とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星

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第2章 自由連合同盟都市国家メルキオール 首都メルキオール編

第39話 俺がポーションを納品しようとしたら、取引先に勘違いで納品物を台無しにされた件

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冒険者ギルドのシンボルは松明とその横に並んだ抜き身の長剣。洞窟内の装備=冒険を表しているとか。

扉を開けると、案の定、なかにいた冒険者のみなさんに注目されました。悪い意味で。

怖気づいて尻込みすると、事態は悪化するので、俺は気にせず、手が空いている受付嬢がいるカウンターに向かう。飛鳥とクロエも俺の後ろに付いて来ている。

「納品に来ました。確認をお願いします」

そう言って俺はカウンター上にポーションを入れている専用の箱の1つ目を置いて、ギルドカードを出して渡そうとしたのだが、

「バーバラちゃん、今日はいい依頼あるかい? なんだこれ、邪魔だ!」

そう言って後ろから割り込んできた男が受付嬢に話しかけ、俺が取引のために置いたポーションの箱を手で薙いでカウンターから落とした。

そして、受付嬢は俺達の方には目もくれず、男と談笑を始めた。

「くっ」

辛うじて、俺が横飛びして届く位置だったので、俺は落下していく箱に飛びついた。

無理に胴体着陸したため、床に打ちつけた腹が痛かったが、俺は箱の中身をなんとか割らないように伸ばした両手で箱を掴むことに成功した。

しかし、次の瞬間、全身鎧を着た別の男が鋼鉄製の具足を履いた足で箱は踏み潰されて、ガラスが割れる音が辺りに鳴り響き、箱からはポーションの薬液が染み出した。

その瞬間、俺の脳裏に飛鳥とクロエ、ケイロン達が初めてポーションを作製した時に浮かべた笑顔が過った。

「ああ、わりい。だがそんなところで横になっているお前が悪いんだぜ」

そう言って、箱を踏み潰した冒険者の男は口では謝っているが、眼は笑って口は笑みで歪んでいた。そして、続けて俺の右手を鋼鉄製の具足で踏みつけてきた。

「もう、それじゃあ、その商品は取引できないじゃないですか。気をつけてくださいよう」

バーバラと呼ばれた受付嬢は笑顔で右手を踏まれている俺に向かって、そう言ってきた。

「ふんっ、ぼったくりで質の悪い上級ハイポーションなんか売りつけようとするクソ薬品ギルドにはいいザマだぜ」

後ろから割り込んできて箱を落した男が痛快だろ言わんばかりにそう吐き捨てた。辺り冒険者達は俺の無様な姿を見て爆笑している。

『ご主人!?』

「優さん!?」

慌ててクロエと飛鳥が駆け寄ってくる。やけにその動きが見える。それにしてもこの足、邪魔だな。

右手を踏みつけている邪魔な男の鋼鉄製具足に【体術】の【鎧通し】を左拳で放って、俺は男の脚の骨を粉砕した。

「ぐ?がああああっ!?」

男が激痛で叫び、バランスを崩して後ろに倒れて、頭を打ったが俺の知ったことではない。

「【水球】」

俺は立ち上がって、汚れてしまった両手を水球で洗う。汚れた水球を消滅させて、俺は壊れてしまったポーションが入っていた箱の残骸を【空間収納】にしまった。

次いで、俺はギルドカードを再び出し、”コール”でミーネさんを呼び出す。

『どうしたんだい?』

怪訝そうな声のミーネさんが応答してくれた。

『お忙しいところすいません。ポーションの納品に失敗しました。冒険者ギルドの受付嬢にポーションの受け取りを拒否され、力及ばず冒険者達に納品するポーションを破壊されました。詳しくは戻って話しますので、これよりギルドに戻ります』

俺はミーネさんに謝罪して、手短に帰還することを伝えた。

『わかった。そこに冒険者ギルドのギルド長はいるかい?』

『いませんよ』

俺は即答した。

『……そうか、わかった。気をつけて帰ってきな』

ミーネさんは失望した様な声音でそう告げた。

『はい。申し訳ありません』

ミーネさんが”コール”を終了したのを確認したところで、駆け寄ってきたクロエと飛鳥が抱きついてきた。

『ご主人、大丈夫かや?』

「お怪我はございませんか?」

2人が俺の心配をしてきた。俺は怪我らしい怪我をしていないから、理由がわからない。

「2人とも俺は大丈夫だよ。踏まれてた右手は少し痛かっただけだったから。ミーネさんの許可が出たので今日は錬ギルドに帰ろう」

「待ちやがれ!ジョーをやって、このまますんなりと帰れると思っているのか?」

箱をカウンターから落した男が長剣を抜いて切っ先をこちらに向けている。その様子を飛鳥が鋭い瞳で睨み付けていた。

『飛鳥、手を煩わせて悪いが、俺が話し終えた後、大怪我は不味いから鞘つきで殴って無力化してくれ』

『わかりました。任せてください』

【念話】で言葉を交わし、俺の頼みを飛鳥は快諾してくれた。

「正直、こっちはそっちの勘違いで迷惑しているんだ”ギルドカードドロー”俺達は錬金術師ギルド。薬品ギルドじゃない。そこの男は自業自得だ」

「……行きます」

応えた飛鳥の姿が彼女の発動した【縮地】で残像を残して掻き消えた。

「ぐはぁ」

男は次の瞬間、飛鳥に脇腹を捉えられて崩れ落ちた。

男が崩れ落ちたのを見て、冒険者達が一斉に武器を構えるが、

『騒ぐでないわ 下衆どもが!!』

青筋を浮かべて怒気を纏ったクロエが対象に【威圧】を放った。

武器を構えていた冒険者達は武器をそれぞれの手からこぼれ落して、気絶した。さらに受付カウンターにいたバーバラと呼ばれた受付嬢を含め、冒険者達と一緒に俺を嘲笑っていた冒険者ギルド職員全員もクロエの【威圧】で気絶した。

死屍累々となった冒険者ギルド本部を後にして、俺達は錬金術師ギルド本部へ戻ることにした。

「はぁ、酷い目にあった」

俺はそうため息をついた。

『ご主人……』

「……」

「? 涙?ははははっ、この歳になってまさか、涙を流すとはね。2人にはみっともないところをみせてしまったね。ありがとう」

クロエと飛鳥、2人はそれぞれ、掌とハンカチで俺の頬をそれぞれ拭ってくれた。2人に拭ってもらって、俺はようやく自分が涙を流して泣いていたのに気がついたのだった。




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