * * * * * * *

 移動して暫くは静かだったが、又冒険者パーティーがやって来た。
 だが今度は少し毛色が違い、横柄な態度の男に護衛らしき男が二人と冒険者が七人。
 ウルファに又やって来たと教えられて、覗き穴から見ていると声を張り上げる。

 「ランディス殿、お出ででしょうか。お話しが御座いますランディス殿」
 「ランディス殿、この野獣を遠ざけていただきたい」
 「ランディス殿、お返事して下さい」

 何度も何度も呼びかけてきて煩いが無視を決め込んでいたら、呼びかけてくる声が変わった。

 「ランディス、居るんだろう。顔を出せや!」
 「客が来ているんだ、迎えに出ろ!」
 「このウルフを下がらせろ!」

 余りにも煩く騒ぐので顔を出せば「ランディス殿ですな。創造神アルティナ様の僕たる、女神教教団のボルテス教主様の使いの者です。ランディス殿に王都カンタスの女神教教団本部にお越し頂きたいとの仰せです」

 「アルティナ様の使いではないのですね」

 「・・・アルティナ様の僕たる女神教の教団です。教団のボルテス教主様の使いです。アルティナ様が、貴方を呼ぶはずがありません!」

 「そうだよな。アルティナ様の僕だって言う教団が、俺に何の用だ」

 「存じません。ボルテス教主様にお目通りをして、用件を伺って下さい」

 「お布施や喜捨をお求めなら、貧乏冒険者なので無理ですよ」

 フラッグに入り口を封鎖してもらうと、外で何か喚いていたが女神教の教団がついに来たか。
 ひとしきり騒いでいたが、相手にされていないと判ったのか引き下がった様だ。

 翌日には別口の訪問者が現れたが、冒険者に守られたクラウスさんだ。

 「クラウスさんお久し振りですね。エリンザスに戻っていたんじゃないの」

 「貴方がハイムントに腰を据えた様なので、連絡係として呼ばれたんですよ。公爵様が話があるので来て欲しいそうです」

 「依頼なの?」

 「教団の者が、冒険者を雇ってハイムントに来ているらしいのです」

 「それ、昨日尋ねて来ましたよ。お布施や喜捨をする趣味は無いので帰ってもらいましたけど」

 「埋めたのですか?」

 「護衛の冒険者も居たので、無視をしただけですよ」

 * * * * * * *

 「公爵様、話とは何ですか?」

 「うむ、クラウディオの一件以来、オレガリオ王国の動きが活発になっているし、教団も我が領地にまで手を伸ばし始めているのだ」

 「教団のボルテス教主の使いって奴が、昨日俺の野営地まで来ましたよ」

 「念のために聞くが」

 「アルティナ様の存在は信じていますが、金儲けに忙しそうな教団に興味はありません」

 「それでは済まないぞ。教団の嫌らしい所は、熱心な信者を使って搦め手で来る事だ。善良な信者がお前を取り囲んで説得したり、無理矢理教会や教団本部に行かせようとしたときに抵抗出来るか」

 「逃げるだけですね」

 「だがランディスに怪我を負わせられた、金をゆすられた或いは身内を殺されたと訴えられたらどうだ。多数の敬虔な信者が証人となり訴えられると、王国もどうにもならなくなる。と言うか、表だって庇えなくなるのだ」

 確かに、その手を使われると何処に行こうと教団から追われる事になるな。
 日本でだって宗教絡みで仏敵だ何だと、教会を追われたり仕事を干された話は山程ある。

 「そこで陛下とも相談したのだが、お主、領主にならんか」

 「貴族にですか・・・」

 「幸いと言って良いのかどうか、マルセンス侯爵の領地だったサマンドラ領とタイラント公爵の」

 「要りません!」

 「そう言うだろうと思って、王家の直轄地の一つはどうかな。時々大森林に行っている様だが、そこからなら大森林にも近いし、それなりに大きな街なので不自由はしないぞ。今現在お主の身分は王国の伯爵待遇だが、授爵して領地を持てばホールデンス王国の正式な貴族となる。そうなれば教団も信者を使っての工作が出来なくなるし、オレガリオ王国の動きも抑えられる」

 そしてホールデンス王国は、俺達という戦力を確実に手に入れる事になる。

 自由を得ようとすれば、不自由に耐えねばならない・・・か。
 以前公爵様が『過ぎた力は、周りの者を狂わせる』と言っていたのを思いだしたが、確かにな。
 イザーク砦での戦闘は、過ぎた力を示しすぎたかも。

 「お主が領地経営の知識も経験も無いのは判っている。王家の直轄地なので代官がいるが、お主の補佐に有能な執事を付けてくれるだろう。気に入らねば代わりの者を世話するぞ」

 「受けても良いですが、気に入らなければ何時でも爵位と領地を放り出せる事が条件です。それで宜しければそちらの条件を教えて下さい」

 「ホールデンス王国の貴族として、国王陛下に忠誠を誓ってもらうが、お主の条件はそのままで良い。年に何度かは王城での式典や晩餐会に出席して、国王陛下の臣下で在る事を内外に示してもらう」

 俺の条件で良いって事は、表向きの忠誠で良いって事だな。

 * * * * * * *

 公爵様と共に王都に向かい、王城にてヒューヘン宰相と話し合った結果、公爵様の示された条件に一つ追加して申し出を受ける事にした。
 俺が行く所は王城内でも使役獣を連れて行ける事を要求して、それが受け入れられたので申し出を受ける事にした。

 領地はアルベール街道のカルガルとゼレコフの間にあるエイバンの町から、東に一日の距離にグレインという街が在るそうだ。
 周辺の町五つと村七つを含む、子爵領程度の広さで爵位は侯爵位となる。
 身分証が伯爵なのでそれで良いのではと言ったが、クラウディオ王国の侵攻を防いだ功績と、他の貴族からの侮りを受けない措置だと言われてしまった。
 王都屋敷は要らないと伝えると、王都内に屋敷を用意して少ない領地の代償として年に金貨6,000枚を支給するとの事。
 此の辺りは俺の性格を知る、ホールデンス公爵様と打ち合わせ済みらしい。

 困ったのは家名と紋章だが、タイガー種の紋章は幾つか有るので困っていると、公爵様がタイガーキャットの親子はどうかとの提案に飛びついた。
 炎の輪の中に左にアッシュ右にグレイが寄りそうデザインに満足。家名は街の名前を借用する事にした。
 ランディス・グレイン・・・グレイの名前に似ているが、ランディスが厩で一番ネズミ取りの上手い猫の名前を拝借したものだし、猫づくしで笑いそうになる。
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