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二章 あいつの存在が災厄
大好きだ朱。 壱
しおりを挟むさて、鬼の愛である【名】を夫に贈った百合だが、実はエルフにも愛の贈り物の習慣がある。
生まれてくる子どもの為に作っていたお護りなんかがそうだ。
今でまで語ってきたが、鬼とエルフという種族は当時はとても仲が悪かった。
はっきり言って酷い人種差別があった。
《まぁ…話を聞いていてなんとなくそんな気はしていた》
《なんでそんなふうになったんだ?昔は仲良かったんだろ?》
簡単に説明するのは難しいが、この話をずっと聞いていたらわかるよ。
ただ、この頃は百合の母親の死にまつわる事もあり、互いに嫌い合っていたんだ。
だから鬼の国、それも王族として生きるのは、エルフのお姫様育ちの百合にとっては大変なことだった。
《よくそれで結婚の申し込みがあったな…》
《昔の話ではそんな政略結婚はよく聞くわね》
アルファやオメガというのは、やっぱり鬼とエルフが一番多かったんだ。
鬼の中で『運命』の番を求め、世界中を探し回っても見つからない者たちにとっては、最後の望みがエルフだった。
彼らの中で見つかるかもしれないから、彼らとの関係の修復をしたいという声もあがってきていた。
それに義母が夫の未来を少しだけ視ていたこともある。
それで鬼の中で微妙な立場にいた、エルフの女王の弟の百合に声がかかったみたいだ。
詳しいことはぼかされたがそんなところだろう。
《あー、言ってる『俺だけのお姫様』か》
《それにしても運命の相手を探し求める為にそこまでするもんか?》
鬼の寿命は長いからね。
どれほどの時間をかけてでも、それを狂おしく求めてしまうんだよ。
彼らは好色で野蛮だけど、ロマンチックな種族でもある。
エルフのほうは結構なリアリストだね、姉はちょっと違ったが。
《まだまだリリィはお怒りみたいだな…》
《まぁ…なかなか忘れられないこともあるんだろう》
《エルフがそんなんだとは…残念だ》
百合は『半耳長』と呼ばれるくらいにその特徴が強く出ていたが、そんな百合の全てを夫は愛した。
鬼の愛し方は知らない百合だが、エルフとしての愛し方は知っていた。
フレイヤからのアドバイスで、百合は夫と話し合い夫婦としての愛を育むようになる。
彼女から教えられたエルフの愛のお護りが役に立った。
◇◇◇
泣き止んだかと思ったら、朱天は慾の籠もった目で僕を見て「行くぞ」と小脇に抱えられ、ベッドルームに戻ることになった。
朱天はホントにデタラメなやつで、ベッドルームへのドアを開けた瞬間に、リビングだけでなくベッドルームなどを含む、僕の部屋をまるごと纏めて自分の【域】に取り込んだ。
ふたりで使うことを想定された大きなベッドに、僕をゆっくりとおろした。
出来れば運び方の方も気を使って、小脇に抱えたり肩に担ぐなんてものではなく、他のものにして欲しいと思うが、いつまで経ってもこれは変わらない。
(お姫様抱っことかあるだろ?なんで知らないんだ?)
僕を抱きしめ、また情熱的に愛の言葉を紡ぐ。
「紫。俺の最愛、美しい白い百合…お前にもらった【名】を俺は大切にする」
ギュッと抱きついてその胸の中にいると、朱天の【華】から薫る匂いに僕はもうダメになりそうだ。
僕以外にはもう感じ取れない、なんとも言えない刺激的で官能的で甘い匂い…それにクラクラする。
こいつはαでもあるけどΩでもある。
だから誰もが好ましく思う。そんな匂いがするんだろう。
朱点は丁寧に贈物を開封するように、僕の着ているものを脱がせていき、自分の着ているものも適当に脱いで床に投げ捨てた。
日々の務めで山野を駆け巡り、『末端』や『ろくでもないもの』を始末するのに走り回る体は、日に焼け逞しい。
朱天の体はどうしたらそんなふうになるのかが不思議なくらいに、綺麗な筋肉がついている。
僕もそんな風になりたいけれど、Ωだし耳長寄りだから無理だろう。
僕を見る朱天の眼差しは柔らかく愛情に満ちている。
まだにこにこしていて、本当に機嫌が良い。
(本当に『天』の名を気に入ってるみたいだ)
───誰かに贈り物をするなんて初めてだった。
僕は傅かれる生活に慣れすぎていて、それが当たり前だと思っていた。
朱天が僕の為に用意してくれた、色々なものに対してまだ感謝の言葉も言っていない。
与えてくれた愛の言葉に対しても、僕はまだ一度もちゃんとした返事すら返したことがない。
素直になれない僕はいつもこいつから貰ってばかりだ。
それで好きだとか、愛してるとかを言えというのはずるいと分かっている。
姉からよく話し合いなさいと言われたのに、結局僕らはまた体を貪り合う行為をしようとしている。
(これじゃあいけないのに)
姉にも言われた。
よく話し合えと、伴侶と分かりあえと。
朱天だって言ってくれた。
だから…勇気を出して言ってみる。
まずはしてくれたことへの感謝を…
「朱、僕の為に色々と贈り物をしてくれてありがとう」
「そのような事…構わぬ」
「お菓子も、元耳長のみんなも、僕の部屋も全部がすっごく嬉しかった」
「嫁の為にそれを用意するのは夫のつとめだ。
だが、お前が気に入っているのならば俺も嬉しい」
次にこいつへの愛を返したい。
「なぁ、一度しか…恥ずかしいから一度しか言わないけど」
滅多にしないことになりそうなので前置きする。
「大好きだ朱」
この時点で既にとても恥ずかしくてこいつの顔を見れなくなる。
でも、最後まで伝えなければ。
今、この時を逃したらきっと言えなくなる。
気持ちを奮い立たせるが恥ずかしくて俯いてしまいそうだ。
これはこれだけはちゃんとこいつの顔を、目を見て伝えたい。
突然の僕の告白に驚いている朱天をさらに驚かせるであろう事をゆっくりと告げる。
「お前のそのド派手な朱い髪も。
皇の証の金色の二本の角も。
色違いの綺麗な金と銀の眼も。
綺麗な筋肉がついているその大きな体も…
奇跡みたいに美しい【青薔薇】も。
それから薫る薔薇の匂いも。
とんでもなく整いすぎた顔も。
低すぎず高すぎない声も。
吃驚するぐらい真っ直ぐな心も…
それから…お前のでっかい、ちんちんも……好き」
顔が熱くなり、震えて小さな声しか出ない。
でも、最後まで伝えなくてはいけない。
「僕はみんなみんな纏めて、お前が大好きだから」
それに教えてくれたお前の魂も、その優しい朱にも惹かれている。
でも、これは僕だけの秘密だ。
これまで知られたら僕は羞恥で死ねるかもしれないから。
なんにしてもとても恥ずかしい告白を一気に告げた。
(あー…本当に恥ずかしい)
耐えきれなくなった僕は目を瞑り、俯く。
そんな僕にこいつは先程から何度もくれている愛を返す。
「紫、俺のお姫様…俺は絶対にお前しか愛さぬ。
この愛はお前だけのものだ。
俺とずっと仲良く暮らして欲しい。
そして俺の子を沢山産んでくれ。それで皆でずっと仲良く暮らしていきたい」
いつもの様に優しい抑揚で語り、朱点はまた僕を抱きしめる。
そしていつもみたいに優しく頭を撫でてきた。
僕はすっかりこれが大好きになってしまった。
「………うん」
これが愛というものなのか僕にはまだよくわからない。
でも、こいつと一緒にいたい。
「俺のお姫様…お前を可愛がりたい」
そう言いながら朱天は僕をそっと押し倒した。
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