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二章 あいつの存在が災厄

守り、愛していくから。 伍

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 黒を産んでから、一月程経った。

 年も明けて年初の儀式、元旦の【名付けの儀】もなんとかこなしました!
 (僕何も問題を起こしてないよ!僕ね…)

 それから医師茨木からの許可が出たので…
 あいつのでっかいやつで可愛がってもらえる様になりました!

 うん、我慢するのが物凄くきつかった。
 本当に辛かった。

 もう認めるよ…僕は『俺のエロいお姫様』だと。

 朱もかなり辛かったらしいから、何なら後宮を本来の使い方(現在は『牧場』兼『屠殺場』だ)をしても良いとまで言ってやったのに、これまでの行状はどこに行ったのか?というくらい清くしていて、皆が本当に驚いていた。
 驚愕していた。


『お前のは気高く、近寄り難い程に潔癖だ』


 朱からはそんな事を言われていた。


 僕の持つ【華】の質がそうさせるのだろうか?
 確かに僕は鬼ではあり得ない貞操観念を持つ、耳長のお姫様育ちだ。
 いや、完全にあちらアルフヘイムの姫君として、嫁ぐことになっていたらしい。

 実は僕の十六の歳を待ち、婚礼の儀式も行う予定で姉婦婦ふうふは準備してくれているそうだ。
 昇神して『神』の伴侶に相応しい姿になってから執り行う予定だから、みんなそれをとても楽しみにしてくれている。


「俺のお姫様…久方ぶりゆえ優しく、優しくする」

 物凄く嬉しそうな顔で迫ってくる僕の夫、朱。

【域】で暮らすことも楽になって来たこの頃は、こいつのこういった笑顔をずっと見ることが出来て本当に嬉しい。

 朱は長い間耐えきれない欲求や衝動に悩まされ、『囲っているやつら』を片っ端から抱き潰し壊したり、血を飲みすぎたりして殺していた。
 酷い飢えから『ろくでもないもの』を手当たり次第に潰して喰らっていた。
 僕と出逢って番になるまでずっとそんなことばかりしていた。
 そんな危険な存在だった放蕩皇子が、この頃ではその成りを潜めてきた。 

 おかげで最近になって朱の宮のみんなもだが、皇宮の者たちも僕にとても好意的に変わってきた。
 黒が生まれたこともあるだろうけど、僕にかけられていた何かが変わった気がする。
 まだ真名は、呼んでもらえない。

 それに未だに朱が鬼族の『神』である事も知られていない。
 自分たちを庇護している『神』が、危険な存在として見られていることに僕は不満を覚えている。
 それでも義父母は一族のものには、決して伝えないでいるつもりらしい。

 なぜそこまでこいつを抑圧するのか?
 本当に腹が立つ。
 けれど至らない身ではまだ教えてもらえない。

 姉は『亜神とは生贄のようなものだ』と話してくれた。
 彼女は元々そんな存在であるし、同じように亜神の伴侶を持つものだ。
 不安なども相談している。
 それでもまだ納得できないから、より早くの【昇神】を望んでいる。

 でも今の僕に出来るのはこいつに愛を返すことだけ。

「朱…僕の大好きなソレで、僕を沢山可愛がってよ…」

 我慢できない『エロいお姫様』は夫を押し倒して、ソレにしゃぶりついた。


 ◇◇◇




《出産までの時間は本当に心配しかないから、シュテンの気持ちもわかる》

 確かにそうなんだけど、あいつはやろうと思えばできるから怖いんだ。

《気になっていたけれど、本当に両性ってそうなんだ?》

 何度も言っているが夫はアルファであり、オメガでもある。
 そんな存在はあいつしかいなかった。

 向こうの『神』になれる存在はみんな両性だ。姉であるフレイヤも、義父母も皆がそうだ。
 義母は百合と同じ男のオメガ性だったが、義父は単為生殖をする一族の出身でね。
 義父や義叔父は『』という卵を持っていて、彼らの親が一定周期でそれを産み、固体を増やしていたそうだ。
 だから義父も亜神の定義に入るらしい。

《オオゥ……》

 これはちょっとあり得ないと思うよね。
 そんなことはこちらでは哺乳類はマウスでしか成功していない。
 あちらは本当にそのへんがファンタジーとかを超越していたよ。

《転生とか魂とか言ってる時点でファンタジーだろ》

 まぁね。

 外敵というか、人類を害する『神』がいたからそうなったのかもしれないが、鬼には乳児期がほぼ無い
 他種族はちょっと分からないが、綱によると人族はこちらと変わらないそうだ。

 それで鬼の子の場合は親の強さにもよるが、生後数日程で首もすわり、三ヶ月も経たずにハイハイもしだす。

《凄いな…》

 知能も高く、喋ったりするのも早いが、加齢は人と同じようにしていく。
 各々の年齢固定の歳までは人と変わらず同じようなスピードで歳をとる。

《育児が楽そうで良いわね》

 でもないよ。
 やんちゃな子だと大変だから。

 Blackは大人しくて良い子だったけど、たまにした癇癪はそれは酷かったからね。

 Blueの子がいたんだけど…めちゃくちゃをする子でね…

 …思い出した!
 あの子が4歳くらいの時、守役がちょっと目を離している隙に、崖から紐無しバンジーをされたことがあった!!
 あの子はやんちゃがすぎてホントに大変だった。

《おいおい…》
《いや…やんちゃとかのレベルではないぞ?》
《それはもう飛び降りだって》
《だ、大丈夫なの?!》

 あー全然平気!
 その子はあいつにそっくりですっごく頑丈だったから…でも、中身も本当にそっくりでね…
 帰ってきて話を聞いた百合が叱っても、ピンピンしてるし、不思議そうな顔をして『なんで?』って……

 アホなのかお前は!こっちは心配してるんだろうがッ!!

《マリー?!》

 あ、あはは…ゴメン。
 あれはほんっとに頭が痛かったなぁ…

《遺伝子の恐ろしさと言うやつだな…》
《似てほしくないところばかり似るのよね…》

 ホントそう思うよ。

 ところでこのボトルも空いたけれど、次はひとまず水でも飲んでから何かを食べたい。
 なにか肉気のものとかある?

 (こういう時は無性に生の肉が食べたくなるんだよなぁ…)


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