とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星

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第2章 自由連合同盟都市国家メルキオール 首都メルキオール編

第52話 常に最悪を想定しろとは言うけれども、それって立派なフラグな件

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見つかった豚鬼オーク共のネストはメルキオール北西の山の麓にある村だった。俺達は既にその場所まで徒歩でおよそ1日の距離まで接近している。

問題の村は主要街道からかなり離れた位置にあって、そこまで進むのは深い森の中を通過しないといけないので、そこに生息している多くの魔物との戦闘も発生する。

そのため、普通の冒険者が気づくことはもとより、近づくこともまず無理に近い場所だ。

「そんな所にあったのか」

冒険者ギルドのトップ、バルガス冒険者ギルド長は頭を抱えて唸る。

豚鬼というのは小鬼ゴブリン人喰い鈍鬼トロールなどと同じく、冒険者ギルドで優先討伐対象の魔物だから頭が痛くなるのも分かる。

「更に悪い情報だ。奴等が根城にしている村は建物の荒廃がほとんど見られなかった。滅ぼした村を根城にしたならば、住民の抵抗による戦闘で建物の破損があるはずだが、。気づかれずに侵入したにしては堀や柵といった防衛設備に不自然過ぎる程

「おい、それはまさか……」

バルガスのとっつぁんが俺の考えているものと同じ1つの可能性に思い至り、同じ考えに至った今回調査に参加している面子からも動揺がみられる。

「何者かが、何らかの目的で豚鬼を養殖しようとして失敗し、制御を離れた豚鬼が大繁殖しているということでしょうか?」

今回臨時で参加しているバルタザール騎士王国の盾騎士のシルビア嬢が眉根を顰めて、冷静にその可能性を指摘した。

「たしか、ここら一帯の領主は「魔術師ギルドの幹部の方ですね」」

バルガスのとっつぁんの言葉をヘリオスギルド総長の孫娘で優秀なメイドでもあるベルリアーナ嬢が補足した。

ここの所、問題を起こしている魔術師ギルドが絡んできているのが明らかになって、ますますキナ臭くなってきた。

「ふむ、いづれにせよ豚鬼共の巣は潰さねばならぬ。だが、このまま今回の原因を知らずに潰すとなれば、ほとぼりが冷めたころに同じことの繰り返しになるだろうな」

ガーランドさんがそう言って、唸る。犯人を特定して再発を防止しないとイタチごっこになるのは必至だ。

なにか妙案はないかと一同が頭を捻っているところで、

『となれば、ご主人が件の場所に忍びこんで、今回の事態を巻き起こした者の動かぬ証拠がないか探ってこればよかろう?』

なんでもないことの様にクロエが言ったものだから、みんなの視線が俺に集中する。ちょっ、なんてこというんだこの駄竜!

「できるのか?」

いつもにましてシリアスなバルガス冒険者ギルド長。

「そうですねぇ。俺ができるとしてもこれくらいですよ」

そう言って俺は内心で嘆息して、【偽装】で自身の虚像を作り、【気配遮断】と【認識阻害】、【光学迷彩】を連続発動して本体を消し、

『ぬあっ!?』

クロエの背後に回って、ガシッと余計なことを言ったその頭部を掴んで、

『いたたたた、痛いのじゃぁあああ』

クロエにお仕置きのアイアンクローをかます。それと同時に俺は虚像を消した。

「おお」

周囲にはいつの間にかクロエの背後に回っていた様に見えたのだろう。感嘆の声が上がった。

「なら、ユウに頼めば問題ないな」

「いや、まだ問題はあるだろう」

バルガスのとっつぁんの声を遮り、俺は”コール”でお偉方2人をオープン回線で呼び出した。

『おや、どうしたんだい』

『進展があったようだね』

ミーネさんとヘリオスギルド総長が俺の呼び出しに応じた。

「先刻報告した豚鬼の巣となっている村に対し、私たちは私を単独派遣しての特殊潜入工作を行う予定です。目的は資料の捜索、及び確保と残存する敵勢力の把握。然る後に豚鬼の殲滅と先の廃村と同様に村の破却を行う予定です」

俺は端的に2人に報告する。

『なるほど。確かにユウなら、下手したらこの手のことに関しては盗賊ギルド幹部をも上回るだろうから、期待できそうだね』

ミーネさんは可笑しいそうに笑い声をあげるが、敵地の真っ只中に単独で送り出される俺はたまったものではない。

『……わかった。君には別途成功報酬を用意しよう。励みたまえ』

「ありがとうございます」

ヘリオスギルド総長の気遣わしげな言葉に感謝の言葉を俺は返した。

ただし、俺の内心はボーナス万歳! タダ働きノーサンキュー!

『諸君等にも報酬の上乗せを約束しよう。今回はこちらの予想を上回る最悪とも言える状況だが、豚鬼共の根城が判明した以上、討ち漏らしは許されないので注意してほしい。私からは以上だ』

『皆、間違ってもこんなところで死ぬんじゃないよ』

そう言って2人は”コール”を切断した。

「では、ユウが潜入工作を行い、それから豚鬼の巣となった村への総攻撃を開始するとしよう」

バルガスのとっつぁんの言に皆頷いている。

「巣の規模からの推測になるが、もしかしたら君主ロードがおるやもしれんな」

ガーランドさんが意見を口にして、周囲の空気が強張った。

「……それも調べてきますよ。これからすぐに出ますから、戻り次第、もう一度打ち合わせをしたほうがいいでしょう」

「そうだな。それまではここで英気を養っていたほうがよさそうだな」

「襲撃してくる魔物どもは逐一駆逐するしかあるまいな」

俺の言にバルガスのとっつぁんとガーランドさんが同意してくれる。

「ではおれ達はその周辺警戒を行いますね」

もう1つのベテランパーティーのリーダー(イケメン)がそう言ってメンバーのところへ向かっていった。



「はぁ、俺はなんか余計なものを背負い過ぎてないかな。当初は俺の安眠、快眠、精神の平穏無事のためだったはずなのに」

普段身につけているローブとは異なる潜入用の装備を身につけた俺は思わず愚痴がこぼれてしまう。

『仕方あるまいご主人。力ある者の運命さだめじゃ。それに、ご主人がいかなければ、あの責任感の強いメイドの女子おなごが自ら手を挙げたじゃろうな』

幼竜形態になって俺の後頭部に張り付いているクロエがそう返す。

「ベルさんねぇ、そういえばクロエと飛鳥は彼女とよく話していたな。実際、彼女が参加したのって、込みだったんだろう?」

下衆の勘繰りを避けるため、ベルさんとは必要最小限の会話に留めていた俺はクロエに訊いてみた。

『たしかにご主人の言うとおり、此度ベルリアーナが我等の下に参ったのはご主人の嫁にする意図があるのは間違ってはおらんのじゃが……』

クロエが珍しく言い淀んでいる。

「ん? なんか問題でもあるのか?」

『うむ。ご主人がベルリアーナを断った場合、彼女は修道院行きになるそうじゃ』

「はい?」

予想の斜め上の回答に俺は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

そもそもなんで俺に断られただけで、修道院行き? 嫁のもらい手として引く手数多だろうに訳が分からん。

『ご主人と飛鳥は異世界人故にないのかもしれぬが、この世界のおよそ全ての雌雄のある生物には例外なく、しかもかなりの低確率なのじゃが、運命の相手ともいうべき絶好の相性の異性が現れると、発情期状態になるのじゃ』

その話オディオ王国では常識として教わらなかったのだが……

オディオ王あの国は権力とか、力づくで発情期状態の者でも無理矢理ものにしておるから、教えなかったのじゃろう。話を戻すが、一度発情期状態を経て、成就しなかった場合は』

「場合は?」

『自暴自棄になった後、心身虚脱状態になって人形の様になるのじゃ。それを慮ってベルリアーナの両親は苦渋の選択でご主人に選ばれなかった場合に修道院送りを選んだのじゃろうな』

初代オディオ王国国王の所業を思い出したクロエが苦い顔をしてそう言った。

「俺と会話しているときの彼女には別段そんな素振りは見せていなかったが?」

ベルさんとの会話を思い出すも、終始彼女は淡々としていた印象しかない。

『あ~、ご主人に幻滅してもらいたくなくて、ご主人の前ではそれだけ徹底して、自身の感情を抑圧しておったのじゃな。さっきもそうだったのじゃろう。我とアスカ、シルビアと一緒のとき、ハッ!?……なんでもないのじゃ』

なにやら気になる言葉が続いていたのだが、クロエがなにか察知したのか止めたので深くは追求すまい。

「それで、飛鳥とクロエはベルさん、彼女を、ベルリアーナ嬢を俺達の運命共同体に巻き込むつもりなのか? 分かっていると思うが、俺達はおいそれと人には言えない事情を抱えているんだぞ? それは彼女が親にも伝えるのことを許さない内容なのは分かっているのか?」

俺は厳しい口調でクロエに問うた。

『うむ。我とアスカはベルリアーナの加入については委細承知で歓迎する所存であるのじゃ。そして、ご主人よ、彼女を我等とともに愛でてやって欲しいのじゃ。そうでないと、我とアスカの体がもたぬ……』

「わかった。この仕事が終わったらベルさんを含めて4人で話合う場を設けようか」

切実なクロエの訴えに俺は苦笑いを返して、そう提案し、気を引き締めて、目的地へ急いだ。


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