とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星

文字の大きさ
29 / 108
第2章 自由連合同盟都市国家メルキオール 首都メルキオール編

第29話 朝の至福とメルキオールの街並みの件

しおりを挟む
「……さん…ゆ…ん、……」

耳元に入ってくる声と優しく揺すられて俺は次第に意識が覚醒していった。

「おはようございます、優さん」

俺の左手側にネグリジェ姿の黒髪の女神様が降臨して、微笑んでおられる。寝覚めから眼福な絶景だ。言わずもがな、女神様は飛鳥である。

「おはよう、飛鳥」

ネグリジェから覗く彼女の立派な谷間が素晴らしいのは言うまでもない。穏やかな清楚な微笑みと、普段はポニーテールだが、今は下ろされている髪によって彼女が実年齢以上に大人びて見える。

飛鳥とクロエはこうやっていつからか毎朝俺を起こしくれる様になった。俺はお願いしていないのだが、特に断る必要がないので、その厚意に甘んじている。

毎朝絶景を拝める爽快な目覚めが約束されているから断る理由があろうか? いや、ない! 

ちなみに俺の寝間着はパジャマで、クロエも飛鳥と同じくネグリジェだ。

「クロエ、朝ですよ。起きてください。顔を洗いますよ」

飛鳥は俺の右腕にしがみついているクロエを起こしにかかった。流石、駄メン達の元オカン。面倒見の良さは抜群だ。

『む~おはようなのじゃ、ご主人、飛鳥』

寝ぼけ眼でクロエが可愛いらしく目を覚ました。その横でボサボサになっているクロエの銀色の長髪を飛鳥が櫛で整えている。

「おはよう」

全員起きたところで俺達は飛鳥が洗面器に【水魔術】の【水球】と【火魔術】の【灯火】で心地よい温度に調整されたぬるま湯を張ってくれて顔を洗う。飛鳥の世話焼き性は魔術の鍛錬も兼ねるという理由付けをされて、ここでも発揮されている。

オディオ王国を出て、メルキオールに到達するまでに作ったスキル【技能譲渡スキルトランスファー】と【技能複写スキルコピー】。この2つのスキルの併用によって、飛鳥は俺と同じ様に、彼女念願の【魔術】が使えるようになった。

余談だが、飛鳥が初めて魔術が使えるようになったとき、俺は嬉し涙を流す飛鳥に抱きつかれた。絵面としては役得に見えるかもしれないが、飛鳥の筋力はB。成年男性を上回る力を出せるレベルだ。

如何に世の女性が羨むレベルの抜群のプロポーションをもつ飛鳥に抱きしめられるとはいえ、その筋力で手加減なしガチでハグをされるとどうなるか?→そのときの俺の様に彼女のもつ女性特有の柔らかさと強烈なベアハッグレベルの締め技によるダメージに同時に襲われる。正しく”天国と地獄ヘルアンドヘヴン”を味わうことになった。あのとき、冗談抜きで俺は綺麗なお花畑と流れる川が見えて、逝きかけた……。

あと、クロエが使える【竜魔術ドラゴロア】は戦闘時はとても頼もしいが、生活上で使うには高威力過ぎて不向きなため、クロエにも飛鳥と同じ様に俺が使える【魔術】を使える様にした。感極まったクロエに俺は抱きつかれて……以下略。

努力家である飛鳥はあらゆる場面で適した魔術を見抜いて行使し、経験を重ねている。

その技量は飛鳥本来のチートスペックもあって、彼女を蔑んでいたメガネが既に足元にも及ばない位魔力操作が巧みになっている。

洗顔後、予め作って【空間収納】に貯蔵しているおにぎりと味噌汁、卵焼き、高菜の油炒めで俺は飛鳥達と朝食を摂る。

高菜は飛鳥が漬けたもので、彼女の祖母から直々に仕込まれた絶品だ。最初はその独特の臭いが原因で手をつけるのを控えていたクロエだが、好奇心に負けて高菜の油炒めを口に入れた瞬間、即堕ちした。

配膳は完全覚醒したクロエが担当。うちのメンバーは全員料理好きであるので。食事の調理が当番制になっているのだが、本人達の要望でクロエ>飛鳥>俺という割合になっている。他の当番のときの手伝いは任意。

電灯という夜中も作業を可能にする文明の利器がない世界のため、活動時間が非常に限られている。それに加え、俺のURスキル【想技創造スキルクリエイト】と【魔術創造マジッククリエイト】に〆切があることもあって、2人は俺が手伝わないことに文句を言うことはない。

逆に狭い調理場で手が余ることが問題だったので、俺は当番時以外は要請がない限り、基本的に他の事を優先することが2人との話合いで決まった。

朝食を終えて、フロントに鍵を預けて俺達は馬房に顔を出して、本日の最初の目的地である錬金術師ギルドへは徒歩で行ける距離であることに加え、飛鳥とクロエの要望で道をある程度覚えるため歩いて向かうことになった。



活気のあるメルキオールの街並みを歩き、俺達は中央区にあるギルド本部が密集している場所を目指す。俺が【認識阻害】を展開しているから、見目麗しい飛鳥と可愛らしいクロエが行き交う衆目に注目されることはない。

メルキオールの東区はメルキオールに移住してきた(主にオディオ王国から)移住者と下級冒険者達のパーティの住居と安宿がある。下級冒険者達が住んでいる区画はこの東区で最も西に位置している。移住者の住居と安宿は、オディオ王国からの移住者の急増によって混在し、その急増によって東区はどんどん東に拡張していっている。

安宿と言っても、昨夜俺達が泊まった宿の様にきちんと寝台がある所ではない。横になれない狭い個室に設置されているロープに寄りかかって眠り、料金時間を過ぎたらロープを店員が叩き斬って、泊り客を叩き起こす仕組みの店だ。

現代日本の感覚したら奇異な感じがするが、この世界では持ち家がなく、手持ちが少ない者達にとってはありふれたもので、休めるだけ充分な場所らしい。中世ヨーロッパにも似たような宿はあったと歴史の本で読んだことがある。


中央区の中央部には前述したようにギルド本部が密集している。ただ密集している訳ではなく、中央の東側には冒険者ギルド。北側には魔術師ギルドと薬品ギルド。南側には錬金術師ギルドと鍛冶師ギルド、技師ギルド。そして、西側には商人ギルドと従者ギルドという風に固まっている。

技師ギルドに所属しているのは主に馬具や魔導具の生産・開発スキルをもつ生産職の人達だ。登録することによる利点は開発した道具の設計図を登録することでその道具を製造、販売する際に一定の金額を得ることができる。他にも高ランクになれば新たな技術開発スタッフとして呼ばれるらしい。もっとも、俺は登録するつもりはない。

薬品ギルドというのは新興ギルドで構成員は大部分が元錬金術師ギルドの錬金術師。扱っているのは名前の通り、ポーションを中心とした薬品の製造・販売で、業務の大部分が錬金術師ギルドと被ってしまっている。

そのためか、錬金術師ギルドと衝突しがちで、最近も冒険者ギルドに納入するポーションに関して一悶着があり、ギルド長間のやりとりで薬品ギルドが高級・中級ポーションの納入を請負、錬金術師ギルドが下級ポーションの納入を請け負うことでなんとか収まったらしい。この話は食堂で聞いた話である。

「ここが錬金術師ギルドですか……」

飛鳥が言う様に俺達は錬金術師ギルドの本部に到着した。ギルドの建物は年季の入った大きな建物だが、所々老朽化している様に見える。

しかし、きちんと錬金術師ギルドの目印である2匹の蛇が絡みついた翼杖、カドゥケウスが描かれている。紛らわしいが、薬品ギルドは1匹の蛇が杖に絡みついたデザインが目印だ。

『とりあえず、中に入るしかあるまい』

クロエのその言葉に俺達は同意し、建物の中へと歩みを進めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...