とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星

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~幕間1~

第16話 如月飛鳥嬢とアラフォーオタ中年の新しい関係の件

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「……私は貴方と一緒に行く道を選ばせていただきます」

しばらく黙考したあと、飛鳥嬢は躊躇いなくそう答えた。

「個人的に嬉しくはあるけれど、それを選択した理由を教えてくれないか」

「ええ。まず、貴方が立てた推論は納得できる点が多いことにあります。残念ながら、魔方陣については、私は貴方の様に解析系のスキルを持ち合わせていないので、元の世界の私達の存在記録が抹消されているという信じがたい情報については真偽の判断ができません」

確かに飛鳥嬢が言うように元の世界の存在記録が抹消されているということは確認方法である解析系スキルがないと信じることは難しい。早計だったか。

「私達をこの世界に運んだ元の世界にはなかった魔術。その使私が独力で元の世界に帰還するとしたら、元の世界のある場所を特定する方法とこの世界から渡る方法を、魔術を用いない方法で考案し、実現しなければなりません。魔術を用いず元の世界に戻る方法に実現性があったとしても、私の存命中にはまず間違いなく実現できないでしょう」

悔しそうにそう言う飛鳥嬢。彼女の言うことに間違いはない。俺よりも飛鳥嬢は年若いが、解析系スキルと【魔術】が使えない彼女では信頼できる協力者探しから始めなければない。

協力者が見つかってから、元の世界の捜索、奇跡的に元の世界見つかったら、そこへの移動手段の考案などなど、人の一生でなし得るには奇跡的な確率を勝ち取る必要があり、とてもではないがハードルが高過ぎる。

それに目標は元の世界に帰ることだが、彼女が考えている”元の世界への帰還”は最終的な目的は現状復帰、を指すのだろうから、時間をかければかけるだけ、その実現が遠のいてしまう。肉体年齢の老化は【魔術】でなんとかできるかもしれないが、どこで目的と手段が入れ替わってしまうかわかりかねない。

魔術以外の手段となると、この世界ではスキルに頼ることになる。

だが、俺が既にスキルで試している。正しくは元の世界に戻るためのスキルを創ろうとしたのだが、この世界から別の世界へ渡る行為は禁止事項に抵触するということで、そのスキルは創れなかった。

このことを飛鳥嬢に話すのはまだ時期尚早と考え、俺は黙って彼女に先を促す。

「王城で過ごしている間、勇太達、私の幼馴染達は戦う手段ばかりに積極的に身につけていた一方で、貴方は違いました。貴方はあのときから既にこの世界で生き延びることを考えて行動していたと私は考えています。だから、私も連れて行ってください。お願いします」

そう言って、飛鳥嬢は椅子から立って俺に頭を下げた。

「わかった。これからは一緒に行動するってことでいいのか?」

「はい!」

俺の問いかけに嬉しそうに飛鳥嬢は答えた。

「となれば、とりあえずお互いの間柄を決め手おこうか。同じ世界出身だけれども、元々道端ですれ違っただけの赤の他人。俺達は既に死んだ人間になっているし、気軽にこの世界の人を仲間にして素性を知られるのは不味い」

俺がそういうと、飛鳥嬢は小首を傾げた。

「何故、この世界の人に私達の素性が知られたら不味いのですか?」

「ああ、さっき俺達が召喚された際に多量の魔力が必要だって話をしただろ?」

「はい」

「アリシア王女達は魔力確保のために生贄として奴隷を始め、多くの人を攫ったりして犠牲にしていたんだよ」

俺は【空間収納】から1枚の報告書を取り出した。そこにはオディオ王国宮廷魔術師筆頭のイーヌ・カマセの署名がある。

「えっ……」

思わぬ事実だったのか飛鳥嬢は絶句した。禁書庫の中に最近入れられた書類だから、あの王城で勇者として暮らしていたら一生目にしない事実だっただろう。別段彼女は知らなくてもよかったかもしれないが、俺は知っておくべきことだと思って伝えることにした。

「これがそれを行った宮廷魔術師が書いた報告書。俺達が召喚された者だと知られた場合、下手すると、謂れのない迫害をされる恐れがあるから、本当に信頼できる人以外に俺達が異世界出身であることは話さないようにしよう。話すにしても、2人で話合って決めよう。俺達の無作為でバレたら、対応は臨機応変で。」

「はい。でも、私は貴方の判断にお任せしますよ?」

「その信頼は嬉しいけれども、俺の判断が正しいとは限らない。判断が分かれたときに君の判断のほうが正しいときもある」

「わかりました」

納得したのか、彼女は頷いた。

「さて、話を戻すけれども間柄を決めよう」

「それは必要なことでしょうか?」

飛鳥嬢は早速、懐疑的な意見を素直に出してくれた。

「ああ、俺は必要だと思っている。自分で言うのもなんだが、この凡人である中年と君のような容姿端麗な美少女が何の関係もなく一緒にいるのはこの上なく、不自然極まりない」

自分で言って自分でダメージを負っているが……まだ、大丈夫だ。

「お互い同郷の被召喚者であることはさっき話した様に口外できないから、予めお互いが納得した間柄を決めて、周囲に振る舞うほうがいい。特に君の場合は剣の腕とその美貌だから、冒険者や貴族の男共が群がるだろう。俺はその虫除けも兼ねることを考えている」

「なるほど」

納得してくれたようだが……

「やっぱり、その表情から察するに元の世界で大多数の異性から恋慕されていたんだな」

「……はい。誇るつもりはありませんが、実家との繋がりを求める資産家や実業家、歴史ある名家の殿方達に加えて、毎朝学校の靴箱には手紙が沢山詰め込まれてまして、中には同性の、なぜか先輩からも……」

そういう飛鳥嬢の双眸の瞳から光が消える……。学校の靴箱に恋文ラブレターとはまだあるんだな。とはいえ、律儀な飛鳥嬢は丁寧に一つ一つお断りの返事を出しているんだろうなと思わず口にしてしまったら、深々と頷かれてしまった。

「気を取り直して、この世界の常識で当てはめるならば君は既に結婚適齢期だから、差し当たって思い浮かぶ俺との間柄は、夫婦、婚約者、恋人、叔父姪、異父母兄妹、歳の離れた従兄妹、義理の兄妹、冒険者仲間といったところか。後半の歳の離れた従兄妹、義理の兄妹、冒険者仲間は抑止力としては期待できないから却下するとして、君はどれがいい?」

フリの間柄でも飛鳥嬢という強力な前衛職を引き抜かれるのを防ぐためにこの設定はないよりあったほうがいい。彼女にとってもメリットはあるがはてさて……。

「……では掛け合わせて、婚約者、恋人、叔父姪でいきましょう。この世界の法律には詳しくありませんが、オディオ王国の国法では叔父姪間での結婚は認められているのを確認しています。まだお互いのことをよく知らないので夫婦というのは無理があるのと精神的な抵抗がお互いにあると思います」

飛鳥嬢の意見には納得できる。俺は彼女とそういう関係になるのは吝かではないけれども、飛鳥嬢がそう思っているとは限らない。今後はどうなるかはわからないから、彼女が惚れて、俺が飛鳥嬢を任せるに足ると判断できる野郎が現れ、彼女が望むのであれば関係を解消すればいい。

「親が決めた婚約者ということであれば年齢差についても問題はなくなると思います。恋人というのはただ親同士が決めただけの婚約者関係であると思われるのを補填するためのものですね」

「わかった。それでいこう……さしずめ、モテない凡人の弟が生涯独身になってしまうことを心配した既婚者の兄もしくは姉が自分の娘を嫁として送り出したといったところか。不快に思うかもしれないが、呼ぶ際は間柄を考慮して、名前を呼び捨てにさせてもらうが、本当にいいか?」

「はい。家では父と兄からは名前で呼ばれていましたので、構いません。私は貴方のことは優さんと呼ばせていただきますね」

『話し合いは終わったかのう?』

話がひと段落した絶妙なタイミングでクロエがお茶のおかわり用のお湯の入ったポットを持ってきた。

「そういえば、お互いに自己紹介は済ませているのか?」

そう言って俺はクロエと飛鳥嬢……飛鳥に視線を向けたら、2人とも首を振って返した。

『お互い正式にはまだじゃな。』

「はい、私は如月飛鳥と申します。こちらの優さんと同郷でこの度は命を助けていただきまして、これから同道させていただくことになりました。よろしくお願いします」

『これはご丁寧にかたじけない、我は闇黒魔竜、クロノエクソス。略称のクロエで呼んでたもう。我もユウに助けられ、恩返しとして侍女としてユウの身の回りの世話をしておる。こちらこそよろしく』

クロエがそう告げると、飛鳥が流れるように自己紹介をして会釈をし、それにクロエが返してメイド服でカーテシーをした後、どちらからともなくガシッと握手を交わした。

俺の目には2人の視線から火花が散った様に見えたが、気のせいだろう……うん。

あれ? なんか、この2人会わせちゃったらヤバかったか?

2人が醸し出し始めた親友同士というよりも、好敵手同士ともといった空気に俺は戦慄せざるを得なかった。


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