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第4章 自由連合同盟都市国家メルキオール 首都メルキオール~北方封鎖地編
第101話 今更なこの世界の宗教と家庭用魔導具絶賛販売中の件
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この世界にも宗教は当然存在する。
その初まりは土着の土地神や精霊信仰など様々なものだったが、現在では大きく分けて4つの宗教、信仰がこの世界で信仰されている。
まず、最も古くからカスパル帝国で信仰されている太陽神を中心とした多神教であるヴェーダ神教。
次に、ヴェーダ神教の主神をその他の神々と同列に扱っているダーマ聖教。
前述のヴェーダ神教も元々はこのダーマ聖教の一派だったとも言われているし、その逆であるという説も交わされている。元々は同じ宗教であったが、ある日を境に2つに分かれてしまい、今では卵が先か鶏が先レベルの話で真相は完全に闇の中になって決着は着かなくなっているらしい。
両宗教共に一枚岩ではなく、どちらにも過激派と穏健派が存在している。穏健派同士は親しい隣人としての付き合いをする一方で、過激派同士は凌ぎを削る殺伐とした日々だそうだ。
そして、どちらの過激派も互いに信仰している神から穏健派を標的にした攻撃は禁止されている。
その原因となった実話がある。
昔、まだ両宗教が1つだったときに1人の敬虔な信者の少女がいた。残念ながら、少女の名前は後述する出来事によって残っていない。
彼女は毎朝信仰している神々全てに欠かさず祈りを捧げ、就寝前にもその日を無事に終えることができた感謝を神々に捧げていた。
しかし、その少女は過激派同士の争いに巻き込まれて家族諸共殺され、更に過激派達の数々の罪の濡れ衣を着せられて背教者かつ大悪女の烙印を押された。彼女の名前も禁忌として、口にすることは元より、あらゆる記録からもその存在を消され、死後も辱められることになった。
神々は少女に加護を与えることを牽制しあっていたことが裏目に出てしまったこともあり、神々達が敬虔な少女の死を知ったのは彼女が惨殺され、それまで欠かさずあった日々の祈りが完全に途絶えたことを不審に思った一柱の神が下界を見たときだった。
亡骸をも辱める所業を目にしたその神は他の神々にも周知し、全員で少女と少女の家族を害して貶めた信者達に神罰を下した。人が争うことを否定はしないが無関係の者を巻き込むことを禁止し、違えたら今回の様に神罰を下す神託を全信者にもたらしたそうだ。
神々の寵愛を受けていた少女の名誉は回復したが、死後に彼女がどうなったかは分からない。
この話を信じなかった過激派の愚か者共がその禁を破って無関係な者を殺そうとしたところ、晴天で晴れていたにも関わらず、その愚か者共は落雷で黒焦げになって全員絶命したとか。
以来、宗教抗争は過激派間のみで行われる様になっているらしい。この2宗教はカスパル帝国のある南部で信仰されているから、今の所俺達には影響はない。
閑話休題、他の宗教の1つで、今ではオディオ王国だけ。しかも王族と選民意識が強い貴族達の間だけで信仰されていた勇者信仰。
前述の2宗教とは別で、長く続く戦乱を収める救世主、勇者を望み崇める信仰が母体だった。
この勇者信仰の絶頂期はやはり召喚勇者ユーイチが戦乱を終息させてオディオ王国を建国したときと言える。実力が眉唾だった勇者が実際に長く続いていた戦乱を終わらせたことと、信仰対象である勇者が実在したことから、ここ、メルキオールでも当初は勇者信仰が広まっていた記録がある。
しかし、その絶頂だった勇者信仰もユーイチの下衆な本性が露見したことで、メルキオールとオディオ王国の西側地域での勇者信仰は一気に廃れる結果になったと記録されている。そして、初代国王から続く勇者信仰自体は選民意識の強い過去の栄光に縋る王族と貴族達の間で信仰されていた。
現在に至っては駄メン達と飛鳥、そして巻き添えで俺を召喚し、俺が王国脱出時にかけた呪いとクロエの前世にかけられていた呪いの反動で、現王族を含めて選民意識の強い過去の栄光に縋る貴族達は破滅の未来しかない。
最近の東に行っている行商人達の話しではオディオ王国では遂に革命が起こり、現国王と王妃、選民意識だけが強く無能な貴族達は処刑され、まともな下級貴族と市民達による政権が発足したらしい。
話が逸れてしまったが、最後の宗教は他の宗教よりは歴史は浅く、凡そオディオ王国建国後10数年後に前身の信仰は始まっているのが確認されている。それは女神スノーティアを主神としたスノーティア信仰。通称、ティア教はメルキオール一帯とバルタザール騎士王国で信仰されている。
信仰対象である女神スノーティアは元々実在の女性で治癒能力を持っており、種族や地位の別なく、怪我人を自身が倒れるまで治療し続け、多くの人に慕われていたそうだ。
治癒能力持ちと【回復魔術】持ちはそれまで存在していたけれども、彼女の様に分け隔てなく使う者はおらず、貴族達のおかかえや、多額の治療費を請求する輩ばかりだったらしい。その慈善活動の影響で、いつしかその女性は聖女と呼ばれる様になり、彼女の死後、神格化されて今に至るそうだ。
そもそも、スノーティアの出自にははっきりしないことが多く、あるときふらりと同年代の男性後の伴侶のカオルと一緒にメルキオールに現れて治療活動を始めたそうだ。そして、2人は西進して王位継承の内乱で荒れていたバルタザール騎士王国に進み、唯一まともだった末弟の王子に協力して内乱を収めた。
内乱後、スノーティアとカオルはバルタザール騎士王国の爵位を与えられるものの、自分達は騎士王国の政治に以後関わるつもりはないことを公言して、爵位を固辞。感心した騎士王は放浪の民だった2人に絡めてで反論させずに騎士王国内の土地を与えた。それがティア教の総本山のある土地だ。
故にティア教の総本山の大聖堂はバルタザール騎士王国内にある。この世界の宗教の中でティア教は特に結婚式が華やかな宗教で、元の世界の宗教並みに花嫁の衣装は華やかである。
聖女自身の結婚式のときに着た衣装、それがどう見ても某宗教のウェディングドレスだったことから、彼女とカオルは異世界出身者ではないかと思われる。
ベルが信仰していることから、挙式後に俺と飛鳥、クロエもティア教に入信することになる。ティア教は某宗教の様な戒律の様なものはなく、日々の感謝や慈愛の精神などを説いたものだ。一通り目を通してもらう必要はあるけれども、実践に関しては気にする必要はないとベルを始め、ルークさん達も言っていたから問題ないだろう。
■
俺の第1工房には俺が試作した魔導具が多数置いてある。
ここに置いてある【空間収納】に入れていない魔導具は見せても問題ない物だ。
仕組みが煩雑になってしまったり、主に製造コストの問題で流通させられないものが多数。ここにあるその多くは元の世界の生活家電を再現するために試行錯誤して生まれた物達だ。
他にも他人はもちろん、飛鳥達にも見せられない代物をいくつも試作しているが、それら等はここではなく、厳重に管理している隠し通路の先の第2工房で造って、パスワード付きの【空間収納】の個人領域に入れている。
この第1工房は本命の第2工房を隠すダミーではあるが、きちんと流通して問題ない生活家電再現を行う作業場として使い分けている。
「この"床暖房"は僕の家などでも使えないかな?」
ルークさんが気に入ったのか工房の床暖房について質問してきた。
「仕組み自体は比較的簡単ですが、既存の家屋だと後付けは難しいです。それから、うちの様に履物を中と外で使い分ける様にしないと掃除が大変になりますよ」
うちの床暖房と同じ仕組みにする場合は魔導具の室外機に加えて、床下に温水が通る配水パイプを設置する必要がある。
既製の家屋で、俺の作ったこの床暖房を設置するのは不可能ではないが、配水パイプを埋め込む工事が必須で大掛かりになるから難しい。
この屋敷と馬車馬用の馬房も既製の家屋だったが、貰ってすぐに俺がスキルをフル活用して増改築をしている。その時に床暖房を追加した。
俺の工房と飛鳥の道場、住み込みの使用人達用の住居、ケイロンと馬車の格納庫などの新築物にも当然考えられる快適設備をいろいろ作ってつけた。
また、屋敷の入り口に下駄箱を作って、管理のために雇っている使用人達を含めた全住人専用の室内履きを用意し、来客用スリッパも用意して、現代日本の一般家屋と同じ様に履物の履きわけを行う様にしている。
この世界では西洋文化同様、一般的に室内も屋外を歩き回った靴で過ごす。
そのため、靴によって外から汚泥が持ち込まれることが少なくない。玄関で泥を落とすのは当たり前であるが、落しきれず付着して持ち込まれるものがあり、それが主に各部屋の床が汚れるのと病気にかかる原因となっている。
その様な状況で床暖房を使うとどうなるか。部屋が外から持ち込まれた病原菌・雑菌の楽園になってしまう可能性が高い。
【生活魔術】の【清潔】を使えば病原菌と雑菌の繁殖の予防抑制は可能かもしれないが、根本的な解決にはならないので、俺は外履きと内履きを共用にしている既存の家屋への床暖房の設置について非推奨としている。
俺がルークさんにその説明を終えたタイミングで、
「設計図はこちらになります」
ベルが見せても問題ない床暖房の設計図をルークさんに手渡した。
「ありがとう……なるほど」
渡した設計図記載の床暖房は床下に張り巡らせた特製耐熱パイプに魔石と【刻印】で作り出したお湯を循環させている仕組みだ。
別案で【刻印】で直接床を温める案があったが、出力を弄ることで、床上の人を焼き殺すこともできてしまう危険性があることから、その案は設計まで済ませたが、お蔵入り確定。
循環させているお湯はパイプ内の所々で再加熱されて、設定した温度を保って床下を流れる様になっている。
流れるお湯も刻印魔術と魔導具から随時追加され、パイプ内で気化したお湯は一周毎に別のパイプを伝って冷却され、魔力補充する術式を刻印した特製魔石内の魔力がなくなるまで再度床下を巡るパイプに液体になって戻る仕組みになっている。
技師ギルドとの繋がりもあるルークさんこの設計図は渡して問題ない。
俺が作り出した再現物のいくつかはルークさんの商会を通して、商人ギルドと技師ギルドに登録して販売し、既に市場で大きな利益を上げている物もある。
意外に売れているのが、算盤とミニ黒板だ。算盤の購買層はやはり商人が中心だ。
電卓の再現作製も行なっているが、まだ試作段階で、数点しか作っていない。
「夏などの暑い季節にはお湯ではなく、冷水を流すことも可能なのは分かるけれども、実際に需要があるかはわからないね」
電卓試用者の1人であるルークさんはそう言って、苦笑した。
その初まりは土着の土地神や精霊信仰など様々なものだったが、現在では大きく分けて4つの宗教、信仰がこの世界で信仰されている。
まず、最も古くからカスパル帝国で信仰されている太陽神を中心とした多神教であるヴェーダ神教。
次に、ヴェーダ神教の主神をその他の神々と同列に扱っているダーマ聖教。
前述のヴェーダ神教も元々はこのダーマ聖教の一派だったとも言われているし、その逆であるという説も交わされている。元々は同じ宗教であったが、ある日を境に2つに分かれてしまい、今では卵が先か鶏が先レベルの話で真相は完全に闇の中になって決着は着かなくなっているらしい。
両宗教共に一枚岩ではなく、どちらにも過激派と穏健派が存在している。穏健派同士は親しい隣人としての付き合いをする一方で、過激派同士は凌ぎを削る殺伐とした日々だそうだ。
そして、どちらの過激派も互いに信仰している神から穏健派を標的にした攻撃は禁止されている。
その原因となった実話がある。
昔、まだ両宗教が1つだったときに1人の敬虔な信者の少女がいた。残念ながら、少女の名前は後述する出来事によって残っていない。
彼女は毎朝信仰している神々全てに欠かさず祈りを捧げ、就寝前にもその日を無事に終えることができた感謝を神々に捧げていた。
しかし、その少女は過激派同士の争いに巻き込まれて家族諸共殺され、更に過激派達の数々の罪の濡れ衣を着せられて背教者かつ大悪女の烙印を押された。彼女の名前も禁忌として、口にすることは元より、あらゆる記録からもその存在を消され、死後も辱められることになった。
神々は少女に加護を与えることを牽制しあっていたことが裏目に出てしまったこともあり、神々達が敬虔な少女の死を知ったのは彼女が惨殺され、それまで欠かさずあった日々の祈りが完全に途絶えたことを不審に思った一柱の神が下界を見たときだった。
亡骸をも辱める所業を目にしたその神は他の神々にも周知し、全員で少女と少女の家族を害して貶めた信者達に神罰を下した。人が争うことを否定はしないが無関係の者を巻き込むことを禁止し、違えたら今回の様に神罰を下す神託を全信者にもたらしたそうだ。
神々の寵愛を受けていた少女の名誉は回復したが、死後に彼女がどうなったかは分からない。
この話を信じなかった過激派の愚か者共がその禁を破って無関係な者を殺そうとしたところ、晴天で晴れていたにも関わらず、その愚か者共は落雷で黒焦げになって全員絶命したとか。
以来、宗教抗争は過激派間のみで行われる様になっているらしい。この2宗教はカスパル帝国のある南部で信仰されているから、今の所俺達には影響はない。
閑話休題、他の宗教の1つで、今ではオディオ王国だけ。しかも王族と選民意識が強い貴族達の間だけで信仰されていた勇者信仰。
前述の2宗教とは別で、長く続く戦乱を収める救世主、勇者を望み崇める信仰が母体だった。
この勇者信仰の絶頂期はやはり召喚勇者ユーイチが戦乱を終息させてオディオ王国を建国したときと言える。実力が眉唾だった勇者が実際に長く続いていた戦乱を終わらせたことと、信仰対象である勇者が実在したことから、ここ、メルキオールでも当初は勇者信仰が広まっていた記録がある。
しかし、その絶頂だった勇者信仰もユーイチの下衆な本性が露見したことで、メルキオールとオディオ王国の西側地域での勇者信仰は一気に廃れる結果になったと記録されている。そして、初代国王から続く勇者信仰自体は選民意識の強い過去の栄光に縋る王族と貴族達の間で信仰されていた。
現在に至っては駄メン達と飛鳥、そして巻き添えで俺を召喚し、俺が王国脱出時にかけた呪いとクロエの前世にかけられていた呪いの反動で、現王族を含めて選民意識の強い過去の栄光に縋る貴族達は破滅の未来しかない。
最近の東に行っている行商人達の話しではオディオ王国では遂に革命が起こり、現国王と王妃、選民意識だけが強く無能な貴族達は処刑され、まともな下級貴族と市民達による政権が発足したらしい。
話が逸れてしまったが、最後の宗教は他の宗教よりは歴史は浅く、凡そオディオ王国建国後10数年後に前身の信仰は始まっているのが確認されている。それは女神スノーティアを主神としたスノーティア信仰。通称、ティア教はメルキオール一帯とバルタザール騎士王国で信仰されている。
信仰対象である女神スノーティアは元々実在の女性で治癒能力を持っており、種族や地位の別なく、怪我人を自身が倒れるまで治療し続け、多くの人に慕われていたそうだ。
治癒能力持ちと【回復魔術】持ちはそれまで存在していたけれども、彼女の様に分け隔てなく使う者はおらず、貴族達のおかかえや、多額の治療費を請求する輩ばかりだったらしい。その慈善活動の影響で、いつしかその女性は聖女と呼ばれる様になり、彼女の死後、神格化されて今に至るそうだ。
そもそも、スノーティアの出自にははっきりしないことが多く、あるときふらりと同年代の男性後の伴侶のカオルと一緒にメルキオールに現れて治療活動を始めたそうだ。そして、2人は西進して王位継承の内乱で荒れていたバルタザール騎士王国に進み、唯一まともだった末弟の王子に協力して内乱を収めた。
内乱後、スノーティアとカオルはバルタザール騎士王国の爵位を与えられるものの、自分達は騎士王国の政治に以後関わるつもりはないことを公言して、爵位を固辞。感心した騎士王は放浪の民だった2人に絡めてで反論させずに騎士王国内の土地を与えた。それがティア教の総本山のある土地だ。
故にティア教の総本山の大聖堂はバルタザール騎士王国内にある。この世界の宗教の中でティア教は特に結婚式が華やかな宗教で、元の世界の宗教並みに花嫁の衣装は華やかである。
聖女自身の結婚式のときに着た衣装、それがどう見ても某宗教のウェディングドレスだったことから、彼女とカオルは異世界出身者ではないかと思われる。
ベルが信仰していることから、挙式後に俺と飛鳥、クロエもティア教に入信することになる。ティア教は某宗教の様な戒律の様なものはなく、日々の感謝や慈愛の精神などを説いたものだ。一通り目を通してもらう必要はあるけれども、実践に関しては気にする必要はないとベルを始め、ルークさん達も言っていたから問題ないだろう。
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俺の第1工房には俺が試作した魔導具が多数置いてある。
ここに置いてある【空間収納】に入れていない魔導具は見せても問題ない物だ。
仕組みが煩雑になってしまったり、主に製造コストの問題で流通させられないものが多数。ここにあるその多くは元の世界の生活家電を再現するために試行錯誤して生まれた物達だ。
他にも他人はもちろん、飛鳥達にも見せられない代物をいくつも試作しているが、それら等はここではなく、厳重に管理している隠し通路の先の第2工房で造って、パスワード付きの【空間収納】の個人領域に入れている。
この第1工房は本命の第2工房を隠すダミーではあるが、きちんと流通して問題ない生活家電再現を行う作業場として使い分けている。
「この"床暖房"は僕の家などでも使えないかな?」
ルークさんが気に入ったのか工房の床暖房について質問してきた。
「仕組み自体は比較的簡単ですが、既存の家屋だと後付けは難しいです。それから、うちの様に履物を中と外で使い分ける様にしないと掃除が大変になりますよ」
うちの床暖房と同じ仕組みにする場合は魔導具の室外機に加えて、床下に温水が通る配水パイプを設置する必要がある。
既製の家屋で、俺の作ったこの床暖房を設置するのは不可能ではないが、配水パイプを埋め込む工事が必須で大掛かりになるから難しい。
この屋敷と馬車馬用の馬房も既製の家屋だったが、貰ってすぐに俺がスキルをフル活用して増改築をしている。その時に床暖房を追加した。
俺の工房と飛鳥の道場、住み込みの使用人達用の住居、ケイロンと馬車の格納庫などの新築物にも当然考えられる快適設備をいろいろ作ってつけた。
また、屋敷の入り口に下駄箱を作って、管理のために雇っている使用人達を含めた全住人専用の室内履きを用意し、来客用スリッパも用意して、現代日本の一般家屋と同じ様に履物の履きわけを行う様にしている。
この世界では西洋文化同様、一般的に室内も屋外を歩き回った靴で過ごす。
そのため、靴によって外から汚泥が持ち込まれることが少なくない。玄関で泥を落とすのは当たり前であるが、落しきれず付着して持ち込まれるものがあり、それが主に各部屋の床が汚れるのと病気にかかる原因となっている。
その様な状況で床暖房を使うとどうなるか。部屋が外から持ち込まれた病原菌・雑菌の楽園になってしまう可能性が高い。
【生活魔術】の【清潔】を使えば病原菌と雑菌の繁殖の予防抑制は可能かもしれないが、根本的な解決にはならないので、俺は外履きと内履きを共用にしている既存の家屋への床暖房の設置について非推奨としている。
俺がルークさんにその説明を終えたタイミングで、
「設計図はこちらになります」
ベルが見せても問題ない床暖房の設計図をルークさんに手渡した。
「ありがとう……なるほど」
渡した設計図記載の床暖房は床下に張り巡らせた特製耐熱パイプに魔石と【刻印】で作り出したお湯を循環させている仕組みだ。
別案で【刻印】で直接床を温める案があったが、出力を弄ることで、床上の人を焼き殺すこともできてしまう危険性があることから、その案は設計まで済ませたが、お蔵入り確定。
循環させているお湯はパイプ内の所々で再加熱されて、設定した温度を保って床下を流れる様になっている。
流れるお湯も刻印魔術と魔導具から随時追加され、パイプ内で気化したお湯は一周毎に別のパイプを伝って冷却され、魔力補充する術式を刻印した特製魔石内の魔力がなくなるまで再度床下を巡るパイプに液体になって戻る仕組みになっている。
技師ギルドとの繋がりもあるルークさんこの設計図は渡して問題ない。
俺が作り出した再現物のいくつかはルークさんの商会を通して、商人ギルドと技師ギルドに登録して販売し、既に市場で大きな利益を上げている物もある。
意外に売れているのが、算盤とミニ黒板だ。算盤の購買層はやはり商人が中心だ。
電卓の再現作製も行なっているが、まだ試作段階で、数点しか作っていない。
「夏などの暑い季節にはお湯ではなく、冷水を流すことも可能なのは分かるけれども、実際に需要があるかはわからないね」
電卓試用者の1人であるルークさんはそう言って、苦笑した。
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