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第1章 クソ勇者からはじまる簡単なお仕事
第57話 暗黒大陸の魔王
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「なんだその目は」
フレッチャーが冷徹な目線を向けると勇者は一瞬だけ怯んだ。
今まで勇者が勝手気まま自由奔放にやってこれたのは、王国が蝶よ花よともてはやし、神の使徒のように扱ってきたからだ。
敵意を向ける者に対しては権力に物を言わせて捻じ伏せ、好みの女はすべて犯した。
どれだけの犠牲者が出たのだろう?
今となっては恐怖に慄く目と、何を勘違いしたのか畏敬の眼差ししか向けられなくなった。
ところが今この瞬間、王国一の大魔導師であるフレッチャーが憎悪の目を向けている。
その男はモブではない――
一方のフレッチャーは戸惑っていた。
誰とも親密にならずに生きてきたフレッチャーは、人質を捕られるような機会はなかった。もちろん、人質奪還という任務はあったが、それはあくまでも他人事だ。
今まで通り冷静な判断を下し、敵を殲滅すればいい。人質が傷つくことなど気にせず奪い返せばいい。そのはずだった。
だが、今は違う――
アーデルハイト皇女が傷つくことを恐れている自分がいる。心の中に芽生えた新たな感情を理解できずにいる。
その感情が勇者に対する怒りを加速させた。そしてフレッチャーの心のベクトルが氷点下から高熱へと反転した。
「や、やめてください。後生です」
アーデルハイト皇女は震えながら勇者の手を押さえるが、勇者はお構いなしに彼女の上着のボタンを外し始めた。
(年端もいかない少女になんてことを……)
「貴方は魔王からこの国を救う勇者ではないのか?」
勇者の隙きを誘うための問だ。心の琴線に触れることができるならば、内容はどうでもいい。
「この国を救う? 魔王から?」
首を傾げる勇者。
「それであってる」
「ならばその娘を解放してくれ。私が捕縛されれば貴方の目的は達成される」
「俺はこの国を救ってやる。魔王の手から守ってやる。だからそれ以外は好きにやらせてもらうぜ。それにな、お前が捕まるのは確定事項だ」
満面の笑みを浮かべる勇者。
アーデルハイト皇女から手を離さないので、フレッチャーは攻撃を仕掛けられない。
「取引にならんな」
フレッチャーは唐突に跪いた。
「お願いだ……」
大魔導師と謳われたフレッチャーが媚を売っている。勇者からはそう見えたに違いない。
勇者の顔がいやらしく歪む。
「いいだろう。お前がキリルに勝ったらこの娘を解放してやってもいいぞ」
キリルとは勇者を神格化している大柄な戦士だ。
そのキリルがすぐに前へ進み出る。
「ルールは魔法無し、武器有り、どちらかが戦闘不能になるまでだ」
完全に魔法師殺しのルールだ。
だが、フレッチャーは受けるしか道がない。
「キリルちゃん、早く終わらせて」
「ういっ!」
キリルは巨大に似合わないスピードでフレッチャーに迫り、バスターソードを右上段から左下段に叩き込む。
フレッチャーは細身の片手剣の腹で受け流しながら横に飛ぶ。
素早さでは若干の優位性があるものの、キリルの圧倒的なパワーにフレッチャーは焦りを感じた。
(このままでは殺られる)
剣が交差するたびに切り傷が増えていき、反撃の隙を見つけることができない。
「ぐわっ!」
キリルの前蹴りがフレッチャーの腹に食い込み、数メートル飛ばされた。
「治癒魔法も禁止だぜ」
フレッチャーはすぐに立ち上がろうとするが、足元が覚束ない。
キリルがすぐさま横薙を叩き込む。
辛うじて剣で受け止めるが、再び飛ばされる。
(この馬鹿力が!)
「やめてください! フレッチャー様が死んでしまいます」
駄目だアーデル、勇者に屈してはいけない。
フレッチャーは必死で訴えようとしたが声が出ない。
「キリル、そこまでだ!」
キリルは不満そうであるが、おとなしく従った。彼からすれば勇者は神に等しい存在なのだ。当然のことだろう。
「お願いばかりだな。俺の言うことを何でも聞くなら助けてやってもいいぞ」
「……何でもします。お願いですからフレッチャー様を助けてください」
「はじめから俺の言うことを聞いておけばよかったんだよ」
そう言うと、勇者は腰のベルトを緩め始めた。
アーデルハイト皇女はフレッチャーが生きていることを確認すると、天を向いて祈った。
「こっちを向け!」
勇者がアーデル無理矢理にしゃがませる。
「このゲスが!」
隙きを突いて一人の若者が剣を片手に勇者に飛びかかった。
それはヴィルフリート皇子だった。
「そこまでだ小僧!」
ヴィルフリート皇子の果敢な攻撃はキリルの一閃で勇者には届かなかった。あまりにもパワーが違い過ぎる。
もし身体強化していなかったら真っ二つに切り裂かれていただろう。
「お兄様っ!」
ヴィルフリート皇子はぐったりとしているが、息はあるようだ。
「無駄な足掻きを」
その時、天空を雷雲が覆い始めたことにフレッチャーが気がつく。
(これは自然現象ではない)
「ぐわっはっはっはっ! 皆の者! 我にひれ伏せ!」
勇者とフレッチャーの近くに漆黒のマントを羽織り、怪しい仮面を被った男が立っていた。
「誰だ貴様は!」
勇者がお約束通りに誰何する。
「おおっ、いい感じで聞いてくれたな!」
その怪しい男は後ろを振り向いて∨サインを送った。
その後ろには二人の女性が立っていたが、怪しい男と同様に仮面を被っているのでその表情は分からない。
「我が名はセブンス・クロイツ。暗黒大陸を統べる魔王だ!」
「な、何だと!」
初めて聞く名に、勇者は動揺を隠せない。
「嘘つけ! 暗黒大陸に魔王などいない!」
「それが居るんだな~」
フレッチャーは好機とばかりに周囲の状況を確認する。
「え~と、どっちの味方に付けばいいんだ?」
仮面の魔王が辺りを見回した――
フレッチャーが冷徹な目線を向けると勇者は一瞬だけ怯んだ。
今まで勇者が勝手気まま自由奔放にやってこれたのは、王国が蝶よ花よともてはやし、神の使徒のように扱ってきたからだ。
敵意を向ける者に対しては権力に物を言わせて捻じ伏せ、好みの女はすべて犯した。
どれだけの犠牲者が出たのだろう?
今となっては恐怖に慄く目と、何を勘違いしたのか畏敬の眼差ししか向けられなくなった。
ところが今この瞬間、王国一の大魔導師であるフレッチャーが憎悪の目を向けている。
その男はモブではない――
一方のフレッチャーは戸惑っていた。
誰とも親密にならずに生きてきたフレッチャーは、人質を捕られるような機会はなかった。もちろん、人質奪還という任務はあったが、それはあくまでも他人事だ。
今まで通り冷静な判断を下し、敵を殲滅すればいい。人質が傷つくことなど気にせず奪い返せばいい。そのはずだった。
だが、今は違う――
アーデルハイト皇女が傷つくことを恐れている自分がいる。心の中に芽生えた新たな感情を理解できずにいる。
その感情が勇者に対する怒りを加速させた。そしてフレッチャーの心のベクトルが氷点下から高熱へと反転した。
「や、やめてください。後生です」
アーデルハイト皇女は震えながら勇者の手を押さえるが、勇者はお構いなしに彼女の上着のボタンを外し始めた。
(年端もいかない少女になんてことを……)
「貴方は魔王からこの国を救う勇者ではないのか?」
勇者の隙きを誘うための問だ。心の琴線に触れることができるならば、内容はどうでもいい。
「この国を救う? 魔王から?」
首を傾げる勇者。
「それであってる」
「ならばその娘を解放してくれ。私が捕縛されれば貴方の目的は達成される」
「俺はこの国を救ってやる。魔王の手から守ってやる。だからそれ以外は好きにやらせてもらうぜ。それにな、お前が捕まるのは確定事項だ」
満面の笑みを浮かべる勇者。
アーデルハイト皇女から手を離さないので、フレッチャーは攻撃を仕掛けられない。
「取引にならんな」
フレッチャーは唐突に跪いた。
「お願いだ……」
大魔導師と謳われたフレッチャーが媚を売っている。勇者からはそう見えたに違いない。
勇者の顔がいやらしく歪む。
「いいだろう。お前がキリルに勝ったらこの娘を解放してやってもいいぞ」
キリルとは勇者を神格化している大柄な戦士だ。
そのキリルがすぐに前へ進み出る。
「ルールは魔法無し、武器有り、どちらかが戦闘不能になるまでだ」
完全に魔法師殺しのルールだ。
だが、フレッチャーは受けるしか道がない。
「キリルちゃん、早く終わらせて」
「ういっ!」
キリルは巨大に似合わないスピードでフレッチャーに迫り、バスターソードを右上段から左下段に叩き込む。
フレッチャーは細身の片手剣の腹で受け流しながら横に飛ぶ。
素早さでは若干の優位性があるものの、キリルの圧倒的なパワーにフレッチャーは焦りを感じた。
(このままでは殺られる)
剣が交差するたびに切り傷が増えていき、反撃の隙を見つけることができない。
「ぐわっ!」
キリルの前蹴りがフレッチャーの腹に食い込み、数メートル飛ばされた。
「治癒魔法も禁止だぜ」
フレッチャーはすぐに立ち上がろうとするが、足元が覚束ない。
キリルがすぐさま横薙を叩き込む。
辛うじて剣で受け止めるが、再び飛ばされる。
(この馬鹿力が!)
「やめてください! フレッチャー様が死んでしまいます」
駄目だアーデル、勇者に屈してはいけない。
フレッチャーは必死で訴えようとしたが声が出ない。
「キリル、そこまでだ!」
キリルは不満そうであるが、おとなしく従った。彼からすれば勇者は神に等しい存在なのだ。当然のことだろう。
「お願いばかりだな。俺の言うことを何でも聞くなら助けてやってもいいぞ」
「……何でもします。お願いですからフレッチャー様を助けてください」
「はじめから俺の言うことを聞いておけばよかったんだよ」
そう言うと、勇者は腰のベルトを緩め始めた。
アーデルハイト皇女はフレッチャーが生きていることを確認すると、天を向いて祈った。
「こっちを向け!」
勇者がアーデル無理矢理にしゃがませる。
「このゲスが!」
隙きを突いて一人の若者が剣を片手に勇者に飛びかかった。
それはヴィルフリート皇子だった。
「そこまでだ小僧!」
ヴィルフリート皇子の果敢な攻撃はキリルの一閃で勇者には届かなかった。あまりにもパワーが違い過ぎる。
もし身体強化していなかったら真っ二つに切り裂かれていただろう。
「お兄様っ!」
ヴィルフリート皇子はぐったりとしているが、息はあるようだ。
「無駄な足掻きを」
その時、天空を雷雲が覆い始めたことにフレッチャーが気がつく。
(これは自然現象ではない)
「ぐわっはっはっはっ! 皆の者! 我にひれ伏せ!」
勇者とフレッチャーの近くに漆黒のマントを羽織り、怪しい仮面を被った男が立っていた。
「誰だ貴様は!」
勇者がお約束通りに誰何する。
「おおっ、いい感じで聞いてくれたな!」
その怪しい男は後ろを振り向いて∨サインを送った。
その後ろには二人の女性が立っていたが、怪しい男と同様に仮面を被っているのでその表情は分からない。
「我が名はセブンス・クロイツ。暗黒大陸を統べる魔王だ!」
「な、何だと!」
初めて聞く名に、勇者は動揺を隠せない。
「嘘つけ! 暗黒大陸に魔王などいない!」
「それが居るんだな~」
フレッチャーは好機とばかりに周囲の状況を確認する。
「え~と、どっちの味方に付けばいいんだ?」
仮面の魔王が辺りを見回した――
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