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勘違いと期待
しおりを挟む太陽が柏木さんに告白しているのを見てから、数日がたったある日のお昼休み。
「ねえ、美雨」
「ん?」
「太陽くんと何かあったでしょ?」
いきなりの繭のその言葉に、お箸で掴んでいた卵焼きを落としそうになる。
「え?」
顔をあげて、繭を見ると、いい加減白状しなさい!とでも言うかのような顔をしていた。
「卒業旅行の最終日から、ずっと変よ?」
追い打ちをかけるかのように、そう言った。
繭には、やっぱわかるよね...
確かに繭の言う通り、太陽が柏木さんに告白しているのを見てから、
太陽との距離感がわからなくなってしまった。
だから、卒業旅行もできるだけ繭や彰くん、和樹くんの傍に居たし、柏木さんにも悪いから、太陽の隣には行かないようにしていた。
太陽は普段と変わらず、何事もなかったかのように話しかけてくれたけど、
素っ気ない態度をとってしまった…と思う。
たぶん、太陽もそのことに気付いている。
それに、避けている原因が、あの日の出来事だってことも、太陽はわかっていると思う。
「美雨?」
「繭に、ちゃんと話すね?」
私は、自分の胸を撫でて、心を落ち着かせる。
「卒業旅行の夜に、太陽が柏木さんに告白しているところを見ちゃったの」
「え?」
「たまたま、だったんだよ?
私…太陽が柏木さんのこと好きだなんて知らなくてさ...。
…だから、太陽との距離感がわかんなくなっちゃって…」
繭を心配させたくなくて、力なく笑みを浮かべた。
「待って。
太陽が、柏木に告白した?」
私は、繭の言葉にゆっくりとコクリと首を縦に振った。
「いや、それはないでしょ」
真剣な顔で、私を見てそう言い切った繭。
…繭?
どういう、こと?
「え、でも…確かに私は、柏木さんにすっげぇ好きって、言ってたのを聞いたよ?」
顔はハッキリ見えなかったとしても、声を間違えるはずがない。
あれは、太陽の声だったもん。
「美雨、ちゃんと太陽くんと話すべきよ」
繭とが真剣な顔で私の目を見て言った。
わかってる。
頭では、わかってるよ?
実際に何度か太陽から「話したい」って言われた。
でも、私がなにかと理由をつけて避けてしまっている。
ううん、避けてるんじゃない。
逃げてる...の方が正しいかも。
今の私には、話を聞く勇気がないから。
それに、太陽の口から「柏木さんと付き合った」って聞かされたら...
私の心がもたない。
それに、本当に太陽を諦めなきゃいけない気がして…
こっそり思うこともダメなような気がして…
だから、もう少しだけ。
もう少しだけ時間が欲しいと思ってしまう。
でも、そんなのは、ただの口実にすぎなくて、
本当は、太陽と柏木さんが付き合ったっていうのを認めたくないってだけ...なのかもしれない。
ずっと黙っている私に痺れを切らしたのか
「美雨が太陽くんと話したくないって気持ちもわかるよ?
私が美雨の立場だったら、いろいろ怖くて聞きたくないもの。
でもね?太陽くんのことだから、話を聞いてほしいって何度も言ってきてるんじゃないの?
そこまでしてくれる人の話を聞かないのは、失礼なんじゃないの?」
え、なんで?
何で、繭がそのこと知ってるの?
太陽が何度も「話したい」って言ってるって。
「ふふっ、私をなめないでよ?」
少しふわっと微笑んで、私の手をぎゅっと優しく握る。
「繭?」
「大丈夫よ、美雨。私がついてる!
それで、もし太陽くんが柏木と付き合ってるって言ってきたら、私が美雨のかわりに太陽くんのことを殴ってあげる!」
言葉とは裏腹に、繭はクシャリと可愛らしい笑顔を私に向けてくれた。
「ありがとう、繭」
私には、雨男くんだけじゃない。
繭もいる。
それだけで、私の心が軽くなった。
…うん。
もう、逃げるのは辞めよう。
逃げたって、結局、変わらないんだから。
ちゃんと、太陽と話そう。
そこで柏木さんと付き合ってるって言われたら、太陽に告白しよう。
自分の気持ちを伝えて、きちんと振られたい。
それで、少しはスッキリすると思うから―。
「気が変わらないうちにメールするね」
「そうしなさい!」
携帯からメッセージボックスを開け、太陽へ文字を打つ。
【今日の放課後、残れますか?少しだけお話したいです。 美雨】
よし、送信!
返事なんて返ってくるかな?
ドキドキと心臓の音がうるさく鳴ると同時に不安が募っていく。
すると、ピリリリリ、と携帯音が鳴り、急いでメッセージボックスを開ける。
【大丈夫。やっと俺の話を聞いてくれるんだな。 太陽】
その返事にホッとする私。
「繭、太陽と今日話すね」
「頑張ってね」
「ありがとう」
繭には、助けられてもらってばかり。
今度は、私が繭を助けたいな。
そんなことを思いながら、食べ終えたお弁当箱を片付け、残りの授業を受けた。
・
そして、放課後。
「美雨、私がついてるからね」
そう私に言い残して、彰くんと一緒に帰った繭。
少しだけ息を吸ってから太陽の席の近くまで行く。
「太陽」
好きな人の名前を呼んだ。
「ここじゃあ、あれだよな?」
クラスを見渡した太陽。
...たしかに。
まだ何人か教室に残っているクラスメイトたち。
この中じゃあ話せないよね。
誰もいなくて、誰も来なさそうなところがいいな。
「...あっ!」
「ん?」
…あった。
ひとつだけ。
誰もいなくて、誰も来ない場所がー。
「旧図書室はどう?
誰も来ないと思うから、二人になれると思う」
今日は、晴れてるし雨男くんは来ない。
「じゃあ、旧図書室に行くか」
「うん」
お互いの荷物を持って、教室を出る。
教室から旧図書室に向かう。
けれど、お互いに何も話そうとしない。
そんな沈黙の中、着いた旧図書室、
―ガラガラ。
扉を開け、近くにある椅子に座った太陽。
私は、太陽の向かいにある椅子に座った。
どちらも何も話さない。
たかが数秒、いや、数分の沈黙だったのかもしれない。
でも、私には何時間もの沈黙のように思えた。
話さなきゃ。
そう思った時、「美雨」と太陽が優しい声色で、私の名前を呼んだ。
「な、に?」
太陽の顔をチラリと見る。
「俺は、柏木とは付き合ってないよ」
そうハッキリとした口調で、力強く言った。
付き合って、ない?
太陽と、柏木さんが?
「でも...っ!」
そう言いかけて、グッと口を閉じた。
「美雨、何でも言って?お願いだから、俺には言ってくれ…」
頼む、とどこか消えそうな声で、悲しそうな顔をした太陽。
その表情を見て、ぎゅっと胸が締め付けられた。
太陽に、そんな顔をさせたいわけじゃない。
柏木さんとの関係を聞いていいのか、わからなくなっただけ。
だってそうでしょ?
第三者の私が、聞いてしまっていいのかって。
「美雨、聞いて?大丈夫だから」
私の頭をそっと優しく撫でて、そう言った太陽。
太陽のその声に、あっ、話してもいいんだって、
聞いてもいいんだって思える。
「…私...」
「うん」
「あの日、太陽が柏木さんに告白するのを聞いちゃって...」
だから、柏木さんと付き合ってないって言われても、信じられないのが本音。
あの告白は柏木さんに言ったんじゃないって言われたら、
じゃあ、あの告白は誰に向けて言ったものなんだろうか。
「柏木に告白されたよ。でも、ちゃんと断った。」
もう一度、私の目を見てしっかりと言った。
「じゃあ、あの告白は?」
柏木さんに向けてじゃないのなら、誰に向けて?
その疑問だけが頭の中をぐるぐるする。
「…そう、だよな。
…うん、言わなきゃ、だよな」
一人でボソボソと言う太陽。
そして、深呼吸をして、口を開いた。
「俺な、好きな奴がいる」
好きな、人?
太陽の?
「あの日、そいつへの気持ちを言ってくれって、柏木に言われた。
言ってくれたら、諦めるからって。だから、言ったんだ。
たぶん、それをたまたま美雨が聞いて...って美雨?
泣いてる、のか?」
え?
泣いてる?
自分の頬に手をやると、濡れている自分の頬。
そこで、やっと理解する。
自分が泣いているのだと―。
泣きたいわけじゃないのに。
太陽を困らせたいわけじゃないのに。
自分の想いは、本当に太陽に届かない。
そう思ったら、涙が勝手に溢れ出てきた。
「美雨、俺な?」
ソッと制服の袖で、私の涙を優しく拭ってくれる太陽。
その行動に、ドキドキと胸が高鳴る。
身体中が熱くなっていくのが自分でわかる。
「俺、好きじゃねえ奴にな?
こうやって涙を拭ったり、誤解を解いたりしねえよ?」
...え?
今、太陽なんて…言った?
好きな奴…?
それって、友達として?
それとも...。
「どういう...意味?」
変に期待してしまう。
太陽も私と同じ気持ちかもって。
そう思って、いいの―?
「卒業旅行の前日に俺が美雨に言った言葉を覚えてる?」
卒業旅行の前日に言った言葉?
首をコテンと傾げて思い出す。
…あ。
『俺のことを信じてほしい』
この言葉を思い出した。
卒業旅行の前日に私に言ってくれたこの言葉をー。
「俺のことを信じてほしい」
「覚えててくれて、よかった」
太陽は、胸に手を撫で下ろし、安堵した。
私のいいように解釈していいの?
柏木さんへの気持ちはないって。
私への気持ちに対して意味があるんだって―。
だけど、中学の時の太陽の言葉がフラッシュバックした。
『美雨のこと好きじゃない』という言葉を―。
そう言っていたのに、いいのだろうか。
期待をしてしまっても。
不安を持ちながら、太陽がなんて答えるのかドキドキしながら待つ。
「くくっ、美雨のいいように解釈していいよ」
喉を鳴らしながら、楽しそうに言った太陽。
その声が、その話し方が、雰囲気が。あの人に似ていた―。
だから、無意識に呟いてしまった。
「雨...男、くん?」
彼の名前を―。
口に出したその名前に、太陽の目が少しだけ見開いた…ように見えた。
でも、それは一瞬だった。
「雨男くんって、誰だ?」
何事もなかったかのようにそう聞いてきた太陽の顔はいつも通りだった。
私の、見間違いだったのかな..?
太陽が雨男くんのこと知ってるはずないもんね。
「私の、友達...かな」
太陽から視線を逸らし、いつも雨男くんが現れる小窓を見て答えた。
この時、何故かわからないけれど、太陽に雨男くんのことを言ってはいけないような気がした。
もし、話したら、太陽が離れていく気がして、言えなかった。
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