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第3章 自由連合同盟都市国家メルキオール 地方城塞都市カイロス編
第71話 タバスコと粉チーズがもたらすこの世界の料理への可能性とカイロスのハロウィンと邂逅した飛鳥の件
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カイロスの名物料理の1つであるミートボール入りミートソーススパゲティに使っている肉は全て魔物肉。
オークとブラッディホーン、そして、ワイルドチキン。それぞれの肉を挽肉にして、ミートソースとミートボールにそれぞれ別に秘伝の割合で使用している。
ミートソースもブイヨンから時間をかけているのがわかる深い味わいがある。
それが玉ねぎの甘みとトマトの酸味と合わさって、見事な調和をしている。クロエが夢中になるのも納得できる味だ。
とはいえ、好みは人それぞれ。食べ続けていると、新たな刺激欲しくなるのも人情。
「ヘリオスさん、このお店にはタバスコやブラックペッパー、粉チーズなどって置いてますか?」
いきつけの店にしていると言うので、俺は訊いてみたのだが……。
「いや、置いていないはずだよ。タバス? なんだね、それは? それらは何に使うのかね?」
返ってきた答えは半ば予想通りで、俺は内心落胆する。
それにしても、どうやら、ヘリオスさんはタバスコを知らない様子だったので、俺は空間収納から【異世界電子通販】で買ったタバスコの小瓶、粉チーズを入れた小筒を出した。
ブラックペッパーも出そうと思ったが、メルキオールの市場で結構お高いお値段だったので止めた。
メルキオールでお酢と唐辛子はあったので、自家製の物も【魔術】を使いながら試作しているが、納得のいくレベルではない。他人に出せる出来ではないのでここで出すのは控えた。
「私がいたところでは自己責任でこれらの調味料を追加し、自分好みの味に調整してパスタは食べていたお店もあったのですが……マナーとしてお店への持ち込みはよろしくないので、これは片付けますね」
「ちょっと待ってくれないかな」
俺が取り出した調味料を片づけようとしたら、ヘリオスさんが俺を制止して、この店の店長と料理長を呼び出した。
しまった。何やら大事になりそうな悪寒が……。
「悪いね。店長、料理長。実は、ここの彼が珍しい調味料を持っていてね。それらを使って、この店のミートソーススパゲティを食べてみようと思うのだが、彼が君達の店と料理に敬意を払って、折角の機会を見送ろうとしているのだ。許可してもらえるのであれば、君達も試してみるのはどうだろうか?」
そうヘリオスさんが言うと、やってきたスーツ姿の俺よりも年若い男性店長とシェフコートを着た初老の男性料理長が興味深そうにこちらを見た。
「なるほど、僕は新たな発見になりそうだから構わないけれども、料理長はどうかな?」
「若が構わないのでしたら、あっしにも否やはありやせんぜ」
「なら、決まりだね。ヘリオスさん、構いませんので、僕達の分の料理もすぐ用意させますから、お待ちいただいていいですか?」
「私は一向に構わんよ。という訳でユウ君、さっきの調味料の用意と説明も頼むよ」
そう言って、ヘリオスさんは笑顔で催促をしてきた。
「はい……」
自分で撒いた種だけに自分で刈らねば。トホホ。
俺の様子を飛鳥とベルは苦笑い。クロエは目の前のスパゲティと格闘していて、目に入ってすらいなかった。そして、おしどり夫婦は相方しか見えてない、二人の世界で平常運転。ケッ、爆発しろ。
「お待たせいたしました。では、ご説明をお願いします」
「……」
好奇心で両目を輝かせている店長の青年が促し、料理長は俺の言葉を一言も聞き逃さない様に集中して聞き入っている。おうふ、エスケイプ不可能。
「こちらはタバスコという調味料で、材料は唐辛子と岩塩、穀物酢でできている辛味と酸味がとても強いソースです。かけ過ぎると、料理の味が崩壊して、食べられ物ではなくなります。また刺激物ですから、過剰摂取は舌が壊れるので、注意してください」
そう言って、俺はタバスコの小瓶を出した。ヘリオスさん達は興味深そうにタバスコを眺めている。
「こちらは粉チーズです。カイロスは特産品で乳製品のチーズを扱っていたと思いますので、それでも作れるものですね。固いチーズを削って粉末状にしたものです。こちらはかけると味がマイルドになりますが、タバスコと同じく、かけ過ぎるとチーズの味で、元の味が塗りつぶされてしまいます。また、チーズは摂りすぎると健康を害するので、注意が必要です」
粉チーズの入った小筒も出した。
この世界の料理では、トッピングという発想が全くないようで、できあがった料理に手を加えたものを見たことがない。
「……たしかに興味深い味の変化だ」
「若の仰る通りで。ですが、こいつは確かに使い過ぎると味が殺されちまいますね……素人が使うと危険でさあ」
店側2人の食後の意見である。
「お店に出すのであれば、初めは常連の方数名にお試しで、充分使用上の注意と自己責任を説明して、使ってみてもらって反応を見てみるのはどうですか? 好評であれば、要望があれば用意するようにすればいいと思います。ただ、お店に初めて来た客には出さない方がいいと思います」
取り扱いに悩んでいた様なので、提案してみた。
「なるほど、その案はいいですね。では……」
結果として、俺は【異世界電子通販】のことを話すつもりはないので、出したタバスコと同じ物は大量にないということにして、少量を売ることにした。
また、現在、この世界で再現するために試作していることを教えることになり、完成したらまた話を持ってきて欲しいと店長と料理長に言われた。
そして、今後、個室の中であれば自己責任で持参調味料を使っていい許可ももらった。
「うんうん、上手くいったね」
ヘリオスさんは試行錯誤して自分好みにタバスコと粉チーズを投入したミートソーススパゲッティを俺が商談で四苦八苦している横で笑顔で食べていた。
その後、俺達は店長と料理長の厚意で、特製ラザニアをサービスでもらって堪能し、舌鼓を打った。
■
『我は満足なのじゃあ~。おや?』
俺達は宿に戻るため、移動し、ご機嫌だったクロエが不意に足を止めた。
原因は、かぼちゃをくりぬいて作られたランタンなどで、街中が飾り付けられていたからだった。
「ベル、あの飾り付けられているかぼちゃはなにかな?」
「はい、”ジャックオーランタン”というカイロスの独自の祭りである『ハロウィン』の飾りですよ。ハロウィンでは子供がウェアウルフなどの魔物に仮装して、民家を渡り歩いてお菓子をねだるといった独特なものがあります。開催期日は明日ですね。また、……」
ベルに教えてもらった内容はまんま現代日本のハロウィンと同じ内容だった。
「あの、優さん、ここのハロウィンに参加してみていいですか?」
飛鳥が目を輝かせて、そう言ってきた。
「なにか参加条件とかある?」
俺は再びベルに訊いてみた。
「仮装するのであれば、衣装は自前になりますが、他に条件はなかったはずです」
「うん、せっかくだから、君たちも参加してみるといい。明日は休日にしていいよ。出発は明後日でも問題ないしね」
返答がベル、ヘリオスさんから返ってきた。
「わかりました。クロエ、ヴァルカさん、行きましょう」
『おお、面白そうじゃな』
「ちょ、あたいは」
「まぁまぁ、ヴァルカも行きましょう」
ヘリオスさんの言葉を受けて、飛鳥はクロエとヴァルカさんを引っ張って行った。
ヘファイスさんも離脱しようとしたヴァルカさんが逃げ出さないようにして後に続いた。
「……お祖父様、なにを考えてらっしゃるんですか?」
ベルがヘリオスさんに胡乱げな様子で問いただした。
「別に、ただ可愛い子供達と孫の姿が見たいだけだよ」
とヘリオスさんが返した。
「私は参加しませんよ?」
ベルはそう返したのだが……
「ああ、多分、ベルも強制参加になると思うぞ、おそらく飛鳥と合わせた衣装で」
「え? それはどういうことでしょうか?」
珍しくベルが唖然とした表情をした。
それもそのはず、普段は真面目な飛鳥だが、可愛いものに対しては話しが違ってくる。
小動物が好きなのはもとより、可愛い衣装を自作することも飛鳥の隠していた趣味の1つだ。元の世界の学園祭での演劇部の衣装制作に協力していたとか。
飛鳥は裁縫の技術も高く、衣装の自作もできる腕の持ち主。元々剣術の稽古で頻繁に道着が破損するため、それを修繕していたら、いつの間にか裁縫の腕が上達していたそうだ。
この世界に来て、俺とクロエと一緒にメルキオールに来てからはそれに拍車がかかり、クロエの私服と就寝時の服、俺の普段着のシャツは実は、飛鳥の手製。しかも、センスがよく、その出来はこいらの世界の店売りのものを凌駕している。
これまで服を着る機会がなかったクロエも珍しい服に興味を持って、飛鳥が作った服には全て袖を通して、彼女に感謝するものだから、更に飛鳥のモチベーションと創作意欲が上がって、カイロスに来る少し前にようやくひと段落したところだった。
「ほほう、それは楽しみだ」
ヘリオスさんは笑みを浮かべて、歩みを進め、俺は固まっていたベルを再起動させて、本日宿泊する宿へ向かった。
オークとブラッディホーン、そして、ワイルドチキン。それぞれの肉を挽肉にして、ミートソースとミートボールにそれぞれ別に秘伝の割合で使用している。
ミートソースもブイヨンから時間をかけているのがわかる深い味わいがある。
それが玉ねぎの甘みとトマトの酸味と合わさって、見事な調和をしている。クロエが夢中になるのも納得できる味だ。
とはいえ、好みは人それぞれ。食べ続けていると、新たな刺激欲しくなるのも人情。
「ヘリオスさん、このお店にはタバスコやブラックペッパー、粉チーズなどって置いてますか?」
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「いや、置いていないはずだよ。タバス? なんだね、それは? それらは何に使うのかね?」
返ってきた答えは半ば予想通りで、俺は内心落胆する。
それにしても、どうやら、ヘリオスさんはタバスコを知らない様子だったので、俺は空間収納から【異世界電子通販】で買ったタバスコの小瓶、粉チーズを入れた小筒を出した。
ブラックペッパーも出そうと思ったが、メルキオールの市場で結構お高いお値段だったので止めた。
メルキオールでお酢と唐辛子はあったので、自家製の物も【魔術】を使いながら試作しているが、納得のいくレベルではない。他人に出せる出来ではないのでここで出すのは控えた。
「私がいたところでは自己責任でこれらの調味料を追加し、自分好みの味に調整してパスタは食べていたお店もあったのですが……マナーとしてお店への持ち込みはよろしくないので、これは片付けますね」
「ちょっと待ってくれないかな」
俺が取り出した調味料を片づけようとしたら、ヘリオスさんが俺を制止して、この店の店長と料理長を呼び出した。
しまった。何やら大事になりそうな悪寒が……。
「悪いね。店長、料理長。実は、ここの彼が珍しい調味料を持っていてね。それらを使って、この店のミートソーススパゲティを食べてみようと思うのだが、彼が君達の店と料理に敬意を払って、折角の機会を見送ろうとしているのだ。許可してもらえるのであれば、君達も試してみるのはどうだろうか?」
そうヘリオスさんが言うと、やってきたスーツ姿の俺よりも年若い男性店長とシェフコートを着た初老の男性料理長が興味深そうにこちらを見た。
「なるほど、僕は新たな発見になりそうだから構わないけれども、料理長はどうかな?」
「若が構わないのでしたら、あっしにも否やはありやせんぜ」
「なら、決まりだね。ヘリオスさん、構いませんので、僕達の分の料理もすぐ用意させますから、お待ちいただいていいですか?」
「私は一向に構わんよ。という訳でユウ君、さっきの調味料の用意と説明も頼むよ」
そう言って、ヘリオスさんは笑顔で催促をしてきた。
「はい……」
自分で撒いた種だけに自分で刈らねば。トホホ。
俺の様子を飛鳥とベルは苦笑い。クロエは目の前のスパゲティと格闘していて、目に入ってすらいなかった。そして、おしどり夫婦は相方しか見えてない、二人の世界で平常運転。ケッ、爆発しろ。
「お待たせいたしました。では、ご説明をお願いします」
「……」
好奇心で両目を輝かせている店長の青年が促し、料理長は俺の言葉を一言も聞き逃さない様に集中して聞き入っている。おうふ、エスケイプ不可能。
「こちらはタバスコという調味料で、材料は唐辛子と岩塩、穀物酢でできている辛味と酸味がとても強いソースです。かけ過ぎると、料理の味が崩壊して、食べられ物ではなくなります。また刺激物ですから、過剰摂取は舌が壊れるので、注意してください」
そう言って、俺はタバスコの小瓶を出した。ヘリオスさん達は興味深そうにタバスコを眺めている。
「こちらは粉チーズです。カイロスは特産品で乳製品のチーズを扱っていたと思いますので、それでも作れるものですね。固いチーズを削って粉末状にしたものです。こちらはかけると味がマイルドになりますが、タバスコと同じく、かけ過ぎるとチーズの味で、元の味が塗りつぶされてしまいます。また、チーズは摂りすぎると健康を害するので、注意が必要です」
粉チーズの入った小筒も出した。
この世界の料理では、トッピングという発想が全くないようで、できあがった料理に手を加えたものを見たことがない。
「……たしかに興味深い味の変化だ」
「若の仰る通りで。ですが、こいつは確かに使い過ぎると味が殺されちまいますね……素人が使うと危険でさあ」
店側2人の食後の意見である。
「お店に出すのであれば、初めは常連の方数名にお試しで、充分使用上の注意と自己責任を説明して、使ってみてもらって反応を見てみるのはどうですか? 好評であれば、要望があれば用意するようにすればいいと思います。ただ、お店に初めて来た客には出さない方がいいと思います」
取り扱いに悩んでいた様なので、提案してみた。
「なるほど、その案はいいですね。では……」
結果として、俺は【異世界電子通販】のことを話すつもりはないので、出したタバスコと同じ物は大量にないということにして、少量を売ることにした。
また、現在、この世界で再現するために試作していることを教えることになり、完成したらまた話を持ってきて欲しいと店長と料理長に言われた。
そして、今後、個室の中であれば自己責任で持参調味料を使っていい許可ももらった。
「うんうん、上手くいったね」
ヘリオスさんは試行錯誤して自分好みにタバスコと粉チーズを投入したミートソーススパゲッティを俺が商談で四苦八苦している横で笑顔で食べていた。
その後、俺達は店長と料理長の厚意で、特製ラザニアをサービスでもらって堪能し、舌鼓を打った。
■
『我は満足なのじゃあ~。おや?』
俺達は宿に戻るため、移動し、ご機嫌だったクロエが不意に足を止めた。
原因は、かぼちゃをくりぬいて作られたランタンなどで、街中が飾り付けられていたからだった。
「ベル、あの飾り付けられているかぼちゃはなにかな?」
「はい、”ジャックオーランタン”というカイロスの独自の祭りである『ハロウィン』の飾りですよ。ハロウィンでは子供がウェアウルフなどの魔物に仮装して、民家を渡り歩いてお菓子をねだるといった独特なものがあります。開催期日は明日ですね。また、……」
ベルに教えてもらった内容はまんま現代日本のハロウィンと同じ内容だった。
「あの、優さん、ここのハロウィンに参加してみていいですか?」
飛鳥が目を輝かせて、そう言ってきた。
「なにか参加条件とかある?」
俺は再びベルに訊いてみた。
「仮装するのであれば、衣装は自前になりますが、他に条件はなかったはずです」
「うん、せっかくだから、君たちも参加してみるといい。明日は休日にしていいよ。出発は明後日でも問題ないしね」
返答がベル、ヘリオスさんから返ってきた。
「わかりました。クロエ、ヴァルカさん、行きましょう」
『おお、面白そうじゃな』
「ちょ、あたいは」
「まぁまぁ、ヴァルカも行きましょう」
ヘリオスさんの言葉を受けて、飛鳥はクロエとヴァルカさんを引っ張って行った。
ヘファイスさんも離脱しようとしたヴァルカさんが逃げ出さないようにして後に続いた。
「……お祖父様、なにを考えてらっしゃるんですか?」
ベルがヘリオスさんに胡乱げな様子で問いただした。
「別に、ただ可愛い子供達と孫の姿が見たいだけだよ」
とヘリオスさんが返した。
「私は参加しませんよ?」
ベルはそう返したのだが……
「ああ、多分、ベルも強制参加になると思うぞ、おそらく飛鳥と合わせた衣装で」
「え? それはどういうことでしょうか?」
珍しくベルが唖然とした表情をした。
それもそのはず、普段は真面目な飛鳥だが、可愛いものに対しては話しが違ってくる。
小動物が好きなのはもとより、可愛い衣装を自作することも飛鳥の隠していた趣味の1つだ。元の世界の学園祭での演劇部の衣装制作に協力していたとか。
飛鳥は裁縫の技術も高く、衣装の自作もできる腕の持ち主。元々剣術の稽古で頻繁に道着が破損するため、それを修繕していたら、いつの間にか裁縫の腕が上達していたそうだ。
この世界に来て、俺とクロエと一緒にメルキオールに来てからはそれに拍車がかかり、クロエの私服と就寝時の服、俺の普段着のシャツは実は、飛鳥の手製。しかも、センスがよく、その出来はこいらの世界の店売りのものを凌駕している。
これまで服を着る機会がなかったクロエも珍しい服に興味を持って、飛鳥が作った服には全て袖を通して、彼女に感謝するものだから、更に飛鳥のモチベーションと創作意欲が上がって、カイロスに来る少し前にようやくひと段落したところだった。
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