とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星

文字の大きさ
75 / 108
第3章 自由連合同盟都市国家メルキオール 地方城塞都市カイロス編

第75話 勇者と魔王、勇者召喚が世界に及ぼした悪影響の件

しおりを挟む
広大な空間を埋めているその巨体とは対照的な穏和な声音の歓迎の言葉を聞いたものの、ヘリオスさんと1名を除いた俺と飛鳥達は、その白い巨体に圧倒された。

『ルー……ルミナス……じゃと!?』

その1名、クロエは俺達とは異なる驚愕で固まっているようだった。

「さて、ルー、貴女が私を呼んだ理由はなんですか?」

ヘリオスさんが、ルールミナスに俺達がここに脚を運ぶことにもなった理由を問いただした。

『ええ、いくつかありますが、重要なものから話します。この世界にそこにいる女性の異世界人同様に複数の異世界人が”勇者”として、、勇者として召喚された異世界人と”魔王”が現れます。もっとも、その内の1体は既に討伐されたようですね』

召喚された勇者と同数の魔王が現れる? ルールミナスの言葉に俺達は驚愕することになった。

「……そうですか。ユウ君、アスカさん、カイロスにいたあの2人、タケシとコスズの他にもあと2人”勇者”がいるのでしたね?」

ある程度予測していたのか、ヘリオスさんは落ち着いた様子で、俺達に問いかけてきた。

「ええ、その通りです。つまり、あと魔王は少なくとも4体現れるということになりますか?」

『ええ、そうなります。いつ、どこに現れるかはわかりませんが、確実にあと4体は現れるでしょう』

俺の言葉にルールミナスが確信を込めて答えた。

「そもそも勇者や魔王とはどのような存在なんでしょうか?」

飛鳥が俺も以前から抱いていた疑問をルールミナスに尋ねた。

『私も正しく把握しているか、分かりかねる部分がありますが、勇者と魔王は対とも言える存在です。共通しているのはこの世界に認められて”龍脈”から力を引き出して戦える強力な存在であることと、周囲を導く存在になりうることです。相違しているのは理性と本能、どちらを重んじる立場であるかです。故に、どちらも人のいう善悪の価値観に当てはめるのは適当ではないと私は思います』

ルールミナスは淡々とそう答えた。

「魔王を倒すのは勇者、勇者と倒すのは魔王でなければならないということはあるのだろうか? もし、勇者でないものが魔王を倒したら、また新たな魔王が生まれるということはあるのか?」

『……いいえ。魔王は勇者でなければ倒し辛いという以外は特にありません。新たな魔王が補充されるということもありません』

俺の懸念の1つにルールミナスが答えてくれた。飛鳥ではなく、俺が豚魔王を倒しても問題がなくて安心した。

『次の話に移りますね。ヘリオス、メルキオール北の”封鎖地区”の封印が綻んでいます。半年以内に封印が解けてしまうでしょう』

「なんだって!? そんな馬鹿な! あの場所のあの封印は、少なくともあと数百年はもつはずだ!!」

ルールミナスの言葉に普段からは考えられない興奮した強い口調でヘリオスが言った。

『残念ですが、事実です。原因は先ほど話した”勇者召喚”です。1人、2人であれば問題ありませんでしたが、5人分となれば世界中の魔力分布に悪影響がでます。その結果、”封鎖地区”の大気中の魔力と龍脈が影響を受けました。あと1人でも、即座に封印は解けてしますと思われます』

ルールミナスはヘリオスさんに憐憫の目を向けて、そう告げた。

「それは不味い!」

ヘリオスさんが再度の勇者召喚で封印が即時解除されることに強く反応して、狼狽した。

「ああ、オディオ王国は勇者召喚に必要な魔方陣を失っているので、即座に勇者召喚はできないと思いますから、少なくともすぐにその封印が解けることはないと思いますよ」

俺はあまりにヘリオスさんが慌てているので、落ち着かせるために言葉を続けることにした。

「飛鳥とあの国を出るときに、今後、あの国の所為で、俺達の様な犠牲者が出ることを防ぐために、勇者召喚関係の資料を根こそぎ確保して、この通り、魔方陣が刻まれていた床も削り取ってきてます」

そう言って、俺は【空間収納】に保管していたオディオ王国の勇者召喚に関する書類の山と、削り取ってきた魔方陣が刻まれた床をその場に出した。

『これは!?』

「……」

ルールミナスは驚きの声をあげ、ヘリオスさんは目を見開いた。

その反応を確認した俺は、【空間収納】から出した勇者関連のものを全て、再び収納した。それにしても、本当にロクなことしないなアリシアと現オディオ王国国王は。

「ユウ君、よくやってくれた!」

ガシッと俺は興奮したヘリオスさんに両手を握るというよりも、掴まれた。

『貴方はそれらをどうするつもりなの?』

ルールミナスが俺を推し量るように問いかけてきた。

「既に術式の解析の結果、この世界に召喚された俺達が元の世界に戻ることができないことが分かっているから、頭の螺子が全て吹っ飛んだ輩に渡さないために、このまま【空間収納】の肥やしにするつもりだ。俺が死んだら、これらは全て消滅するようにしてある」

【魔術】を使って、すぐにでも消滅させればいいと思うかもしれないが、魔方陣の術式が、魔力を吸収して発動するという厄介な代物だったため、迂闊に【魔術】を使っても吸収されて破壊することができなかったのだ。

勇者召喚の資料に関しては【召喚術】の術式改善資料として有用な点が発見されたため、飛鳥とクロエ、ベルの3人と共に研究に使っている。

『……そうですか、それらは貴方にお任せして大丈夫そうですね』

そう言って、ルールミナスは笑った……が、

『ゴフッ、ゴフッ、ガハッ……』

白い鱗をもつ穏和な白竜は、その口と口下の床を自身の吐血した血で赤く染めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...