とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星

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~幕間2~

第59話 簀巻きになっても反省の色が見えないクロエとお祝い事の件

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ベルと男女の関係を結んだ翌日の朝。

『昨晩はいや、先刻はお楽しみじゃったのう、ご主人!』

俺が寝室の扉に仕掛けていた扉のトラップに引っかかって手首足首の動きを完全に封じられた簀巻き姿で宙吊りになっている出歯亀しようとしていたクロエが元気にそう言った。

「……言いたいことはそれだけか、クロエ?」

『ついティンときてやった、今は反省していないのじゃ』

「そうか」

そう言って、俺は紙にサラサラと文字を書いた。書いた文字は日本語なのだが、オンにしている【文字変換】スキルでこの世界の標準文字に変換される。

湯船に入るときにベルが不自然に体勢を崩した犯人もこのクロエだった。

ほんの極わずかの間だったが、ベルに【威圧】を使って、一瞬足を竦ませてバランスを崩させたのだった。

下手すれば事故になっていたので俺はお仕置きとして、クロエが罠にかかったことには気づいていたけれども、一晩簀巻き状態で放置することにしたのだ。

しかし、全く堪えていないようだったので、

〔私は反省中です。ごはん抜きの罰を受けています。ご主人からお許しが出るまで、なにも与えず放っておいてください〕

「これでよし」

俺は文字を書いた紙をクロエを宙吊りにしている縄のよく見える位置に激しくクロエが暴れても外れない様に貼り付けた。

『なにが「これでよし」キリッ!なのじゃ。流石にごはん抜きは酷いのじゃ! 理由わけがあったのじゃから仕方あるまいに!これを解いてたもう!! はむ?はむはむはむはむ』

騒ぐクロエの口の中に俺は魔力球を3つ押し込んだ。

「本来のクロエの食事は今与えた魔力球で1日充分にもつだろうが。いつから主食と嗜好品が入れ替わったんだ?」

『ふひうひぃ~』

俺がジト目で問いただすと、魔力球を咀嚼して飲み込んだクロエは全然吹けていない口笛を吹いて惚けようとする。

本来クロエの様な竜種は大気中の魔力マナだけでも生きていける存在。

クロエの前世、クロノエクソスが300年間以上封印されていても生きていたことがその証拠だ。

「だったら、飛鳥にも今日の朝食からクロエの分は用意しなくていいと言っておこうか。クロエの所為で、ベルが大怪我するかもしれなかったことを告げれば飛鳥も納得してくれるだろう」

『わわ、分かったのじゃ。反省するし、白状もするのじゃ。我が皆と食事をしたいのは、皆と食卓を囲んで同じ物を食すのが嬉しくて、美味しかったからじゃ!後生じゃから、魔力球だけの生活は止めてたもう!!』

俺の脅しに屈したクロエは滝の様に両目から涙を流して、白状した。

「最初からそうやって正直に話せばいいものを」

そう言って俺は嘆息しつつ、罠を解除した。スタッとクロエは着地した。

『うむ、では我は飛鳥のに後如何程で朝餉ができるか確認してくるのじゃ。ご主人はメイド長と共にくるがよい』

そう言って、クロエは竜の翼を出して飛んでいった。

昨日、ベルに廊下を走って叱られたのを本人は守っているつもりらしいが、あれでは全く意味がないな。

「さて、ベルの様子を見て、身支度をして食堂に向かうか」

寝室に戻った俺は、ダウンしていたベルを疲労にも効果がある【最上級回復魔術エクストラヒール】で復活させて、身支度を整えて、ベルと共に食堂に向かった。



飛鳥の作ってくれた朝食は昨夜話していた通り、わかめと試作木綿豆腐の入った味噌汁とクロエの大好物になった高菜の油炒め、そして、赤飯だった。しかも、南天の葉が上に添えてある。

「なぜ、今朝は赤いご飯なのでしょうか?」

白ご飯をこの前の豚鬼オーク事件から知っているベルが、俺の喉から出かかっていた言葉を代弁してくれた。

『この赤いお米はめでたい日にご主人の世界、いや、ご主人達の住んでいた国で食べられる特別な料理だそうじゃ。何故それを出すのか? それはもちろん、今日はメイド長のおめでたい日であるからに決まっておろう♪』

クロエがドヤ顔で言うのを飛鳥は笑顔で頷いて同意している。

犯人はお前か、クロエ。しかも、飛鳥まで味方につけているということは随分前から今回のための準備と根回しを整えていたと見える。

「あっ、あの、ありがとうございます」

クロエが言った意味を察したベルは顔を真っ赤にして礼を述べていた。

嫁さん達の仲がいいのは俺としても喜ばしいことなので、良しとするか。

「さあ、冷めないうちにいただきましょう」

飛鳥の言葉を受けて、手を洗った俺達は席について飛鳥の作ってくれた朝食を堪能した。



「しかし、よく赤飯を作ろうと思ったな。しかも南天の葉なんてよく見つけたな」

今は食後の一休みで俺達はお茶を飲んで一服している。

俺の【鑑定】でも赤飯の上に乗せられた葉は南天の葉と出ていたので、俺が感心して言うと、

『メルキオールの市場で小豆を見つけてのう、餡子を作ってアンパンをご主人、飛鳥と作ろうと思ったのじゃが、飛鳥に相談したときにお赤飯の話になって、そのときに祝い事の食べ物であると聞いて、何れ加わるご主人の嫁の目出度き日に作ろうと飛鳥と決めておったのじゃ』

そう言って、クロエは【異世界電子通販ネットショッピング】で購入したアンパンに美味しそうにかじりついた。

「南天の葉はお豆腐の材料の大豆を扱っているそのお店で見つけたんですよ。錬金術師ギルドの近くにお店を出しているお婆ちゃんがくださったんです」

飛鳥が嬉しそうにそう言う。

「でしたら、アスカ様、その方にもお礼をしなければなりませんね」

いつもの調子に戻ったベルがそう言う。

ベルは飛鳥を様付けで呼ぶのは俺の正妻が彼女であると考えているからだそうだ。

「それは大丈夫です。お赤飯をおにぎりしたものをお礼とおすそ分けとして持っていってますよ」

なんでもないことの様に告げる飛鳥。そして、ベルに小声でなにか言ったと思ったら、再びベルの顔が耳まで赤くなった。

続けて、飛鳥はその件の赤飯を笹の葉で包んだものを【共有収納】から取り出した。しかもその数6個以上。

「あ、これはミーネさんとジェシカさん、バルガス冒険者ギルド長、ヘリオスギルド総長、あと宿木亭の女将さん達の分もありますよ。」

そして、この気配りである。流石だ。

『我も配りに行くときはアスカについて行くのじゃ』

「ここの管理のために着任してくれる使用人の人たちが到着して、着任祝いのお昼ご飯を食べてから丁度、ギルドに行く用事があるから、ミーネさん達にはそのときに渡そうか」

「わかりました」

『わかったのじゃ』

飛鳥とクロエが頷いた。

「ベル、商人ギルドのギルド長と従者ギルドの副ギルド長の2人と面会できるのはいつになりそうかな?」

「明日の昼食をアスカ様とクロエも交えて、6人で共にしたいと共同で返事がありました」

俺の頼んでいたことにベルが返事の内容も伝えてくれた。

それにしても、明日の昼とはよく時間が確保できたな。てっきり明後日以降に個別になるかと思っていたんだが。

そうベルの両親の対応の早さに驚きつつ、俺は飛鳥達とこの屋敷を任せる使用人達と共にする昼食の献立について話し合った。

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