とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星

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~幕間1~

第17話 闇黒魔幼竜とサムライ少女の件

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「クロエさんと優さんの出会いと、クロエさんが闇黒魔竜ということについて、私に教えていただけないでしょうか?」

クロエと飛鳥が固く握手を交わした後に飛鳥が尋ねてきた。

『アスカよ、さん付けは不要じゃ。クロエでよいぞ。ご主人との出会いは……許可が下りたから問題ないぞ。闇黒魔竜については見てもらったほうがはやいの』

クロエがこちらに伺うような視線を送ってきたので頷いて答えると、ポンという音と煙が上がってクロエの体を覆った。

「ピィイイ!」

煙が晴れると、クロエがいた場所には甲高い鳴き声をあげる黒い鱗をもった幼竜が現れ、翼を使って飛び、俺に抱きついた。

『とまぁ、こちらが竜の姿の方じゃ。この竜の姿ではご主人の世話をするには不便である故、普段は先ほどの人型をして生活をして過ごしておるという訳じゃ。このなりでも竜であるから、全盛期には及ばぬが竜の吐息ブレスは生半可な魔術の障壁は簡単に突破できるし、爪、牙は鉄製の鎧武具であれば簡単に貫通できるぞ』

ちなみにクロエが人間形態でも【念話】で会話をしているのはまだ転生して数日しか経っていないため、物質化が安定していないことから言葉を話す声帯が安定して使うことがまだできないからという側面がある。

「……かわいい」

飛鳥がなにやらうっとりするような視線を幼竜形態のクロエに向けている、

『ぬ?』

クロエがコテンと頭を傾けるその姿を見つめる飛鳥の瞳のなかにハートマークが見えた気がしたのは気のせいか……気のせいだと思いたい俺はクロエを抱きついている自分の頭から引っぺがし、自分の膝上に乗せて、その頭を撫でた。

『ぬうう、もっと撫でてよいのだぞ、ご主人』

「わあああああっ」

気持ちよさそうに両目を細めて【念話】で催促するクロエを見て、飛鳥は感嘆の声をあげた。

「……もしかしなくとも、飛鳥は動物が好き?」

「はい! 大好きです! 実家では家族がアレルギー持ちなので、飼ったことがありません。でも、やっぱり、私の様な無骨な女が可愛らしいものが好きなのはおかしいことなのでしょうか?」

飛鳥は力強く俺の問いかけに返答した直後に、落胆したように声音を落して告げる。周りの理想イメージを崩さないためにそれに合わない自分を押し殺して演じてきた抑圧ストレスの反動が爆発してしまったのがわかった。

「う~ん。別に俺は気にしないな。俺は初対面のときからわかるように自分の好きなことを好きな様にやるオタクだから、別に飛鳥が可愛い動物が好きで愛でようとも構わないと思うぞ」

「そうですか! では、そのクロエを抱っこさせてもらっていいですか?」

再び笑顔の花を咲かせた飛鳥がそんな要望をしてきた。

「だそうだ。ご指名だぞクロエ。いいか?」

一方的な決定はよくないので俺はきちんとクロエに確認する。

『ん? 別にご主人がよいなら、よいぞ』

「おう、ありがとう」

快諾したクロエに礼を言って一撫でしてクロエを抱き上げて、俺は椅子から立ち上がった。

「ありがとうございます」

「注意事項が1点。この”逆鱗”には絶対に触らないことだ」

抱き上げたクロエの背中を飛鳥に見せ、首後ろにある逆さに生えている鱗を指し示して、触れないよう念入りに注意をした。

「わかりました……触れるとどうなるのでしょうか?」

素直に疑問を口にする飛鳥。

「……クロエが攻撃的かつ不機嫌になる。向こうの世界の伝承にあるリュウと同じで激昂する。身体能力が強化されている勇者であっても命の危険が本当にあるから、好奇心で飛鳥が触れても俺は責任は取らないから、そのつもりでいてくれ」

誤って触れてしまったときは終始クロエは正気を失った状態になって、手をガチで噛まれて俺は重傷を負ってしまった。飛鳥を助ける前日のことだ。幸い、原因の逆鱗に触れていたのが短時間で、作成していたポーションで回復できる傷だったので、傷も残っていない。ただ、元に戻ったクロエの凹み具合も凄かったため、その回復も大変で、俺はいろいろとクロエに搾り取られることになった。

「わかりました……あっ、すごい滑々なんですね」

戦々恐々としつつも、幼竜を抱きしめることには抗えなかった飛鳥の確かな言葉を聞いて、俺は彼女にクロエを渡した。

『むぅ、我は本来、愛玩動物ではないのじゃがのう。まぁ、よいわ。好きな様に我を愛でるとよい』

文句を言いつつも、飛鳥のされるがままに任せてクロエは諦めた様な声音をあげた。




「はぁ、堪能しました。やっぱり優さんと一緒に行くことを選んだ私は正しかった」

若干キャラ崩壊している飛鳥から俺はクロエを受け取った。

「大丈夫か、クロエ?」

『う、うむ、大丈夫は大丈夫なのだが、流石に空腹じゃ。ご主人、我に食事を』

消耗しているクロエが食事を要求したので、俺は”魔力球”を作り出してクロエの口の中に放り込んだ。

『んくんく……』

1つ目を完全に飲みこんだら、2つ目を与え、最終的に5つ飲ませたら、クロエは満足した。

「クロエにあげたのはなんなんですか?」

飛鳥が人を射殺せそうな所謂ハイライトが消えた眼でこちらを見ていた。すっかり飛鳥は幼竜形態のクロエの虜だな。

「闇黒魔竜であるクロエはその体を魔力で構成していて、通常は大気中に含まれる自然魔力マナだけでも活動できる。魔力であれば取り込むことができるから、俺の様に体内魔力オドを固形化できるのであればそれを経口摂取で吸収できる。その一方で、嗜好品として人が口にする食べ物も摂取可能という生態をしている」

「なるほど……上手くいきませんね」

俺の説明に納得した飛鳥は早速、魔力球を作り出そうとしたが、形ができる前に出来上がりかけた球体は大気中に霧散した。しかし、彼女の執念はそれで挫けず、再び魔力球を作り出そうし始めた。

クロエのいた場所で再び小さい炸裂音と煙が立った。

『あっ、しもうた』

そこに立っていたのはメイド服に身を包んだ人間形態のクロエ……ではなく、一瞬視界に映ったのは大事な部分を伸びた髪で隠されている全裸のクロエだった。クロエが先ほどまで着ていたメイド服は彼女が魔力で具現化していたため、どうやら服を具現化することを失念してしまっていたようだ。

クロエはすぐにメイド服姿になって、照れ隠しと失敗を誤魔化すために俺に抱きついてきた。

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