とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星

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第2章 自由連合同盟都市国家メルキオール 首都メルキオール編

第40話 わたしが優さんの代理でギルド長の話し合いに参加した件前編(如月飛鳥視点)

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「大変申し訳ない!」

鍛えた体をもつ私の父と同じ年頃風体の男性が冒険者ギルドのギルド長だそうです。彼はこの場に来るなり、錬金術師ギルド長ミーネさんと私に土下座をしました。その彼の横では、優さんをぞんざいに扱って嘲笑った冒険者ギルドの女性も同じく床に額をつけていました。

彼等の姿は以前の私が見たならば、誠意を見せたとして、愚かにも彼等の思惑に乗って優さんに許す様に伝えたでしょう。

しかし、この世界に来た私には彼女が全く改心してことが、判ってしまいます。

「あんたらが謝る相手はここにいないんだから、そんな無駄なことやってこっちの時間を余計なことで奪うんじゃない! さっさと席につきな!!」

ミーネさんには当然、この2人の思惑が透けて見えたのでしょう、怒り心頭で土下座している2人を怒鳴りました。

「ミネ……ミーネ君が言うことももっともだよバルガス君。この場はそこの粗忽な冒険者ギルドの受付嬢と乱暴狼藉を働いた冒険者2名の処遇を決める場所だ。時間は有限。早速始めるとしよう」

そう言って着席を促したのは以前、屋台街のイートインスペースで相席した男性でした。彼はかつて商人ギルドのギルド長で現在は後継者にその地位を譲り、現在は全ギルドの総長を務めているそうです。

ミーネさんの名前を言い直したことについて気になりましたが、優さんに酷いことをした人達の処分の決定を優先しなければなりません。

「……わかりました」

そう言って渋々と冒険者ギルド長と受付嬢は着席しました。

「では、始めるとしよう。これより私、ヘリオス・メリクリウスの名の下に審議を開始する。まずは相互の事件に関する認識の確認から。過日、ミーネ錬金術師ギルド長の報告により召集された”臨時ギルド長会議”において、異世界よりの来訪者であるそちらのアスカ・キサラギとこの場にはいないユウ・アンドウ。そして、隣国のオディオ王国に封印されていた闇黒魔竜の幼体、クロエの3名を最重要警戒対象に認定し、3名の特徴を伝えて過度の接触と敵対行為を控える様、全ギルド職員に通達および公示をした」

この決定は私達を刺激して敵対関係になることを避けるためだったようですが、今回のこともあって、全く意味を成していません。

「このこと、きちんと冒険者ギルド所属員全員に通達、公示を行っているのは間違いないなバルガス冒険者ギルド長?」

「はい。公示内容を記載した張り紙と立て札を依頼掲示板に設置し、受付職員全員に所属員が依頼を受注する際に口頭で伝達するよう徹底しています」

ヘリオスギルド総長が問うと、冒険者ギルド長は淀みなく答えました。

「だったら、何故、そこのと冒険者2名はギルド長会議の決定にことをしたのかねぇ?」

ミーネは怒りを隠さず顔が真っ青になった受付嬢を睨みます。

「おい、ミーネ……失礼、錬金術師ギルド長、でなんでそんなに目くじらをたてるんだ?」

「はあ?」

「おや?」

ミーネさん、ヘリオスギルド総長が眉根をつり上げました。私も怒りがこみ上げてきました。

「冒険者ギルド長、貴方はそこの女性と冒険者2名が優さんに働いた蛮行をご存知ないのですか?」

我慢ができず、私は冒険者ギルド長に問いかけました。

「蛮行だと? なんのことだ?」

返ってきた答えと、彼の表情は本当に何を言っているのかわからないといったものでした。

「やれやれ、アスカ無駄だよ。バルガスがそんな顔をしているときはときさね。どうやら、そこの職員同様、あの場にいた者達全員は口裏合わせて自分達がやったことをバルガスに黙っていたようだね」

ミーネさんは呆れ果てた様子でそう言いました。

「なんだと!? おい、バーバラ、どういうことだ!!」

「ひぃ、わ、私は嘘は言っていません。お父さん」

冒険者ギルド長が加害者の職員に問いただすと彼女は顔を強張らせて反論しました。

ミーネさんからの情報ですが、冒険者ギルド長のバルガスさんとバーバラさんは実の父娘。仕事に就いていなかったバーバラさんを見かねたバルガスさんがギルド長権限で冒険者ギルドの受付に縁故採用したそうです。


「嘘は言っていないけれども、本当のことも言っていませんよね? 優さんが予想されていた通り、本当に貴女は恥という言葉を知らないのですね。冒険者ギルド長が事実を把握していないのならば、この音と映像を撮影し、再生できる魔導具で私がお教えしましょう」

そう言って私は予め優さんが持っていたハンディプロジェクターに繋がった私のMyPhoneのある動画ファイルを再生しました。再生した動画ファイルは優さんが冒険者ギルドに到着したところから小型カメラで撮影したもので、私のMyphoneにカメラからコピーされたものです。


『納品に来ました。確認をお願いします』

優さんがこの場にいるバーバラさんに話しかけている場面です。あのときは気づけませんでしたが、目の前の彼女は優さんを見ずに、どこかに目配せしているのがわかります。そして、事件の一部始終が終わり、冒険者ギルドを出たところで映像は終わりました。



「ふむ、その魔導具はとても興味深いが今は置いておこう。私が聴取した今回の事件の内容と一致する映像であった確認はできた。それで、バルガス冒険者ギルド長が聞いた話はどうだったのかな?」

「……私が聞いた話では彼はバーバラと依頼の話をしていた冒険者の会話に割り込んで、納品をしようとしてバーバラと冒険者2名に追い払われ、その際に怪我をしたという話でした」

冒険者ギルド長は愕然とした表情でヘリオスギルド総長の問いかけに応えました。

「やれやれ、冒険者は荒くれ者が多くいるのはわかるが、いつのまに冒険者ギルドの本部の冒険者達は腐った集団に成り下がったのかねぇ」

ミーネさんが痛烈な嫌味を浴びせますが、先の映像の中の冒険者ギルドの現状を言い当てているため、否定できる余地はありません。眼を閉じて冒険者ギルド長は甘んじて受けました。

「……こうなったら、事件の加害者であるバーバラと当事者の冒険者2名はギルド規則にしたがって懲戒解雇とする」

「待ちな、バルガス。それだけで水に流してもらおうなんて、虫が良すぎるよ。錬金術師ウチは今後一切冒険者ギルドには下級レッサーポーションとポーションは卸さないから、そのつもりでいな!」

冒険者ギルド長が懲罰を口にすると、ミーネさんが声高にそう主張しました。

「なっ!? お前、本気か? 売り上げはどうするんだ? そんなんでギルドを維持できるのかよ?」

冒険者ギルド長は驚きが大き過ぎたのか素で反論しました。

「ポーション類の商いは行商人相手でもいいし、商人ギルドにも相談するつもりさ。第一、あんたら冒険者は一体何様のつもりだ! さっきの映像をみただろう? 誰一人ユウを助けるどころか、暴行を止めるべきギルド職員までもが嘲笑していた。錬金術師ウチを脱退した馬鹿どもを庇う気持ちは微塵もないけどね、あんたらはあたし達錬金術師だけじゃなく、生産職の矜持を踏み躙ったんだよ。そんな奴等相手に商売をする酔狂な馬鹿はいないし、助けてやる義理がどこにあるって言うんだい!?」

ミーネさんはそう毅然と言い放ちました。

「ギルド総長!」

冒険者ギルド長はヘリオスギルド総長の方に顔を向け、助けを求めました。

「残念だが、バルガス冒険者ギルド長、私は今回の君達を擁護するつもりはない」

「あたしらが売った商人達から買うか、薬品ギルドから買えばいいじゃないか」

ヘリオスギルド総長が断言したのに続いて、ミーネさんが現実を突きつけました。

「待ってください! それじゃあ、ポーションの価格が上がって駆け出しの冒険者を始め、低ランクの冒険者がポーションを買うことができません!」

それまで黙っていたバーバラさんが声高にそう主張しました。間を商人を挟むため、手数料が上乗せされて、現在の冒険者ギルドで買うよりも下級レッサーポーションとポーションが上がるのは確実です。

「あんたらがそうしたんだろ? あたしらに責任転嫁をするのはやめてくれないか。本はといえば、あんたがきちんとユウの言葉を聞いて、ギルドカードのシンボルマークと記載を確認していればこんなことには、低ランク冒険者達がポーション不足で命を落すことはなかったんだよ? ユウは確かに納品に来たと言っていただろう? 他ギルドの相手の所属を確認するのは受付の基本だろうにあんたはなにをやっていたのさ」

「ぐぅっ……」

ミーネさんの正論にバーバラさんは反論できずに黙りました。

「どこまで身勝手なんですか貴女は? 今の貴女の言葉は私には苦しい言い訳にしか聞こえません。全ての冒険者が貴女達の様な考えをもっているとは思いたくありませんが、薬品ギルドの所為で無茶な追加発注をした冒険者ギルドあなたたちの中から少しでも死人が出ないようにと品質を納品期限を前倒しにするため、優さんはしなくていい無茶をしたんですよ!」

お恥ずかしい話ですが、私はこのとき感情的になって発言してしまいました。

「全くだね。あんたらが発注した下級レッサーポーションとポーション3,000本中の約7割をあたしですら骨折作業の1日でユウは作り上げたんだよ。錬金術師ウチを脱退した薬品ギルドの馬鹿どもでは当然できない作業さ。それを登録したての錬金術師ができると思っているのかい?」

ミーネさんが私の言葉に同意してくださいました。また、ミーネさんの優さんを褒める賛辞の言葉にバーバラさんはと冒険者ギルド長だけではなく、ヘリオスギルド総長までもが驚愕しました。






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