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第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事
第13話 大賢者との別れ
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流刑者の谷を脱出すべく、ツバサたちは北にある湖を目指した。
湖は結界の外なので、そこまで行くことができれば大賢者グラン・マイヨールは〈流刑者の谷〉から脱出に成功したことになる。
そして、湖を西に行けば〈エルフの里〉に近づくことができるので、一石二鳥だ。
「これが結界か……。何かの力場があるのを感じるけど、特に抵抗があるわけじゃないな」
「かなり高度な結界ですね。これならばグランさまだけでなくスケルトンやリッチを閉じ込めることができるかもしれません」
「この結界の本来の目的はそっちだったりして?」
「スケルトンたちをここに閉じ込めても何の益もなさそうです。ここは暗黒大陸ですし」
「ごめん、考えが浅かった」
「いえ、わたしの方こそ出過ぎたことを申しました」
(それならこの結界の意味は何だろう?)
「湖は直ぐそこだよ。遊びに行ってもいい?」
クラウとツバサの手を取って、ぶら下がるように歩いていたフェルは湖が近づくとそわそわとしていた。水遊びが好きなのだろうか?
「いいよ、行きなさい」
「わ~い」
無邪気なフェルにクラウとツバサは微笑まずにはいられない。
「そろそろグランさんを出してみるか?」
「結界からは十分に離れたと思われます」
ツバサはグラン邸の玄関の扉を出現させた。
グランさんは待ちかねた様に勢いよく扉から飛び出してきた。
「ぐはははっ! 魔王のこの儂を解き放つとは、なんという愚か者だ。今度こそ世界征服を成し遂げるぞ!」
クラウはグランに跪き、こう言った。
「はっ! グランさま。御心のままに」
そして、グランとクラウはツバサを睨んだ。
「お、お前らっ! 騙したのか!」
二対一の睨み合いがしばらく続き、ツバサはついに耐えられなくなった。
「ぷっ! くっくっくっ……」
「わはははは!」
「ふふふふふ……」
三人とも笑いが止まらなくなる。
そこに三人の笑い声に気づいたフェルが戻ってきた。
「どうしたの? あっ、グランさん! 外に出られたのね!」
フェルがグランに抱きつき、その勢いで倒れそうになる。
「元気がいいのう、フェルは……。苦節三百年。ようやく〈流刑者の谷〉から開放された。ツバサ殿、感謝の極みじゃ」
大賢者グラン・マイヨールはツバサの両手を握りしめて、感謝の意を示した。
(温かい手だな。お祖父ちゃんみたいだ)
「これというのもツバサさまのお陰です。心からお礼を申し上げます」
クラウは両手を胸に当て、深々と頭を下げた。
「ちょっと待ってよ、二人とも。俺だって二人に感謝しているんだからな」
三人は再び笑いだし、フェルもつられて笑いだした。
「しゃばの空気はどう?」
「どうと言われてもな。ここは暗黒大陸じゃしのう……」
大賢者がしばらく好々爺然としてフェルの頭を撫でていたが、突然真剣な顔つきになってツバサの方を向いた。
「ツバサ殿、お願いがあるのじゃ」
「な、なんだろう?」
「これから単独行動をさせてほしいのじゃ?」
「何か事情がありそうだね」
「すでに三百年も経っておる。儂の知り合いはこの世にいないだろう。それに儂を嵌めた者ちも居らぬ。ようするに復讐もできぬのじゃ」
「そうだね。相手が人間なら生きていない」
「それでもじゃ。儂が世話になった人々を……もちろん死んでおるが……訪ねて回りたいのじゃ」
「もしかしたらその子孫たちには会えるかもしれないし……。もちろん、いいよ。俺はグランさんを縛るつもりはないから。でも、連絡は取れるようにしたほうがいいね」
「大丈夫じゃ。遠距離でもクランとなら通信ができる」
「それなら問題ない。でも、どうやってこの大陸からでるのかな?」
「ツバサ殿の世界では儂のような精霊化した人間を仙人と呼ぶのだろう?」
「そうだよ。霞を食べて生きているとも言われている」
「霞は食べぬが、空は飛べるようじゃ」
グランはゆっくりと空中に浮かんでみせた。
それは魔法ですらなかった。
「おお~、すごい!」
「さっそく旅立つとしよう。また逢う機会もあるじゃろう。それまでは元気でおるのだぞ」
「もちろんだ。グランさんも元気でな」
「お爺ちゃん、またね!」
「グランさま。再会を楽しみにしております」
「フェルもクラウも元気でな。ツバサ殿のことは頼むぞ」
「お任せ下さい」
「任せて!」
グランは飛び立つのではなく、消えた――
(グランさんときたら、驚かせるぜ……)
「人間が辿り着ける最高の高み。もしかしたらグランさんはそこに到達したのかもしれないな」
この世界にどのような存在がいるのかツバサはまだ知らない。
しかし、仙人にとなったグラン・マイヨールが人間が辿り着けないほどの高みに至ったと感じた。
「おそらく結界を張った敵は、グランさまを恐れていたのではないでしょうか?」
「そうだな。俺もそんな気がするよ。俺たちも目をつけられないようにしよう」
「はい、ツバサさま。ご注意くださいませ」
「お、俺か? う~ん、自信ないな……。綺麗なお姫さまがいるかもしれないし……」
「そうですか。ツバサさまが好色だとは知りませんでした」
クラウはツバサを睨みつけてから、後ろを向いた。
「ごめん、ごめん、冗談だよ。クラウに見放されたら俺はこの世界で生きていけない」
そしてクラウは翼に向かって跪いた。
「わたしはツバサさまを全力でお守りします」
「クラウ……」
大賢者グラン・マイヨールを〈流刑者の谷〉に閉じ込めた敵がいる。
この先、この世界でツバサが出会う確率は少ないだろう。だからと言って、警戒を怠っていいわけではない。
ツバサは、改めてこの世界が考えていた以上に複雑で非情な悪意に溢れている気がしていた。
「簡単なお仕事じゃないかもしれないが……、面白くなってきたな」
湖は結界の外なので、そこまで行くことができれば大賢者グラン・マイヨールは〈流刑者の谷〉から脱出に成功したことになる。
そして、湖を西に行けば〈エルフの里〉に近づくことができるので、一石二鳥だ。
「これが結界か……。何かの力場があるのを感じるけど、特に抵抗があるわけじゃないな」
「かなり高度な結界ですね。これならばグランさまだけでなくスケルトンやリッチを閉じ込めることができるかもしれません」
「この結界の本来の目的はそっちだったりして?」
「スケルトンたちをここに閉じ込めても何の益もなさそうです。ここは暗黒大陸ですし」
「ごめん、考えが浅かった」
「いえ、わたしの方こそ出過ぎたことを申しました」
(それならこの結界の意味は何だろう?)
「湖は直ぐそこだよ。遊びに行ってもいい?」
クラウとツバサの手を取って、ぶら下がるように歩いていたフェルは湖が近づくとそわそわとしていた。水遊びが好きなのだろうか?
「いいよ、行きなさい」
「わ~い」
無邪気なフェルにクラウとツバサは微笑まずにはいられない。
「そろそろグランさんを出してみるか?」
「結界からは十分に離れたと思われます」
ツバサはグラン邸の玄関の扉を出現させた。
グランさんは待ちかねた様に勢いよく扉から飛び出してきた。
「ぐはははっ! 魔王のこの儂を解き放つとは、なんという愚か者だ。今度こそ世界征服を成し遂げるぞ!」
クラウはグランに跪き、こう言った。
「はっ! グランさま。御心のままに」
そして、グランとクラウはツバサを睨んだ。
「お、お前らっ! 騙したのか!」
二対一の睨み合いがしばらく続き、ツバサはついに耐えられなくなった。
「ぷっ! くっくっくっ……」
「わはははは!」
「ふふふふふ……」
三人とも笑いが止まらなくなる。
そこに三人の笑い声に気づいたフェルが戻ってきた。
「どうしたの? あっ、グランさん! 外に出られたのね!」
フェルがグランに抱きつき、その勢いで倒れそうになる。
「元気がいいのう、フェルは……。苦節三百年。ようやく〈流刑者の谷〉から開放された。ツバサ殿、感謝の極みじゃ」
大賢者グラン・マイヨールはツバサの両手を握りしめて、感謝の意を示した。
(温かい手だな。お祖父ちゃんみたいだ)
「これというのもツバサさまのお陰です。心からお礼を申し上げます」
クラウは両手を胸に当て、深々と頭を下げた。
「ちょっと待ってよ、二人とも。俺だって二人に感謝しているんだからな」
三人は再び笑いだし、フェルもつられて笑いだした。
「しゃばの空気はどう?」
「どうと言われてもな。ここは暗黒大陸じゃしのう……」
大賢者がしばらく好々爺然としてフェルの頭を撫でていたが、突然真剣な顔つきになってツバサの方を向いた。
「ツバサ殿、お願いがあるのじゃ」
「な、なんだろう?」
「これから単独行動をさせてほしいのじゃ?」
「何か事情がありそうだね」
「すでに三百年も経っておる。儂の知り合いはこの世にいないだろう。それに儂を嵌めた者ちも居らぬ。ようするに復讐もできぬのじゃ」
「そうだね。相手が人間なら生きていない」
「それでもじゃ。儂が世話になった人々を……もちろん死んでおるが……訪ねて回りたいのじゃ」
「もしかしたらその子孫たちには会えるかもしれないし……。もちろん、いいよ。俺はグランさんを縛るつもりはないから。でも、連絡は取れるようにしたほうがいいね」
「大丈夫じゃ。遠距離でもクランとなら通信ができる」
「それなら問題ない。でも、どうやってこの大陸からでるのかな?」
「ツバサ殿の世界では儂のような精霊化した人間を仙人と呼ぶのだろう?」
「そうだよ。霞を食べて生きているとも言われている」
「霞は食べぬが、空は飛べるようじゃ」
グランはゆっくりと空中に浮かんでみせた。
それは魔法ですらなかった。
「おお~、すごい!」
「さっそく旅立つとしよう。また逢う機会もあるじゃろう。それまでは元気でおるのだぞ」
「もちろんだ。グランさんも元気でな」
「お爺ちゃん、またね!」
「グランさま。再会を楽しみにしております」
「フェルもクラウも元気でな。ツバサ殿のことは頼むぞ」
「お任せ下さい」
「任せて!」
グランは飛び立つのではなく、消えた――
(グランさんときたら、驚かせるぜ……)
「人間が辿り着ける最高の高み。もしかしたらグランさんはそこに到達したのかもしれないな」
この世界にどのような存在がいるのかツバサはまだ知らない。
しかし、仙人にとなったグラン・マイヨールが人間が辿り着けないほどの高みに至ったと感じた。
「おそらく結界を張った敵は、グランさまを恐れていたのではないでしょうか?」
「そうだな。俺もそんな気がするよ。俺たちも目をつけられないようにしよう」
「はい、ツバサさま。ご注意くださいませ」
「お、俺か? う~ん、自信ないな……。綺麗なお姫さまがいるかもしれないし……」
「そうですか。ツバサさまが好色だとは知りませんでした」
クラウはツバサを睨みつけてから、後ろを向いた。
「ごめん、ごめん、冗談だよ。クラウに見放されたら俺はこの世界で生きていけない」
そしてクラウは翼に向かって跪いた。
「わたしはツバサさまを全力でお守りします」
「クラウ……」
大賢者グラン・マイヨールを〈流刑者の谷〉に閉じ込めた敵がいる。
この先、この世界でツバサが出会う確率は少ないだろう。だからと言って、警戒を怠っていいわけではない。
ツバサは、改めてこの世界が考えていた以上に複雑で非情な悪意に溢れている気がしていた。
「簡単なお仕事じゃないかもしれないが……、面白くなってきたな」
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