僕の番が怖すぎる。

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二章 あいつの存在が災厄

おまえ達は会話が少なすぎる。

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 ご覧頂きありがとうございます。
 百合の心境などを加筆しています。
 ───────────


 皆の中には経験があるものもいるかと思うが、
 妊娠中のメンタルの状態というのは、非常に不安定でストレスも良くない。

《本当にそうよね。リリィのストレス解消はなにかしら?》

 私?隠れてあいつに貢がれていた菓子を大量に食っていたな。駄目だと言われるとより反抗していたよ。
 今思うとよろしくなかったな…

《ええ、それはあんまり良くないわよ。程度を弁えていれば良いけれどね。》
《お腹の子にもだけど、リリィは大丈夫だったのかしら?》
《オーガは身体的にそういう事に対して強いかもしれないけれど…》

 まぁ…そうなんだが、この頃の私はそれが最高潮に達していたが、義母には畏れ多くて相談しづらいし、まだ十一、二歳の子供だった。
 Ωという性も非常に脆い精神を持つものだから、それの性質がとても強い私は本当に苦労した。

《夫の両親とはなかなかうまくいかないものも沢山いるわ。》
《え?!お前、そうだったの?》
《リリィの義両親はなんか酷いわよね?シュテンは親もダメね。》

 彼らにも事情があったんだよ。
 でも、義父が酷かったのは事実だな。あの方は生粋のαでそのへんは本当になかったな…

 それで私が悩んでいたそんな時に助けてくれたのが、これから話す彼女だった。

 本当はワインではなく、少し辛めのライスワイン日本酒が欲しいな……
 

 ◇◇◇


 なんだかどうにも気持ちが不安定で仕方がない。
 僕はこんなんじゃなかったのに。
 涙脆いし、常に異常な空腹だし、お腹が空くと気持ちが悪い。
 イライラだって止まらなくて、皆にもあたってしまいそうだから我慢する。
 それであいつには余計にきつくあたってしまう…

 以前姉に相談したが、あいつに抱いているこの気持ちを『恋』や『愛』と名付けるには僕は幼すぎて経験が無く、まだよくわからない。

 この生活が窮屈で嫌ではあるけど、
 流されてではなくあいつの子供を産んでも良いくらいにはあいつが好きだし、今ではずっと一緒に居たいとも思っている。
 もうあいつの匂いや温もりと離れることはできない。

 あいつは優しくて常に僕を色々と甘やかす。
 なのに僕はあいつに対して酷い言葉や態度しか今は返せない。
 色々と自己嫌悪に陥り、更に気持ちが沈んでいく……

「百合、いる?」  
「姉様!」

 この間再会したばかりの姉が来た。
 僕の価値観や色々な知識などを授けてくれた彼女は、母代わりだ。

「お前も色々と周りの環境の変化についていけていないみたいだから心配でね。私が相談に乗れることならと思ってね。」

 姉は耳長エルフ族の長と恋に落ち、駆け落ちまでしていた。
 彼女ならこういったことについての相談が出来るかと思う。
 先日も『恋』や『愛』について悩めと、何でも聞いてくれると言ってくれていた。

「姉様あのね…」
「うんうん、可愛い百合。何でもお姉ちゃんが聞くよ。」

 ◇◇◇


《エルフ?》
《エルフだと?!》 
《なんだって?!》

 うん。あちらには   沢山の種族がいるけど、その中でも彼らは鬼のΩに近いんだ。

 義母の双子の姉の子孫で、不思議なヒトたちだよ。

《ザワザワ……》

 まぁ…彼らのことは今は別に良いけど、姉は当時『潔癖』『高慢』『尊大』とまで言われている、彼らの長と結婚したことを後悔なんてしてなかった。

 こちらでいうところの国際結婚とか、そんなもののレベルを遥かに超えた、異星人と結婚するくらいの、物凄く大変なことだったのに『別に?』なんて言えちゃうひとだった。

 彼女のおかげであいつとの仲も改善できたんだ。
  
《まさかこんな話にエルフが出てくるとは…》
《次は突っ込んで聞こう。》


 ◇◇◇  

「なるほど…お前は朱点シュテン様と良く話をしなさい。
私の伴侶は私が話さなくても勝手に心を読み取り、解するのが良くなくて叱ったが、おまえ達は会話が少なすぎる。」

 考え込む時の癖の腕を組み顎に手をやりながら話す姉。

 耳長族の長…【神子】は、義母の遠い昔別れた双子の姉だ。
 予知や過去視、神託、交信などと呼ばれる力を持ち、信仰されるような存在らしい。
 心を読み取りそれで話をされたり、記憶を読み取られたり、己の未来を知る存在を他種族は嫌っていて、彼らと交流したがらない。
 姉はその神子と結婚したそうだ。

「実は両陛下と朱点様を除く鬼族の皆には秘密にしていたが、私には娘がいる。
私が産んで、私がこちらに居る今は神子あれが『耳長族の国アルフヘイム』の『聖域』で育てている。」


 (ハイ?!)


 (良くα同士でそんなに早く子が出来たね?
 イヤイヤイヤイヤ、そうじゃない!
 滅茶苦茶ヤバい話でマズい事だよ姉様!!)

「まぁ…それもあり、力になれるから戻ってきた。
私と伴侶には朱点様に、両陛下に大きな借りがある。
私は家を継ぐためではなく、本当はお前の為に来た。
あれが言うにはそういう時期だと言うしな。
だからお姉ちゃんに何でも聞いて甘えなさい。」

 そう言って微笑んだ姉。

 だが、それはとてつもなくヤバい話だ。
 耳長は力の保持や【神子】たる亜神を降ろすために、血統を守る事を大事にしている。
 その為『潔癖』、『尊大』、『高慢』とまで言われているのに!
 姉や姪は本当に大丈夫だろうか?

 冷や汗が止まらない僕は姉に尋ねる。

「なんというか、それって凄くヤバくないのかな?
あの一族の長は血族婚で子供を残さないといけないのでは?
神子の資格がないと姪っ子は困るでしょう?始末されたりしない?姉様も大丈夫なの?」

 鬼族でさえ、あんな素行のあいつでさえ、妃になるものは厳選されていた。
 だから本当に大丈夫なのか心配だ。

「色々と心配してくれているかもしれないが、そのへんは大丈夫だ。
娘もちゃんと【名】がある。今度は伴侶と娘も一緒に連れてくるから紹介しよう。」

 (それは楽しみだ。
 お腹の子とも仲良くできたら良いな。
 イヤイヤイヤイヤほんとうに大丈夫?)

「それに私も純血の鬼だから彼らの始祖に近い。
始祖に近い血だから認められているところもあるが、彼らが言うには私は『我らの本当の主』らしいから。」
「よくわからないね?」
「そういう奴らなんだよ…」

 姉は非常に疲れた顔をしているが、僕と同じ様な生活をしているそうだ。

「お妃様とか呼ばれて敬われるのはむず痒いし、義務も面倒だよな?
期待されたら応えないと悪い気になる。
だが、妊娠中はそっとしておいてほしいものだ。」

 ほんとうにそのとおりだった。
 姉はその苦労がわかるから、ここに来てくれた……

「姉様…うぅ…う、うっうぅぅぅうっ……」

 涙がぽろぽろと出てきて止まらない。
 本当にΩの涙脆さが嫌になる。

 僕の輿入れよりも父と祖父母たちを悩ませた姉の恋。
 分家筋の【青】のものから呪われ、縛りつけられる程に反対されていた。
 でも、それが今僕の力になってくれている。

 姉は幼い頃のように僕を抱きしめて、優しく背中をぽんぽんと叩いて落ち着かせてくれる。

「はいはい、泣きたいだけ泣きなさい。
それにしても…周りはお前のおかげであの方が落ち着いたから、お前に対しての期待が高すぎるね。
ここは一つ私から叱りつけないといけないね。」

 姉はとんでもないことを言い出した。
 思わず涙も引っ込んだ。 
 幾ら【青】の宗家の生まれで鬼の上位のαでも、殆ど鬼の力を持たない姉にはそんな事は危なすぎる。
 それに今は【角なし】だ。血を断ち、鬼の力を完全に捨てているはず。

「みんなが怖くないの?姉様は今は【角なし】なんだよ!」

 姉が皇様などの逆鱗に触れ、始末されてはいけない!
 僕の為にそんなことになっては姪や姉の伴侶に申し訳ない。

「私には神子あれの伴侶【フレイヤ】として使えるちょっとしたがあるんだ。それに私には【秘印ルーン】や【予知】もあるだろう?
鬼のα共はもちろん、下手するとスメラギだって怖くなんかないね。
耳長族の怖さを、本当の力を、知らないからね…奴らは。ふふふ……」

 美しい顔をどこか危険な表情にして笑う姉。
 先日も父たちが酷い目にあったと文が来ていた。
『──はお前に何か吹き込んでいないか?』などとも書かれていた。
【青】のじゃじゃ馬とも呼ばれた姉は、実家でも相当な事をして暴れたらしい。

「私は事情があって、男もΩメスの気持ちも良くわかるんだ。
だからね、皇や皇宮勤めのαどもに腹を立てているよ。
私の伴侶も母もケツを叩けと言っているしね。
うん、お前はゆっくり休んでいなさい。ふふふふふ……」

「姉様、怖い。」

 いつもの様に姉は不思議なことを言って、去っていった。
 僕は気分が悪くて横になり寝ていたが、このあと姉が彼らに何をしたのかはわからないが、
 そこそこ強い鬼のαであった姉が、鬼の力を無くしたはずの彼女が、遥かに上位の存在の筈の茨木イバラキや四童子たちや、なんと義父に皇宮にいるみんなからも恐れられるようになった。


『 耳 長 族 は と ん で も な く コ ワ イ ! ! ! 』
 

『鬼族と戦争をする気かと思った。』


 そう、みんなは語った。

 何人か廃人になったものや、とんでもない醜聞を広ろめられたものもいて、悲惨な目にあったらしく、
 何か身に覚えのあるものは、僕の元に来て土下座をずっとするから怖かった。
しゅ】などを使われているのか、あいつやお義母様がそれを解きに来るまでずっとそのままだった…

 お義母様はその美しい顔をほころませながら

『姉上もとんでもないものを寄越してくれましたね。
ですが義姉上あねうえには感謝しないといけません。
旦那様でさえ、姉上たちには敵ないませんからね。』などと仰られていた。

 少し反則かもしれないが、姉の後ろ盾(耳長族の力?)で、
 ある程度自分へのあたりは楽になった事には感謝しかない。

 ◇◇◇

 姉と話したことなどで少し落ち着いた僕は、あいつともう少し話してみることにした。

 思えば姉が数年前に、あいつに赤の【名】を貰い、【】を飛び出す前後から正式に跡継ぎとして見られ、
 それに応えようと良い子を演じて来ていた僕は、人に対して良く見られようとしすぎ、なかなか本音を言うことができない。
 父たちには反抗的な態度をとってはいたが、望むように学び、振る舞っていた。
 あいつに対してだって嫌われたくないと思うところがあり、ずっと素直になれない。
 

「百合、アケから聞いてきた。」

 朱点が帰ってきた。

 この頃こいつは僕が遠慮なく血を貰うことのせい以上に、異常なくらいに食べる。
 今日も後宮…いや、処分場に行き食事してきたみたいだ。

 知らないΩメスαオスの匂いがする。
 それらを抱いていたりするような匂いではないけれど、もやもやして堪らない…

 手土産にまた、肉とか魂とか持って帰ってきているし……


「おかえり、朱点。姉様からどんな事を聞いたのかわからないけど、僕もお前と話したい事がある。」

 姉だって心や自分の未来を読まれる伴侶に、言いたいことや不満などを読まれても、それでもまだ話し足りないと言っていた。


『おまえ達は会話が少なすぎる。』


 そのとおりだと思う。
 僕らは『運命』で既に番だし、こいつからは一方的に【血の伴侶】にまでされている。
 なのに色々と分かりあえていないところが多すぎる。
 こいつに抱いている気持ちが何か良くわかっていないことも理由だが、あんなふうにして、いきなり番になった弊害なのかもしれない。
 普通の鬼のΩなら喜んで今の境遇を受け入れるだろう。
 だが、僕は違う。
 姉や従兄などから色んな事を教えられ、育てられた。
 こんなに生意気で面倒くさいやつだと自分でも思うのに、こいつはなんで僕が好きなんだろう?

 考えれば考えるだけ不安になる。
 これもよく話し合わないといけない。
 
 だからちょっと素直になって話し合うことにした。 
 

 ◇◇◇


《やっぱり困ったときに相談できる相手は必要。》
《私も妊娠中は色々と身内や友人に相談したわね。》

 うん。そうだね、本当に彼女の存在に助けられたよ。

《なぁ、エルフが気になるんだが?》
《そうそう!この続きで出てくるのか?》
《やっぱり美人だよな?》

 皆、本当になんで好きなのかなぁ…
 色々と厄介で面倒で難解な種族なのに…

 あー…彼らは男女共に男にも女にも見える凹凸のない、
 精巧な人形のようにさえ見える、非常に見目の良いものたちで、耳長というその名のとおりに、もちろん耳も長く尖っている。
 姉の伴侶はその中でも亜神耳長ハイエルフといわれるものだった。

《《《Wow》》》


 …………どよめきが凄いね。本当にエルフって人気だねぇ。
 まぁ…こちらの創作物でも大人気だしな。
 あちらはかなり違う存在だぞ?

 でも、これから話す内容で彼らはあまり出てこないよ?
 まぁ…少し先で義姉や姪【戦乙女ヴァルキュリヤ】は少しだけ出るけれどね。

《……………………》
《ブーブー》
《なんだよ、何かないのか?》

 なんだよ!その残念そうな態度は。

 私の話なら鬼族の話くらいだからな?
 (仕方ない、少し話してやるかなぁ?でも、僕も苦手なんだよなぁ…)
 
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