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第2章 自由連合同盟都市国家メルキオール 首都メルキオール編
第41話 わたしが優さんの代理でギルド長の話し合いに参加した件後編(如月飛鳥視点)
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「そんな逸材にあんたらは勘違いの八つ当たりで言いがかりつけて、壊そうとしたんだ。そこのところはどう考えているんだい?」
ミーネさんは怒りが収まらないのか獰猛な笑顔でそう言いました。
「彼は怪我なんかしてないじゃないですか!!」
バーバラさんは声を荒げてミーネさんに反論しました。
それを私とミーネさん、ヘリオスギルド総長は冷めた目で見つめます。常人でしたら骨折を免れない暴行ですが、優さんはあの時、無意識に【強化魔術】の【身体強化】を使っていました。
「……」
冒険者ギルド長は頭を垂れて無言です。
「本当に話にならないねぇ。あんたは一体何しにここに来たのさ? これ以上は本当に時間の無駄になりそうだね」
ミーネさんの吐き捨てたその言葉に私も心の底から同意して頷きます。
「……今後、毎月月末に冒険者ギルドのポーションの売り上げの1割を冒険者ギルドは錬金術師ギルドに支払う。それで取引を続けさせて欲しい。今回浪費することになったポーションの素材は当然、すぐに冒険者ギルドが収める。被害者であるユウには慰謝料として、魔法銀貨1枚を支払おう」
黙っていた冒険者ギルド長が冒険者ギルドの対応を答えました。
「魔法銀貨!?」
「ふんっ、それでこの件、錬金術師ギルドとしては手打ちにしといてあげるが、次はないよ」
「なるほど、君はそこまで彼のことを買うのかね」
バーバラは驚愕し、ミーネさんは一応、矛を収め、ヘリオスギルド総長は感心した声をあげました。
「このメルキオールの繁栄に彼の力は必要不可欠になると思いますから、当然です。そして、こちらの加害者の処遇ですが」
バーバラさん達の処遇の話になったので、私は手を挙げました。
「なにかあるのかね。アスカ君?」
「はい。優さんから、加害者3名の処遇についての意見を言付かっています」
「わかった。聴かせてもらえないかな」
私の発言を聞いて、バーバラさんを除いた3人は姿勢を正しました。
「内容は大きく4つです。1つ目は全員の懲戒解雇の否認。2つ目は全員の再教育。3つ目は納品を妨害したポーションの素材を冒険者ギルドが立て替えて、冒険者2名に素材を無償で明日から7日以内に収集させることです。そして、4つ目は今回のことを隠し立てせずに公示することです」
この審議が始まる前に私は優さんから詳しく説明されたことの取っ掛かりをミーネさん達に告げました。
「へぇ、面白いことを言うじゃないか。当然、理由も聞いているんだろう?」
ミーネさんは先ほどとは違う笑みを浮かべて私に先を促し、ヘリオスギルド総長と冒険者ギルド長も興味深げに私を見ていました。
「はい。1つ目は解雇することによって、彼女等が逆恨みをして私達を害するために犯罪者となり、メルキオールの治安を悪化させるのを防ぐためです。2つ目の理由にも繋がりますが、組織に所属する以上、上層部の指示には従わなければなりません。彼女達を解雇しないことでその強制力も利用するそうです」
「なるほど、悪事を働いた奴を叩き出すのではなく、手元で管理して更生させようという考えか」
ヘリオスギルド総長は優さんの言いたいことの要点に辿り着いたようです。
「ええ、ここで2つ目の再教育ですが、今回起こった事故の原因は職員がやるべき確認を怠ったことにあります。荒くれ者が多いと言われる冒険者であっても、周知されている人物の確認を怠ったことは同罪。優さんは可能であれば冒険者ギルドの職員全員も”従者ギルド”の駆け出しが受ける訓練を受けさせることを提案していました」
「なんで従者ギルドなんだい?」
ミーネさんが疑問を投げかけてきました。
「従者ギルドは”主に従う者達”を派遣する組織なので、自分の行動がどのような結果を周囲に齎すかを考えさせる教育を行っていると聞きました。そこの受付嬢を見れば自分がやったことが冒険者ギルドにどのような影響があるのか今も全く分かっていないのがわかります。冒険者2人に関しては、自分の行動が齎す結果を予測する力が身についていないといづれそれが原因で死亡すると思われるからです」
言い終えた私は3人が納得し、1人が不満に思っている中、淹れられて温くなってしまった紅茶を飲んで、喉を潤しました。
「なかなか面白く、いい考えだね。バルガス冒険者ギルド長、君はどう思うかね?」
「自分の行動が齎す結果を予測する力か……たしかにその有無が高ランク冒険者になれるかの1つの分かれ目にもなっているからいいと思います。ただ、ギルド職員全員を従者ギルドで教育させるとなると、その間冒険者ギルドの業務に影響が出るかもしれません」
ヘリオスギルド総長は賛同して、冒険者ギルド長は新たに起こりうる問題で唸ってます。
「ちょっと、お父さん!あたしは来月結婚するんだから、そんなことやっている暇はないわよ!!」
……本当にこの人はなんで審議の場に来たのでしょうか。反省の色が見えないばかりか、公私混同が甚だしいですね。
「ヘリオスギルド総長、冒険者ギルド長。アスカの説明の途中だけど、バーバラの処遇はユウが提案した”従者ギルドでの新人教育”に決定でいいね? なに、1週間以内で身に付けられるスペシャルでハードなコースがあるそうだから、それで合格すれば1ヶ月なんて余裕で間に合うじゃないか」
ミーネさんがいい笑顔でそう言いました。
「そうだね。バルガス冒険者ギルド長、時間がないというのならすぐにでも従者ギルドにお願いするがどうだね?」
「ヘリオスギルド総長、是非お願いします!!」
ヘリオスギルド総長が冒険者ギルド長に水を向けると、彼は二つ返事でお願いしました。
「ちょ……」
バーバラさんが絶句した直後、
「……ご用命確かに承りました、ご主人様。おっと、これは失礼、お初にお目にかかりますお嬢様。私、セバスチャン・サタナエルと申します。以後、お見知りおきください」
バーバラさんの背後に忽然と現れて、彼女の首根っこを猫にする様に掴んだ黒い執事服に身を包んだ青年が優雅に私に挨拶をしました。
「……よろしくお願いします」
どこか非人間的なその雰囲気から私は自然と彼を警戒してそう返すだけで精一杯でした。
「そう警戒なさらないでください。今回は仕事がありますので、失礼させていただきますが、機会がありましたら、是非貴女のこの世界のご家族と言葉を交わさせてください。それでは」
青年はそう言って笑みを浮かべ、喚いているようですが、声が全くこちらに届かないバーバラさんと一緒にこの部屋から現れたときと同じ様に消えました。
「アスカ、セバスチャンについてはユウとクロエを交えて説明するから、さっきの説明の続きを頼むよ」
ミーネさんの言葉に私は頷いて、説明を続けます。
「はい。3つ目の冒険者ギルドへの冒険者2名の素材納品については、冒険者ギルドが素材を立て替えただけでは冒険者ギルドが彼等を庇った形になるからです。自分達が使い物にならなくしたポーションの素材を集める苦労を自覚してもらう意図があります」
このことについて、優さんはランクが高い冒険者には意味がないかもしれないけれどと苦笑していました。
「4つ目の公示については、下手に隠すことで今回の処罰について曲解をして逆恨みをする人達が出てくる可能性があるからです。また、冒険者ギルドと錬金術師ギルドの風評被害を抑える意図もあります。それでもなお、私達に危害を加えるつもりならば……私達は容赦をするつもりはありません」
最後は脅しになってしまいましたが、3人は頷いているので、納得しているようです。
「わかった。ユウの提案を私は飲もうと思うが、2人は同思うかね?」
「私は賛成です、ヘリオスギルド総長」
ミーネさんは即座に賛同の意を表明してくれました。
「……ギルド職員の再教育についてはどうしたら……」
冒険者ギルド長は業務が滞ることを懸念しているようです。これも優さんが想定していましたので、私は助け舟を出すことにしました。
「従者ギルドに相談は必要ですが、依頼という形で事務仕事を職員の再教育が終わるまで、代行してもらうのはいかかがでしょうか? 代行料に関しては従者ギルドと交渉する必要がありますが、契約を結ぶ際に、魔術誓約書で冒険者ギルドの情報漏えいを防止する守秘義務を結べば問題にならないかと。それに……」
「それに?」
ミーネさんが興味深げに私に先を促しました。
「再教育を受けた冒険者ギルド職員にいい刺激になるはずです。従者ギルドのほうが対応がよかったと言われて奮起するのか、辞めるのか、それは職員自身で決めることだと思います」
このメルキオールでは、探せば生活の糧になる仕事がなにか見つかるかもしれません。他所に移るのも選択の1つです。
「優さんは厳しいことをかもしれないが、と前置きをされていましたが、この世界で自分の行動が齎す結果を予測する力が身についていないと失敗をして死亡するのは万民にも当てはまることで、当然、私達や職員である彼等彼女等も同等。そして、より危険な場所に冒険者を送り出していることに今回を機に自覚するべきだとも言っていました」
私も優さんに言われたときにこのことには共感しました。
「ははっ、長年悩まされていた耳に痛いことをまさか、錬金術師ギルドから具体的な解決策付きで指摘されるとはなぁ……ヘリオスギルド総長、従者ギルドへのつなぎをお願いします。私が単独で向かうよりも貴方を通した方が円滑に事を運べると思います」
冒険者ギルド長は私の言葉を聞いて、どこか憑き物が落ちたようなすっきりとした表情でヘリオスギルド総長に告げました。
「では今回の審議の決定事項を改めて通達する。1つ、毎月月末に冒険者ギルドのポーションの売り上げの1割を冒険者ギルドは錬金術師ギルドに支払う。1つ、冒険者ギルドは今回浪費することになったポーションの素材を錬金術師ギルドに収める。1つ、冒険者ギルドは錬金術師ギルド所属員、ユウ・アンドウに魔法銀貨1枚を支払う。1つ、冒険者ギルドは今回問題を起こした所属員および、ギルド職員全員に従者ギルドでの再教育を行う。1つ、今回の事件に関しては全貌を公示し、ユウ・アンドウ等へ危害を加えないよう再度通達するものとする」
「「異議なし」」
ミーネさんと冒険者ギルド長の同意の声に私も賛同するよう頷き、出された文書に署名しました。
「では今回の審議は終了とする」
ヘリオスギルド総長が高らかに宣言しました。
……その直後に、冒険者ギルド長のお腹の虫が盛大に部屋に鳴り響きました。
「……バルガス」
ミーネさんは音の発信源である冒険者ギルド長にジト眼を向けています。ヘリオスギルド総長と私も苦笑いを禁じ得ません。
「すまねぇ、うちの馬鹿どもがやらかしたと聞いて、気絶している阿呆共を叩き起こして事情を聞いて、ヘリオスさんから審議の召集があって昼飯を食い損ねていたんだ」
冒険者ギルド長はそう謝罪しました。審議が終わって、気が抜けたのか、口調も砕けたものに変わっています。これが普段の彼なんでしょうね。
そういえば、もうすぐお夕飯の時間ですね。私がそのことに思い至ったとき、不意に審議をしていたこの部屋の扉が開き、
『アスカ、ケイロンと迎えに来たぞ! ミーネと冒険者ギルド長、おお、そこにいるのは先日の御仁ではないか!? ユウがよければジェシカも加えて、皆で夕食をともにしないかと言っておったぞ!!』
苦笑いをしているジェシカさんを引き連れたクロエが天真爛漫な笑顔で、私達にそう言いました。
ミーネさんは怒りが収まらないのか獰猛な笑顔でそう言いました。
「彼は怪我なんかしてないじゃないですか!!」
バーバラさんは声を荒げてミーネさんに反論しました。
それを私とミーネさん、ヘリオスギルド総長は冷めた目で見つめます。常人でしたら骨折を免れない暴行ですが、優さんはあの時、無意識に【強化魔術】の【身体強化】を使っていました。
「……」
冒険者ギルド長は頭を垂れて無言です。
「本当に話にならないねぇ。あんたは一体何しにここに来たのさ? これ以上は本当に時間の無駄になりそうだね」
ミーネさんの吐き捨てたその言葉に私も心の底から同意して頷きます。
「……今後、毎月月末に冒険者ギルドのポーションの売り上げの1割を冒険者ギルドは錬金術師ギルドに支払う。それで取引を続けさせて欲しい。今回浪費することになったポーションの素材は当然、すぐに冒険者ギルドが収める。被害者であるユウには慰謝料として、魔法銀貨1枚を支払おう」
黙っていた冒険者ギルド長が冒険者ギルドの対応を答えました。
「魔法銀貨!?」
「ふんっ、それでこの件、錬金術師ギルドとしては手打ちにしといてあげるが、次はないよ」
「なるほど、君はそこまで彼のことを買うのかね」
バーバラは驚愕し、ミーネさんは一応、矛を収め、ヘリオスギルド総長は感心した声をあげました。
「このメルキオールの繁栄に彼の力は必要不可欠になると思いますから、当然です。そして、こちらの加害者の処遇ですが」
バーバラさん達の処遇の話になったので、私は手を挙げました。
「なにかあるのかね。アスカ君?」
「はい。優さんから、加害者3名の処遇についての意見を言付かっています」
「わかった。聴かせてもらえないかな」
私の発言を聞いて、バーバラさんを除いた3人は姿勢を正しました。
「内容は大きく4つです。1つ目は全員の懲戒解雇の否認。2つ目は全員の再教育。3つ目は納品を妨害したポーションの素材を冒険者ギルドが立て替えて、冒険者2名に素材を無償で明日から7日以内に収集させることです。そして、4つ目は今回のことを隠し立てせずに公示することです」
この審議が始まる前に私は優さんから詳しく説明されたことの取っ掛かりをミーネさん達に告げました。
「へぇ、面白いことを言うじゃないか。当然、理由も聞いているんだろう?」
ミーネさんは先ほどとは違う笑みを浮かべて私に先を促し、ヘリオスギルド総長と冒険者ギルド長も興味深げに私を見ていました。
「はい。1つ目は解雇することによって、彼女等が逆恨みをして私達を害するために犯罪者となり、メルキオールの治安を悪化させるのを防ぐためです。2つ目の理由にも繋がりますが、組織に所属する以上、上層部の指示には従わなければなりません。彼女達を解雇しないことでその強制力も利用するそうです」
「なるほど、悪事を働いた奴を叩き出すのではなく、手元で管理して更生させようという考えか」
ヘリオスギルド総長は優さんの言いたいことの要点に辿り着いたようです。
「ええ、ここで2つ目の再教育ですが、今回起こった事故の原因は職員がやるべき確認を怠ったことにあります。荒くれ者が多いと言われる冒険者であっても、周知されている人物の確認を怠ったことは同罪。優さんは可能であれば冒険者ギルドの職員全員も”従者ギルド”の駆け出しが受ける訓練を受けさせることを提案していました」
「なんで従者ギルドなんだい?」
ミーネさんが疑問を投げかけてきました。
「従者ギルドは”主に従う者達”を派遣する組織なので、自分の行動がどのような結果を周囲に齎すかを考えさせる教育を行っていると聞きました。そこの受付嬢を見れば自分がやったことが冒険者ギルドにどのような影響があるのか今も全く分かっていないのがわかります。冒険者2人に関しては、自分の行動が齎す結果を予測する力が身についていないといづれそれが原因で死亡すると思われるからです」
言い終えた私は3人が納得し、1人が不満に思っている中、淹れられて温くなってしまった紅茶を飲んで、喉を潤しました。
「なかなか面白く、いい考えだね。バルガス冒険者ギルド長、君はどう思うかね?」
「自分の行動が齎す結果を予測する力か……たしかにその有無が高ランク冒険者になれるかの1つの分かれ目にもなっているからいいと思います。ただ、ギルド職員全員を従者ギルドで教育させるとなると、その間冒険者ギルドの業務に影響が出るかもしれません」
ヘリオスギルド総長は賛同して、冒険者ギルド長は新たに起こりうる問題で唸ってます。
「ちょっと、お父さん!あたしは来月結婚するんだから、そんなことやっている暇はないわよ!!」
……本当にこの人はなんで審議の場に来たのでしょうか。反省の色が見えないばかりか、公私混同が甚だしいですね。
「ヘリオスギルド総長、冒険者ギルド長。アスカの説明の途中だけど、バーバラの処遇はユウが提案した”従者ギルドでの新人教育”に決定でいいね? なに、1週間以内で身に付けられるスペシャルでハードなコースがあるそうだから、それで合格すれば1ヶ月なんて余裕で間に合うじゃないか」
ミーネさんがいい笑顔でそう言いました。
「そうだね。バルガス冒険者ギルド長、時間がないというのならすぐにでも従者ギルドにお願いするがどうだね?」
「ヘリオスギルド総長、是非お願いします!!」
ヘリオスギルド総長が冒険者ギルド長に水を向けると、彼は二つ返事でお願いしました。
「ちょ……」
バーバラさんが絶句した直後、
「……ご用命確かに承りました、ご主人様。おっと、これは失礼、お初にお目にかかりますお嬢様。私、セバスチャン・サタナエルと申します。以後、お見知りおきください」
バーバラさんの背後に忽然と現れて、彼女の首根っこを猫にする様に掴んだ黒い執事服に身を包んだ青年が優雅に私に挨拶をしました。
「……よろしくお願いします」
どこか非人間的なその雰囲気から私は自然と彼を警戒してそう返すだけで精一杯でした。
「そう警戒なさらないでください。今回は仕事がありますので、失礼させていただきますが、機会がありましたら、是非貴女のこの世界のご家族と言葉を交わさせてください。それでは」
青年はそう言って笑みを浮かべ、喚いているようですが、声が全くこちらに届かないバーバラさんと一緒にこの部屋から現れたときと同じ様に消えました。
「アスカ、セバスチャンについてはユウとクロエを交えて説明するから、さっきの説明の続きを頼むよ」
ミーネさんの言葉に私は頷いて、説明を続けます。
「はい。3つ目の冒険者ギルドへの冒険者2名の素材納品については、冒険者ギルドが素材を立て替えただけでは冒険者ギルドが彼等を庇った形になるからです。自分達が使い物にならなくしたポーションの素材を集める苦労を自覚してもらう意図があります」
このことについて、優さんはランクが高い冒険者には意味がないかもしれないけれどと苦笑していました。
「4つ目の公示については、下手に隠すことで今回の処罰について曲解をして逆恨みをする人達が出てくる可能性があるからです。また、冒険者ギルドと錬金術師ギルドの風評被害を抑える意図もあります。それでもなお、私達に危害を加えるつもりならば……私達は容赦をするつもりはありません」
最後は脅しになってしまいましたが、3人は頷いているので、納得しているようです。
「わかった。ユウの提案を私は飲もうと思うが、2人は同思うかね?」
「私は賛成です、ヘリオスギルド総長」
ミーネさんは即座に賛同の意を表明してくれました。
「……ギルド職員の再教育についてはどうしたら……」
冒険者ギルド長は業務が滞ることを懸念しているようです。これも優さんが想定していましたので、私は助け舟を出すことにしました。
「従者ギルドに相談は必要ですが、依頼という形で事務仕事を職員の再教育が終わるまで、代行してもらうのはいかかがでしょうか? 代行料に関しては従者ギルドと交渉する必要がありますが、契約を結ぶ際に、魔術誓約書で冒険者ギルドの情報漏えいを防止する守秘義務を結べば問題にならないかと。それに……」
「それに?」
ミーネさんが興味深げに私に先を促しました。
「再教育を受けた冒険者ギルド職員にいい刺激になるはずです。従者ギルドのほうが対応がよかったと言われて奮起するのか、辞めるのか、それは職員自身で決めることだと思います」
このメルキオールでは、探せば生活の糧になる仕事がなにか見つかるかもしれません。他所に移るのも選択の1つです。
「優さんは厳しいことをかもしれないが、と前置きをされていましたが、この世界で自分の行動が齎す結果を予測する力が身についていないと失敗をして死亡するのは万民にも当てはまることで、当然、私達や職員である彼等彼女等も同等。そして、より危険な場所に冒険者を送り出していることに今回を機に自覚するべきだとも言っていました」
私も優さんに言われたときにこのことには共感しました。
「ははっ、長年悩まされていた耳に痛いことをまさか、錬金術師ギルドから具体的な解決策付きで指摘されるとはなぁ……ヘリオスギルド総長、従者ギルドへのつなぎをお願いします。私が単独で向かうよりも貴方を通した方が円滑に事を運べると思います」
冒険者ギルド長は私の言葉を聞いて、どこか憑き物が落ちたようなすっきりとした表情でヘリオスギルド総長に告げました。
「では今回の審議の決定事項を改めて通達する。1つ、毎月月末に冒険者ギルドのポーションの売り上げの1割を冒険者ギルドは錬金術師ギルドに支払う。1つ、冒険者ギルドは今回浪費することになったポーションの素材を錬金術師ギルドに収める。1つ、冒険者ギルドは錬金術師ギルド所属員、ユウ・アンドウに魔法銀貨1枚を支払う。1つ、冒険者ギルドは今回問題を起こした所属員および、ギルド職員全員に従者ギルドでの再教育を行う。1つ、今回の事件に関しては全貌を公示し、ユウ・アンドウ等へ危害を加えないよう再度通達するものとする」
「「異議なし」」
ミーネさんと冒険者ギルド長の同意の声に私も賛同するよう頷き、出された文書に署名しました。
「では今回の審議は終了とする」
ヘリオスギルド総長が高らかに宣言しました。
……その直後に、冒険者ギルド長のお腹の虫が盛大に部屋に鳴り響きました。
「……バルガス」
ミーネさんは音の発信源である冒険者ギルド長にジト眼を向けています。ヘリオスギルド総長と私も苦笑いを禁じ得ません。
「すまねぇ、うちの馬鹿どもがやらかしたと聞いて、気絶している阿呆共を叩き起こして事情を聞いて、ヘリオスさんから審議の召集があって昼飯を食い損ねていたんだ」
冒険者ギルド長はそう謝罪しました。審議が終わって、気が抜けたのか、口調も砕けたものに変わっています。これが普段の彼なんでしょうね。
そういえば、もうすぐお夕飯の時間ですね。私がそのことに思い至ったとき、不意に審議をしていたこの部屋の扉が開き、
『アスカ、ケイロンと迎えに来たぞ! ミーネと冒険者ギルド長、おお、そこにいるのは先日の御仁ではないか!? ユウがよければジェシカも加えて、皆で夕食をともにしないかと言っておったぞ!!』
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