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ライバル出現
しおりを挟む—その日の夕方。
昼間に予定していた観光場所を、道に迷いながらもなんとか全部回ることができた。
ートントン。
まな板に刺さる包丁音。
今は、今日の夕ご飯の準備をしている。
班のみんなで協力して自分たちで夕飯を作る。
旅行の定番といえば定番。
「ねえ、美雨は神社で何のお願い事をしたの?」
ふいに聞いてきた繭に、切っていた包丁の手がピタッと止まってしまった。
「やっぱり、太陽くん?」
横にいる繭を見ると、ニタリとこちらを向いて笑っている。
「繭こそ、何をお願いしたの?
やっぱり、彰くん?」
私も繭に負けずと、ニタリと笑う。
「な...っ!」
私がそう言うと思っていなかったのか、目を見開いて驚いている。
「私が知らないとでも思った?」
彰くんと繭が最近毎日、一緒に帰っているのは知ってたし、今日もずっと、彰くんの傍にいた。
それに、彰くんが他の女の子と話していると、繭ったら不安そうに彰くんを見てるんだもん。
それで気づかない方がおかしい。
「いや~...へへ...っ
美雨には、わかっちゃうか~」
少し諦めたように、でもどこか嬉しそうに言った。
「好きなんでしょ?」
彰くんのこと。
「出逢って間もないけど、気付いたら...ね?好きになってたみたい」
「そっか。告白は、しないの?」
「しないしない!今の関係壊したくないしっ!
だけど、いつか伝えられたらいいな、とは思ってるよ」
そう言った繭は、いつもの繭とは違って見えた。
弱々しく、でも守って上げたくなるような、そんな可愛らしい女の子に見えた。
「彰くんに伝えられたら、いいね」
いつか彰くんに届きますように。
繭には、好きな人と幸せになってほしいから。
そう願わずには、いられない。
でもね、繭。
たぶんだけどね?
彰くんもきっと、繭のこと好きだと思うよ?
でも、このことは繭には言わない。
ちゃんと、繭のペースで頑張ってほしいと思うから。
私にできることは...。
「話しだったら、いつでも聞くからね。」
これしかないと思うから―。
「ふふっ、ありがとう美雨。」
心底嬉しそうに微笑んだ繭。
「って、違うよ!私は、美雨のことが聞きたいの!で、お願い事したのよ?」
「太陽のことじゃないよ?」
本当に、太陽のことじゃない。
太陽のことをお願いしたって、叶わないのだから。
「じゃあ、何にしたの?」
「私、繭からまだお願い事なににしたのか、聞いてないよ?」
口角を少しだけあげて、意地悪をしてみる。
「…っ!
もう、わかってるでしょ?」
美雨のばか、と最後に言葉を付け加え、顔を赤らめて小さく言った。
うん、分かってる。
繭の願い事。
それは《彰くんと両想いになれますように。》。
それでも、繭の口から聞きたくて、つい意地悪をしてしまった。
「ふふっ、ごめんね」
「もうっ、ほら美雨も言いなさいよっ」
「本当に太陽のことじゃないんだよ?」
「なら、なおさら言えるじゃない」
「ほら、よく願い事を口にしちゃいけないって言うじゃん?
言ったら、叶わなくなるって、ね」
それが本当かどうかなんてわからないけど、ちょっとだけ信じちゃう自分がいる。
私にとって、この願い事は叶って欲しいから。
私の願い事。
それは《みんなとずっと一緒にいられますように。》。
何故か、この願い事をしなくちゃいけないって思っちゃったんだよね。
みんなが離れていくかもって、不安になったからかな。
「確かに...。じゃあ、聞かないことにする!
それにしても、さっきから気になってるんだけど、あいつなんなの?」
繭は、ある女の子に指をさした。
繭の指をさした方向に視線を向ける。
「あ...」
そこには、太陽の腕に絡みついている一人の女の子がいた。
彼女の名前は、柏木由佳(かしわぎ ゆか)。
同じクラスで、とても派手で目立つ子。
私のことを酷く嫌っている。
その理由は、太陽のことが大好きだから。
私のことが嫌いなのは、太陽の傍にいる私が許せないんだと思う。
今までも太陽にアピールしている柏木さんを見ていたけど、太陽も相手にしていなかったし、私もそれに安心して気に留めていなかった。
でも、改めて二人を見ると、モヤモヤした気持ちが溢れてくる。
それが例え、太陽が相手にしていなくても、だ。
*ーーーーーーーーーーーーーーーーーー*
『ねえ、太陽く~ん。今日の夜、二人で抜け出さない?』
*ーーーーーーーーーーーーーーーーーー*
「ねえ、太陽く~ん。二人で夜、抜け出そうよ~」
あれ...?
語尾を伸ばして、甘ったるい猫声で可愛く言っている柏木さんの声が、ハッキリと私の耳に聞こえた。
そして、ちらりと私の方を見てから、不敵な笑みを零す。
それが少し怖く感じて、柏木さんからパっと視線を逸らしてしまう。
*ーーーーーーーーーーーーーーーーーー*
『あいつ、やっぱ太陽くんのこと狙ってるよ!?』
*ーーーーーーーーーーーーーーーーーー*
「あいつ、やっぱ太陽くんのこと狙ってるよ!?」
眉間に皺を寄せ、少し怒っている繭。
…また、だ。
この会話なんて初めてするのに…。
繭の言いたい言葉が、
タイミングが、
ー何故かわかる。
こんなことって、ある?
「美雨?聞いてる?」
何も答えない私に繭は、不安そうに聞いてきた。
「あ、うんっ。聞いてるよ?」
「太陽くんには、美雨がいるのにさ、よく堂々と太陽くんを狙えるもんだわ。」
繭は、呆れ顔でそう言った。
太陽には私はいる、の意味はよくわからない。
でも、柏木さんは確実に太陽のことを狙っているのはわかる。
じゃないと、あんな笑みをしないからー。
太陽と一緒にいるのは、あんたじゃない。私なの。とでも言いたそうな...
自信を持った笑みを―。
「美雨は、太陽くんがあいつと付き合ってもいいの?」
繭にそう言われて、太陽と柏木さんが並んだふたりを想像してみる。
〝友達〟としては、祝福したい。
でも、心からおめでとうって、言えるかな?
...ううん、言えない。
だって、こんなにも胸が痛いのだからー。
ぎゅっと自分の胸を服の上から強く握る。
「…嫌だよ。でもね?それを決めるのは...太陽だから。」
太陽の気持ちを無視してまで、太陽と付き合いたいとは思わない。
そんなの、悲しいだけだから。
一緒にいても、きっと虚しいだけだから。
「そう...。私は、美雨の味方だからね!話なら、いつでも聞くからね?」
私の背中をバシッと喝を入れるかのように軽く叩いた。
「繭、ありがとう」
繭が私の友達でよかったと、そう思う。
繭の一言一言が、私に元気をくれるから。
ねえ、太陽。
太陽にとって、私はやっぱり〝友達〟のままですか―?
私は、一人の男の子として好きだよ?
太陽のことが好きだよ。
君に伝えたい。私のこの気持ちを―。
繭を見てより、そう思う。
振られると分かっていてもー。
それでも、私の気持ちを伝えられたらいいなって―。
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