とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星

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第2章 自由連合同盟都市国家メルキオール 首都メルキオール編

第43話 俺が突発的に開催することにしたカレーパーティーの件

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『ご主人、舌が痛いのじゃ』

一昨日の初めて宿木亭のカレーを食べた時を彷彿とさせる涙目でクロエが訴えてきた。

「はい、これを飲みな」

『ありがとうなのじゃ』

そう言ってクロエはクピクピと俺が渡したラッシーを飲んだ。俺はレモンジュースで舌をリフレッシュした。

宿木亭の夫妻もラッシーとレモンジュースを飲んでいる。

「宿木亭カレーライスは大成功ということだな」

結果的に大体半人前分のカレーライスを夢中で食べていたことからこの結果は揺るぎないだろう。

「まさか、こんな食べ方があるとはな……ユウ、さんできればこの料理を是非とも、ウチの食堂で売り出したい! お願いします!!」

そう言って料理長が土下座した。この世界にもド・ゲ・ザってあったんだと俺は変な感心をしてしまった。

「そこまでしてもらわなくていいですよ。俺もお願いしようと思っていました。ただ、まだいろいろ問題と話し合わないといけないことがあるから、それは後日にしましょう」

「わかった。ありがとう」

「ありがとうございます」

細かい話は後日という俺の提案に納得した夫妻に俺は感謝された。

問題というのはもちろん、お米様は精米しないととても食べられたものではないからだ。ただでさえ、家畜の飼料扱いだから精米は必須。

それに現時点では精米機がないから俺がスキルで精米しないといけないことだ。早急に技師ギルドに精米機の開発を発注しなくては。

『たしかに美味い。まさか一心不乱に食すことになるとはのう。ただ、我の舌には辛いのじゃ』

若干涙目のクロエがそう呟いていた。

「そう言うと思って今回はこれを用意した。見た目は同じものに見えるかもしれないが、食べてみてくれ」

そう言って、俺は3人に先ほどより少し分量を減らしたカレーライスの皿を渡した。

『!? こっちは先ほどのよりも辛くないのじゃ!』

そう言って、クロエは二口目以降は残像を残す手の動きを見せて綺麗に完食した。

しかも、そのクロエの咀嚼も常人には真似できない速度だった。

「こっちの方が私は食べやすいわね」

「んん? さっきのうちのカレーと見た目はほぼ同じだが、味が違う!? 柔らかくなったと言うべきか……」

女将さんには好評され、料理長は驚愕していた。

さもありなん。俺は小鍋に移した宿木亭のカレールウにクロエが摩り下ろしてくれた林檎と桃、市場で見つけた蜂蜜と黒砂糖を入れて旨みを損なわずに辛さを抑えることに成功したのが、3人に食べてもらったルウだ。

そうは言っても激辛をなんとか中辛レベルまでにしたもの。しかも、素人がやったものだから、改良の余地は多分にある。

「果物を摩り下ろしたものと蜂蜜などで味をマイルドにしてみたものです。素人がやったことだからまだ改善しないといけませんね」

俺がそう言うと、

「ううむ、俺は先代から受け継いだこの味に満足してしまって、ただ作る作業を繰り返していただけだったことに気付かされた。俺は歩みを止めていた! この味の改良に協力させてくれないか? もちろん、対価は払う!」

「貴方! 私からもお願いします」

そう言って宿木亭夫妻が再び頭を下げてきた。

俺個人でちまちまと改良するつもりでいたが、まさか専門家の協力者がこうも早く現れるとは、嬉しい誤算だった。

「わかりました。その件も先の件と合わせて後日詰めましょう」

俺がそう言うと、夫妻はようやく頭をあげてくれた。

さて、もうすぐ夕食の時間になるので、俺はお米様を沢山炊き上げる仕事に戻ろう。

「クロエ、悪いが飛鳥をケイロンと迎えに行ってくれ。せっかくだから、ミーネさんとジェシカさん、冒険者ギルド長とギルド総長も夕食に誘ってみてくれ」

俺はラッシーを飲んで先程の中辛カレーの余韻に浸っていたクロエに頼んだ。

『承ったが、冒険者ギルド長を呼ぶのかの? 会うつもりはなかったのじゃろう?』

クロエの疑問はもっともなものだが、

「クロエが錬金術師ギルドに着く頃には審議も終わって、俺に対する賠償なども決まっているはずだから構わない。それに……」

『それに?』

「美味しいものは大勢で食べた方がもっと美味いだろう?」

『まったく、ご主人はご主人じゃなぁ』

クロエは呆れた様にそう言って抱きついてきたので、俺は彼女を受け止めた。見れば、宿木亭夫妻も微笑ましいものを見る様子でこちらを見ていた。

「あっ、すいません。勝手に決めてしまって」

俺はそう言って2人に謝罪した。

「別に構わないさ。今日はいいものを食べさせてもらったからな。なぁ?」

「ええ、私達もお手伝いさせてもらうわね。食堂の準備をしましょうか、あなた」

「ああ、この調子だとカレーも足りなくなるだろうから、明日の作り置きも出しちまおう。なに、明日の分は今夜作るから、心配する必要はないぞ。それにうちの名物料理のいい宣伝になるしな」

女将さんは笑みを浮かべ、料理長はニカッと笑顔を浮かべて、協力を快諾してくれた。本当にいい人達だ。

「ありがとうございます。ただ、料金はきちんと支払いますよ。こちらがお願いしていることですから」

「俺は別に構わないと思うが、お前さんはそう言うところ細かいな」

料理長は呆れた様な、感心したように言いながら、作業をしているその手の動きを止めていない。

「これから協力者となる相手でもありますから、貸し借りがない関係が望ましいと考える私の性分ですね」

そう言って俺は自嘲しながら、中辛にしたカレールウの量を増やしつつ、お米様を炊いて行き、女将さんに配膳の指示を出してお願いした。

お米様が足りなくなる恐れがあったので、俺は調理途中で離れることが可能な時に、一旦自室に置いてある米を持ってくるという名目で戻った。

そして、錬金術師ギルドからの帰りに追加で買っていた200kgも念のため【精米】した。

また、圧力鍋も【異世界電子通販ネットショッピング】で追加購入した。




「うまぁあいぞおおおおおおおお!」

口と両目からビームを放ちそうな勢いで宿木亭のカレーライスオリジナル(激辛)を大絶賛しているのは冒険者ギルドのギルド長、バルガスのとっつぁん。

体格はがっしりとしていながら、某大怪盗のアニメに出てくる主人公の宿敵の警部に似た顔の人物だった。ゆえにとっつあん。

彼が怪訝そうにスプーンに掬った一口を口にした直後の言葉がさっきの言葉である。

「あたしはこっちの方がいいねぇ」

そういいながら、ミーネさんはから揚げとコロッケをトッピングして千切りキャベツを添えた中辛カレーライスを優雅に食べている。

「……」

ミーネさんの横ではジェシカさんが大盛を超えた特盛カレーライス(激辛)に揚げ物を全載せして、千切りキャベツも小皿に山盛りしたものを無言で貪り食べている……なにこれ怖い。

「ふむ、あむっ、なるほど……」

少し離れた場所で、一口ごとにオリジナル激辛と中辛、そして揚げ物各種を食べ比べ、時々千切りキャベツを食べて、唸ったり頷いているのは昨日会った初老の男性改め、ヘリオス・メリクリウスギルド総長。

顔立ちなどがミーネさんに似ていたからもしかしてと思ったら、やっぱり彼女の上の兄だった。そして、思っていた通りの大物だった。

何か事情があるのか、ミーネさんは彼との家族関係を否定している様子。おいそれと詮索していい内容じゃない様なので、ミーネさん達から話たくなったときに聞くことにした。

「はい、貴方」

「あむ、ありがとう。ではお返しだ」

そして、端から見ていて砂糖を吐き出しそうな食べさせ合うというラブラブなやりとりをしているのは宿木亭の夫妻。

ユウとアスカ、クロエあんたらも同じ様なことをしているじゃないか」

と俺はおかわりのために俺の傍を通りかかったミーネさんからツッコミを入れられた。現に、

「はい、どうぞユウさん」

俺の横にいる飛鳥が可憐な笑顔浮かべて、宿木亭カレー(中辛)を掬ったスプーンを俺に差し出している。

断ることができようか? いや、ない!

飛鳥の厚意を、瞬時に展開した内面世界で「だが、断る!」と拒否しようとした過去の俺を「阿部氏っ!」と断末魔をあげさせて瞬殺し、俺は差し出されているカレーを食べた。

「美味しいですか?」

「ああ、美味しいよ」

「よかった」

飛鳥はそう言って花が咲いた様な笑顔を浮かべる。当然、俺はお返しをした。

図らずも宿木亭夫妻のやりとりをなぞる様なことになってしまった。

しかも、飛鳥と俺の持つ皿のカレーライス(中辛)がなくなるまでエンドレス。自分の顔は耳まで真っ赤になっているだろう。

口の中に入ってくるカレーは中辛のはずなのになぜか甘口に変わった様に感じた。

そして、俺と飛鳥が食べさせあっている間にクロエはなにをしていたかというと、

「やっぱり、美味いのじゃ、美味過ぎるのじゃ、められないのじゃ、まらないのじゃ、このカレー(中辛)! 食べずにはいられない!!のじゃああああああ」

号泣し、咆哮をあげるという器用なことをしながら、クロエはジェシカさんが食べているものよりも多い、超特盛全載せカレーライス(中辛)を怒涛の勢いで食べていた。

この宴は用意した食べ物が完食されるまで続き、大成功に終わった。
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