とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星

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~幕間3~

第88話 屋敷の暖房問題の件

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城塞都市カイロスから戻ってきて、翌日。メルキオールでもすっかり空気が冷え、肌寒くなってきた今日このごろ。

メルキオール最北端はもっと冷えこむそうで、ヒュドラが封印されている北の封鎖地も、完全に雪と氷に閉ざされて、向かうこともままならず、下手にいくと遭難しかねない状態だそうだ。

「やっぱりこの世界の暖房器具って暖炉?」

昨日のうちに錬金術師ギルドに顔を出した俺は今日は冬に備えるために必要なものを確認するため、朝食後のみんなが仕事に分かれる前に、うちで一番世事に詳しいベルと職人であるヴァルカさん、ヘファイスさんに頻繁にお世話になるであろう暖房器具について訊いてみた。

「ええ、中級以下の家庭では薪を燃料とした暖炉がです。富豪など資産に余裕がある家では魔石を使った暖房器具があります。この家にもありますが……おかしいです。入居前には問題なく稼動しましたのに……魔石は新品で問題ないはずですが?」

ベルが屋敷に備え付けの魔石暖房器具を起動してくれようとしたのだが、なぜか器具が発動しないようだ。

「ん? ちょっと代わってくれないか、メイド長。あたしが見てみる……ああ、これは経年劣化で、刻印が駄目になってるな……ってこれ、先々代の技師ギルド長が作ったものじゃないか!?」

「!? 私にも見せてもらっていいですか、ヴァルカ?……なるほど、確かにこれは先々代の仕事ですね。となると、ざっと200年前のものになりますね。この暖房器具。流石に経年劣化は免れないでしょう」

とヴァルカさんとヘファイスさんが言う。どうやら、技師ギルドの職人なら分かる仕掛けがあるようだ。

それにしても、200年近くも保ったのはすごい。流石、技師ギルドの長が作ったものというべきか、これまで壊さずに使っていたヘリオスさん達がすごいのか。

「これ直せるかな?」

「無理だな。直すとなると、どれ位時間と費用がかかるか分からない上に、直すための資材を集められるかどうか……」

「時季物というものもありますが、今の季節では絶対に手に入らない素材をふんだんに使っていますね。今年中にこの暖房器具を修理するのは無理です。ただ、この様な旧式の魔石暖房器具は家に固定されているのが普通です。直すには家の工事も必要になるものですが、珍しく、取替えが利く様にこの器具はできています。新しいのに買い換える方がいいですね」

俺の疑問に技師夫妻は即答してくれた。そうか、買い替えか。でも、今の時期だと……

「商店に売っているのだと、この屋敷のこの部屋を暖めるには心許ないな。かと言って、技師ギルドに発注するにしても、予約待ち状態になる。申し訳ないが、あたしとヘファイスは武器と防具、装飾品専門で、こういった魔導具は知識はあるけれども、構造までは詳しくないから作れない」

とヴァルカさんが謝罪してきた。

「契約外のことだから、別に問題ない。そうだなぁ……だったら、俺がなんとかしてみるかな」

最悪、俺にはチートな【異世界電子通販ネットショッピング】がある。つい先日、一部家電も購入できるようになったのだ。きちんとこちらの事情に合わせられた電気式ではなく、魔力式であるのは既に確認済み。ただし、1月に1個までと購入制限が付いている。

「作れるのですか? 優さん?」

飛鳥が訊いてくる。まぁ、当然だよね。

「【錬金術】が魔術の一分野であるおかげで、錬金術師は【魔導具作成】ができるんだよ。魔術師といってもピンキリだから、人によっては、回復薬ポーション作製専門だったり、魔導具作製専門だったりと特化している傾向が多いみたいだ。俺は自分の生活のために錬金術やっているから、広く浅くになるかな」

そう俺は答えたものの、

「ご主人様とミーネ様位ですよ。そのように幅広くなさっているのは……」

とベルに苦笑いを返されてしまった。解せぬorz

「まぁ、正式にできるまでは毎日みんなこれを使ってみてくれ」

俺はそう言って、この場にいる全員にとある小袋を1つずつ渡した。

『少し重さがありますね。主さま、これはなんでしょうか?』

手渡されたルシィが周囲と同じく首を傾げて訊いてくる。

「優さん、もしかしてこれは……」

一方で、飛鳥は早々に気づいたようだ。

「そう、飛鳥は向こうの冬で使ったことがあるかもしれないから、分かるかな。これは”使い捨てかいろ”と言って、中に空気と反応して熱を出す触媒を入れてあるものだ。袋の中の触媒を空気と混ぜ合わせると熱をもって、温度を高めることができる。触媒は鉄粉や木炭だから袋が破れると掃除が大変になるから、破らない様に注意して使ってくれ。あと、同じ場所に長時間当て続けると低温やけどするかもしれないから注意して……はい、こんな感じだよ、ルシィ」

そう言って、俺はルシィに熱を持ったかいろを渡した。

『ありがとうございます、主さま。わぁ、たしかに温かいですね』

そう言って、ルシィは目を細めて笑みを浮かべた。

『ぬぬ……ご主人、我にもぬくくしたものをたもう!』

「わかったよ……はい、クロエ」

【人化】しているから、クロエにもできるはずだが、ここは言わぬが吉。大人しく俺はクロエの要望に従い、俺はルシィと同じ位の温度にした使い捨てかいろをクロエに渡した。

『感謝するのじゃ……たしかに温くいのう』

「こうでしょうか?」

「その調子ですよベル。袋を振ったり、揉んだりして中の空気を粉末と混ぜ合わせる感じです。」

「……これはポケットに入れておけば便利ですね」

「ええ、ただ、優さんが言っていた様に袋が破けてしまうと中の粉が散らばるので、刃物や尖ったものが入っているポケットに一緒に入れるのは避けたほうがいいですよ」

「わかりました」

ベルは飛鳥に使い捨てかいろの使い方を師事していた。

「へぇ、こりゃ便利だね」

「たしかに。ところで、これはどれぐらいの時間熱をもつものですか? それから、火種になる恐れはありませんか?」

ヴァルカさんも気に入ったようで、ヘファイスさんは俺に継続時間を訊いてきた。

「使う環境などにもよるけれども、大体12時間、半日位はもつはず。流石にお湯を沸かすほどの熱はもたないし、火事になることはない。あと、それ使い捨てだから、完全に熱を失ったら廃棄してくれ」

俺の言葉にみんな頷いてくれた。

「あとは防寒具か……飛鳥、手袋とマフラーとかってお願いできるかな?」

「はい、構いません。よければ作りましょうか?」

「お願いできるかな……俺は最後で構わないから、先に飛鳥とベル、それとクロエ、ルシィの分を優先して。最悪、俺のは既製品のものでもいいよ」

「! はい、お任せください。では今日は市場に行って、材料を買ってきますね」

「私も買い物に出掛けますので、アスカ様、ご一緒させていただいてよろしいでしょうか? ご主人様のことはクロエとベルシグナスに任せます」

「ええ、じゃあ、一緒に行きましょうか」

『わかったのじゃ』

『はい。お任せください』

3者3様の答えをベルに返し、

「あたしらは旦那達の武器と防具作製に戻る」

「では失礼します」

ヴァルカさんとヘファイスさんが自分たちの鍛冶場に移動を始め、解散となった。



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