雨の日に傘をさして、きみにアイにいく。

あびくらむげ

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さよなら私の好きな人

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「ふぅ~...」


窓の近くにあるソファー椅子に、一息つきながらゆっくりと腰を掛ける。


晩御飯を食べ終え、あとは就寝するだけ。
就寝時間までは、このホテルの外に出ない限り自由にしていいみたい。


班で話す子たちもいれば、女の子たちで部屋に集まっている子など、最後の卒業旅行をそれぞれ楽しんでいる。
もちろん、私も。


この部屋には、今、私一人しかいない。


繭は、彰くんたちの部屋に遊びに行っている。
もちろん、私のことも誘ってくれたけど、今はなんとなく一人になりたかったので、断らせてもらった。


「綺麗...」


窓から空を見上げる。
そこには、幾度となく光って見える星たち。


外に行きたいな...。
せっかくなら、窓越しじゃなくて生で見たい。


就寝時間まで時間もあるし、先生たちにバレなかったら、ちょっと外に出てもいい、よね?


確か、このホテルって、屋上があるんだよね。
パンフレットに屋上ありますって書いてあったのを覚えている。


仮に先生たちのバレても、言い訳はできるしね。
…うん、そうしよう!


こっそり部屋から出て、先生たちにバレないように屋上までの階段をゆっくりと上る。
でも、そんなに階段がなかったのか、すぐに着いた屋上。


そっと、音をたてないように扉を開ける。


でも、そこには太陽と柏木さんの姿があった。


真っ暗で顔までは確認できないけど、間違いない。
ううん、見間違えるはずがない。
あれは、太陽だ。


どうしようかと思っていると…


「太陽くんの気持ちを聞かせてよっ!」


焦っているような…泣いているような可愛らしい声が聞こえた。
この声は、やっぱり柏木さん。


何の話をしてるんだろう?
少し...ううん、だいぶ気になったけど、男女が夜にふたりで会う理由なんて、ひとつしかない。


きっと、告白だ。
―告白の邪魔をしちゃいけない。


そう思い、扉をゆっくり閉じようと思ったその瞬間。


「好きだよ。自分でもびっくりするくらいすげぇ好きなんだ。」


愛おしそうな、今までに聞いたことのない優しい声色がはっきりと聞こえてきた。
それは、間違いなく太陽の声だった。


...っ!
太陽って、柏木さんのこと…っ


扉が途中で開いていたのが悪く、強い夜風が吹いた途端、ギーッとした扉の揺れる音が鳴っってしまった。
その音に反応して、太陽と柏木さんが扉の方に顔を向ける。


「み、う?」


...っ!


太陽のその声にビクリと体が跳ねてしまう。


「あ...っ、その...っ、ごめんなさい!」


どうしたらいいかわからず、ただ今はその場にいたくなくて、
柏木さんと太陽に背を向け、走って自分の部屋に戻る。


後ろから何かを言っていた声が聞こえたけど、私は聞こえないふりをした。


ーガチャ。
部屋に入った瞬間に、ポロポロと目から溢れ出す小さな雫たち。


「…っ、ふっ....ぅ...っ」


扉を背にして、その場に崩れ落ちる。


知らなかった...
太陽が柏木さんのことが好きだなんて...っ


じゃあ、なんで。


「なん、で...っ」


この前、私を抱きしめたりしたの?


ふと、この前の太陽の言葉を思い出す。


『俺を信じて欲しい』


この言葉の意味って、もしかしてこのことだったの?
俺は、柏木さんのことがちゃんと好きって。
このことを信じてくれって、ことだったの?


「なん、なの...っ」


そんなことなら、期待しなきゃよかった。
太陽も私のこと、好きなのかもって…
少しでも、そう思った自分が恥ずかしい。


そんなこと、これっぽっちもなかったのにっ


「ふぇ...ぅ...っ」


忘れたい。
忘れたいよ、太陽をー。


好きって気持ちを...っ


ーもう、言わない。
伝えない。


ううん、伝えられない。
太陽に、自分の気持ちは言わないから。
だから、せめて今だけは。
今だけは、言わせてほしい。


誰も聞いていない、この部屋ではー。


「す、き...っ」


大好き。
太陽のことが好きなの。


「た、ぃよ...っ、好き...っ」


柏木さんと幸せになってね?
でも、今日だけは。
今日で太陽への気持ちにちゃんと蓋をするから。


だから。
だから、今日だけは、泣かせてください。


「た...い、よ...っっ」


さようなら。
私の大好きな人―。







「...んっ」


カーテンの隙間から朝の眩しい光で目が覚める。


あれ、昨日...って。


昨日の自分を思い出す。


私...泣くだけ泣いて、そのまま寝ちゃった...?


目がヒリヒリと少し痛みがする。


隣で眠っている繭を起こさないように起き、鏡で自分の顔を見てみる。


「うわあ....ひっどい顔...」


鏡には、目がパンパンに腫れている自分が映っていた。
原因は、昨日の泣いたせいだってことが容易にわかる。


まあ、あんなにたくさん泣いたらそりゃ腫れちゃうよね...。


まだ起床時間まで時間もあるし、できるだけ目の晴れを抑えないと。


タオルを冷水で濡らし、目に当てる。
これで、みんなと顔を合わせるまでには、少しは腫れもひいているはず。


それに、この顔じゃ太陽に会えない。
違う、私が会いたくない。


でも…今日、ちゃんと太陽の顔を見れるかな?
柏木さんとのこと、笑顔で「おめでとう」って言わなきゃな…
応援してるよって...


そんなこと、本当は一切思っていないのにー。
応援なんて、したくないのに。


私って、こんなに自分勝手だったっけ?
太陽の幸せが柏木さんといることだって、わかっているのに。


それでも、嫉妬してしまう自分がいる。


ほんと、自分が


「嫌になる...」


心の声がボソッと口から漏れてしまった。


心から応援したいと思うのに。
太陽が決めたことなのに。


いくら嫉妬したって意味はないのにー。


それに、ほら。
よく言うじゃん。
《初恋は実らない》って―。


次の恋にいかなきゃな...


そう考えると、ある一人の男の子が頭に浮かぶ。


「雨...男くん...」


なんで...?
なんで、思い出したの...


これじゃあ、まるで…
ううん、そんなことない。


雨男くんは、私の友達だもん。
好きなんかじゃない。


『美雨は、一人じゃないからね?』


その言葉を思い出し、無性に雨男くんに会いたい衝動に駆られた。
それと同時に何故か、ホッと安心してしまう私。


それは、私は一人じゃないと思ったからなのか。
それとも、窓越しだけど、彼の傍は、太陽と同じ暖かさの安心感があるからなのか。


「すぅ~、はあー」


自分の気持ちを落ち着かせたくて、大きく息を吸い、吐いた。
…うん、もう、考えるのは辞めよう。


考えたら、考えた分だけ太陽を想ってしまうから。
昨日で、太陽への気持ちに蓋をした意味が、なくなってしまうから。


私には、一人じゃないと言ってくれた雨男くんがいるじゃん。
雨が降ったら虹色の傘をさして、会いにきてくれる雨男くんがいる。


そう思ったら、少しだけ気持ちが軽くなった気がした。



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