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第3章 自由連合同盟都市国家メルキオール 地方城塞都市カイロス編

第84話 ヘリオスさんが壊れた件

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朝食を俺達の部屋で摂ることをベルとクロエにヘリオスさんに伝えるようお願いし、しばらくしてヘリオスさんがやって来たのだが、

「……」

「ハグハグ、ハグハグ、ハグハグ……」

部屋に入ったヘリオスさんは俺と飛鳥が作り出した魔力球を夢中で食べているルシィを見た瞬間、立ち尽くして固まった。

飛鳥はルシィに食べさせる魔力球をひたすら量産中だ。

不意にノックがした。

「どうぞ」

「失礼します」

『朝餉をもらってきたのじゃ』

俺の返事に次いで、ベルとクロエが朝食を載せたカートを押して入ってきた。

「……」

「お祖父様、朝食の用意をいたしますので、席にお着きください。お祖父様?」

「……」

ベルが声をかけてもヘリオスさんの視線はルシィに固まったまま、無反応だった。

「お祖父様?」

「……」

再三、孫娘のベルが呼びかけてもヘリオスさんは無反応。よほど衝撃が大きかったのだろうか。

「はあ、仕方ありませんね。クロエ、を貸してもらえますか?」

『ヒィッ……我は構わぬが、よいのか?』

「ええ、喝を入れるには丁度いいかもしれません」

にこやかな笑みをベルが浮かべているが、こめかみには青筋が立っている。

彼女がその身に纏う底冷えのする怒気によって、クロエが怯えてしまったのも無理はない。

ちなみに、ルシィは魔力球を食べるのに一生懸命になっており、飛鳥はルシィのその姿を堪能するのに夢中になっている。

『そうじゃ! ご主人、ヴァルカとヘファイスは急用で、ここの技師ギルドに出かけておる。朝食は向こうで摂るそうじゃ』

ベルの怒気から避難してきたクロエが俺に教えてくれた。

はて? なにかあったんだろうか。

俺は技師ギルドであったことが気になったが、次の瞬間、部屋に鳴り響いたスパーン、バシャッという音に反射的に意識が向いた。

「はっ!? リア?」

「お祖父様、お目覚めですか?」

ヘリオスさんはずぶ濡れになっていて、ベルはクロエのものと思しきいい音の音源、ハリセンを肩に乗せていた。

「……ああ、すまない」

「謝罪は結構です。ご主人様、温かい食事が冷めてしまいますので、早々にいただきましょう」

「わかった。飛鳥、席に着くよ」

「はい、わかりました」

俺の言葉に応えた飛鳥は魔力球を食べて、満腹になって眠ったルシィを起きない様に優しく抱き上げ、揺り籠に入れて寝かせ、席に着いた。



パン、シリアル、スープ、サラダ、オムレツのシンプルだが、ハズレのなかった朝食を摂った俺たちは食後の一服をしている。

「ユウ君、その子がルールミナスの生まれ変わりなのかい?」

ようやく通常運転になったヘリオスさんが俺に問う。

「ハグハグ、ハグハグ、ハグハグ……」

その話題のルシィは目覚めて再び魔力球を俺の膝上に陣取って、貪り食べている。

赤ん坊の仕事は食べることと寝ることとはよく言ったもので、ルシィは見事にそれを体現していた。しかも、その食事量はクロエが生まれたての初日の量を既に超過している。

「はい、そうです。クロエと飛鳥が頑張った結果、予定を大幅に前倒しして、今朝、孵化しました。それで、この子の名前ですが、ルールミナスと付けることができなかったので、”ベルシグナス”と名付けました。」

「ハグハグ……ピー?」

名前を呼ばれたルシィは魔力球を食べる手を止め、なあに?と返事をする様に一鳴きして、可愛らしく俺を見あげた。

「なんでもないよ。はい、食べていいよ」

そう言って、俺はルシィの頭を撫でて、作り出した魔力球をルシィの両手に持たせてあげた。

「ピーッ♪ ハグハグ……」

瞳を細めて喜びの声をあげたルシィは食事を再開した。

ちなみに飛鳥は朝食後に起きてきたルシィのために魔力球を作っていたが、魔力枯渇状態になって、隣の寝室でいい笑顔で気絶し、クロエに看病されている。

魔力の回復手段として、魔力回復薬マナポーションがあるのだが、ゲームと違い、使い過ぎると効き目が薄くなる上に質の悪いものを服用しつづけると、中毒になるというデメリットがあるため、自然回復をさせている。

また、【BMブレイブモード】の龍脈による魔力回復効果は現在、【BM】に使用不可時間クールタイムが発生しているため、飛鳥は利用できない。

ルシィのためとはいえ、長距離移動があるにも関わらず、流石に動けなくなるまで、魔力球を作るのは問題なので、クロエには飛鳥に【魔力譲渡】をすることを禁止している。

「……」

閑話休題、ヘリオスさんがルシィに向ける視線に、俺はなにやら既視感を感じ始めていた。

「……ユウ君、私にもベルシグナス君にその魔力球をあげるのをやらせてくれないかい?」

ヘリオスさんは有無を言わせぬ迫力をなぜか纏って、俺にきょうは……頼んできた。

「……はい、どうぞ」

俺は作り出した魔力球をヘリオスさんに渡した。

「ありがとう」

そう言って、ヘリオスさんは俺から魔力球を受け取ると、親指と人差し指で摘んで、ルシィの前に魔力球を差し出した。

「ピィ?」

ルシィは小首を傾げた。

「食べて構わないよ」

「ピーッ!」

ヘリオスさんの言葉を聞いたルシィは喜びの鳴き声をあげ、魔力球を摘んでいる彼の指をガシッと小さい両手を重ねて掴み、魔力球にかじりついた。

ルシィの手が指に触れた瞬間、ヘリオスさんはクワッと目を見開き、魔力球を食べる目前のルシィを凝視した。

「ピー」

魔力球を食べ終えて、満足したルシィはヘリオスさんに頭を下げると、俺の膝の上で丸くなって眠り出した。

「……」

再びヘリオスさんは無言になったが、視線は眠っているルシィに固定されていた。
しばらくして、

「……クックック、ハッハッハ」

と大きな声でヘリオスさんは急に笑い出し、

「静にしてください、お祖父様。ベルシグナスが起きてしまいます」

そう落ち着いた声で諌めるベルによって、再びスパーンッと小気味いい音を立てて、クロエのハリセンでしばかれた。




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