とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星

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第1章 オディオ王国編

第13話 私達が地下牢で幼馴染と袂を別って、下賤な中年オタクが死んだ件 (勇者:魔導師スバル・サツキ(メガネ)視点)

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「なんだこれは……」

目の前の光景を疑う私の口から思わず言葉が漏れた。アリシア王女も絶句し、勇太達も同じく困惑している。それもそのはず、アリシア王女の話では地下牢は暗く汚い、悪臭がする場所だったのだが、今いるこの場所はそれとは真逆の場所だった。

扉型の穴が空いた鉄格子の向こうには煉瓦の壁と堅牢そうな鋼鉄製の扉があり、その扉の手前には呼び鈴と思しきベルが置かれた台があって、『御用の方はこのベルでお知らせ下さい』の貼り紙がしてある。

辺りには埃1つ落ちておらず、鏡のように磨き上げられた床。壁には光源として灯火が灯り、においに至っては王城内で嗅いだことがない清涼で爽やかなミントの香りが漂っている。

そこの台の前に見慣れているポニーテールの女が背中に学校指定のバックを提げていた。

「あっ、飛鳥ちゃん。なんでここに?」

「小鈴? それにみんなも? 私はアリシア王女から荷物をまとめて1人でここに来るようにと侍女の人に言われてきたのだけれど……」

小鈴が如月の問うと彼女はそう答えて、アリシア王女の方へ視線を向けた。

「はて? なんのことでしょうか? わたくしはその様なことを侍女に命じた覚えはありませんわ」

と王女は笑顔で応えた。

「なっ!? 確かに私は毎日顔を合わせている貴女の侍女から話を伺っています!」

アリシア王女の返答に不満を顕にした如月は声を荒げた。

「と申されましても、私には全く身に覚えがありません。それよりもアスカ、貴女がここにいることについて、ここに投獄されているユウと善からぬことを企んでいる疑いがあります」

「なんの話ですか? 先ほど言った様に私は貴女の侍女にただ荷物をまとめてここに来るように言われただけですよ」

王女の問いかけに毅然と如月は返したが、

「あらあら、これは困りましたね。では力ずくでも話したくなるようになってもらいましょうか、皆さんお願いしますね」

「アリシア王女の頼みなら仕方ない。飛鳥、手荒なことはしたくないから、早く話すんだ」

「勇太の言うとおりだ。侍女に言われたなんて嘘をつくなんてお前らしくないぜ!」

「うう、飛鳥ちゃん、本当のことを教えて」

「早く本当のことを話した方が貴女の身のためですよ」

そう言って私達は如月に向かって愛用の武器を向ける。

「そんな、みんな……」

如月は私達の姿に目を見開いて呆然となった。すると、

「はいはい、喧嘩は他所でやってくれませんかねぇ。うるさくて迷惑ですよ」

あの男の声が聞こえると同時に扉が開き、台が床に消え、下賎な男が姿を現した。

「「出たな、罪人!」」

「それは冤罪なんだが……ぶっッ」

勇太と武が同時に声をかけると奴はこっちを見て、唐突に吹き出した。なんだ?

「おいおい、そうなるかもとは思っていたが、まさか本当に駄メンと脳筋、メガネの称号に穴○弟(アリシア)があるとは。更に、アリシア王女とロリっ子に竿○妹(脳筋)が付いて、王女とロリっ子で百合姉妹の称号が付いているのは予想の斜め上過ぎる……」

目の前に現れた中年が小声でなにやらぶつぶつ言っているが私には全てを聞き取ることができなかった。

「貴方がここを変えたのかしら?」

アリシア王女が未だに独り言を言っている男に問いかけた。

「他に誰か、わざわざ暗くて、汚くて、臭かった3Kだったここを改築してくれる様な酔狂な人でもいるんですか? いたなら俺がここに入れられる前に改築を頼んで欲しかったですね」

慇懃無礼な態度な男の言葉にアリシア王女のこめかみに青筋がたっている。

「その力をこれから遺憾なく我が国のために使うと誓うならば、これまでの罪を許して、ここから出して差しあげましょう」

しかし、王女は優雅な笑みを浮かべながら、目の前の愚か者に慈悲の言葉をお与えになった。

「はぁ、頭大丈夫ですか?ここに入れたのはこの国の最高権力者である国王。貴女はその国王より偉くて、その命令を反故にできる権限あるんですか? ないですよね? もしくはそれが国王の命令だというのなら、その証拠となる王の印璽が押された命令書の提示は必須。それともこの国は国王陛下よりも王女であらせられる貴女の方が偉いのですか?」

「それは……」

アリシア王女が男の言に口ごもった。

「最も、この国の国王に頭を下げられても、この国のために力を貸すのはお断りです。見え見えの嘘を信じてあげる程俺はお人好しじゃないです。貴女の色香に誑かされたそこの4馬鹿と私は違います。別世界から拉致しただけでなく、あらぬ濡れ衣を着せて、劣悪な環境に放り込んだばかりか、食事抜き。そんな仕打ちをした者の言葉を今更信じると思っているんですか? ?」

男の意味不明の言葉にアリシア王女の笑顔が硬直した。

「……なんのことかしら」

「とぼけているのか、本当に知らないのか。まぁ、俺にはどっちでも大して変わらないですよ。どちらにしろ、これからオディオ王家とそれに関わる者には悲惨な末路あるのみ」

そう男は言って嘆息した。 この男は何を言っている??

「貴方は何を知っているの? 教えなさい!」

アリシア王女が珍しく声を荒げた。

「それが人に教えを請う態度ですか、馬鹿馬鹿しい。さて、如月飛鳥さんでしたっけ?」

男は王女の問いかけに応えず、呆然としていた如月の方を向いて、声をかけた。

「……はい」

「貴女にとっては残酷なことかもしれませんが、ここに留まってあの王女の手先になった幼馴染達に殺されるか、俺と一緒に彼等に抗って生き長らえるか、ここが分水嶺。どちらか選んで下さい。ちなみに、貴女にここに来るよう連絡係を務めた侍女さんはアリシア王女によって(命じられた駄メンの手で)殺されてます。ついでに彼女を殺した罪をこの国の国王とそこの王女は貴女に着せて処刑するつもりです」

「っ!?」

「今すぐその口を閉じなさい!!」

男の言葉に驚愕する如月。そして、アリシア王女が再び男に声を荒げた。

「……どちらにしますか?」

男は無礼にも再びアリシア王女の言葉を無視した。

「私は……」

「スバル! アスカ諸共あの男をやりなさい!!」

答えを口にしようとした如月諸共男を始末するようにアリシア王女は俺に命じられた。

「畏まりました。【火炎爆裂ファイアエクスプロージョン】!」

私は編み出した【火魔術】と【爆裂魔術】の合成魔術、【火炎爆裂】。
生み出した火球が直撃した対象を中心に爆炎と爆発を生じさせるこの魔術は、普段の訓練では威力が強すぎるために使えない。作り出して、練習場で試し撃ちしたときは着弾点を中心に周囲にあった的の木人形が消し飛んだため、監督役から許可なく使うことを禁止させられた。

「あっッ!?」

如月は私が放った火球に驚きの声をあげ、立ち尽くしている。
あの男の射線上に如月がいたので、私は躊躇いなく【火炎爆裂】を使った。

「……時間切れ」

僅かにそう呟いた男はこちらに背を向けて如月を庇った。

「ぐっ……」

火球が直撃して如月を庇う男が呻き、直後に辺りに閃光が瞬き、轟音が鳴り響く。

「わわっ……【障壁シールド】!!」

【火炎爆裂】の生んだ衝撃波から私達を守るために小鈴が【障壁】を張ってくれた。立ち込める煙が徐々に晴れて、視界が良好になっていく。あの男と如月の姿がないから、あの2人は未だに開いている鋼鉄の扉の向こうに逃れたのかもしれない。

「ぐはぁっ!?」

その考えに至った直後に私は頭上からカーンという甲高い音ともに衝撃に襲われ、頭を押さえて蹲ることになった。

「なんでこんな所に金だらいが?……なにか書いてあるぞ? なになに……『密室で火系統の魔術を使うなんて、馬鹿なの?死ぬの?』」

私の脇に落ちた金だらいに添えられていた文書を勇太が読み上げた。

「どういうことですか?」

アリシア王女が冷めた目を私に向けてきた。

「ええっと、密室では私達が呼吸するときに必要な空気に含まれる酸素という物質が密室内には新しい空気入ってくることがないから補充できないため、少ないのです。火系統の魔術はそのただでさえ少ない酸素を燃焼という現象で消費してしまいます。その結果、呼吸に必要な酸素が足りなくなって、私達は窒息死する恐れがあるのです」

押し黙る私に代わって、小癪にも小鈴がアリシア王女に説明した。

「昴、てめえ!」

私の魔術で自分達が死ぬかもしれない事実に小鈴の説明を聞いて遅れて気づき、激昂した武が私の胸元を掴もうと近寄ってくる。その武の足元からカチッという音が聞こえた。

「「くっ!」」

咄嗟に自分の頭を両腕で庇う私と武。だが、

ボグゥッ

「「「ぐっはあぁっ!?」」」

突如、私と武、そして勇太の両足の間の床一部が急激に隆起して、それぞれの股間を直撃した。

「あれ? これは??」

直撃を受けた部分を押さえて蹲る私達には見えないが、小鈴の下にまたも文字が書かれた紙が落ちてきたようだ。

「ええっと……『ただ同じ罠を仕掛けるだけでは芸がない。野郎共はのたうちまわるがいい。使い物にならなくなってなければいいな?なお、この罠が作動した後、この部屋は奥の方から天井が崩れていくのでさっさと逃げることをお勧めする。この手紙を読んでいる時点で俺は死んでいるのが確認できるだろう。なお、この紙面は自動的に消滅する。健闘を祈る。』あっ! ああっ! あれを見てください!?」

ボォッという音と共に燃えた音が聞こえて続く、なにかが次々に崩れ落ちた音。その後にあがった小鈴の驚きの声になにごとかと顔を上げて小鈴が指差す方を私は見た。

「……どうやら彼等は死んだようですね」

アリシア王女の言葉がその状況を物語っていた。小鈴が指差した先には多くの瓦礫で埋まって見えない扉の先と床下からこちらの方に流れてくる赤い血の川があった。

「急いでここから離れますよ!!」

焦りを含んだアリシア王女の言葉に従い、私達は地下牢から離れた。全員が無事階上に戻った後、地下牢は天井が崩れて入れなくなった。



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