神様のエラー・隠蔽魔法使いは気まぐれ

暇野無学

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045 神様の手先

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 魔力195の半分97.5を〈魔石を、祓いたまえ清めたまえ!〉と投入した。
 (鑑定!)〔ブラックベア魔石・魔力190〕
 
 野獣の魔石を浄化するのは、光の魔法か治癒魔法か知らないが、投入した魔力は野獣の魔力と対消滅し新たな物は生み出さない。
 然し、魔石の容器は残り新たな魔力(魔法)の入れ物となると考えられる。

 サランが淡い光の魔玉石に火魔法を入れ続けた結果、炎の様な真紅の煌めきを放つ魔玉石に成長した。
 あれはサランの魔力だけで1,200程注入している筈だ。
 此処に有るブラックベアの魔石は元々の魔力が推定783、サランが1,200魔力を込めたって事は単純に1.5倍詰め込んだ事になる。
 先に込められた魔力が幾らか判らないが、あれ以上魔力を込めなくて良かった。

 取り敢えず魔石の浄化が終わっても、元の魔力以上の魔法を詰め込むのは止めておく事にした。
 暇になったら、人の居ない場所で魔石の限界試験をする必要がある。

 ・・・・・・

 結局ブラックベアの魔石に、お清めの魔力を込め続けた結果、乳白色の中に金色が煌めく魔玉石が出来た。
 鑑定結果は〔ブラックベア魔石・魔力822〕と出た。
 サランが火魔法で作った魔玉石は、元の1.5倍以上魔法を込めたと思われるので、もう少しお清め魔法を詰め込んでも良いが安全第一を心がける。

 俺が〔お清め石〕と名付けた魔玉石を作っている間、サランは練習の為にハイオークの魔石を一つ浄化していた。
 元の魔力が判らなくなると困るので、浄化した魔石を綺麗な布で包み(ハイオーク・483)と記入して保管している。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 王都に到着すると先ずは食事の美味いホテル探しだ。
 冒険者の格好ではそれ程良いホテルに泊まるのは難しいが、中堅クラスのホテルを市場で買い出しをしながら聞いて回る。
 市場からも近いカールス通りのカールスホテルを教えて貰い、少し早めに部屋を確保する為にホテルに向かう。

 カールス通りにはホテルが三軒有るが、通り名以外の名前の付いたホテルが珍しく受付で訊ねてみた。
 通り名と同じ名前のホテルは、その通りに初めて出来たホテルが付けるものらしい。
 偶に通りの名が気に入らないとか、こだわりの名を付けたいホテルは使わないって、二番手三番手に建ったホテルは適当に付けているらしい。

 安易だけど判りやすいホテル名には賛成だ、そう言えば実家もサラザン通りに建つホテル兼食堂サラザンホテルだった。
 此の世界の事を殆ど判っていなかったので気にも留めてなかったな。
 カールスホテル、ツインの部屋は一泊銀貨一枚と確かに冒険者が近寄らないホテルで、俺達の姿を見た支配人が一瞬顔を顰めたくらいだ。

 五日分のホテル代とは別に金貨一枚を差し出し、二人で一回の食事に十人前近く注文するので宜しく頼むと告げる。
 それを言われた支配人は、何を言われたのか理解出来ずに俺とサランを交互に見ながら、置かれた金貨と見比べている。
 まあ良いさ、夕食時に俺の言った意味を理解させてやる。

 此の世界の面倒なところ、王侯でもなければホテルの部屋で食事をする場所が無いこと。
 拙い知識では、貴族専用のホテル自体有るのか疑わしいが、見るからにお高そうなホテルには馬車が横付けされていたりするので、無い事もなさそうだ。
 高位貴族の宿泊する様な場所には俺は泊まれない、泊まれても食堂付きの部屋には泊まれない。
 控えの間に食堂と居間に寝室付きのホテル自体が極端に少ない、そうなると食事は食堂で済ませる事になる。
 貴族が旅をするとき、各地の領主に挨拶し館に泊まるのはその辺りが関係しているかも知れない。

 ゴブリン子爵の一件以来、サランは食堂での食事で気を使うようになってしまった。
 食堂の片隅に腰を下ろし、サランを食堂に背を向け壁に向かって座らせる。
 俺は壁を背に食堂を見渡せる場所で、給仕係にあれこれ注文を付ける。

 ホテルに泊まる度にあれこれ注文を付けるのも面倒なので、短期の下宿が在るのか探してみても良いかもしれない。
 サランが食べる7~8人前の食事量をその人数で宿泊するものとして代金を支払えば気兼ねなく食べられるだろう。
 それにもう一つの問題からも解放される・・・かも知れない。

 ニコニコ顔で近づいて来る奴は信用するな、腹に一物手にナイフ・・・とは言わないが揉み手で声を掛けてくる。

 「王都にお越しとは存じませんでした」

 「神父様、何か御用でしょうか。と言うより、何故私達が此処に居るのを知っているのですか」

 「乗合馬車がプレーリードッグに襲われた時、助けに現れた貴方達二人の事を王都の教会本部で話したところ、教主様がぜひ貴方達にお会いしたいと申しまして」

 そう言って神父が一礼するが、俺の問いかけは完全無視か。
 創造神様に仕える、教会の呼び出しを断るはずがないと思っている様だ。

 「神父様見たとおり食事中ですし、お約束のない方と会う気も在りませんのでお引き取りを願います」

 神父様は、教主と言って断られるとは微塵も思っていなかった様で、吃驚している。

 「いっ、今なんと言われました?」

 「食事中と言ったんですよ、神父様。創造神ウルブァ様の呼び出しならいざ知らず、名も知らぬ教主様が呼んでいると言われてもねぇ」

 「アラドとやら、ウルブァ様に背くつもりなのか!」

 「いやいや、呼び出しているのは教主様なんだろう? ウルブァ様の名前を出すんじゃねえよ。何故俺の名を知っているのに、最初に呼ばなかったんだ。胡散臭い事この上なしだぞ。お前は本当に神父なのか?」

 おちょくられている事に気づいた様で、顔を真っ赤にして震えている。
 もう一押ししておく事にした。

 「お布施が欲しいのなら、喜捨を求める場所が違いますよ。人通りの多い所や市場にでもお行きなさい」

 神父様はぶち切れる寸前で、プルプル震えて声も出ないようだ。
 ホテルの食堂が静まりかえっている。
 そりゃそうだ、教会を相手におちょくっているんだからな。

 「俺も忙しい身でしてね、訳も判らない呼び出しには応じられませんと教主様にお伝え下さい」

 それだけ伝えて食事に戻ったが、神父様は怒りに震える余り、よろよろとよろめきながら帰って行った。
 貴族が相手にでもそれだけ高飛車に出るのなら、俺も対応を考えるが冒険者相手だと思って舐めすぎだよ。
 教会が何やら画策していると聞いていたが、大して策を練っている風でも無いな。

 いざとなったら教会本部に乗り込んで、教主だろうが教皇だろうが首を刎ねてやるよ。
 次の食事から飲み食いする物全てを、鑑定してから口にした方が良さそうだ。
 サランには鑑定魔法を掛けられた時の対処方法も教えておかなくっちゃね。

 然し、教会の力を甘く見ていた様で、食糧買い出しに市場巡りをしているとそこ此処から視線を感じる。
 敵意ってよりも侮蔑や忌避、買い物をしても用が終わればそそくさと離れていって愛想の欠片もない。

 神父様の訪問を受けてから四日目の朝、朝食を楽しんでいるときに騎士の一団がホテルに乗り込んで来た。
 派手な刺繍を施したベストにゆったりしたパンツ、磨き上げられた長靴と押し出しの強そうな出で立ちだが、貴族に仕える騎士には見えない。

 「アラドとはお前か?」

 「人が食事中なのが判らないのか、上から唾を飛ばすんじゃない。用事が有るのなら、食事が終わるまで離れて待っていろ」

 「ロフスク大教主様がお呼びだ! 黙って教会本部までついて来い!」

 頭上から唾を飛ばして喚かれて、食欲が失せた。
 立ち上がって自分にクリーンを掛けて綺麗にし、序でに喚いて口の端に唾を貯めている男にもクリーンを掛けてやる。
 此奴も気が短いようで、こめかみがピクピクしているが俺を連れて行くのが仕事なのは忘れていないようだ。

 「出迎えご苦労。で、迎えの馬車は何処だ」

 横柄な態度で応対してやると、今にも剣を抜きそうな顔になるが何とか耐えている。
 教会本部に着いたら心置きなく剣を抜かせてやるよ。

 仕返しのように横柄な態度で〈乗れ!〉と顎で示された馬車は、外観とは裏腹に頑丈な造りで内部から扉が開けられない仕組みになっている。
 金の卵か金蔓か知らないが、逃がす気はなさそうだ。

 ・・・・・・

 広大な教会本部の奥深く・・・と言っても、馬車に乗せられたまま連れ込まれたので何処に居るのか良く判らないが、そんな感じだ。
 大神殿にでも案内されるのかと期待した俺は間抜けでした。
 金蔓にお祈りさせるより、治療させて金貨を稼がせる方が利用価値が在るのがよく判ってらっしゃる。

 ずらりと並ぶ個室にそれぞれ病人が横たわっているが、それなりに裕福な者と一目で判る。
 貧しそうな者が見当たらないので、神様の御利益も地獄の沙汰と同じなんだろうな。

 「お前の治癒魔法を見せてみろ!」

 吠えるように命令する男は、迎えに来たときの自制心は投げ捨てたようだ。
 何処まで図に乗るのか試してみる事にし、サランに治療してやれと言う。
 俺も各病室を巡りながら、(ヒール!)の一言を唱え、部屋を去り際に別れの言葉を残して行く。

 「俺は教会の者ではないので、治療費は要らないよ♪」

 サランも俺を見習って(ヒール!)の後に同じ事を病人だった者達に伝えている。

 「私は教会の人ではなく冒険者なので、治療費は要りませんよー♪」

 〈ちょっ、黙れ! 余計な事を喋るな!〉

 俺達を迎えに来た騎士達は、俺達が逃げ出さない様に見張る筈が、俺やサランの言葉を訂正するのに忙しい。
 黙らせようと肩を掴んで来たり治療の邪魔をする奴には、模擬戦用の木剣で叩き伏せる。
 腕を折り向こう脛を叩いて身動き出来なくするので、騎士も病人の世話をする教会関係者達も邪魔をするのを止めた。
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