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071 二人の魔法使い
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魔法が上達すると冒険者の性が疼きだした様で、実戦練習を要求してきた。
然も周囲は荒れ地とは言え野獣の住まう地である。
野獣の居そうな場所を求めてキャンプ地を移動することにした。
未だ教会にも用が有るのでそう遠くへは行けない、ガルムとアリシアの探索スキルで街道沿いの野獣を探しながら馬車で移動する。
俺もパッシブ探査を行うが、探査結果は教えずに二人の競争を見物している。
「右手前方にホーンボアだと思うんだけど」
「ああ、間違いなかろう。2頭で良いか」
「私も2頭だと思うわ」
馬車を止めて静かに降りるとアリシアが先頭でメリンダが後に続く、その後ろを亭主二人が護衛に付く。
俺達三人は馬車の中で見物だ。
暫くすると〈バリバリドーン〉と真昼の雷鳴が響き渡る。
2頭とも仕留めたようで、パッシブ探索に乱れは無く四人が一塊になって帰って来る。
「いやー、魔法使いが二人も居ると楽だわ。そこそこのホーンボアが一撃だぜ」
「今まで苦労して狩っていたのが嘘みたいだよ」
マジックバッグから取り出したホーンボアは、体長2.5メートル程の奴でお肉がたっぷり付いてそう。
「ちょっと焦げてるのが惜しいねぇ」
「良いのいいの、もっと馴れたら高値で売れるように角を狙って撃つから」
ホーンボアで気を良くした二人の要望で、王都の周囲を一回りして帰る事になった。
その後はゴブリンやホーンラビット等小物ばかりで陽が暮れた。
その夜馬車と馬を収容しているバリアに近づいて来る気配を感じたが、俺達のバリアには気付いていない様だ。
「ガルム,アリシア,ボルヘン気を抜きすぎだよ」
俺に声を掛けられてハッとする三人、今回は討伐の為に野営をしているのを忘れている。
俺のバリアに、全幅の信頼を寄せてくれるのは嬉しいが冒険者失格だぞ。
声を掛けられて何の事か判らなかった様だが、野獣討伐の為に夜営中なのを思い出して周辺の気配を探る。
ガルムが額をピシャリと叩き〈アチャー〉って言っている。
向かい合うアリシアとバンズが渋い顔になっている。
「王都暮らしが長くなって、焼きが回ったかな」
「アキュラのバリアだと安心しちゃうからねぇ」
「どうする」
「夜の討伐なんて御免よ」
「ぞっとしねえな」
「俺もお断りだぜ」
「安心したよ。魔法が使えるようになって、戦力アップしたから狩るって言わなくて」
「其処迄は自惚れて無いわよ」
「何がいるの?」
「グレイウルフの群れが14~15頭居るわ、馬の匂いを追ってきた様ね」 「アキュラお願い、バリアからチクッと刺す奴で追っ払ってよ」
へいへいと思ったが、雷撃の新しい使い方を教える事にした。
「此奴等はアリシアに遣って貰うよ。雷撃の新しい使い方ね」
パッとアリシアの顔が輝くが、ちぃーとばかり面倒だぞ。
バリアを透明に戻して、グレイウルフから俺達が見える様にする。
馬の匂いが不透明なバリアに遮られて途切れ、困惑していたグレイウルフの群れがライトの明かりに浮かぶ俺達に気付いた。
「皆、ウルフの群れを揶揄って逃げない様にしていてね。アリシアは俺と新しい魔法の練習だよ」
先ず始めに掌の上に小さな球雷を作る練習からだが、親指の爪ほどの球雷を作るように要求する。
「そんなに小さな雷撃なんてどうするのよ」
「大は小を兼ねないけど、小は大を倒せるのさ。此れを覚えたらゴブリンから対人戦、ホーンラビットから大はドラゴンでも倒せるぞ」
「遣る! 教えて!」
「現金だねぇ~。まっ、やる気になるのは良いことだよ」
掌の上30センチの所に、親指大の球雷を作る練習をさせる。
拳大の球雷を作り馴れてはいるが、同じ魔力量を使っては親指大の球雷は作れない。
アリシアやメリンダにも魔力のコントロール迄教える気は無い。
ここはアリシア自ら魔力をコントロールして、必要な物を作れる様にならなければならない。
アリシアの魔法訓練の卒業試験でも有るのだから頑張れ~♪
結局その日は出来ず、翌日から昼間は索敵と討伐をこなし、夕食後に小さな球雷作りに励むが全然駄目。
四日目の昼過ぎ俺のアクティブ探査に引っ掛かったが、ガルムとアリシアには遠すぎて判らない様だ。
俺にも遠すぎてはっきりしないが、魚が水面にジャンプすれば素人でも探知出来る。
それと同じで、多数の人と獣の闘争の気配が入り交じっていれば探知出来るし、方角も判る。
「あー・・・皆に聞きたいのだが、前方左手の方角で戦闘が行われているんだが」
「何よ、思わせぶりね。あんたらしくないからはっきり言いなさい」
「多分貴族がやっている、秋の野獣討伐だと思うんだが人間側の分が悪そうなんだ。助けるべきかな」
「あんたの探索の広さは知っているけど、はっきりと判らないの」
「遠すぎるんだよ、闘争の気配と言えばいいのかな。誰かが水面に石を投げたり魚が撥ねたら、探知外の遠くでも判るだろう。今判るのは人々の悲壮感と、獣の荒ぶる気配だけだよ」
「知ってしまった以上無視するのは後味が悪そうだし、魔法が使える今なら助けに行っても良いわね」
「母ちゃんがああ言っているから、亭主としては従うよ」
「そうだな、女房に逆らったら後が恐いからな」
「では急ぎますか、アキュラ方向は?」
「この道をまっすぐ行って、左手に注意していて」
馬に鞭を入れ早駆けで5分以上進んだとき、アリシアが「左斜め前の森の方角」と言った。
流石にこの距離になるとガルムもアリシアも闘争の気配が判るようだ。
一番近いと思われる場所で馬車を降り、馬と馬車を結界で囲って放置し草原に踏み込む。
全員にシールドを張ったので怪我はしないが、殴られたり切られたら吹き飛ばされると注意しておく。
見知らぬ草原を歩くのはガルム達が早く、俺は後をついて行くだけ。
探査スキルを使わなくても獣の気配をビンビンに感じるが、ガルムが「オーク・・・多分ハイオークが4~5頭だと思うがバッファローの気配も有るぞ」と後ろの仲間達に伝える。
丈の高い草むらを抜けた先は地獄絵図、死屍累々とは此れかと思わせる光景が広がっていた。
俺が探知してから10分以上経っている、バッファローは傷だらけで地に伏せ、ハイオークも少しだが傷ついている。
騎士や冒険者達は無傷の者が見当たらない程に痛めつけられていて、ハイオーク相手に諦めの表情が浮かんでいる。
それでも諦めることは死に繋がるので、力を振り絞って闘っている。
オークキングより一回り小さいとは言え、体格の良い狼人族の冒険者と比べても大人と子供くらいの差が有る。
乱戦での魔法攻撃は二人とも初めてだろうが、少し距離を取り動きの止まっているハイオークを狙って詠唱を始めた。
〈バリバリドーン〉加勢の有無も聞かずにいきなり雷撃でハイオークを攻撃するアリシア。
少し離れた場所から、アイスランスを撃ち込むメリンダ。
二頭が倒れたことで形勢は逆転し、残存の騎士や冒険者が息を吹き返し攻撃を強化する。
然し大人と子供の体格差とは言え、ハイオークの周囲に群がられては魔法攻撃が出来ない。
闘っている者達に、魔法攻撃をするので合図をしたら伏せろとランカンに怒鳴らせる。
〈誰か知らねえが、助かる〉
〈おお、仲間の仇を取ってくれ〉
これで安心して魔法を撃てると判り、アリシアとメリンダが共に詠唱を始める。
詠唱の終わりと共に〈伏せろ!〉とランカンが怒鳴ると、闘っていた者達がその場にしゃがみ込む。
ほぼ同時に〈バリバリドーン〉と雷撃音が響き渡り、隣では音も無く飛んで来たアイスランスに射ち抜かれたハイオークが転倒する。
残った一頭が背を向け逃げようとするが傷を負っていて動きが鈍い、数歩も歩かないうちに背後から飛んできたアイスランスに胸を射ち抜かれて倒れ、戦闘は終わった。
二人とも自信を持って魔法を使っていて、あっという間に五頭のハイオークを討ち取ってしまった。
死屍累々とは言え未だ息の有る者も多数見受けられ、放置すれば夕暮れまでに半数は確実に死亡するだろう。
この惨状を見捨てる訳にもいかないので、手近な者から治癒魔法を使って治療していくが数が多い。
《“こがね”手伝ってくれるかな》
《ん、良いよう~》
遠くの者は“こがね”に任せ、踏み荒らされた戦闘の跡地に踏み込む。
何か既視感があると思ったら、十数人を治療したところで既視感の原因が判った。
騎士達は血と汗と泥で汚れていて判らなかったが、ザブランド侯爵が倒れていた。
腕が折れ叩き付けられたのか、泥にまみれ血を吐いて気絶している。
怪我は治ったが辺りの惨状を見て呆然とする騎士や冒険者達、彼等の目が一点に集中する。
視線の先には怪我をした者達の頭上を舞うように飛び、治癒魔法の光を降り注ぐ“こがね”の姿がある。
《皆治したよ~》
俺の方に飛んできながらそう告げると姿を消す。
「大丈夫ですか、ザブランド侯爵様」
「貴方達が何故此処に? と言うか貴方達に助けられた様ですね」
「バッファロー討伐に気を取られすぎましたね」
「お恥ずかしい限りで・・・判るのですか?」
「この状況を見ればね。冒険者を中心にバッファロー四頭をほぼ討伐出来たと気の緩んだところへ、背後からハイオークに襲われたってところかな」
「侯爵様お話し中、失礼します。アキュラ、冒険者六名と騎士の方も九名死亡だな。治療した奴等も、まともに動けるのは1/3ってところだな」
「このまま引き上げるにしても、怪我のせいで体力が落ちているので全員で引き上げるのは無理よ」
「死んだ冒険者達は此処に埋めるそうよ。騎士の方は・・・」
「彼等は連れ帰って、家族に引き渡します」
「今日片付けをして王都に帰るのは無理だな。亡くなった冒険者達を埋めて今夜は此処で野営だな」
並べられた遺体から遺品を一纏めにし、埋葬の準備をしている冒険者達の所に行く。
然も周囲は荒れ地とは言え野獣の住まう地である。
野獣の居そうな場所を求めてキャンプ地を移動することにした。
未だ教会にも用が有るのでそう遠くへは行けない、ガルムとアリシアの探索スキルで街道沿いの野獣を探しながら馬車で移動する。
俺もパッシブ探査を行うが、探査結果は教えずに二人の競争を見物している。
「右手前方にホーンボアだと思うんだけど」
「ああ、間違いなかろう。2頭で良いか」
「私も2頭だと思うわ」
馬車を止めて静かに降りるとアリシアが先頭でメリンダが後に続く、その後ろを亭主二人が護衛に付く。
俺達三人は馬車の中で見物だ。
暫くすると〈バリバリドーン〉と真昼の雷鳴が響き渡る。
2頭とも仕留めたようで、パッシブ探索に乱れは無く四人が一塊になって帰って来る。
「いやー、魔法使いが二人も居ると楽だわ。そこそこのホーンボアが一撃だぜ」
「今まで苦労して狩っていたのが嘘みたいだよ」
マジックバッグから取り出したホーンボアは、体長2.5メートル程の奴でお肉がたっぷり付いてそう。
「ちょっと焦げてるのが惜しいねぇ」
「良いのいいの、もっと馴れたら高値で売れるように角を狙って撃つから」
ホーンボアで気を良くした二人の要望で、王都の周囲を一回りして帰る事になった。
その後はゴブリンやホーンラビット等小物ばかりで陽が暮れた。
その夜馬車と馬を収容しているバリアに近づいて来る気配を感じたが、俺達のバリアには気付いていない様だ。
「ガルム,アリシア,ボルヘン気を抜きすぎだよ」
俺に声を掛けられてハッとする三人、今回は討伐の為に野営をしているのを忘れている。
俺のバリアに、全幅の信頼を寄せてくれるのは嬉しいが冒険者失格だぞ。
声を掛けられて何の事か判らなかった様だが、野獣討伐の為に夜営中なのを思い出して周辺の気配を探る。
ガルムが額をピシャリと叩き〈アチャー〉って言っている。
向かい合うアリシアとバンズが渋い顔になっている。
「王都暮らしが長くなって、焼きが回ったかな」
「アキュラのバリアだと安心しちゃうからねぇ」
「どうする」
「夜の討伐なんて御免よ」
「ぞっとしねえな」
「俺もお断りだぜ」
「安心したよ。魔法が使えるようになって、戦力アップしたから狩るって言わなくて」
「其処迄は自惚れて無いわよ」
「何がいるの?」
「グレイウルフの群れが14~15頭居るわ、馬の匂いを追ってきた様ね」 「アキュラお願い、バリアからチクッと刺す奴で追っ払ってよ」
へいへいと思ったが、雷撃の新しい使い方を教える事にした。
「此奴等はアリシアに遣って貰うよ。雷撃の新しい使い方ね」
パッとアリシアの顔が輝くが、ちぃーとばかり面倒だぞ。
バリアを透明に戻して、グレイウルフから俺達が見える様にする。
馬の匂いが不透明なバリアに遮られて途切れ、困惑していたグレイウルフの群れがライトの明かりに浮かぶ俺達に気付いた。
「皆、ウルフの群れを揶揄って逃げない様にしていてね。アリシアは俺と新しい魔法の練習だよ」
先ず始めに掌の上に小さな球雷を作る練習からだが、親指の爪ほどの球雷を作るように要求する。
「そんなに小さな雷撃なんてどうするのよ」
「大は小を兼ねないけど、小は大を倒せるのさ。此れを覚えたらゴブリンから対人戦、ホーンラビットから大はドラゴンでも倒せるぞ」
「遣る! 教えて!」
「現金だねぇ~。まっ、やる気になるのは良いことだよ」
掌の上30センチの所に、親指大の球雷を作る練習をさせる。
拳大の球雷を作り馴れてはいるが、同じ魔力量を使っては親指大の球雷は作れない。
アリシアやメリンダにも魔力のコントロール迄教える気は無い。
ここはアリシア自ら魔力をコントロールして、必要な物を作れる様にならなければならない。
アリシアの魔法訓練の卒業試験でも有るのだから頑張れ~♪
結局その日は出来ず、翌日から昼間は索敵と討伐をこなし、夕食後に小さな球雷作りに励むが全然駄目。
四日目の昼過ぎ俺のアクティブ探査に引っ掛かったが、ガルムとアリシアには遠すぎて判らない様だ。
俺にも遠すぎてはっきりしないが、魚が水面にジャンプすれば素人でも探知出来る。
それと同じで、多数の人と獣の闘争の気配が入り交じっていれば探知出来るし、方角も判る。
「あー・・・皆に聞きたいのだが、前方左手の方角で戦闘が行われているんだが」
「何よ、思わせぶりね。あんたらしくないからはっきり言いなさい」
「多分貴族がやっている、秋の野獣討伐だと思うんだが人間側の分が悪そうなんだ。助けるべきかな」
「あんたの探索の広さは知っているけど、はっきりと判らないの」
「遠すぎるんだよ、闘争の気配と言えばいいのかな。誰かが水面に石を投げたり魚が撥ねたら、探知外の遠くでも判るだろう。今判るのは人々の悲壮感と、獣の荒ぶる気配だけだよ」
「知ってしまった以上無視するのは後味が悪そうだし、魔法が使える今なら助けに行っても良いわね」
「母ちゃんがああ言っているから、亭主としては従うよ」
「そうだな、女房に逆らったら後が恐いからな」
「では急ぎますか、アキュラ方向は?」
「この道をまっすぐ行って、左手に注意していて」
馬に鞭を入れ早駆けで5分以上進んだとき、アリシアが「左斜め前の森の方角」と言った。
流石にこの距離になるとガルムもアリシアも闘争の気配が判るようだ。
一番近いと思われる場所で馬車を降り、馬と馬車を結界で囲って放置し草原に踏み込む。
全員にシールドを張ったので怪我はしないが、殴られたり切られたら吹き飛ばされると注意しておく。
見知らぬ草原を歩くのはガルム達が早く、俺は後をついて行くだけ。
探査スキルを使わなくても獣の気配をビンビンに感じるが、ガルムが「オーク・・・多分ハイオークが4~5頭だと思うがバッファローの気配も有るぞ」と後ろの仲間達に伝える。
丈の高い草むらを抜けた先は地獄絵図、死屍累々とは此れかと思わせる光景が広がっていた。
俺が探知してから10分以上経っている、バッファローは傷だらけで地に伏せ、ハイオークも少しだが傷ついている。
騎士や冒険者達は無傷の者が見当たらない程に痛めつけられていて、ハイオーク相手に諦めの表情が浮かんでいる。
それでも諦めることは死に繋がるので、力を振り絞って闘っている。
オークキングより一回り小さいとは言え、体格の良い狼人族の冒険者と比べても大人と子供くらいの差が有る。
乱戦での魔法攻撃は二人とも初めてだろうが、少し距離を取り動きの止まっているハイオークを狙って詠唱を始めた。
〈バリバリドーン〉加勢の有無も聞かずにいきなり雷撃でハイオークを攻撃するアリシア。
少し離れた場所から、アイスランスを撃ち込むメリンダ。
二頭が倒れたことで形勢は逆転し、残存の騎士や冒険者が息を吹き返し攻撃を強化する。
然し大人と子供の体格差とは言え、ハイオークの周囲に群がられては魔法攻撃が出来ない。
闘っている者達に、魔法攻撃をするので合図をしたら伏せろとランカンに怒鳴らせる。
〈誰か知らねえが、助かる〉
〈おお、仲間の仇を取ってくれ〉
これで安心して魔法を撃てると判り、アリシアとメリンダが共に詠唱を始める。
詠唱の終わりと共に〈伏せろ!〉とランカンが怒鳴ると、闘っていた者達がその場にしゃがみ込む。
ほぼ同時に〈バリバリドーン〉と雷撃音が響き渡り、隣では音も無く飛んで来たアイスランスに射ち抜かれたハイオークが転倒する。
残った一頭が背を向け逃げようとするが傷を負っていて動きが鈍い、数歩も歩かないうちに背後から飛んできたアイスランスに胸を射ち抜かれて倒れ、戦闘は終わった。
二人とも自信を持って魔法を使っていて、あっという間に五頭のハイオークを討ち取ってしまった。
死屍累々とは言え未だ息の有る者も多数見受けられ、放置すれば夕暮れまでに半数は確実に死亡するだろう。
この惨状を見捨てる訳にもいかないので、手近な者から治癒魔法を使って治療していくが数が多い。
《“こがね”手伝ってくれるかな》
《ん、良いよう~》
遠くの者は“こがね”に任せ、踏み荒らされた戦闘の跡地に踏み込む。
何か既視感があると思ったら、十数人を治療したところで既視感の原因が判った。
騎士達は血と汗と泥で汚れていて判らなかったが、ザブランド侯爵が倒れていた。
腕が折れ叩き付けられたのか、泥にまみれ血を吐いて気絶している。
怪我は治ったが辺りの惨状を見て呆然とする騎士や冒険者達、彼等の目が一点に集中する。
視線の先には怪我をした者達の頭上を舞うように飛び、治癒魔法の光を降り注ぐ“こがね”の姿がある。
《皆治したよ~》
俺の方に飛んできながらそう告げると姿を消す。
「大丈夫ですか、ザブランド侯爵様」
「貴方達が何故此処に? と言うか貴方達に助けられた様ですね」
「バッファロー討伐に気を取られすぎましたね」
「お恥ずかしい限りで・・・判るのですか?」
「この状況を見ればね。冒険者を中心にバッファロー四頭をほぼ討伐出来たと気の緩んだところへ、背後からハイオークに襲われたってところかな」
「侯爵様お話し中、失礼します。アキュラ、冒険者六名と騎士の方も九名死亡だな。治療した奴等も、まともに動けるのは1/3ってところだな」
「このまま引き上げるにしても、怪我のせいで体力が落ちているので全員で引き上げるのは無理よ」
「死んだ冒険者達は此処に埋めるそうよ。騎士の方は・・・」
「彼等は連れ帰って、家族に引き渡します」
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