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一章 降って湧いた災難
Marie はマリアになった。1
しおりを挟む今日もまた、いつもの夢を見た。
私の最愛の番の夢だ。
最後に見たあいつは私の大好きな天の色でなく、泣いた…朱い鬼だった。
歯を磨き洗顔し鏡を覗く。
一瞬、銀髪に銀目の現実離れした非常に美しい男が映る。
…それは幻ですぐに消え、少し泣き腫らした紫の目に金髪のくたびれた女が映った。
フランスの貴族の流れを汲む家に生まれた、医者で遺伝子工学の研究をしている女、Marie だ。
女性らしい曲線や、持て囃されるような容貌に恵まれてはいるが、恋人や伴侶などを求める気はさらさら無い、つまらない女。
あの頃とは本当に違う。
…そろそろ、子どもたちも起きてくる。
急ぎ、支度をしてキッチンへと向かう。
◇◇◇
子どもたちのランチを作りながら彼らに声をかける。
「お前たち、私は今日はパーティーで帰りが遅い。
シッターの言うことを聞いて、遅くなれば先に寝ていなさい」
息子たちにそう伝える。
その間にも私は彼らの好きなサンドイッチを作る。
パンを少し厚めにスライスして、トーストしてからピーナッツバターとジャムを塗り挟む。
私の得意料理だ。
息子たちも気に入っている。
朝食を食べキッチンへ片付けに来た子どもたちは、口々に私に注意をする。
「お袋、飲み過ぎはダメだかんな!」
「体にも美容にも悪いよ」
生意気な事を言う私の大切な子どもたち。
彼らはとても仲が良く、何をするのも一緒にしたがる。
まるで『あちら』での番になった者たちの様に片割れの世話を焼き、片割れから世話されることを享受する。
「うるさいですよ、母をなんと思っているのです!そろそろ時間ですから早く支度をして出なさい」
「あ、マジだ!ヤベぇ」「うぇ、待ってよランディ!」
今度は逆に注意された彼らは慌てて支度をしてから、私のもとに来た。
「はい、これはお昼ごはんです。ちゃんと好き嫌いをせずに食べなさい」
軽くビズをしてから、ジップバッグに入れたランチのサンドイッチを渡してやるが、息子の反応が悪い。
「…またPB&J?仕方ねーか。
お袋はこれくらいしかまともなのは出来ない、めっちゃ酷いメシマズだからな…」
息子は日頃から私のことを味オンチだのメシマズだのと文句を言う。
「僕は好きだよマリーさんのコレ。ランディが要らないなら僕が貰う」
「いやいやコリン、なんでお前は俺のもんばっか食うんだ?
俺が言いたいのはお袋はなに作らせてもありえねー味しかしなくて、メシも当番…
てか俺が作らねーとヤバいだろ?」
あんまりにもうるさいので「そんなに言うなら作ってみなさい」なんて言えば、息子はそれを趣味にしてしまった。
しかもなかなか美味しいらしい。
「そう?よくわかんないや。
でも、僕ラズベリージャムは嫌い!他のが良かった」
だが、コリンも私と似たような味音痴らしく息子はそれを嘆いている。
私も彼も甘党で甘味に関してはマシなので、息子はお菓子づくりも趣味にしてしまった。
「お袋もお前も好き嫌いが多すぎだ!
なんでうちにはまともなやつが俺しかいねーんだ?」
失礼なことを言う息子と偏食の多い子にお説教をしたいが、時間も押している。
「二人とも遅刻したくないのなら急ぎなさい!」
学校に遅れるのでそれを告げた。
「「行ってきます!」」
「車に気をつけなさい」
この子たちは本当に仲が良すぎて不安になるくらいだ。
コリンを引き取ったのも、息子と彼を引き離すと互いに嫌がり、暴れたからだ。
魂が惹きあうのだろうか?
近いうちに何か大きなやらかしをしそうで不安になる。
私の予感は当たる。
だから怖い。
まるで双子のように仲の良い彼らを見送り、自分も出かける支度をすると、慌ただしい朝はあっという間に過ぎていく。
化粧などは最低限、服装についてもあまり好みは無い。
だが、庭白百合のパルファムだけは着ける。
Lily の薫りを身に纏い、ここに居ることをあいつに知らせる。
──届く筈のないものだが、僕の身も心も全てはずっとあいつの物だから。
こんな風に前の生を引きずる私はおかしいのか?
今、この生は自分にとってはとても苦痛で仕方がない。
子どもたちはとても可愛い。
だが、私の…僕の魂が悲鳴をあげる。
ここは自分の居場所ではないと。
在るべき場所ではないと。
そう、悲鳴をあげる。
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