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第2章 自由連合同盟都市国家メルキオール 首都メルキオール編
第54話 豚鬼将軍が豚鬼君主(ロード)になれるのはわかっていたけれども、そっちのロードになるのは予想外過ぎる件
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「「「……」」」
『……』
皆終始無言、いや、”コール”越しの1名だけ、笑い過ぎで腹筋が崩壊し、呼吸困難のため、要救護状態に陥っている。
残念ですが、只今シリアスさんは用事があると、席を外しています。
その人々の目の前にあるのは1体の爆睡しているアホ面全開の豚鬼王の石像。まだ生きている。
この石像は俺が潜入してきた豚鬼共の養豚場厩舎がある村で、【石化】と【無音殺法】、【空間収納】を駆使して”しまっちゃうおじさん”をしまくった戦利品の1つだ。
『あっはっはっは、あ~、本当にお腹痛い。久しぶりだよ。こんなに笑ったの、いや、もしかしたら初めてかもしれないなぁ、くっくっくっ。ふうう、これはこちらもユウ君への報酬は奮発しないとだね」
先ほどから1人、笑い転げているのはヘリオスギルド総長。
『全く、本当にユウは予想の斜め上の事態にもっていくねぇ』
呆れたような口調で言うミーネさんの表情にもどことなく苦笑いがある。
そして、この場にいる面子はほとんどが相変わらずフリーズしている。
『のうご主人、この豚鬼王じゃが、石化はどうやったら解けるのじゃ?』
闇黒幼竜形態からいつもの幼女メイド形態になったクロエが俺のズボンの裾をクイクイして尋ねてきた。
「一般的な解除手段である【魔術】の【状態異常解除】もしくはスキルの【状態異常解除】、石化解除アイテムの使用で解ける。ちなみにこの豚鬼王には自力で状態異常を解除する手段はない」
俺が説明するとクロエと飛鳥、ミーネさん、ヘリオスギルド総長は納得した様に頷いたところで、ようやくこの場の全員が思考フリーズから復帰してきた。
「それでこの石像どうします? この状態で欠損させると豚鬼王は完全に石になって死にますが」
『それは待ってほしいな。希少な個体だからギルド総本部で確保しておきたい』
ヘリオスギルド総長がそう言い出すが、
「確保するのは構いませんが、俺は今後一切この豚鬼王に対して、関わりを持つつもりはありません。むしろ関わりたくないので、手伝うつもりは一切ないですよ」
俺はこれ以上厄介ごとに巻き込まれるのは勘弁なので釘を刺してお断りしておく。
『まぁ、それは仕方ないね。とりあえずその石像はユウ君に預かってもらって、後日引き渡してもらおう。そして、みつかったんだね?証拠書類?』
ヘリオスギルド総長の言葉に周囲に緊張が走った。
「はい。こちらですね。魔術師ギルドに無理矢理手伝わされて、切り捨てられて死んだ魔術師の日記と、魔術師ギルド長と薬品ギルド長の署名が入っている商人との食糧取引書類、奴隷商人との魔術師ギルド長名義の違法奴隷売買契約書です。幸い豚鬼共が書類に興味をもっていなかったので、他にもいろいろ残っていましたよ」
『よくやってくれた。これでメルキオールも綺麗になる』
「ようやく掴んだ尻尾だ。ユウ君、絶対にその書類は私達に届けるように」
俺の言葉にミーネさんとヘリオスギルド総長が笑顔を浮かべて言うが、目が全然笑っていないのと迫力が凄過ぎて俺は頷くことしかできなかった。
■
「いやはや、みんな張り切っているね」
俺はスキル【地図情報】で豚鬼が根城にしている村全体を眺めながら、その感想を口にした。
味方の調査隊の青表示が進む度に急速に減っていく豚鬼の赤い敵対表示にはどこかSLGで無双するのに通じる爽快感がある。
今回の作戦はパーティー毎に3方向に分かれて進軍していくものだ。
ガーランドさん率いるパーティーは人数が各パーティーに比べて1番少ない。
しかし、平均能力が最も高いパーティーで、豚鬼将軍が残っている豚鬼王がいた屋敷の制圧担当。
今回俺がほとんど接する機会がなかったイケメン率いるベテランパーティーは、端から見ても明らかに過剰に殺気だっていて危険な兆候が見えていた。
そのため、バルガスのとっつぁんが付いて、豚鬼が1番多い繁殖地の厩舎を担当している。
彼等が殺気立つ理由は、実は俺が発見した餓死していた魔術師の妹さんがパーティーにいて、彼等も餓死した魔術師が生前親しくして、何度かお世話になったことがあったそうだ。
パーティー全員が頭に血が上りすぎているため、退き際などの重要判断を見誤る恐れがあったので、バルガスのとっつぁんがストッパー役として付いた次第だ。
とっつぁんも頭に血が上りやすい性質だが、多分、きっと大丈夫だと……いいなぁ。仮にも冒険者ギルド長だから。
そして、俺たちは村の中を巡回している豚鬼共を潰して回る遊撃を担当している。
俺が働きすぎてしまったため、仕事量と全体に分配される報酬金額を鑑みて、俺達の負担と仕事量は1番少ないものになった。
「どうした豚鬼共、私はここだぞ!」
「「ブモォ#!」」
盾役のシルビア嬢の挑発に激高した豚鬼達が彼女を殴り、斬りかかりに不用意に接近すると、
「【三段突き】!」
飛鳥が豚鬼の胸、喉、額を刀で貫き、
『"ぼでぃ"ががら空きじゃぞ!』
クロエが【ボディブロウ】で豚鬼の腹に風穴を開ける。
「敵性勢力ノ沈黙ヲ確認。周囲ニ敵影ハアリマセン」
中衛のケイロンが【索敵】で周囲に敵がいないことを報告してくれる。ベルさんも後衛で待機。
この安定した役割分担で俺達はシルビア嬢の盾役の経験積みを目的にして、着実に巡回している豚鬼を殱滅している。
巡回している豚鬼が2人1組もしくは3人1組で行動しているのは潜入時に確認している。
更に、俺とケイロンが【索敵】し、増援や奇襲を受けることもなく、こうやって安定した戦いを可能にしている。そして、今、最後の巡回している豚鬼の組を葬ったところだ。
「おっ、ガーランドさんの所も終わったみたいだ」
【地図情報】を見ると、屋敷にいた最後の豚鬼将軍はガーランドさんの一撃で倒されていた。
「あとはバルガスのとっつぁん達の所だけだから合流しに行こうか」
俺が皆にそう声をかけた所で、
『不味いことになった。至急こっちに合流してくれ!』
当のとっつぁんから切羽詰まった連絡が入り、俺達は厩舎へ急行することにした。
■
位置的に1番離れていた俺達が最後に合流する形になったので、ガーランドさん達も既に加わって戦っている。
状況はこちらが1体の豚鬼に押されているという予想外過ぎる展開になっていた。
しかも、なんかあの豚鬼、見た目豚鬼君主なのだが、一見して分かるヤバイオーラの様なモノが出ているじゃナイデスカ。
「ぬおおお!?」
そうこうしているうちに前線でその豚鬼と刃を交えていたバルガスのとっつぁんがこっちに殴り飛ばされてきた。
しかも、瀕死!?
「【最上級回復魔術】!」
俺はHPがヤバイとっつぁんを即座に【最上級回復魔術】を使って回復する。
「おお、ユウか、助かったぞ。ヤツは豚鬼将軍だったんだが、突然周囲にいた配下と思しき豚鬼共を食い始めて、喰い尽くしたら、ああなった」
回復したとっつぁんが状況の推移を説明してくれた。
だったら、豚鬼を喰っている間にやればいいんじゃね? と俺は思った。
「喰われた豚鬼共が動く死体豚鬼や動く白骨死体豚鬼になってヤツを守って無理だったのだ。その取り巻き共は倒したのだが、ヤツだけはいくら攻撃してもダメだ。ああなって回復してしまう」
俺の表情から言いたいことを読み取ったのか、とっつぁんが悔しそうにそう言う。
話を聞いていた俺の視界に【鑑定】が珍しく警告表示付きで告知してきたので開いた。
「ブッフゥウウウー」
異様なオーラを纏う豚鬼君主の鑑定結果を見て、思わず俺は吹いてしまった。
===========================
名称:豚鬼災害(オークディザスター)
種族:豚鬼超越君主
性別:♂
ステータス
筋力:A
耐久:S
敏捷:D
器用さ:D
魔力:E
精神力:F
幸運:D
スキル:【体術LV3】▼【剣術LV2】▼【咆哮】
SRスキル:【女殺し】【耐性貫通】
SSRスキル:【DM(発動中)】
URスキル:なし
称号:絶倫、復讐者、悪食、同胞喰らい、魔王
※当魔物は魔王に昇華しているため、"勇者"の固有スキル【BM】もしくはそれに準じるスキルが発動していないと討伐できない。
===========================
ロードはロードでも、オーバーロード(魔王)かよ! 最悪だ。不幸だ。畜生。
俺は思わずその場でOrzとなってしまった。
「あん? どうしたユウ?」
訝しむとっつぁんに、俺は無言で鑑定結果を彼にも見えるように一時的に閲覧許可を有効にした。
「なぁにぃいいい!?」
とっつぁんが素っ頓狂な声をあげる。無理もあるまい。強敵と思って戦っていたら、実は魔王でしたなんて悪い冗談にもほどがある。
「どっどうする? 一旦退いて援軍を……」
動揺しているとっつぁんはそう言いかける。
「それはやめた方いい。まだ成り立ての存在だから、戦えているがアレに時間を与えると不味い。このまま倒しきる」
「だが、さっきから戦っているが、勝手に回復するんだぞ? どうやって倒すんだ!?」
「とっつぁん、もしかして、飛鳥の存在を忘れてないか?」
「なに?」
とっつぁんが困惑するので、論より証拠とばかりに俺は飛鳥に【念話】で指示を出すことにした。
『飛鳥、スキル【BM】を使って攻撃してくれ』
『! ……わかりました』
短いやりとりの後、再度、飛鳥が放った斬撃が豚鬼魔王に傷を作る。
「!?」
これまでは回復していた傷が癒える兆しが全く無く、豚鬼魔王は困惑した。
「皆さん、相手の自動回復は阻害しました。今にうちに倒しましょう」
「ぬうん!……おお、確かに治らん様だ。皆、油断せず一気に畳み掛けるぞ!!」
飛鳥の言葉確認したガーランドさんが痛打を与えて攻撃を再開。
『いい加減に沈むがよい!』
クロエが殴打を皮切りに、前衛陣が激しい攻撃を加える。
後衛のベルさんと魔術師達も【火球】や【火焔槍】で援護射撃をして、豚鬼魔王を追い詰めていく。
勇者固有スキル【BM】。このスキルが発動すると、土地を巡っている魔力、”龍脈”を使って【HP自動回復(中)】が使用者パーティーに付与される。
魔王も同様の効果をもつスキル【DM】を持っている。この効果を打ち消すには【DM】が発動しているなら【BM】を使用するといった様に対になるMスキルを発動すると効果が相殺される。
この世界で魔王が勇者でないと斃せないと言われる由縁は【DM】と【BM】のもつこの特性に因る。
畢竟、豚鬼魔王の【DM】の【HP自動回復(中)】は飛鳥の【BM】の発動によって相殺された。
「ぶう、ブもおおオオオオオ!!」
猛攻に晒されて傷が癒えない豚鬼魔王は苛立ちと怒りを込めて、【咆哮】をあげた。すると、
「なっ!?」
『なぬ? 動けぬ、じゃと!?』
飛鳥はもとより、状態異常に耐性のあるクロエも含めて前衛全員が行動不能状態になった。不味い。
「グフゥ」
「ぐうっ、かはぁ」
豚鬼魔王は前衛全員嘲笑し、盾役としてヘイトを集めていたシルビア嬢を手に持つ長剣で袈裟斬りに切り飛ばした。
豚鬼魔王の長剣がただの長剣だったのが幸いしたのと、シルビア嬢は全身鎧のおかげで身体を斬り裂かれることはなかった。また、本人の受動系スキル【不屈】で即死することはなかった。しかし、
「ケイロン、スイッチだ! とっつぁんも前衛に戻ってくれ、くっ」
「了解」
「わかった!」
ケイロンに指示を飛ばし、吹き飛ばされてきたシルビア嬢を【風魔術】と【障壁魔術】を併用して俺は彼女を受け止める。
気絶し、彼女が纏っている全身鎧が歪に歪んでしまっているので、シルビア嬢が戦闘に復帰するのは不可能だ。
「なにをぼさっとしている! 撃て! 撃たねば動けぬ仲間が殺されるぞ!!」
前衛が行動不能になって、動揺していた後衛の魔術師達に援護を再開するようとっつぁんが叱咤。
俺はベルさんに気絶したシルビア嬢のことを任せて前に出る。
その俺の視線の先で、豚鬼魔王が緩慢な動きで動けない飛鳥に長剣を振り下ろそうとしているのが目に入った。
『……』
皆終始無言、いや、”コール”越しの1名だけ、笑い過ぎで腹筋が崩壊し、呼吸困難のため、要救護状態に陥っている。
残念ですが、只今シリアスさんは用事があると、席を外しています。
その人々の目の前にあるのは1体の爆睡しているアホ面全開の豚鬼王の石像。まだ生きている。
この石像は俺が潜入してきた豚鬼共の養豚場厩舎がある村で、【石化】と【無音殺法】、【空間収納】を駆使して”しまっちゃうおじさん”をしまくった戦利品の1つだ。
『あっはっはっは、あ~、本当にお腹痛い。久しぶりだよ。こんなに笑ったの、いや、もしかしたら初めてかもしれないなぁ、くっくっくっ。ふうう、これはこちらもユウ君への報酬は奮発しないとだね」
先ほどから1人、笑い転げているのはヘリオスギルド総長。
『全く、本当にユウは予想の斜め上の事態にもっていくねぇ』
呆れたような口調で言うミーネさんの表情にもどことなく苦笑いがある。
そして、この場にいる面子はほとんどが相変わらずフリーズしている。
『のうご主人、この豚鬼王じゃが、石化はどうやったら解けるのじゃ?』
闇黒幼竜形態からいつもの幼女メイド形態になったクロエが俺のズボンの裾をクイクイして尋ねてきた。
「一般的な解除手段である【魔術】の【状態異常解除】もしくはスキルの【状態異常解除】、石化解除アイテムの使用で解ける。ちなみにこの豚鬼王には自力で状態異常を解除する手段はない」
俺が説明するとクロエと飛鳥、ミーネさん、ヘリオスギルド総長は納得した様に頷いたところで、ようやくこの場の全員が思考フリーズから復帰してきた。
「それでこの石像どうします? この状態で欠損させると豚鬼王は完全に石になって死にますが」
『それは待ってほしいな。希少な個体だからギルド総本部で確保しておきたい』
ヘリオスギルド総長がそう言い出すが、
「確保するのは構いませんが、俺は今後一切この豚鬼王に対して、関わりを持つつもりはありません。むしろ関わりたくないので、手伝うつもりは一切ないですよ」
俺はこれ以上厄介ごとに巻き込まれるのは勘弁なので釘を刺してお断りしておく。
『まぁ、それは仕方ないね。とりあえずその石像はユウ君に預かってもらって、後日引き渡してもらおう。そして、みつかったんだね?証拠書類?』
ヘリオスギルド総長の言葉に周囲に緊張が走った。
「はい。こちらですね。魔術師ギルドに無理矢理手伝わされて、切り捨てられて死んだ魔術師の日記と、魔術師ギルド長と薬品ギルド長の署名が入っている商人との食糧取引書類、奴隷商人との魔術師ギルド長名義の違法奴隷売買契約書です。幸い豚鬼共が書類に興味をもっていなかったので、他にもいろいろ残っていましたよ」
『よくやってくれた。これでメルキオールも綺麗になる』
「ようやく掴んだ尻尾だ。ユウ君、絶対にその書類は私達に届けるように」
俺の言葉にミーネさんとヘリオスギルド総長が笑顔を浮かべて言うが、目が全然笑っていないのと迫力が凄過ぎて俺は頷くことしかできなかった。
■
「いやはや、みんな張り切っているね」
俺はスキル【地図情報】で豚鬼が根城にしている村全体を眺めながら、その感想を口にした。
味方の調査隊の青表示が進む度に急速に減っていく豚鬼の赤い敵対表示にはどこかSLGで無双するのに通じる爽快感がある。
今回の作戦はパーティー毎に3方向に分かれて進軍していくものだ。
ガーランドさん率いるパーティーは人数が各パーティーに比べて1番少ない。
しかし、平均能力が最も高いパーティーで、豚鬼将軍が残っている豚鬼王がいた屋敷の制圧担当。
今回俺がほとんど接する機会がなかったイケメン率いるベテランパーティーは、端から見ても明らかに過剰に殺気だっていて危険な兆候が見えていた。
そのため、バルガスのとっつぁんが付いて、豚鬼が1番多い繁殖地の厩舎を担当している。
彼等が殺気立つ理由は、実は俺が発見した餓死していた魔術師の妹さんがパーティーにいて、彼等も餓死した魔術師が生前親しくして、何度かお世話になったことがあったそうだ。
パーティー全員が頭に血が上りすぎているため、退き際などの重要判断を見誤る恐れがあったので、バルガスのとっつぁんがストッパー役として付いた次第だ。
とっつぁんも頭に血が上りやすい性質だが、多分、きっと大丈夫だと……いいなぁ。仮にも冒険者ギルド長だから。
そして、俺たちは村の中を巡回している豚鬼共を潰して回る遊撃を担当している。
俺が働きすぎてしまったため、仕事量と全体に分配される報酬金額を鑑みて、俺達の負担と仕事量は1番少ないものになった。
「どうした豚鬼共、私はここだぞ!」
「「ブモォ#!」」
盾役のシルビア嬢の挑発に激高した豚鬼達が彼女を殴り、斬りかかりに不用意に接近すると、
「【三段突き】!」
飛鳥が豚鬼の胸、喉、額を刀で貫き、
『"ぼでぃ"ががら空きじゃぞ!』
クロエが【ボディブロウ】で豚鬼の腹に風穴を開ける。
「敵性勢力ノ沈黙ヲ確認。周囲ニ敵影ハアリマセン」
中衛のケイロンが【索敵】で周囲に敵がいないことを報告してくれる。ベルさんも後衛で待機。
この安定した役割分担で俺達はシルビア嬢の盾役の経験積みを目的にして、着実に巡回している豚鬼を殱滅している。
巡回している豚鬼が2人1組もしくは3人1組で行動しているのは潜入時に確認している。
更に、俺とケイロンが【索敵】し、増援や奇襲を受けることもなく、こうやって安定した戦いを可能にしている。そして、今、最後の巡回している豚鬼の組を葬ったところだ。
「おっ、ガーランドさんの所も終わったみたいだ」
【地図情報】を見ると、屋敷にいた最後の豚鬼将軍はガーランドさんの一撃で倒されていた。
「あとはバルガスのとっつぁん達の所だけだから合流しに行こうか」
俺が皆にそう声をかけた所で、
『不味いことになった。至急こっちに合流してくれ!』
当のとっつぁんから切羽詰まった連絡が入り、俺達は厩舎へ急行することにした。
■
位置的に1番離れていた俺達が最後に合流する形になったので、ガーランドさん達も既に加わって戦っている。
状況はこちらが1体の豚鬼に押されているという予想外過ぎる展開になっていた。
しかも、なんかあの豚鬼、見た目豚鬼君主なのだが、一見して分かるヤバイオーラの様なモノが出ているじゃナイデスカ。
「ぬおおお!?」
そうこうしているうちに前線でその豚鬼と刃を交えていたバルガスのとっつぁんがこっちに殴り飛ばされてきた。
しかも、瀕死!?
「【最上級回復魔術】!」
俺はHPがヤバイとっつぁんを即座に【最上級回復魔術】を使って回復する。
「おお、ユウか、助かったぞ。ヤツは豚鬼将軍だったんだが、突然周囲にいた配下と思しき豚鬼共を食い始めて、喰い尽くしたら、ああなった」
回復したとっつぁんが状況の推移を説明してくれた。
だったら、豚鬼を喰っている間にやればいいんじゃね? と俺は思った。
「喰われた豚鬼共が動く死体豚鬼や動く白骨死体豚鬼になってヤツを守って無理だったのだ。その取り巻き共は倒したのだが、ヤツだけはいくら攻撃してもダメだ。ああなって回復してしまう」
俺の表情から言いたいことを読み取ったのか、とっつぁんが悔しそうにそう言う。
話を聞いていた俺の視界に【鑑定】が珍しく警告表示付きで告知してきたので開いた。
「ブッフゥウウウー」
異様なオーラを纏う豚鬼君主の鑑定結果を見て、思わず俺は吹いてしまった。
===========================
名称:豚鬼災害(オークディザスター)
種族:豚鬼超越君主
性別:♂
ステータス
筋力:A
耐久:S
敏捷:D
器用さ:D
魔力:E
精神力:F
幸運:D
スキル:【体術LV3】▼【剣術LV2】▼【咆哮】
SRスキル:【女殺し】【耐性貫通】
SSRスキル:【DM(発動中)】
URスキル:なし
称号:絶倫、復讐者、悪食、同胞喰らい、魔王
※当魔物は魔王に昇華しているため、"勇者"の固有スキル【BM】もしくはそれに準じるスキルが発動していないと討伐できない。
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ロードはロードでも、オーバーロード(魔王)かよ! 最悪だ。不幸だ。畜生。
俺は思わずその場でOrzとなってしまった。
「あん? どうしたユウ?」
訝しむとっつぁんに、俺は無言で鑑定結果を彼にも見えるように一時的に閲覧許可を有効にした。
「なぁにぃいいい!?」
とっつぁんが素っ頓狂な声をあげる。無理もあるまい。強敵と思って戦っていたら、実は魔王でしたなんて悪い冗談にもほどがある。
「どっどうする? 一旦退いて援軍を……」
動揺しているとっつぁんはそう言いかける。
「それはやめた方いい。まだ成り立ての存在だから、戦えているがアレに時間を与えると不味い。このまま倒しきる」
「だが、さっきから戦っているが、勝手に回復するんだぞ? どうやって倒すんだ!?」
「とっつぁん、もしかして、飛鳥の存在を忘れてないか?」
「なに?」
とっつぁんが困惑するので、論より証拠とばかりに俺は飛鳥に【念話】で指示を出すことにした。
『飛鳥、スキル【BM】を使って攻撃してくれ』
『! ……わかりました』
短いやりとりの後、再度、飛鳥が放った斬撃が豚鬼魔王に傷を作る。
「!?」
これまでは回復していた傷が癒える兆しが全く無く、豚鬼魔王は困惑した。
「皆さん、相手の自動回復は阻害しました。今にうちに倒しましょう」
「ぬうん!……おお、確かに治らん様だ。皆、油断せず一気に畳み掛けるぞ!!」
飛鳥の言葉確認したガーランドさんが痛打を与えて攻撃を再開。
『いい加減に沈むがよい!』
クロエが殴打を皮切りに、前衛陣が激しい攻撃を加える。
後衛のベルさんと魔術師達も【火球】や【火焔槍】で援護射撃をして、豚鬼魔王を追い詰めていく。
勇者固有スキル【BM】。このスキルが発動すると、土地を巡っている魔力、”龍脈”を使って【HP自動回復(中)】が使用者パーティーに付与される。
魔王も同様の効果をもつスキル【DM】を持っている。この効果を打ち消すには【DM】が発動しているなら【BM】を使用するといった様に対になるMスキルを発動すると効果が相殺される。
この世界で魔王が勇者でないと斃せないと言われる由縁は【DM】と【BM】のもつこの特性に因る。
畢竟、豚鬼魔王の【DM】の【HP自動回復(中)】は飛鳥の【BM】の発動によって相殺された。
「ぶう、ブもおおオオオオオ!!」
猛攻に晒されて傷が癒えない豚鬼魔王は苛立ちと怒りを込めて、【咆哮】をあげた。すると、
「なっ!?」
『なぬ? 動けぬ、じゃと!?』
飛鳥はもとより、状態異常に耐性のあるクロエも含めて前衛全員が行動不能状態になった。不味い。
「グフゥ」
「ぐうっ、かはぁ」
豚鬼魔王は前衛全員嘲笑し、盾役としてヘイトを集めていたシルビア嬢を手に持つ長剣で袈裟斬りに切り飛ばした。
豚鬼魔王の長剣がただの長剣だったのが幸いしたのと、シルビア嬢は全身鎧のおかげで身体を斬り裂かれることはなかった。また、本人の受動系スキル【不屈】で即死することはなかった。しかし、
「ケイロン、スイッチだ! とっつぁんも前衛に戻ってくれ、くっ」
「了解」
「わかった!」
ケイロンに指示を飛ばし、吹き飛ばされてきたシルビア嬢を【風魔術】と【障壁魔術】を併用して俺は彼女を受け止める。
気絶し、彼女が纏っている全身鎧が歪に歪んでしまっているので、シルビア嬢が戦闘に復帰するのは不可能だ。
「なにをぼさっとしている! 撃て! 撃たねば動けぬ仲間が殺されるぞ!!」
前衛が行動不能になって、動揺していた後衛の魔術師達に援護を再開するようとっつぁんが叱咤。
俺はベルさんに気絶したシルビア嬢のことを任せて前に出る。
その俺の視線の先で、豚鬼魔王が緩慢な動きで動けない飛鳥に長剣を振り下ろそうとしているのが目に入った。
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国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
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