星の海で遊ばせて

nomaz

文字の大きさ
20 / 43
1章 星の海で遊ばせて

ためらう風鳥(10)

しおりを挟む
「おぅ、柚子」

 柚子は、慌てて振り向く。

「川野君、どうしたの?」

 かすれ声を無理やり張って、柚子がたずねた。

「柚子が入ってくの見たからさ。ここ、何部?」

「文芸部だよ」

「へぇ、そんな部あったんだ」

「一人だけなんだよ。水上君、同じクラスで、班も同じなの」

「あ! 祭りン時いたっしょ?」

 この質問は、川野が直接詩乃にしたものだった。詩乃は、じっと川野のことを睨み据えた。柚子との関係どうこう以前に、詩乃は、この手のタイプの人間が嫌いだった。

「水上クン?」

 気安く呼ぶなと、詩乃は思った。しかし川野は、詩乃の明らかな敵意など気にしない。

「俺川野ね。あ、一応、柚子の元カレ」

「あー、そう……」

「何二人、付き合ってんの?」

 詩乃は、ちらりと柚子を見やる。柚子は、相変わらず立ち尽くして、何も言えないでいる。

「まさか」と否定してやっても良かったが、詩乃も詩乃で、腹が立っていた。今こいつから受けたイライラは、そっくりそのまま持ち帰ってもらおうと思った。

「元カレなのに気にするの?」

「はぁ!?」

 まさかの詩乃の返しに、川野は声を上げた。

 詩乃は苦笑いを浮かべて続けた。

「いや、部室に勝手に入られるの嫌いだから、つい」

「ふざけんなよお前、マジ調子乗るなよ」

 笑いながら川野が言う。ムキにならない、あくまでじゃれ合いの範疇で。しかしそれは表向きで、実はこれが本気の舌戦であることを詩乃は知っていた。こういうのは、ムキになった方が負けである。

「何か用?」

「お前に用は無いんだけど――柚子、今日一緒帰んね?」

 川野は、一瞬でも詩乃に会話の主導権を握られたことにプライドを傷つけられていた。ムカつくから、こいつのことは無視しようと、川野は決めたのだった。

 しかし詩乃は、祭りの時に、この男がどんな人種の人間なのか悟っていたので、今更そんな態度を取られても、それについては、別段何を感じるでもなかった。

 川野は、確かに、女子ウケのする容姿なのかもしれない。短髪で、肌は日に焼け、顔はいかにも勝気そう。特別背が高いわけでもないが、いかにも運動をやっているようながっしりとした腰回り、胸板、腕周りをしている。しかし詩乃は納得がいかなかった。新見さんが付き合っていたにしては、どうも、合わない。なんでこんな男と付き合っていたのか、新見さんのセンスを、失礼ながら疑ってしまう。

 そんな小さな柚子への信じられなさに、詩乃は思わず、手で額を覆ってしまう。

「今日は――」

 断ろうと口を開いた柚子だったが、その言葉は、詩乃によってかき消された。

「話すなら部室の外でお願い」

「はいはい――柚子、行こうぜ」

 川野は、ぐいと柚子の手を引っ張り、強引に柚子を連れて部室を出ていった。

 詩乃は、静かになった部室で、ちゅうっとココアを吸った。あとは勝手に二人でやってくれ、と思う反面、柚子の川野への態度がどうにも腑に落ちなかった。あの男子と新見さんは、どうも、仲が良い、という感じには見えない。元カレと言っていたが、それさえも疑わしい。新見さんが否定しなかったから、それは本当なのかもしれないが、関係はどうも、深そうには見えない。

 もう一口、ココアを口に含む。

 元カレが無理な復縁を、強引に新見さんに持ち掛けている、という線はあり得るのではないだろうか。そのほうが、新見さんの川野っていうあの男子に対する態度に合っている。新見さんは優しいけれど、それゆえに、はっきり断れないでいるのではないだろうか。

 ――いや、考えすぎだろうか。

 でももし、新見さんが困っているなら、あの虫を追い払うくらいはやってあげようと詩乃は思った。それで新見さんの「好き」が自分に向くわけではないのはわかっている。けれど別に、そんな見返りのためにそうしようというのではない。

 詩乃は、まだ冷たいココアに、頬を押し当てた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

Emerald

藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。 叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。 自分にとっては完全に新しい場所。 しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。 仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。 〜main cast〜 結城美咲(Yuki Misaki) 黒瀬 悠(Kurose Haruka) ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。 ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。 数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。 トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。 俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

25cmのシンデレラ

野守
恋愛
デパートに靴を買いに来た梨代は、自分の足に合う25センチのサイズが無くて落ち込んでいた。そこで偶然起こった暴漢騒ぎ。とっさに靴を投げて助けた男性は、まさに梨代が買おうとしていたブランドのメーカー「篠塚製靴」に勤める篠塚だった。しかも篠塚グループと呼ばれる現代財閥の御曹司だとか。 後日お礼として非売品の靴を届けに来た篠塚は、梨代にとある仕事の依頼を持ちかけて……。 御曹司が庶民を体験⁉ 王子様の「逆」シンデレラスト―リーが始まった! と思いきや、事態はあらぬ方向に。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...