エルフの巫女のガーディアン ~エルフの巫女を護衛するだけの簡単なお仕事って言ったよな?~

玄野ぐらふ

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第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事

第35話 黎明樹の巫女

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 牢獄の北側に向かって進むと壁面が洞窟のように岩が剥き出しになってきた。この辺りの岩は花崗岩のように硬く、アークフェリス族の魔法では綺麗に掘削できなかったようだ。
 それにしても何故こんなところに牢獄を造る必要があったのだろうか?
 その答えは簡単だ。収監されている人物がそれだけ危険人物だからだ。

「お兄ちゃん、どうしてこの先に閉じ込められている人がエルフの巫女だって判ったの?」

「それはね、これを見てご覧なさいフェルちゃん」

 セブンスが答える前にクラウがフェルの前にマップを表示させた。
 進行方向の通路脇に星型のマークが青く点滅している。
 クラウがそれをタップすると、別のウィンドウがポップアップした。

 〈黎明樹の巫女〉

「な~んだ。どんな魔法を使ったのかと思ったわ。黎明樹の巫女が正式名称なのね」

「フェル、マップに表示されていない敵はいそうか?」

「大丈夫よ。魔物の気配はないの」

 マップはチートなスキルであるが、肉体を持たない魔物を検知し難いという欠点がある。こんなときはフェルの気配感知能力が有効だ。

「見えてきたぞ。クラウ、照明魔法を切ってくれ」

「はい」

 照明が切れてから暗闇に目が慣れるまで、セブンスたちはしばらく待ってから徐ろに歩き出した。
 マップで見る限りエルフの巫女に敵意はなさそうだが、そう簡単に信用できない。

「何だこの魔力は……」

 セブンスは今まで経験したことがないほどの魔力放射を感じていた。

「さ、寒いの……」

 フェルは尋常ではない魔力放射にさらされて、寒さを感じている。

「この先にいるのは本当にエルフの巫女なのか? 魔族じゃないのか?」

 クラウは冷静のようで、表情からは感情を読み取れない。

「魔力放射のことを問題にしているなら心配ありませんよ。わたしから見たらセブンスさまの方がよっぽど恐ろしいです」

「おいおい、俺を恐怖の大魔王みたいに言わないでくれるか」

「失礼しました。これからは地獄の番人と表現します」

「それだと大魔王よりも弱いんじゃないの? クラウ姉ちゃん」

「あら? そうでしたかしら?」

「どっちでもいいから先へ行くぞ」

 黎明樹の巫女が収監されている牢屋は数分先にあった。
 洞窟の壁をくり抜いて作った牢屋は、人一人が生活するには十分な広さがあった。しかし、とても快適な環境とは言えない。

「騒がしいと思ったら、大魔王さまが来るとは思わなかったわ」

 牢屋の中に備えられたソファには十五歳くらいの少女が座っていた。その少女にはエルフの特徴である横に長い耳が付いている。髪の色は他のアークフェリス族と違って銀色だ。
 おそらく、彼女が黎明樹の巫女で間違いないだろう。

「なんだ、聞こえていたのか。それなら話は早いな」

 黎明樹の巫女がソファから立ち上がり、鉄格子に近づいてきた。

「君が黎明樹の巫女、セレスティーさんかな?」

「そうよ。あなたはわたしの王子さま?」

 セレスティーは切れ長の美しい目でセブンスの顔を覗き込む。

「ん? 王子さま?」

(なんか食い違いがあるみたいだ)

「俺は黎明樹の妖精から君の護衛するように言われてきた。セブンス・クロイツだ。出発する用意はできているか?」

「その前に手を……」

 黎明樹の巫女から魔力が迸る。凄まじい魔力放射が感じられる。

(そうか、俺を試そうとしているんだな)

「セブンスさま、危険です!」

「心配ないよ、クラウ」

 セブンスは鉄格子の隙間から彼女の手を握った。
 予想していたことだが、彼女の右手から大量の電気がセブンスの右手に流れ込み、右半身を流れ、さらに右足を通って地面に抜けていった。

「ぐわっー!」

 肉が焦げる煙と匂いが辺りに充満していく。

(さ、さすがにきつい)

「お兄ちゃん!!」

「セブンスさまっ!」

 セブンスの体はブルブルと震えて、右半身が瞬く間に炭化していく。
 だが、黎明樹の巫女は電気の放電を止めない。
 ついに、セブンスは立っていられなくなり、通路に倒れこんだ。彼女の右手には炭化したセブンスの手が握られている。

「何するのよ!」

 フェルが叫ぶと、神獣の姿に戻り巫女を威嚇する。

「グルグルグルー」

「まあ、王子さまは馬ではなく神獣と一緒にやってきたのね」

「あ、あなたいかれてるわ!」

 クラウがセブンスを牢屋から引きずるようにして遠ざける。

「クラウ! わたしに任せて!」

 ミスティーが姿を現し、セブンスに回復魔法を施そうとする。
 ちょうどその時、セブンスが意識を回復した。

「ミ、ミスティー、だ、大丈夫だから」

 セブンスは右の肺がやられてしまい。呼吸するのも困難な状態になっているので、声をだすのが辛そうだ。
 もっとも、これだけダメージを受けているのに心臓が動いているほうが奇跡的かもしれない。

「大丈夫なはずないじゃないの! 動かないで!」

 ミスティーの剣幕にセブンスは驚く。

「へぇ~、ミスティーが本当に怒った……」

「当り前じゃないの! 早く回復魔法をかけないと死んじゃうわよ!」

 その時である。セブンスの自動超回復魔法が起動した。
 失われた右半身が急速に再生していく。

「えっ?! どうして?」

 しばらくすると、セブンスの体は完全に元に戻った。
 だが、防御魔法を施してあった服はボロボロになって元には戻らない。黎明樹の巫女の電撃が完全に服の防御魔法の限界を超えていたようだ。

「ミスティー、怒ってくれてありがとう。でもこの通り、大丈夫だから」

「あのね~、心配させないでよね」

『お兄ちゃん!』

 フェルが神獣の姿のままでセブンスにのしかかる。
 フェルは幼体のフェンリルであるが、もとの体は牛よりも大きい。当然体重もかなり重い。

「フェル……。お、重い……」

 フェルは慌てて少女の姿に変身すると、今度は普通に抱きついた。
 いつもは隠れて変身するのだが、彼女としては体裁を気にする状況ではない。
 一方、クラウは黎明樹の巫女から目を離していない。彼女が何かしようとしたら、反撃するつもりでいるようだ。さすがに彼女は全体が見えている。

「クラウ、大丈夫だ。後ろに下がってくれ」

「はい、で、でも……仕方ありませんね」

 クラウは納得していないが、ゆっくりとセブンスの後ろに下がった。

「まったく……よくやってくれたよ。また戦闘レベルが上がっちゃったじゃないか」

 以前、セブンスは大賢者グランに電撃を食らい、大幅なレベルアップを果たしている。そのせいで電撃系の魔法には耐性ができているはずだが、黎明樹の巫女の電撃はそれをさらに上回る威力だったようだ。

「電撃魔法くらいで騒がしいわね。あなたは本当に王子さまなの? まだ子供みたいだし」

「君が言う王子さまがなんのことか俺は知らない。けれど、黎明樹の精霊から君を守護しろと言われている。だからここまで迎えに来た」

「黎明樹の精霊……、シルキーのことね」

「そうだよ。そのシルキーに言われている。君は俺のことについて何か聞いているか?」

「白馬の王子さまがわたしを迎えに来てくれるって聞いていたわ。でも詳しいことは判らないの」

「そうか……。君には行くところがあるんだろう?」

 黎明樹の元へ彼女は行くはずだ。そうでなければセブンスの役割が変更されたことになる。

「黎明樹のところへ行く必要があるの。でも、時間の余裕がないわ。早くここから私を出してちょうだい、王子さま」

「俺は王子さまじゃないぞ。もう一度いう。俺はセブンス・クロイツ。君のガーディアンだ」

「私はセレスティー。黎明樹の巫女よ」

「セレスティー。君をここから出す前に、聞いておかなきゃいけないことがある」

「なにかしら? わたしのスリーサイズなら秘密よ」

「それは秘密のままでいい」

「ええ~、聞いてくれてもいいのに」

「いや、遠慮しておく。それよりもだ」

 セブンスの顔つきが真剣になっただけでなく、周りの空気が変わった。まるで気温が一℃ほど下がったようだ。

「俺が来る前に六人ほど君のところに来なかったか? たぶん十六年くらい前に」

「いえ、来なかったわよ。わたしは十六年間独りぼっちだったわ。でも、天使モドキがたまに来てくれたけど」

「天使モドキ? まあそれはいいとして。もし、俺ではなくて他の守護者候補がここに来たとしたら、君は彼らにも電撃を使っていたか?」

「わたしには相手の実力が判るから、もしその人たちが弱ければ使わなかったわ」

「それなら俺の戦闘レベルも判っていたんだろうな?」

「え~と……、300くらい?」

 セレスティーは他人の戦闘レベルを鑑定する力を持っていないのは明らかだ。セブンスのステータス偽装でさえ感知していないようだ。

「俺の戦闘レベルは255だ。いや、だったかな。君は俺の実力を試すために電撃を食らわせたのだろう?」

 先程の電撃で生じた自動超回復が起動された。セブンスの戦闘レベルは312にまで上昇していた。それだけセレスティーの攻撃が強力だった言うことだ。
 そして戦闘レベル300台は、龍王の領域に達している。
 つまり、セブンスはミストガルでは最強の領域に足を踏み入れてしまったということだ。

「そうね……。あなたがそんなに弱いとは思ってなかったから……」

「もし、俺より先にここへ来るはずだった守護者候補に、君の電撃を食らわせたら一瞬で蒸発してしまったはずだ。君はそれを理解しているか?」

「でも、そんなに弱いのなら、ここまで辿り着けないはずよ」

「ああ、そうだな。彼らは実際、辿り着けなかった……」

 セブンスの目はセレスティーに向けられていたが、彼女を見てはいなかった。

「と、とにかく、あなたの言いたいことは解ったわ、セブンス。もう二度としないと誓うわ」

「そうだな。少なくとも敵だと判るまではやめてほしい」

「うん、そうする」

 セレスティーはさすがに自分の行動が軽はずみであることを理解したようだ。

「解ってくれればいい。被害は出ていないようだしな」

 セブンスは自分が被害を受けたことを棚上げにした。
 彼女に抗議するより、セブンスが黎明樹の巫女とようやく合流することができたことのほうが重要だからだ。
 この先、どんな困難が待っているか判らないが、とにかく一つ一つを潰していくしかない。

「セレスティーさん」

 少し涙目になっているセレスティーの前にクラウが歩み寄った。

「この鉄格子に張られている魔法障壁は、強制的に破壊すると検知される類のものでしょうか?」

「アークフェリス族の神官は、結界や魔法障壁に特化した魔法使いよ。何か異変があればすぐにバレると思うわ。ところで、あなた達はどうやってここまで来たの?」

「その神官に……ヒルダといったかな?……牢屋へ転送されたんだ」

「そうそう、ヒルダという名前だったわ」

「セレスティーがここに囚われているのには訳がありそうだが、うまく脱出できたら詳しく教えてくれ」

 セブンスはまたグラン邸を使った方法でセレスティーを牢屋の中から出すことにした。今度はフェルがグラン邸の中に入ってセレスティーの案内をすることになった。

 フェルがセレスティーがいる牢屋でグラン邸の扉を開けて、中へ彼女を導いてくれた。

「セレスティーお姉さん、忘れ物はないの?」

「こんなところに思い出の品はないから大丈夫。さっさと脱出しましょう」

 グラン邸の中に入ってからセレスティーはしばらく衝撃を受けていたが、牢獄の通路に出てくる頃には気を取り直していた。

「あなた達って、普通じゃないわね。こんな脱出方法があるなんて誰も知らないわよ」

「まあ、そうだろうな。秘密にしてくれよ」

「もちろんよ。こんなこと誰にも言えないわ」

「次はこの牢獄からの脱出だ」

 ただの案内役だと思っていた神官は、結界や魔法障壁のスペシャリストだった。彼女が重要な情報を握っているのは間違いないだろう。

 謎はたくさんあるが、今はこの牢獄を脱出することが再優先事項である――
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