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第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事
第23話 ヴァルキリー姉妹
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脱獄が成功したかのように見えたツバサたちだったが、あっさりと龍神族の戦姫シャルロットに見つかってしまった。
フェルの第六感を信じて脱獄を延期すれば良かったのだが、ツバサの軽はずみな行動で状況は悪化した。
――脱獄犯とまで言われたのだから逃げるしかない。
ツバサはフェルをつれて全速力で森めがけて走った。
森の中に入ってしまえばどうとでもなると思ったからだが、龍神族のテリトリーで逃げおおせるのだろうか?
そして、何故かシャルロットとオリヴィエは追ってこない。
(何で追って来ないんだ?)
ドコーン!
「うわーっ!」
森に入る手前でツバサが見えない何かにぶつかって弾き飛ばされた。
すぐ後ろで走っていたフェルは持ち前の反射神経でツバサを抱きとめた。
「大丈夫? お兄ちゃん」
「だ、大丈夫……、かな? でも、クラクラする……」
ツバサの額からはダラダラと血が流れ出ているし、上半身が揺れている。
致命傷でもないので、ツバサの自動超回復スキルは発動しない。
「大丈夫じゃないと思うわよ。回復魔法を掛けたほうがよさそう」
「わ、判った」
ツバサはその場にしゃがみ込んで回復魔法を自分自身に掛けた。
フェルは甲斐甲斐しくツバサの額の血を拭う。
(妹がいたら、こんな感じなのかな……)
本当の妹はこんなに優しくはない。だが、ツバサにとってこの幸福感は本物なのだ。
「ありがとう……、フェル」
「いったい何と衝突したの?」
「魔法障壁だ。兄弟」
気配もなくオリヴィエがそこにいた。もちろん、シャルロットも一緒だ。
どうやらこの魔法障壁はオリヴィエのスキルらしい。
「やっぱり、あんたバカねぇ~。逃げても無駄だということが解ったかしら?」
ツバサは頭を数回振って、立ち上がった。
「見逃してくれないかな……。俺たち急いでるんだ」
「脱走犯だからね~、それは無理よ。わたしの一存で決めることはできないわ」
「そこを何とか……、ならないか……」
ツバサの声が途切れた後、シャルロットとオリヴィエの表情が青ざめて行く――
「お姉さま……」
「ぷっ、俺はあんたのお姉ちゃんじゃないぞ。ん?!」
ツバサはシャルロットたちの視線が彼の後ろに向いていることに気がついた。
「わたしと闘って勝てたら解放してあげましょう」
いつの間にかツバサの後ろに女騎士が立っていた。
「うっ、ヴァルキリー?」
(なんでビキニアーマー?)
「ゔぁる……、何ですかそれは?」
「あっ、いや、綺麗なお姉さんだなって……」
「き、綺麗なって……、わたしが?……」
ヴァルキリーの顔がみるみる紅く染まっていく。
偶然とはいえ、ツバサの口撃は成功したようだ。
「お姉さま、騙されてはいけません!」
ツバサは直ぐさまヴァルキリーの前で跪いた。
「俺はツバサ・フリューゲルと申します、美しいお姫さま」
人生経験が三十年を越すツバサから、お世辞の言葉がスラスラと流れ出る。
ツバサは、ヴァルキリーの反応からこの危機を打開する作戦を思いついた。
「う、美しいお姫さま……。わたしはリディア・アイスバイン。龍神国の第一王女です」
リディア・アイスヴァインが美しいことは事実だ。その点においてツバサは嘘偽りはまったく言っていない。
ただ、彼女は龍王によって英才教育を十年以上受けてきた剣士である。剣技を褒められることがあっても容姿を褒められることに慣れていないのだ。
「お願いがございます、リディアさま」
「ツバサさん、聞きましょう」
「俺には今すぐ救い出さなければならない人がいます。直ぐに釈放して下さいませんでしょうか」
「それはどなたですか? あなたの知り合いが暗黒大陸にいるとは思えないのですが」
「エルフの里の巫女さまでございます、リディアさま」
今度は紛れもない嘘である。真実の中に嘘を紛れ込ませるのは詐欺の高等テクニックである。
だが、ツバサは嘘をついたつもりだったが、エルフの巫女であるセレスティーが囚われの身なのは真実だった。
そのことをツバサはまだ知らないでいる――
「エルフの巫女? セレスティーさまのことですね?」
龍神族とエルフとの間に交流はほとんどない。しかし、ハイエルフのセレスティーは龍神族の中でも有名人である。なぜなら、ハイエルフは希少人種であり、とてつもない魔力を有しているからである。
その中でもセレスティーは飛び抜けた魔力を持つことで知られている。
「さようでございます、リディアさま。一刻も早くお救いせねば……」
「話が違いますね、シャルロット」
リディアは妹を睨みつける。
「ひっ」という声がオリヴィエの方から聞こえた。
(どんだけ怖いんだよ、このお姫さまは……)
「お姉さま、この者の言うことを信じるのですか?! 脱獄犯ですよ!」
「もし、本当にセレスティーさまが囚われていたらどうするのですか?」
「そ、それは……。お姉さまは人が良過ぎます」
「もし、ツバサさんの言うことが嘘ならば、その場で決闘して構いませんよ。今回はシャルロットに譲りましょう」
(やっぱり決闘はするのか……この姉妹は戦闘狂だな)
嘘から出た真実――
嘘がバレたらどうしようと、ツバサの頭はフル回転していたが、思いついた策略がすべて無駄になることを後で知ることになる。
フェルの第六感を信じて脱獄を延期すれば良かったのだが、ツバサの軽はずみな行動で状況は悪化した。
――脱獄犯とまで言われたのだから逃げるしかない。
ツバサはフェルをつれて全速力で森めがけて走った。
森の中に入ってしまえばどうとでもなると思ったからだが、龍神族のテリトリーで逃げおおせるのだろうか?
そして、何故かシャルロットとオリヴィエは追ってこない。
(何で追って来ないんだ?)
ドコーン!
「うわーっ!」
森に入る手前でツバサが見えない何かにぶつかって弾き飛ばされた。
すぐ後ろで走っていたフェルは持ち前の反射神経でツバサを抱きとめた。
「大丈夫? お兄ちゃん」
「だ、大丈夫……、かな? でも、クラクラする……」
ツバサの額からはダラダラと血が流れ出ているし、上半身が揺れている。
致命傷でもないので、ツバサの自動超回復スキルは発動しない。
「大丈夫じゃないと思うわよ。回復魔法を掛けたほうがよさそう」
「わ、判った」
ツバサはその場にしゃがみ込んで回復魔法を自分自身に掛けた。
フェルは甲斐甲斐しくツバサの額の血を拭う。
(妹がいたら、こんな感じなのかな……)
本当の妹はこんなに優しくはない。だが、ツバサにとってこの幸福感は本物なのだ。
「ありがとう……、フェル」
「いったい何と衝突したの?」
「魔法障壁だ。兄弟」
気配もなくオリヴィエがそこにいた。もちろん、シャルロットも一緒だ。
どうやらこの魔法障壁はオリヴィエのスキルらしい。
「やっぱり、あんたバカねぇ~。逃げても無駄だということが解ったかしら?」
ツバサは頭を数回振って、立ち上がった。
「見逃してくれないかな……。俺たち急いでるんだ」
「脱走犯だからね~、それは無理よ。わたしの一存で決めることはできないわ」
「そこを何とか……、ならないか……」
ツバサの声が途切れた後、シャルロットとオリヴィエの表情が青ざめて行く――
「お姉さま……」
「ぷっ、俺はあんたのお姉ちゃんじゃないぞ。ん?!」
ツバサはシャルロットたちの視線が彼の後ろに向いていることに気がついた。
「わたしと闘って勝てたら解放してあげましょう」
いつの間にかツバサの後ろに女騎士が立っていた。
「うっ、ヴァルキリー?」
(なんでビキニアーマー?)
「ゔぁる……、何ですかそれは?」
「あっ、いや、綺麗なお姉さんだなって……」
「き、綺麗なって……、わたしが?……」
ヴァルキリーの顔がみるみる紅く染まっていく。
偶然とはいえ、ツバサの口撃は成功したようだ。
「お姉さま、騙されてはいけません!」
ツバサは直ぐさまヴァルキリーの前で跪いた。
「俺はツバサ・フリューゲルと申します、美しいお姫さま」
人生経験が三十年を越すツバサから、お世辞の言葉がスラスラと流れ出る。
ツバサは、ヴァルキリーの反応からこの危機を打開する作戦を思いついた。
「う、美しいお姫さま……。わたしはリディア・アイスバイン。龍神国の第一王女です」
リディア・アイスヴァインが美しいことは事実だ。その点においてツバサは嘘偽りはまったく言っていない。
ただ、彼女は龍王によって英才教育を十年以上受けてきた剣士である。剣技を褒められることがあっても容姿を褒められることに慣れていないのだ。
「お願いがございます、リディアさま」
「ツバサさん、聞きましょう」
「俺には今すぐ救い出さなければならない人がいます。直ぐに釈放して下さいませんでしょうか」
「それはどなたですか? あなたの知り合いが暗黒大陸にいるとは思えないのですが」
「エルフの里の巫女さまでございます、リディアさま」
今度は紛れもない嘘である。真実の中に嘘を紛れ込ませるのは詐欺の高等テクニックである。
だが、ツバサは嘘をついたつもりだったが、エルフの巫女であるセレスティーが囚われの身なのは真実だった。
そのことをツバサはまだ知らないでいる――
「エルフの巫女? セレスティーさまのことですね?」
龍神族とエルフとの間に交流はほとんどない。しかし、ハイエルフのセレスティーは龍神族の中でも有名人である。なぜなら、ハイエルフは希少人種であり、とてつもない魔力を有しているからである。
その中でもセレスティーは飛び抜けた魔力を持つことで知られている。
「さようでございます、リディアさま。一刻も早くお救いせねば……」
「話が違いますね、シャルロット」
リディアは妹を睨みつける。
「ひっ」という声がオリヴィエの方から聞こえた。
(どんだけ怖いんだよ、このお姫さまは……)
「お姉さま、この者の言うことを信じるのですか?! 脱獄犯ですよ!」
「もし、本当にセレスティーさまが囚われていたらどうするのですか?」
「そ、それは……。お姉さまは人が良過ぎます」
「もし、ツバサさんの言うことが嘘ならば、その場で決闘して構いませんよ。今回はシャルロットに譲りましょう」
(やっぱり決闘はするのか……この姉妹は戦闘狂だな)
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