8 / 17
さよなら私の好きな人
しおりを挟む「ふぅ~...」
窓の近くにあるソファー椅子に、一息つきながらゆっくりと腰を掛ける。
晩御飯を食べ終え、あとは就寝するだけ。
就寝時間までは、このホテルの外に出ない限り自由にしていいみたい。
班で話す子たちもいれば、女の子たちで部屋に集まっている子など、最後の卒業旅行をそれぞれ楽しんでいる。
もちろん、私も。
この部屋には、今、私一人しかいない。
繭は、彰くんたちの部屋に遊びに行っている。
もちろん、私のことも誘ってくれたけど、今はなんとなく一人になりたかったので、断らせてもらった。
「綺麗...」
窓から空を見上げる。
そこには、幾度となく光って見える星たち。
外に行きたいな...。
せっかくなら、窓越しじゃなくて生で見たい。
就寝時間まで時間もあるし、先生たちにバレなかったら、ちょっと外に出てもいい、よね?
確か、このホテルって、屋上があるんだよね。
パンフレットに屋上ありますって書いてあったのを覚えている。
仮に先生たちのバレても、言い訳はできるしね。
…うん、そうしよう!
こっそり部屋から出て、先生たちにバレないように屋上までの階段をゆっくりと上る。
でも、そんなに階段がなかったのか、すぐに着いた屋上。
そっと、音をたてないように扉を開ける。
でも、そこには太陽と柏木さんの姿があった。
真っ暗で顔までは確認できないけど、間違いない。
ううん、見間違えるはずがない。
あれは、太陽だ。
どうしようかと思っていると…
「太陽くんの気持ちを聞かせてよっ!」
焦っているような…泣いているような可愛らしい声が聞こえた。
この声は、やっぱり柏木さん。
何の話をしてるんだろう?
少し...ううん、だいぶ気になったけど、男女が夜にふたりで会う理由なんて、ひとつしかない。
きっと、告白だ。
―告白の邪魔をしちゃいけない。
そう思い、扉をゆっくり閉じようと思ったその瞬間。
「好きだよ。自分でもびっくりするくらいすげぇ好きなんだ。」
愛おしそうな、今までに聞いたことのない優しい声色がはっきりと聞こえてきた。
それは、間違いなく太陽の声だった。
...っ!
太陽って、柏木さんのこと…っ
扉が途中で開いていたのが悪く、強い夜風が吹いた途端、ギーッとした扉の揺れる音が鳴っってしまった。
その音に反応して、太陽と柏木さんが扉の方に顔を向ける。
「み、う?」
...っ!
太陽のその声にビクリと体が跳ねてしまう。
「あ...っ、その...っ、ごめんなさい!」
どうしたらいいかわからず、ただ今はその場にいたくなくて、
柏木さんと太陽に背を向け、走って自分の部屋に戻る。
後ろから何かを言っていた声が聞こえたけど、私は聞こえないふりをした。
ーガチャ。
部屋に入った瞬間に、ポロポロと目から溢れ出す小さな雫たち。
「…っ、ふっ....ぅ...っ」
扉を背にして、その場に崩れ落ちる。
知らなかった...
太陽が柏木さんのことが好きだなんて...っ
じゃあ、なんで。
「なん、で...っ」
この前、私を抱きしめたりしたの?
ふと、この前の太陽の言葉を思い出す。
『俺を信じて欲しい』
この言葉の意味って、もしかしてこのことだったの?
俺は、柏木さんのことがちゃんと好きって。
このことを信じてくれって、ことだったの?
「なん、なの...っ」
そんなことなら、期待しなきゃよかった。
太陽も私のこと、好きなのかもって…
少しでも、そう思った自分が恥ずかしい。
そんなこと、これっぽっちもなかったのにっ
「ふぇ...ぅ...っ」
忘れたい。
忘れたいよ、太陽をー。
好きって気持ちを...っ
ーもう、言わない。
伝えない。
ううん、伝えられない。
太陽に、自分の気持ちは言わないから。
だから、せめて今だけは。
今だけは、言わせてほしい。
誰も聞いていない、この部屋ではー。
「す、き...っ」
大好き。
太陽のことが好きなの。
「た、ぃよ...っ、好き...っ」
柏木さんと幸せになってね?
でも、今日だけは。
今日で太陽への気持ちにちゃんと蓋をするから。
だから。
だから、今日だけは、泣かせてください。
「た...い、よ...っっ」
さようなら。
私の大好きな人―。
・
「...んっ」
カーテンの隙間から朝の眩しい光で目が覚める。
あれ、昨日...って。
昨日の自分を思い出す。
私...泣くだけ泣いて、そのまま寝ちゃった...?
目がヒリヒリと少し痛みがする。
隣で眠っている繭を起こさないように起き、鏡で自分の顔を見てみる。
「うわあ....ひっどい顔...」
鏡には、目がパンパンに腫れている自分が映っていた。
原因は、昨日の泣いたせいだってことが容易にわかる。
まあ、あんなにたくさん泣いたらそりゃ腫れちゃうよね...。
まだ起床時間まで時間もあるし、できるだけ目の晴れを抑えないと。
タオルを冷水で濡らし、目に当てる。
これで、みんなと顔を合わせるまでには、少しは腫れもひいているはず。
それに、この顔じゃ太陽に会えない。
違う、私が会いたくない。
でも…今日、ちゃんと太陽の顔を見れるかな?
柏木さんとのこと、笑顔で「おめでとう」って言わなきゃな…
応援してるよって...
そんなこと、本当は一切思っていないのにー。
応援なんて、したくないのに。
私って、こんなに自分勝手だったっけ?
太陽の幸せが柏木さんといることだって、わかっているのに。
それでも、嫉妬してしまう自分がいる。
ほんと、自分が
「嫌になる...」
心の声がボソッと口から漏れてしまった。
心から応援したいと思うのに。
太陽が決めたことなのに。
いくら嫉妬したって意味はないのにー。
それに、ほら。
よく言うじゃん。
《初恋は実らない》って―。
次の恋にいかなきゃな...
そう考えると、ある一人の男の子が頭に浮かぶ。
「雨...男くん...」
なんで...?
なんで、思い出したの...
これじゃあ、まるで…
ううん、そんなことない。
雨男くんは、私の友達だもん。
好きなんかじゃない。
『美雨は、一人じゃないからね?』
その言葉を思い出し、無性に雨男くんに会いたい衝動に駆られた。
それと同時に何故か、ホッと安心してしまう私。
それは、私は一人じゃないと思ったからなのか。
それとも、窓越しだけど、彼の傍は、太陽と同じ暖かさの安心感があるからなのか。
「すぅ~、はあー」
自分の気持ちを落ち着かせたくて、大きく息を吸い、吐いた。
…うん、もう、考えるのは辞めよう。
考えたら、考えた分だけ太陽を想ってしまうから。
昨日で、太陽への気持ちに蓋をした意味が、なくなってしまうから。
私には、一人じゃないと言ってくれた雨男くんがいるじゃん。
雨が降ったら虹色の傘をさして、会いにきてくれる雨男くんがいる。
そう思ったら、少しだけ気持ちが軽くなった気がした。
0
あなたにおすすめの小説
花言葉は「私のものになって」
岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。)
そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。
その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。
美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。
青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。
初恋だったお兄様から好きだと言われ失恋した私の出会いがあるまでの日
クロユキ
恋愛
隣に住む私より一つ年上のお兄さんは、優しくて肩まで伸ばした金色の髪の毛を結ぶその姿は王子様のようで私には初恋の人でもあった。
いつも学園が休みの日には、お茶をしてお喋りをして…勉強を教えてくれるお兄さんから好きだと言われて信じられない私は泣きながら喜んだ…でもその好きは恋人の好きではなかった……
誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。
更新が不定期ですが、よろしくお願いします。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
君に何度でも恋をする
明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。
「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」
「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」
そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。
【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!
まりぃべる
恋愛
エーファ=バルヒェットは、父から十七歳になったからお見合い話を持ってこようかと提案された。
人に決められた人とより、自分が見定めた人と結婚したい!
そう思ったエーファは考え抜いた結果、引き籠もっていた侯爵領から人の行き交いが多い王都へと出向く事とした。
そして、思わぬ形で友人が出来、様々な人と出会い結婚相手も無事に見つかって新しい生活をしていくエーファのお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ているもの、違うものもあります。
☆現実世界で似たもしくは同じ人名、地名があるかもしれませんが、全く関係ありません。
☆現実世界とは似ているようで違う世界です。常識も現実世界と似ているようで違います。それをご理解いただいた上で、楽しんでいただけると幸いです。
☆この世界でも季節はありますが、現実世界と似ているところと少し違うところもあります。まりぃべるの世界だと思って楽しんでいただけると幸いです。
☆書き上げています。
その途中間違えて投稿してしまいました…すぐ取り下げたのですがお気に入り入れてくれた方、ありがとうございます。ずいぶんとお待たせいたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる