エルフの巫女のガーディアン ~エルフの巫女を護衛するだけの簡単なお仕事って言ったよな?~

玄野ぐらふ

文字の大きさ
49 / 59
第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事

第49話 風呂に入りたい

しおりを挟む
 グラン邸セブンスの部屋で、メイド兼セブンス補佐のクラウはベッドでうなされている主と、そこに寄り添うセレスティーを心配そうに見ていた。

「う~ん、誰かが追いかけてくる……助けてくれ……」
 セブンスの枕元でエルフの巫女セレスティーが彼の手を握って心配そうに見つめている。

「お兄ちゃんからいい匂いがする」
 そしてフェルはというと、なぜかセブンスの焦げた匂いが気に入ったらしく、ベッドに寝かした後もスンスンと匂いを嗅いでいた。
 ――この子はいつもマイペースでいいわね。
 クラウはフェルのことを羨ましく思った。

 暗黒魔境に突入してから一週間目のことである。
 魔族少女のアイルが〈真祖の剣〉の影響を受けて暴走し――まあ、魔獣の生命力を吸い取ったせいで欲情してしまったのだが――それを見たセレスティーがアイルとセブンスの浮気を疑ってセブンスに電撃を食らわせたわけだ。
 このときセレスティーは冷静な判断力を持っていたわけではない。事の真相は、アイルの乱れ様に、初めて見る女の欲情に驚いてしまったからだろう。
 クラウはセレスティーが何百年生きているのか知らないが、心は純真な乙女のままなのだと改めて理解した。
 ようするにセブンスは冤罪だったのだが、セブンスが〈真祖の剣〉をアイルに使わせたことが原因なので、多少の責任はある。もっとも、セブンスからしてみれば不可抗力なのだろうが……。
 とはいえ、アイルが軽症で済んだことは不幸中の幸いである。もし、セブンスと同じレベルの電撃を受けていたら即死の可能性があったし、一命を取り留めた場合でも治癒のスペシャリストであるセブンスも気絶しているのだ。それに加えて水の精霊ミスティーもセブンスでないと召喚できない。
 つまり、かなり危険な状況に陥る可能性があったことは確かである。

 そしてアイルの方だが、セレスティーの電撃で気絶しただけだった。おそらく女の子なので手加減したのだろう。しかし、なぜかセブンスは半分黒焦げになっていた。
 落雷による火傷は結構エグい。普通の人間が落雷にあうとリヒテンベルク図形という稲妻に似た形状の火傷後が残ってしまう。しかし、セブンスは自動超回復というスキルを持っているので、即死しなければ今まで以上に耐性が上がるし、勝手に怪我は治癒する。正確にいうと戦闘レベルも上がる。

 電撃で二人を気絶させたセレスティー自身は、しばらく茫然自失の状態だったが、今は復活している。
「わたし、謝らないからね」セレスティーはそう言いながらもセブンスの枕元を離れない。

「セブンスさまはチートですから心配しなくてもすぐに回復しますよ」とクラウはセレスティーを慰めるが「チート」という言葉を彼女が知る由もない。

「でも、こんなにうなされている。わたしが怖いのかしら?」セブンスがうなされているのは自分のせいだとセレスティーは思っているようだ。
「それは違うんじゃないかな~」クラウが曖昧な返事をする。

 この時、クラウは恐怖に慄いた。
 もし、セブンスがうなされているのは別の女絡みだと知ったら、セレスティーが再び癇癪を起こす可能性があるからだ。
 クラウがその原因と考えているのは龍神族の戦姫であるシャルロットのことだ。
 セブンスはシャルロットたちに断りもなくエルフの里を脱出した。ようするに、彼らを置き去りにしたのである。
 そのことにセブンスは罪悪感があるのだとクラウは考えている。

 実はセブンスがうなされるのは今回が初めてではない。
 暗黒魔境に入った頃から毎晩うなされていたのだが、本人は誰にも話していない。だが、いつもセブンスの世話をしているクラウが知らないはずはないし、いつも一緒に寝ているフェルも気がついている。

「フェルちゃん、セブンスさまがうなされているようですが、何か心当たりありますか?」
 セレスティ―はセブンスの怪我だけでなく、うなされていることも気にしている。
 その原因がもしかしたら自分の責任ではないかと思い始めているからだ。

「お兄ちゃんは龍のお姉ちゃんを怖がっているんだよ」
 クラウの心配をよそに、フェルがあっさりとばらしてしまう。

「龍のお姉ちゃん?」
 セレスティーがエルフの里から救出されてたとき、シャルロットたちはそこに居なかったので、セレスティーは彼女たちのことを知らないのだ。

「そうだよ。龍のお姉ちゃんを置き去りにしたから怖いんじゃないかな」
 セブンスは龍神族の姫であるシャルロット、その従者であり人族のオリヴィエ、そして戦闘メイドのノエルの三人を〈エルフの里〉に置き去りにした。

 何故そうしたのか? セブンスの真意はわからないが、その行為を後悔しているのは間違いないだろう。そうでなければ誰かに追われる悪夢を見る理由はなさそうだ。

「その話は聞いていません。詳しく教えて下さい、クラウさん」
 追求の矛先がクラウに向かい、セレスティ―の眉間に皺が寄る。雲行きが怪しくなってきたが、いつかバレることだ。
 しかし、それはセブンスの口から説明されるべきないようなので、クラウは話をごまかそうとした。

「そろそろ夕食の支度をしないと。フェルちゃん、今晩は何を食べたい?」
「焼き肉~!」



    ◇ ◆ ◇



 龍神族の戦姫シャルロットの瞳からは怒りの炎が吹き出しそうだった。
 自分たちが護衛しようとしていた男に逃げられて、従者たちの前で恥をかかされたのだ。龍神族の戦姫としての矜持が許さないし、怒り心頭なのは当然のことだろう。
 それにツバサを護衛するミッションは、偉大なる龍神族の長であり、尊敬すべき父親からの勅命なのだ。シャルロットにとって失敗はありえない。

 しかし、それは建前であって本当の理由ではないのかもしれない。
 龍神族の戦姫シャルロットは自分よりも強い男との婚姻を切望していた。逃げた男は人族にもかかわらず、明らかに自分よりも強く謎に満ちた男だった。

 シャルロットの人生ではじめて好意を持った男性――

 戦闘に明け暮れて恋愛沙汰とは無縁だった戦姫に、恋愛に対する耐性は皆無である。
 そんな彼女の初恋はエンシェント・ドラゴンの体重よりもよりも重いのだ。



 シャルロットたちはセブンスの後を追って暗黒魔境へと突入していた。

「シャルロットさま! 前に出すぎでございます!」

 戦闘メイドのノエルが叫ぶ。
 シャルロットが相手にしているのは、オーガの中位種であるオーガ・ゼネラルの軍団だ。
 オーガ・ゼネラルは暗黒魔境において他大陸のゴブリンに相当する。つまり、数が異常に多いのだ。
 他の大陸ではオーガ・ゼネラルが一つのコロニーに多数存在することは少ない。それでも、都市近郊で発見されたら一体であっても討伐部隊が編成されるほどの危険な存在なのだ。

「オリヴィエさん! シャルロットさまの援護を!」
「判っている。心配し過ぎだぞノエル!」
 魔法障壁のスペシャリストであるオリヴィエは、シャルロットの側面に扇状の魔法障壁を張り続けて、常にオーガ・ゼネラルの二~三体だけがシャルロットと対峙するように調整している。

 ところがそこで、シャルロットのスイッチが入ったらしい。
 龍神王国の姫君は魔剣〈黒龍〉を片手にオーガ・ゼネラルの中に単独で突入した――

「ツバサのやつ! わたしの気も知らないで!」

 オーガ・ゼネラルは三メートルを超える巨体であるが、魔獣の中ではかなり動きが速い方だ。しかし、それでもシャルロットのスピードについて行ける程ではなく、次々とオーガ・ゼネラルの首が落ちていく。
 それはシャルロットの尋常ではない剣技、スピード、膂力だけが為せることではなかった。魔剣黒龍の剣先から伸びる黒い帯が自由自在に動き、勝手にオーガ・ゼネラルの首を落としていくのだ。

「こ、こいつは凄い……」オリヴィエが絶句する。
「シャルロットさまはどうされたのでしょう?」今まで見たことのないシャルロットの戦い様に、ノエルは動揺を隠せない。

 オリヴィエもノエルもシャルロットの猛攻を呆然として見つめるしかない。
 おそらく、二人がこの戦いの中に入っても、シャルロットの足を引っ張ることしかできないだろう。

「なあ、ノエル。シャルロットさまどうしてこうも怒っているんだと思う?」
「決まっているではありませんか。ツバサが逃亡したからではありませんか」
「それは判っているんだけどな。もともと奴は護衛の必要がないほど強い。だから、追いつけば任務のリカバリはできたことになる」
「ええ、たしかにそうかも知れませんが……」
「そうだ、あれほど荒れる必要はないと思うんだがな」

 そして、一方的な虐殺は半時間ほどであっけなく終了した。
 戦いの後にはオーガ・ゼネラル五十体ほどの首が転がっていたのは言うまでもない。
 そして、そこには血塗れになって仁王立ちするシャルロットの姿があった。

「風呂に入りたい……」

 もちろん、シャルロットが入りたい風呂とは、グラン邸の大浴場のことだろう。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...