映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

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087 待ち伏せ④

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 殺人だとか不倫だとか精神病だとかの話はここでは避ける。聞こえた人がギョッとしてしまう。

「ああ······。狭い世界だからそういう事もあるだろうね」
「みたいですよ」
「牧田さんは元気だった?」
「はい。そうだ、今回もお会い出来なくて残念でしたね。でも昨日の話し合いはギスギスしてたから、逆に良かったのかもしれないですよ。またいらっしゃるかもしれないですし」
「そ、そうなの? なんで?」
「あのデータベースのこととか、削除された所蔵目録のこととかも直接聞きたいですけど、どうも佐山氏の寄贈品が各日に少なくなってるっぽいんですよね。それを牧田さんはうちのチェック漏れだって指摘して来たんですけど、でも西村課長はそんな訳ないって怒っちゃって」

 西村課長が怒るなんて珍しいので、少し怖かった。このところ席にもつかず立ちっぱなしで佐山氏の遺品整理に取り組んでいる私達を侮辱しているように思って反論してくれたんだろう。そんな私を見て、山森は心配そうにしている。

「無いものってそんなにあるの?」
「主にアメリカのピリーズ美術館にあった冨樫映画の関連品で、いくつか行方不明のものがあるんですって。89年に八頭女史が購入して日本に持ち帰ったんですけど、そのうちの何点かは佐山氏が譲り受けて。でも佐山氏のものは先日全部館に持ってきたはずなのに見当たらないそうですよ」
「ふーん······」

 この辺は私達には何も分からないし何も出来ない。大きな音を立てて山森がオレンジジュースを飲み切り、こちらをチラリと見た。

「けいちゃん」
「分からないですよね。······そういえば『夜を殺めた姉妹』の準備稿って佐山氏の寄贈品の中にありました?」
「え? 私がチェックしてるとこにはないけど、それがそうなの?」
「どこかで準備稿があるって話を聞いた気がするんですけど······勘違いかもしれません。決定稿とどう違うのかなって観終わった後で気になって。うちにはないですよね?」
「ないんじゃないかな。ねえ、けいちゃん。じゃあ牧田さんは来るかもしれないんだ?」
「はい。佐山氏の弁護士さんも館長に話があるって言ってましたし、残りの二家ともまだ色々あるかもですね」

 ふと時計を見ると、だいぶ時間が経っていた。慌てて会計を済ませて小走りで館に戻って、また佐山氏の寄贈品のチェックを続ける。
 その後、山森はやはり体調が悪かったのか早退した。気を遣って早くに戻れば良かった。具合の悪い人の前で大喰いしてしまい、食い意地が張っているのは良くないなと思っていたら、再び事件が起こる。



 
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