雨の日に傘をさして、きみにアイにいく。

あびくらむげ

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記憶の片割れ

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「もう、いいっ」


私は、少し怒りながらそう言って、バッと太陽から顔を背ける。


何も話してくれない太陽。
太陽は、いつも大事なことを教えてくれないんだね。


雨男くんになった理由も。
私への気持ちも。
言葉の意味もー。


太陽は、そうやって上手くはぐらかすんだ。


私は、そのまま太陽に背を向けて、自分の荷物を持つ。
そのまま帰ろうと思い、太陽の横を通り過ぎた。


その瞬間―ズキ、ズキ...ズキズキ..と、
何か硬いもので頭を殴られたような痛みが頭にはしった。


その痛みは、太陽と映画に行った時と同じ痛みだった。


あの時は...確か。
映像のようなものが頭の中で再生された。


今回も、全く同じ。
頭の中に映像のようなものが入ってきた。


何か忘れているものを、思い出すかのように―。


*――――――――――――――――――*

痛い...いたい.....イタイ...っ!


体中が痛くて、重くて。
体が思うように動かせない。


目を開けたくても、瞼が重たくてなかなか開けられない。


『キャアアアアアアア!!』


『........ぞ!』
『.....か.....べ!』


誰かの悲鳴と誰かの叫び声が聞こえる。


徐々に痛みの感覚がなくなっていく、身体。
でも、何故か暖かさは感じる。
誰かに抱きしめられているような。そんな暖かさ。


そんなとき、聞こえてきた聞きなれた声。


『う...み....う...だ...っ』


え?
私の、名前?

*――――――――――――――――――*


そこで、映像のようなものは、プツリと消えた。


…待って。
これは、何?


これじゃあ、まるで...っ!


今まで時々、思い出すあの痛みや、感覚。
それは、まるで私自身が体験していたようでー。


全てが、点と線で結びついていく。
それに、最後に私の名前を呼んだあの声。
あれはー太陽の声だった。


頭を両手で抑えていると、視界が徐々にクリアになっていく。
目の前には、いつの間にか私の傍に来た太陽が心配そうに顔を覗き込む姿があった。


「美雨!大丈夫か?」


そう言いながら、ゆっくりと伸びてきた大きな手。
けれど、私はその手をバシッと、払いのけてしまった。


初めて、太陽を拒否してしまった。


「み、う?」


その拍子に、戸惑いの表情を見せる太陽。
だけど、今の私には、そんなこと関係なかった。


似ていたんだ。
その声がー。
最後に私の名前を呼んだあの声に―…。


太陽の声が、びっくりするくらいに。
―似ていた。


「...ん、で...っ」


「美雨?」


一定の距離を保ちつつ、私の名前をもう一度呼んだ太陽。


「あれは、太陽...なの?」


「なんの、こと言ってんだ?」


本当にわからないと、困惑の表情をする。
だけど、私は自分のことでいっぱいいっぱいだった。


太陽の顔を認識できるほどの理性は、なかった。
自分が、死んでいるかも知れない。


そう思ったら、押し寄せてくる恐怖。
真っ黒い闇が私を引きずり降ろそうとしているようなそんな感覚に陥った。


「だ、って、太陽...がっっ!!」


「美雨?」


私の様子がおかしいのに気づいたのか、私に一歩近づいてきた。
その行動が、怖いと思ってしまう。


「や...っ!!」


自分が消えちゃうんじゃないか。
自分は、本当は死んでいて、今この瞬間が夢なんじゃないか。


そんなことが、頭いっぱいに膨らんでいく。


「美雨、落ち着けっ!」


嫌がる私を無理矢理、太陽は自分の腕の中に閉じ込めた。
いつもならそれが、安心感に変わるのに、今日は違う。


「や、だ...っ、ち、がう...っ!」


違う、私は死んでなんかない。
今、生きてるもんっ!


心臓もちゃんとドクンドクンと鳴ってる。


みんなにも触れられた。
ご飯も食べれた。


頭の中で、大丈夫と自分自身に話しかけるのに、なかなか落ち着かない私の心。


「美雨っ!」


私の顔を太陽の両手で包み込むように掴み、太陽と目が合う。
太陽の顔が歪んで、どんな表情なのかわからない。
私の目からは、たくさんの留まることのない、小さな雫たちがポロポロパと零れ落ちる。


次の瞬間。


太陽の顔が私の顔に段々と近づいてきて、唇に生あたたかい何かが重なった。


「た...っ、んっ」


もう何も話すなとでも言うような、少し乱暴なキスが私の唇に降り注ぐ。
数回すると、ソッと離れた太陽の綺麗な顔。


そこで、私が太陽とキスしたことがやっと理解できた。
理解した途端に、体中の体温が上がり、心臓がバクバクと音をたてる。


「落ち着いたか?」


ぎゅっと私を強く抱きしめた太陽。


「た...い、よっ」


安心感で、先ほど止まっていた涙がまたポロリと零れ落ちる。


「大丈夫だから、大丈夫だ」


私の背中を優しく撫でながら、そう言った。


「た、いよ。たい、よう。太陽...っ」


私も太陽の名前を呼びながら、ぎゅっと太陽の背中に両腕を回した。
まるで、何かに縋るように、
しばらく太陽の名前を呼んでいた―。


「美雨?」


私が落ち着いたのがわかると、ゆっくりと体を離した。
そして、私の顔を覗き込みながら、心配そうな声色で言った太陽。


視線を太陽に向けると、重なるお互いの視線。


「...っ!」


さっきまでの自分を思い出し、恥ずかしさで目を逸らしてしまう。


急に暴れ出して、泣いて、太陽に迷惑かけて...
もう、穴があったら入りたい。


太陽は、私のこの気持ちを見透かすように私の名前を呼ぶ。


「美雨」


ほら。
きみはそうやって、私の大好きな声色で名前を呼ぶんだー。


まるで、俺は大丈夫だよ、とでも言うような。
そんな優しい声色。


「目、帰ったら冷やさねえとな。」


私の瞼を撫でるように、ソッと触れた。
それだけなのに、ビクリと反応してしまう。


「怖い、か?」


少し傷ついたような、困ったように微笑む。


怖いわけ、じゃない。
怖い、わけじゃないのに...。


太陽の動作に、敏感に反応してしまう。


私は、フルフルと首を横に振った。


「美雨、ごめんな」


俺が悪いとでも本当に思っている顔をした太陽。


...違う。
太陽は、何も悪くない。


「私、が...ごめっな、さい...」


急に暴れて、泣いて、太陽に当たってしまって。
びっくりしたはずなのに。
なのに、なんで太陽が謝るんだろう。
私が、謝らなきゃいけないのに...。


「俺は、大丈夫だよ。」


私の頭をポンポンと優しく撫でる。


「美雨が何を勘違いしてるのかわかんねえけど。俺が謝ってるのは、美雨にキスしちまったことだから...」


頬がほんのりと赤くなっている太陽。


...え?
き、す?
私と、太陽が?


…っ!
そうだ。


私...太陽と、キス...したんだっ


太陽にまで聞こえてしまうくらい、ドキドキと鼓動が鳴る。
徐々に身体中が熱くなっていく。


「美雨?」


「...なかった」


「え?」


「嫌じゃ、なかった...っ」


嫌じゃなかったんだよ。
嬉しかったの。


ねえ、太陽。
言ってもいいかな?
私の気持ちを―。


それにね、太陽はもうわかってるでしょ?
私の気持ちにー。


こんなときに不謹慎かもしれない。
でも、今言えなかったら...もう言えない気がするの。


「なに、言ってんだよ」


ククッと喉を鳴らしながら笑った太陽。


それが照れ隠しなの、私は知ってるよ?


バクバクと心臓の音が、いつもより体中に伝わってくるのが、わかる。


私は、太陽に聞こえない程度の息を吸い込んで、愛しい人の名前を震えながら呼んだ。


「た、いよ」


「ん?」


「私...っ「美雨、家まで送るよ」」


...っ!


自分の気持ちを言おうとした途端、太陽の声と重なる。


「立てるか?」


固まっている私に自分の手をひらひらと振り、私の荷物を持ってくれる。


「たい、よ?」


わざ、と?
...わざと、なの?


「どうした?」


何もなかったような顔で、私の方を振り向いた。


...っ


その途端に、虚しくなった私の心。


溢れ出る言葉を水滴を出したくなくて、グッと自分の唇を噛む。


「美雨?」


あまりにも動かない私を変に思った太陽が、手を差し伸べてくれる。


だけど。


「...っ、帰ろうかっ!」


その手を、私は素直にとることはできなかった。


私は、何もなかったように太陽に微笑み、一緒に帰った。


…太陽は、わかってた。
私が、気持ちを伝えることを―。


それをわかって、自分の言葉を被せてきたんだ。


期待してしまった。
私のこと、好きだってー。


だって。


『太陽くんって、美雨のこと好きなんじゃない?って、僕は思うんだけど?』って、雨男くんに言われて。


『いいように解釈して』って、言われて。


―そして。
最後は、あのキス。


自惚れてしまっていた。
でも、違ったんだね。


やっぱり、中学生の時に聞いた『美雨のことは好きじゃない』って言うのは本当なの?


ねえ、太陽。
もう、君がわからないよ―。


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